アイツとメガネ、異世界を行く   作:ふくふくろう

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情報屋

 

 

 

 何杯目の酒だろう。

 それを飲み干すと、情報屋が俺の手を強く握った。

 汗ばんだその手を握り返す。

 

「どうだった?」

「今の所、大した損害もなくブラザーズ・オブ・ザ・ヘッドは跳ね返してるって。でも問題は、あちらの国の体制そのものらしいわ。戦前みたいに貴族が権力を握り過ぎちゃってるから、あの2人はずいぶんと苦労してるみたい」

「ニーニャの姉は、その国の人間になったのか?」

「さあ。何も考えてないと思うわよ。困ってる人間がいたらとりあえず助けて、それが悪党なら殺せばいいって女だから」

「まるで、どっかの誰かさんだな」

「だからこんなに早く話が通じるのよ。普通なら、目的はなんだってところから会話が始まるわ」

「ちげえねえ」

 

 バカにされているとしか思えない会話だが、なぜか運び屋と情報屋は嬉しそうだ。

 仲がよろしくて何より。

 

「あら、ふふっ。妬いてくれたんだ?」

「バカ言うな。他人の女が何しようと、嫉妬なんかしねえっての」

「そう。嫉妬を感じるスキルに、反応があったんだけどな。ちなみに私は、誰の女でもないわ。死神さんに口説かれたら、どうなるかわからないけどね」

 

 正直、寝てみたいという思いは捨てきれない。

 だがそれでも、情報屋がウイ達といるのを想像すると肝が冷える。

 ニーニャは昔から知っているようだし、それならレニー達とも知り合いなのかもしれない。なのに会わせたくないと思うのは、どうしてなのだろうか。

 

「北は連絡待ちか。ならその間に、空母を仕上げちまいてえな」

「そうだな。そうしておけたら、もし事あらばギルドを運び屋に任せて、俺とヒヤマは北に行ける」

「おいおい、俺だけ除け者かよ?」

「仕方ないだろう。誰かが残らなくちゃいけないんだ」

「ちょ、ちょっと。史上最大の撃破数を誇る空の英雄が、援軍に出るって言うの!?」

「そんな大層な飛行機乗りじゃないが、ヒヤマが行くなら行くぞ。それが覇道でも、滅びへの道でもだ」

「空の英雄に、そこまで言わせるなんて……」

 

 ルーデルはこれで、面白い事やお祭り騒ぎが嫌いではない。

 戦争への援軍も、思う存分に暴れられるし、何より楽しそうだから乗り気なのだろう。

 

「まあいいわ。オマケを忘れてたわね。はい、地図を見て」

「地図?」

「網膜ディスプレイの地図。いつも仕事で使うでしょ」

 

 言われるままに、網膜ディスプレイの地図を表示する。

 

 シティーの外れ。繁華街だ。

 

 ズームアウト。

 

 シティー。

 ハンターズネスト。

 ブロックタウン。

 ワーネスト地下鉄駅遺跡に、水道局遺跡!?

 

「い、遺跡が増えてやがる」

「未発見の遺跡を表示したのか。こりゃ、死神のレベル上げがはかどるな」

「それだけじゃないぞ。グールタウンの位置も表示されてる」

「もっと見てちょうだい。この大陸と北大陸の私が知ってる街と遺跡、すべて表示されてるわ」

 

 運び屋の口笛が鳴る。

 

「とても50000ぽっちで売ってもらえるモンじゃねえな」

「惚れた男と、それを助けるって言い切った空の英雄にサービスよ」

「その男は、胡散臭そうに情報屋を見てるけどな」

「なによ。失礼じゃない、ヒヤマ」

「呼び捨てかよ。まあ、話半分だと思ってるからいいさ」

 

 夜の商売をしているこんないい女がいきなり自分に惚れたなんて言っても、信じる方がどうかしているはずだ。

 たまにベッドに呼ばれて喜んでいるくらいが、ちょうどいいのだと思う。

 それならお互いに、何の不都合もない。

 

