アイツとメガネ、異世界を行く   作:ふくふくろう

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決着

 

 

 

「うっわ。模擬戦で機体を壊すかよ。直すのニーニャなんだぞ。材料費から工賃まで、きっちり払うんだろうな!?」

「うっ。は、運び屋が半分出してくれるはずだ!」

「断る!」

「……ええい。今はそんなのどうでもいい。これで終わりだ!」

 

 ハルトマンの顔面に、ホプリテスの左手がかかる。

 まるでアイアンクローだ。

 網膜ディスプレイに映るメインカメラのウィンドウが、ホプリテスの掌に塗り潰された。

 

「ザトウモード、解除」

「なにっ」

 

 ホプリテスの剣が収納される。

 機構の確認のためか、鉄の鎧を纏った獣面の偉丈夫は、そうしてからコキコキと手首を動かした。

 

「【剣は折れても心は折れぬ】発動!」

「折れてねえだろが!」

「仕舞っても発動条件を満たすんだよ。今終わらせてやるから、黙ってろ」

「これ以上壊したら、ニーニャが泣くぞ?」

「ど、土下座して謝る」

「くっそ、抜け出せねえ。ナイフぐれえ、仕込んでもらっときゃ良かった」

 

 無事な右手で殴ってみるが、それでもホプリテスはビクともしない。さすがは重装甲だ。

 剣を収納してスキルを使った剣聖が何をする気かはわからないが、このままでは何も出来ずにやられてしまう。

 こっちもスキルを使うしかない。

 

 だが、それでホプリテスを大破判定にでもしたらマズいと、まだ思ってしまう。

 勝ちを取るか、ニーニャの手間を減らすか。

 

 迷っている時間はない。

 

 そうか。

 決められないなら、ニーニャに聞けばいいじゃないか。

 

「ちっくしょう。ニーニャ、悪いが少しだけホプリテス壊してもいいかっ?」

(コックピットを潰さなきゃ、いくらでも直せるからいいよー)

「ありがてえ。悩んで損した。【熱き血の拳】」

「遅えよ。寸鉄ッ!」

 

 コックピットが、暗闇に落ちた。

 

「くそっ。何があった!?」

(メインカメラをやられたの。ホプリテスの掌底に付けた小型パイルバンカーで、ハルちゃんの頭部が破損。追撃が来るよっ!)

 

 サブカメラに切り替えながら、ホプリテスの顔の辺りを力任せに右手で払う。

 それだけでアームは折れたのか、やっとハルトマンとホプリテスが離れた。

 ぐらりと傾いだ機体を即座にホプリテスに向けると、肩部のカメラには吹っ飛んだホプリテスが立ち上がろうとしているのが映っていた。

 

「させるか、ボケェ!」

 

 駆け寄って、背中を踏みつける。

 

「ぎゃっ。う、動けねえ!」

「あたりめえだっつの。さあて。これから、四肢をもいでいくからな。修理費で破産する前に、さっさと降参しろや」

「じゃあ、こ……」

「はい、右手いただきー」

 

 力任せに引っ張ると、思ったより簡単に、ホプリテスの腕は千切れた。

 

「ちょ、おま。い、いくらすっと思ってんだ!」

 

 ハルトマンの腕力は、俺の腕力に比例する。

 最初から腕力を最大に出来ないかと聞くと、ニーニャはコンピューターの処理が追いつかないと笑っていた。

 搭乗者の動きをトレースする以上の事をやらせようとすると、それはもうパワードスーツではなくロボットのような演算処理能力が必要になってしまうらしい。

 

「お、おい、だからもうこ……」

「強情だなあ。はい、左手もドーン」

「これは何とした事か。死神のハルトマンが、圧倒的な力でホプリテスをいたぶるっ!」

「まだ実況してたんかよ、裏切り者」

「酷い言われようだ。今度は実況者への暴言! まさに、悪党力MAX!」

「うっせえ。座頭だの寸鉄だの、どう考えたって日本人の入れ知恵だろうがよ。あ、腰ちょっとヒビいった」

「もう降参だから、頼むからやめてくれ。ニーニャの工賃、いくらだか知ってんのかよ!」

「知らねえっての」

 

