アイツとメガネ、異世界を行く   作:ふくふくろう

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北大陸

 

 

 

「さあ、入ってらっしゃい」

「失礼しまーす」

 

 情報屋が言うと、笑顔を振りまきながら4人の女が入ってきた。

 スカートの短さにも驚いたが、それ以上に衝撃だったのは、そのうちの1人の姿形だ。

 

 グール。

 

 見慣れたルーデルに似ているが、体つきはずいぶんと女性らしい。

 ミツカ並みの巨乳を揺らし、その女はヘルメットを取ったルーデルの隣りに座った。

 

「いいねえいいねえ。みんなして、若くてエロい。くぅーっ」

「感想、それかよ。凄えな運び屋」

「そんな……」

 

 ルーデルが絶句している。

 それはそうだ。

 グールの客が来る事もあるとは聞いていたが、グールの女が勤めているなんて思ってもいなかったのだ。

 

「嬢ちゃん。そのパワーアーマーを着た男はルーデル。空軍のルーデルってんだ。聞いた事ねえか?」

「スッゴーイ! 空の英雄、ホンモノー!?」

「き、君……」

「えっ、なあにー?」

「いや、なんでもない。昔とても好きだった人に、似てたもんでね」

 

 開いた口が塞がらない。

 ロリコンだけど紳士で渋い、俺の身近で最も尊敬できる男、いつものルーデルはドコ行ったんだ。

 

「……ふ、普通に口説いてるだと」

「これが、歴戦の強者ってやつだ。覚えとけ、死神」

 

 すぐに忘れてしまいたい。

 そう思いながらワゴンで運ばれてきた酒やツマミが並べられていくのを見ていると、不夜城の情報屋と目が合う。

 微笑みに思わず、会釈を返してしまった。

 

「かーっ。青春だなあ」

「いや、そんなんじゃなくてよ。なんて言うか、違和感?」

「なんだそりゃ」

「私は好意を持った相手の第一印象が良くなるスキルを持ってるから、それを違和感と表現したのでしょう。どんな感知力をしてるのかしら。お噂通り、ただの職業持ちじゃあないわね」

「ただのガキだよ。その好意は、俺の隠しスキルのせいだ。気にしねえでくれ」

「あら、意地悪。でも、オバサンはお呼びじゃないわよね」

 

 わざとそれには答えず、手渡されたグラスを口に運ぶ。

 これは、ブランデーか。

 とんでもない上物なのは、酒の味などロクに知らない俺にでもわかる。

 

「おいおい、乾杯もなしかよ」

「忘れてた。まあいいじゃんか。特に理由もねえ飲み会なんだろ?」

「目的ならあるがな」

 

 両手で左右の女の肩を抱きながら、運び屋が情報屋を見る。

 俺とルーデルも情報屋に目をやるが、本人はテーブルの向こうの小さな椅子に座って、涼しい顔で赤い酒か何かを飲んでいるだけだ。

 

「あら、注目されちゃった」

「俺達に高く売り込める情報は?」

「そうねえ」

 

 情報屋は、髪をかき上げて俺を見る。

 俺達に関係のある情報なら、新しい街へのギャングの対応あたりだろうか。

 

「ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド、何してるか知りたい?」

「5000出そう」

「じゃあ、その分だけ話すわね」

「……持ってる情報すべてなら、いくらだ?」

「50000。オマケしてね」

「とんでもねえな。まあいい、初取引だからな。硬貨50000、取り出し」

 

 運び屋がアイテムボックスから出したテーブルの硬貨が仕舞われると、情報屋は物憂げに話し出した。

 俺達がいる大陸は内陸部に人が住みにくく、沿岸部に人口が集中しているらしい。

 

 北は雪も多く、人も少ない。

 

 東は群雄割拠。中でもシティーが目立つ街だが、小さな集落が多くて連携も薄い。

 

 南には宗教国家。アポカリプス教とやらが実権を握って、しっかりと国境を封鎖している。

 

 そして西に、ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド。だが実情は国と言うほどに纏まってはおらず、野盗が各集落から略奪をなして戦費に充てているようなものらしい。

 