「そうだ。無線を繋ぐ許可をくれ。北から答えが来たら、すぐに教えて欲しい」

「はいはい。了承っと。ついでにこれも、えいっ」

「あれ、網膜ディスプレイがバグった!?」

「どこまで失礼なのよ、ヒヤマ」

 

 俺の網膜ディスプレイには、申請が了承されました、の下にもう一文が浮かんでいる。

 不夜城の情報屋、タリエ・マライエスを所有しました。

 

「所有って、なんの冗談だよ……」

「誰かに所有されないと発動できない、そんなスキルがあるのよ。これで私はヒヤマの命令に逆らえないし、他の男に抱かれる事もない。命令されない限りね。それとヒヤマからのみ、アイテムボックスへの干渉が自由。地図もだけど、さっき全部書き写したから意味はないわね。ああ、スキルの閲覧や生活ログも見られるから、いつでもそれを見ながら罵ってちょうだい」

「理解が追いつかん」

 

 人間を所有する、その言葉の重苦しさに胃が縮み上がった。

 情報屋が俺に所有されるメリットを考える。

 

 そして、すぐにそれをやめた。

 答えを得るには最低でも、情報屋のスキルの詳細を見なければならないだろう。俺は、スキルどころかレベルさえ覗き見るつもりはない。

 

「で、どうやって所有権を破棄するんだ?」

「それは無理」

「はあっ?」

「これ、呪術系のスキルだもの。契約とかじゃなく、呪いなのよ」

「……なんつースキルを、人に使ってんだよ」

「一生に一度のスキルだもの。ちょっとドキドキしたわ」

「一生に一度の呪いの間違いだろ。にしても、どうすんだこれ……」

 

 困り果てて運び屋を見る。

 見事なニヤケ顔だ。

 これはダメだと、ルーデルに視線を移す。

 苦笑いしながら、左手はグール娘の服の中。

 

「どっちか助けろよ」

「耐性系のスキルを取ってねえのが悪い」

「まんざらでもなさそうだから放っといたんだが、いきなり呪いとはな。まあ、ヒヤマなら大丈夫だろう」

「しかし、呪いってよ。まさか、魔法スキルなんてのもあるんじゃねえだろうな」

「あるに決まってるだろ。暇な時でいいから、スキル欄を精読しておけ。そんなんじゃ、5年と生き残れねえぞ?」

「MPがねえから、魔法なんてねえんだと思ってた」

「魔法スキルが1つでもあれば、MPも表示されるんだよ。銃と違って身1つで戦えるが、MPが切れたら終わりだ」

 

 遺跡の少ない場所にレベル1で放り出されたなら、魔法もそれなりに使えるのかもしれない。

 だがこの辺りなら、不要だろう。

 魔法職なんて選択するくらいなら、初期武器が銃火器の職業になり、その武器で遺跡を漁るなり武器や銃弾を売っている街を探す方が楽だ。

 

「魔法無効、はエクストラスキルか。魔法耐性は早めに欲しいな。それにしても、どんだけスキルがあるってんだよ」

「ゲーム気分はもう捨てろ。人が造った世界と一緒にすんな」

「厳しいなおい。でも、その通りだよな……」

 

 何よりも必要なのは、生き残る術だ。

 生き残ればこそ、いや、生き残らなければ何も出来ない。

 

「スキルを極めた人間はいない。必要経験値が年齢で変化するグールでも、それは同じだろう。ヒヤマはこちらに招かれたばかりなんだから、すべてはこれからさ」

「血ヘド吐いて、強くなるしかねえかんな。それは、誰でも一緒だ」

「最近、戦ってねえなあ」

「やらかしたじゃねえか。派手にハルトマン壊されてよ」

「ありゃあ」

「ノー・カウントよね。ヒヤマは、スキルを使う気なかったんだから」

「会う前の事を、なんで知ってんだよコイツは……」

 

 情報屋は俺に肩を抱かれながら、余裕たっぷりに微笑んでいる。

 この分では、朝メシのパンの数まで当てられてしまいそうだ。

 