 ホプリテスの背中から足を下ろし、斬り落とされた左手を探す。

 

「ここで決着! 観客を盛り上げようとも思わない勝者の名は、白い死神、ヒヤマだ!」

 

 運び屋は煽るが、観客はそれなりに楽しんだようだ。

 想像もしていなかった歓声と拍手が上がる。

 

(ウイ、戻るからテントの前を空けてくれ)

(了解です。ちょっと待ってくださいね)

 

 模擬戦は、思っていたよりもハードなものだった。

 だが、運び屋が剣聖を唆して仕込み刀や小型パイルバンカーを使わせなければ、ポコポコ遠慮がちに殴り合って、観客の失笑を買っていたかもしれない。

 

(いいですよ)

 

 鳴り止まない拍手の中、左手を持って思い切りジャンプする。

 まだ【熱き血の拳】の効果は切れていなかったようで、思った通りテントの前に着地した。

 

「ニーニャ、悪い。どっちも派手に壊しちまった」

「大丈夫だよー。やっぱりお兄ちゃんが1番強いっ!」

 

 ハッチを開けてまずは謝る。

 親指を立てるニーニャに同じ仕草を返し、コックピットから飛び降りた。

 テントに足を踏み入れると同時に、拍手で迎え入れられる。

 

「くっだらねえ茶番させやがって。ビールくれ、ビール」

「もうちょっと盛り上げろっての。サービス精神ってもんがねえのかよ」

「そう言うな、運び屋。お疲れさんだ、ヒヤマ。ビールでもタバコでも、座って好きにやるといい」

「まったく。ルーデルが止めなきゃ、誰が子供っぽい運び屋のイタズラを止めるんだよ?」

「悪かったよ。だが、かわいいひとり娘を嫁に出したんだから、このくらいの意趣返しは許せと言われたらなあ」

「1発だけ殴ろうかって言ったら、ルーデルが本気で止めっからよ」

「……悪かった。ルーデルは命の恩人だ」

 

 どう考えても、運び屋に殴られて無事でいられるとは思えない。

 渡されたビールを飲んでタバコを吸っていると、興奮した双子が抱き着いてきた。

 

「うわっ。火が危ねえって」

「カッコ良かったぜ、兄ちゃん!」

「ハルトマンつえー!」

「ああもう、暑苦しい。2人共15なんだから、もうちっと落ち着け」

 

 これ以上くっつかれても困るので、テーブルにある骨付き肉をそれぞれの口に突っ込む。

 

「肉、うまっ」

「ごまんぐんごくっ」

「そうだろそうだろ、たくさん食え。まだまだあるぞ」

「運び屋はいるかっ!」

「おう。どうした咬ませ犬?」

「誰が咬ませ犬だっ。素手なら勝てるって言ったのアンタだろ。半分、いや半分の半分でいいから、修理費を出してくれ!」

 

 手を合わせながら、剣聖が運び屋に詰め寄る。

 頼むか怒るか、どっちかにしろと言いたい。

 

「どうすっかなあ。ニーニャ嬢ちゃん、見積もりは?」

「タダでいいよう。性能テストも兼ねてたから、そのつもりだったし」

「あ、ありがとうニーニャ!」

「でも、最上スキルのリキャストタイムは待ってもらわないと。お兄ちゃん達、明日からも飛行機の回収でしょ?」

「ハルトマンには悪いが、こっちはまだ動く。ホプリテスを先に直してやってくれ」

「はぁい。じゃあ、行ってくるねー」

「付き合うよ、ニーニャちゃん」

「ありがとー、ミツカお姉ちゃん」

 

 ホッとした様子の剣聖に、まだ冷たいビールを放る。

 

「おっと。ありがとな、死神」

「大健闘した褒美だ」

「勝ったと思ったんだがなあ……」

「新しいスキルがなきゃ、俺の負けだったな」

「最後のアレか。殴られただけで、アームが折れちまったぞ。ホプリテスが頑丈じゃなきゃ、あの適当なパンチで沈んでたかもしんねえ」

「格闘用の切り札だ」

「銃使いじゃ、暗器なんて持たねえか。良いスキルじゃんか」

「そういや、波動拳を使ってやがったな?」

 