「……要するにマジでヤバイのは南で、西はチンピラか」

「まだまだ終わってないわよ。網膜ディスプレイに、映像を映す許可をちょうだい」

 

 網膜ディスプレイに浮かぶイエスとノーの文字。

 イエスを選択すると、大陸図に赤い線が引かれている画面が映った。

 

「シティーがここね」

「赤い線が1つ伸びてるな」

「ええ。こないだの戦争。ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッドは北回りで来てるでしょ」

「こりゃ、ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッドの侵攻ルートなんか。南にもかなり攻めてるんだな」

「それでも、ある位置で赤線は消えてる。アポカリプス教は、しっかりと国境で侵攻軍を止めてるって訳」

「……相当な戦力がありそうだな」

「これが、こないだの戦争まで。次が、それから後の動きよ」

 

 赤線は、1つのルートにしか伸びていない。

 それは北回りでシティーを目指す途中の島から、さらに北へと進むルートだ。

 

「北に、大陸が?」

「ええ。厳しい大地だけれど、それゆえに人口密度が薄くて、破壊戦争の影響は少ない。未だに緑が残ってるらしいわよ」

「植物が……」

 

 この辺りで植物なんて、ブロックタウンの畑でしか見た事がない。

 それが豊富にあるなら、寒さ厳しい土地だとしても魅力的だろう。

 

「北大陸に国はあるのか?」

「古い王国があったけど、反乱が起こって今は混乱中。お姫様と騎士団、軍部が幾つかに分かれて小競り合いを繰り返してる」

 

 運び屋と情報屋の話を黙って聞いているが、どうやらブラザーズ・オブ・ザ・ヘッドってのは敵としてはまだ楽な相手だったらしい。

 それとの戦争で2度も死にかけた俺は、この先2人の足を引っ張るだけじゃないだろうか。

 

 運び屋とルーデルが戦い、俺がそれを何も出来ず見ている。

 

 そんな想像をすると、叫び出したくなった。

 

「……子供の癇癪かよ」

「ん、なんだ死神?」

「なんでもねえ。企業秘密だろうから訊かねえが、凄え情報収集能力だな」

「北に関しては、あなたも関係あるから教えてあげる。ニーニャの姉と、その幼なじみからの情報よ」

「生きてたってのか。なんでカチューシャ家に知らせねえんだよ?」

「そういう約束だもの」

「折り合い、悪いんか?」

 

 情報屋が、気まずそうにグラスを弄ぶ。

 

「ちょっとね。ほら、あの家って男の子が生まれなかったでしょ。だからセミーは、12で婿を取らされたの。それがとんだ変態野郎でね。初夜にセミーはそいつのナニを噛み千切って家を出て、そのまま冒険者になったのよ」

「ロケットで飛んでったって聞いたが?」

「5年くらいスラムで冒険者をしてたら、まだ幼いニーニャがロボットを護衛にしてセミーを探しに来たの。それが、毎週のように続いてね。ニーニャに無茶をさせるくらいならって実家にも顔を出すようになったけど、また別の婿を充てがわれそうになったら逃げたわ。ロケットで、北にね」

 

 女系一族の悲劇ってやつか。

 今の婆さんが物分かりいいのは、その反省と後悔があってこそなのかもしれない。

 

「……婆さん、物分かりが良くなったぞって伝えてくれ」

「わかったわ。ニーニャの旦那様から伝言って言ったら、驚くでしょうね」

「北で大軍でも組織して、ニーニャを取り返しに来そうだな」

「それは楽しそうね。今は亡国のお姫様に手を貸して、ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッドと戦ってるらしいわよ」

 

 ニーニャの姉が、戦争してるってのか。

 今すぐにでも助けに行きたいが、そうなれば新しい街やギルドをほったらかして行く事になる。

 

「運び屋、ルーデル……」

「楽しい夜に、なんて顔をしてやがる。とりあえず北の情報を買ってやるから、それ聞いてから好きにしろ」

「そうだぞ。なんならヘリで送ってくから、降下して突撃かましてやるといい。だがまずは、北の状況を聞いてからだ」

「ごめんなさい、話が見えないんだけど?」

「ああ、そうだろうな。このバカはな、ニーニャの姉が戦争してるなら、無条件で手助けに行きてえのさ。北の現在の状況と戦線の情報、いくらだ?」

 