「明日には空母が浮く。入居希望者は、レニーや剣聖に任せっきりで大丈夫かな。武闘派の住民しかいねえ街とか嫌だぞ」

「とりあえず、ガキが優先だろ。孤島の爺さんに教育から編成まで任せて、将来の幹部候補生って感じだ。これが100だろ。剣聖が言う商売人ってのは、スラムの露店みてえな店主達らしい。10の露店と、その家族が4人平均だとしても150ぐれえ。850も空きがあるんだな」

「その枠、30は私にちょうだい。宿がないと、観光客が呼び込めないでしょ」

 

 情報屋の宿。

 人数が多いのは、女に体を売らせるつもりだろうか。

 

「売春宿か?」

「普通の宿屋とは、別にするけどね。需要は尽きないし、放っとけば性病持ちが入り込んで稼いだりするわ。ギャングの情婦なんかがね」

「なくっちゃならねえ仕事なら、きちんとした人間に任せた方がいいに決まってるな。それでいいか、死神?」

「構わねえよ。入居するときだけでも、アリシアに出張ってもらうか。伝染病とか、ないとは言い切れねえんだよな」

「そうだな。それと雇用機会がないと結局はスラムに働きに出て、いらぬ怪我をしてしまうかもしれないぞ」

「ヨハンに言って、養鶏場と養豚場は作ろうと思ってる。つっても働けるのは、100までいかねえだろうけど」

 

 いっそ、街の住民をすべてギルドの構成員にして、シティーを主な商売相手にしてしまおうか。

 いや、そうするとシティーから流れてくる硬貨の分しか、空母の街は発展しない事になってしまう。

 

「牧畜で外貨を稼ごうって発想は、悪くないんじゃないかしら。ブロックタウンに、牧畜家の職業持ちがいるのは知ってる?」

「そうなのか、死神?」

「そんな事をミツカが言ってたな。たしか、爺さんだって話だ」

「跡取りは職業なしの一人息子。その次が、孫のうちの誰かになるんでしょうね」

 

 情報屋がこうやって話題に出すからには、何かあるのだろう。

 家督争いの兆候でもあるのか。

 

「で?」

「私の職業って、なんだったかしら」

 

 俺は小遣い程度の硬貨しか、アイテムボックスに入っていない。

 運び屋ならしこたま持っているとは思うが、頼ってばかりもいられないので、肩を抱いている手を情報屋の唇に伸ばした。

 

 指。触れるか触れないかの、撫で方。

 小さく体を震わせた情報屋が、さっきより俺に体重をかける。

 

「もうっ。こんな情報の引き出し方あり?」

「オマケしてくれ。ジャスティスマンから警備ロボットを買うのにも、現金じゃなく物資を使うつもりなんだ」

「そういえば、物資は腐るほどあるのに換金できなくて困ってたのよね。私のアイテムボックスの硬貨は、好きに使っていいわよ」

「勘弁してくれ。ヒモやるつもりなんてねえんだ。それで?」

「孫は3人。長男が職業なし。他の2人は、狩人と羊飼いよ」

「羊飼いって、まあ職業なんだろうけどよ……」

 

 こちらの世界に生まれた職業持ちは稀人である俺達と違い、職業を好きには選べない。だからこそ、羊飼いなんて職業も普通にいるのだろう。

 

 狩人と羊飼いが職業のない長男と揉めるのが確定的なら、今のうちに好条件で空母の街に引っ張り込めという事か。

 だがその2人を迎え入れたところで、そんなに雇用が増えるとは思えない。

 

「養鶏場に30。養豚場に30。羊と牛も飼えばプラス60。狩人と羊飼いに肉の加工を教えさせて、加工場に30。それを売る店に10。それくらいはなんとかなるでしょ」

「悪くねえな。サハギンの養殖も考えるか」

「おいおい、運び屋。一般人にそんな事をさせるつもりかよ?」

「なら魚はどうだ。ヨハンなら、なんとかしてくれるかもしれないぞ」

「……ヨハン、忙し過ぎてぶっ倒れんじゃねえか」

「美人の嫁さんを2人も貰ったんだ。多少の無茶はするだろうさ」

 

 

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