 運び屋は、日本拳法を知っているらしい。

 開いた拳をインパクトの瞬間に握り込む突きは、日本拳法では波動拳と呼ばれている。

 

「知ってんのか。素人の真似事だよ」

「それにしちゃ、手首の決めが見事だったがな。相当やってたんじゃねえか?」

「ガキの頃に、少しだけだ。ただ、なんとなく出来たんだよ。昔から」

「全身の使い方がまだまだなのは、才能だけで戦ってるからか。まだ格闘を伸ばすつもりなら、次は【体捌きの基礎】を取るといい。突きや蹴りに、少しは体重が乗るはずだ」

「ありがてえ。チェックしとくよ。ポイントはあるから、必要ならすぐ取得する。そういえば剣聖、【挑発】を使ってたよな。タイマンなのに、なんでだ?」

「プハッ。うんめえ! あー。【挑発】ってスキルはターゲットを自身に固定させるだけじゃなく、注意力を自身に向けるんだ。だからあんなヘンテコな名前の偽スキルに釣られて、あっさり飛び込んじまうんだよ」

「あー。あの中二っぽいスキル、本当にあるんじゃなかったんかよ」

 

 剣聖が、運び屋を顎でしゃくる。

 

「中二臭え名前な訳だ……」

「盛大に引っかかったバカが、なに言ってやがる」

「しかし、仕込み刀に小型パイルバンカーね。かなり、運び屋の案を取り入れてんのか?」

「ああ。こんなんでも、俺が知ってる冒険者で1番の腕っこきだからな。かなり相談に乗ってもらった」

「こんなんなのになあ……」

「失礼なガキ共だ。次に組み上がるのは、花園のHTAだろ。そっちも楽しみだな」

「オトメキャノンとか出来上がりそうで怖え」

「あり得るな。榴弾砲は、花園のHTAに使うって話だ」

 

 HTAに榴弾砲と来れば、アニメでよく見たような機体になるのかもしれない。

 ニーニャの技術力なら、やれない事もないだろうと思える。

 三人の中で、榴弾砲を背負って戦えそうなのはレニーだろう。

 

「榴弾砲を背負った、金色の機体か。マンガだな」

「ヒィーヤァーマーッ!」

「えらく騒がしいのが来たな。よう、研究者。七五三の帰りか?」

「なんとでも言ってくれ。僕は今、最高にハッピーなんだ!」

「成功か。おめでとさん」

「奇襲成功かい。やるもんだねえ」

「敵はまだ残っています。気を抜いてはいけませんよ」

「なんだ、3人は理解してるみてえじゃねえか」

「今、話すよ。とりあえず、ヨハンはレニー達に報告して来い。それが筋だ」

「ああ、ああ。それもそうだ。すぐに言ってくる!」

 

 いつもの気怠さなどまるで嘘のように、ヨハンが素晴らしいスピードで走り去る。

 飲みながら事の次第を話して聞かせると、テントはお祝いムードに包まれた。

 

「類友ってやつか。ま、めでてえじゃねえか」

「やった。兄貴が片付いたっ!」

「ま、まあお祝いしないとな。プロポーズに行くなら、ヘリを出そう」

「俺も乗っけてってもらうかな。ジェニファーとも無線を繋げねえと、面倒事の時に困るし」

「剣聖さん、ホプちゃんの修理おわったよーっ」

「あら、ちょうどいい。剣聖さん。シティーに戻るなら、私のアイテムボックスでホプリテスを運びますよ?」

「それは助かる。しばらくシティーで、用心棒をする予定なんだ」

 

 どうやら、シティー行きは決定らしい。

 ヘリとホプリテスの武装の準備があるからと、ウイとニーニャ、それにルーデルとジュモが席を立った。

 

「なら、店を開けて、バラを包まなきゃね」

「すまねえ、姐さん。硬貨500枚取り出し」

「じゃあ、後で寄ってきな」

「ヒヤマ兄ちゃん、俺達も行っていいか?」

 

 羨ましそうな双子に、スラム街は危険だからと説明する。

 納得はしてくれたが、それでもいつかシティーには連れて行くと約束させられた。

 どう考えても面倒だが、この双子を俺はまるで弟達のように思い始めているのも事実。なので笑顔で頷いておく。

 

 

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