 情報屋は俺を見つめて何も言わない。

 

「……本気、なの?」

「パーティーで話し合った訳じゃねえ。ただ、身内が困ってるなら俺は1人でも行く」

「バカだからな」

「違うぞ、運び屋。ヒヤマは自分の気持に、バカ正直なだけだ」

「どっちにしろバカだってかよ!?」

「ちょっと待って。直近の連絡は3日前。援軍が出せる前提で、話なんてしてないわ」

「なら連絡してみるといい。ゆっくりでいいぞ。この姉ちゃんのおっぱいは最高だからな」

「もう、おじさまのえっちー」

 

 豪快に笑って若い女の胸を揉む運び屋を見ていると、戦うなんて事を選んだ人間はこんなものなのかもしれないと思った。

 まあ、真似をするつもりなんてさらさらないが。

 

「北か。俺がヘリに寒冷地仕様を施すのに1日。ニーニャちゃんの方は数も多いから、3日ってトコだな」

「物資はある。北の軍の数は知らねえが、ある分は提供してもいい。戦闘にはもちろん、参加するしよ。ハルトマンで皆殺しだ」

「おいおい、こんな席で物騒な話をすんじゃねえよ。どっちにしても、これから更に忙しくなるんだ。今夜くらいは楽しめ」

 

 隣から伸びた手を見ると、それは情報屋のものだった。いつの間にか、席を変わっていたらしい。

 無線スキルか何かを使っているようなので、握られていない方の手でグラスを口に運ぶ。

 それでもタバコを1本取ると、黙ってライターの火を点けてくれた。

 

「ありがとよ」

「気にしないで、胸でも揉んでて」

 

 握られていた手が、情報屋の胸に挟まれる。

 

「おいおい」

「きゃー、ママったら大胆!」

「今、セミーと話してるの。あなた達の説明からだから、時間がかかるわ」

「それはいいが、この手」

「女がここまでしてるんだから、少しは楽しませなさい」

 

 そんなもんなのかと運び屋とルーデルを見ると、2人は若い女の胸を揉みながらそうだとでも言うように頷いている。

 酒を出す店なんて、ファミレスかカラオケ店しか知らない。

 郷に入れば郷に従えってやつかと、気乗りしないまま情報屋の胸に触れた。

 

「やっ、そんな。ああっ!」

 

 突然の嬌声に、全員が情報屋を見る。

 俺に凭れかかって荒い息を吐く情報屋は、それに気づいてもいないようだ。

 

「な、何なのあなた……」

「ああ、そういえばスキルがあったんだ」

「スキル?」

「初めから付いてた隠しスキル。【性技大幅アップ】だったか」

「呆れた。男を喜ばせて経験値アップするスキルでここまでレベルを上げた私が、こうもあっさり……」

 

 そんなスキルがあるのか。

 それなら、情報屋のHPが俺より高いのも納得だ。

 情報屋は俺なんかとは違い、無慈悲に敵を殺せそうな女には見えない。

 

「良いスキルだ。うちの女達にも取らせるか」

「取得条件が厳しいから、普通の女じゃリストにも出ないわよ。とりあえず今は、肩でも抱いてて。それくらいじゃないと、体と下着が保たないわ」

 

 黙って飲んでちゃダメなのかとも思うが、運び屋とルーデルもずっと女に触れながら飲んでいる。

 それが、こういった店のルールなのだろう。

 情報屋の肩を抱きながら、黙って酒を飲む。

 たまに無理矢理に口に入れられるツマミも、高級フレンチのような感じだ。

 

「なあ、運び屋」

「なんだ?」

「【性技大幅アップ】って、職業のねえ女にも効果あるんかな?」

「さてな。今夜、試してみりゃいいさ」

「ダメよ。今夜の死神さんは、私の貸し切り。北の情報、欲しいんでしょう?」

「あーもう、お熱いねえ。その疑問の答えは、次に持ち越しだな」

 

 

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