講堂には多くの生徒が集まっていた。
かなりの広さであるというのに、既に席の半数近くが埋まっている。
何よりも特徴的なのは、その前半分の席に一科生、後ろ半分の席に二科生が座っている事だろう。
一高ではクラス分けの発表は、入学式の後にIDカードの交付と共に行われる。
つまり、この席順はクラスによって分けられているのではない。
自分達で望んで分かれているのだ。
一科生は優れている自分達が前に座るのが当然だと思っているし、二科生はそんな一科生とはかかわり合いたくはないと後ろに座る。
真由美から既に話を聞いていた紫苑からすれば、さして驚くような光景ではなかった。
しかし、実際に見てみれば下らないと思うよりも、寧ろよくここまで綺麗に分かれているものだと関心をしてしまう。
一科生が八枚花弁の花のエンブレムをもつ
二科生がエンブレムが無く花の咲かない
花と雑草を同じ空間に綺麗に並べたその光景は、どこか人工的に管理されて歪んだ花壇の様だと思う。
(下らない)
周囲を軽く見渡してみても、目に留まるような
つまらない、と思う。
入学式前から達也という実に面白い存在を見つけた紫苑は、正直に言えば期待をしていた。
最初からあんな子と出会えたのだから、もっと沢山の面白い子と出会えるかもしれない、と。
結果は散々。
下らない花壇が見れただけで、目に留まる生徒は見つからなかった。
これなら入学式をサボってしまおうか、と考え始めていた紫苑はそこで達也を見つけた。
後列の一番後の席に、通路と反対側の壁側を一席分だけ空けて座っていた。
最初からそう座ったのか、隣にいた人間が席を立ったのかは分からないが空いているなら都合が良い。
紫苑はすぐさま声をかけた。
「達也。良い?」
通信制限の掛かっている講堂では、中庭のように本を読むこともできない。
入学式が始まるまでの時間を、眠って潰そうとしていたのだろう。
腕を組んで目を閉じていた。
達也は目を開けてこちらを確認すると、僅かに眉を潜めた。
恐らく面倒事は避けたいのだろう。
ここまで綺麗に分かれて座っているのに、一人だけ例外がいれば嫌でも目立ってしまう。
僅かな逡巡の後にどうぞ、と頷かれた。
答えを聞いて壁側の隣の席に腰を下ろす。
身長が140cm前半でしかない私にはこの椅子は大きかったようで、深く座ると足がつかなかった。
特にすることもないので、足をぷらぷらと揺らしながら周囲をぼうっと眺めていた。
「それで?どうして一科生の紫苑が
「達也以外、面白い子も見つからなかったから。それに、席、決まってない」
何が、と言う点はともかく面白いというだけで一科生、二科生等知ったことか、と言外に言う紫苑に、達也は苦笑を返した。
紫苑の行動原理は至極単純である。
面白いか、そうでないか、それだけだ。
それさえ満たされれば後はどうでも良いと考えている。
二科生の中に一科生が一人と言う現状に、周囲から伺うような視線が飛んでくるが紫苑には気にならなかった。
達也も何となく理解したのか、諦めたのか、気にすることは止めたらしい。
そんな達也にまたしても声がかけられる。
見れば眼鏡をかけた、極一部分を除いて細身の少女。
その後ろを見れば、ショートカットの明るい色の髪をした明るい雰囲気をもつ少女とさらに二人いた。
どうやら四人で座れる席を探していたようだ。
達也が愛想よく頷くと四人は腰を下ろした。
達也の隣に眼鏡の少女、その隣にはショートカットの少女が座った。
たいして興味が沸く相手ではなかったため、少し眺めていただけだったが、レンズに度が入っていない。
だが、単なる趣味にもファッションで眼鏡をかけているようにも見えない。
(と言うことは……)
一つの結論にたどり着いた。
そして、
どうやら、眼鏡をかけた少女は
見えすぎ病とも言われるこの体質は、本来目視することが難しい
その反応は情動に影響を与え、精神の均衡を崩しやすくなってしまう。
それを防ぐために眼鏡をかけているのだろう。
恐らくレンズには特殊な加工が施されているはずだ。
どうやら眼鏡の少女は
偶然隣り合った二科生同士、友人を作っておきたいということでの自己紹介だろう。
千葉、と言う苗字は確か十師族に次ぐ家柄である百家の本流だったはずだ。
言われて思い出してみれば、小さい頃にエリカと言う娘を紹介されたような覚えがある。
「いやー、それにしても良かったね。丁度四つ空いてる席があって。それに、隣がむさ苦しい男じゃなくてイケメンだったし」
「イケメンっていつの時代の死語だ……」
達也の容姿の自己評価は、平均ちょっと上の中の上というところ。
イケメンと言われるほど整っているとは思っていないのだろう。
「大丈夫、達也、良い男。イケメン」
どうやらただのお世辞と受け取っているようなので、そこだけは訂正した。
少なくとも私から見ても、達也はイケメンと言われてもおかしくないレベルだと思っている。
すると、初めて紫苑に気が付いたのか美月もエリカも眼を丸くして驚いている。
「ここはありがとう、と言っておくべきかな?」
「ん。お世辞じゃない」
苦笑して達也は答えた。
全く気が付かなかった衝撃からか、それとも紫苑のその人形のような整った容姿に驚いていたのか、漸く固まっていた美月が動き出した。
「えっと……、お知り合いですか?」
そして美月の視線が紫苑の制服の胸元で止まる。
そこにはこの中で、唯一の一科生である事を表すエンブレムが刻まれていた。
ここに来るまでに一科生の二科生を馬鹿にする暴言を散々聞かされていたのだろう。
美月の表情は、先ほどまでと比べて少し緊張した面持ちに変わっていた。
「へぇ、一科生の方が態々どうしてこんなところに?」
エリカの言葉は明らかに棘を含んだものだった。
「一科生、二科生とか興味無い。それよりは達也の方が面白い」
「理由は良く分からんが、どうやら懐かれたらしい」
「懐いた」
それを聞いてエリカは一瞬驚いた顔を浮かべたが、すぐに破顔した。
「あはは!面白い子じゃない。あたし、千葉エリカ」
「泉紫苑。エリカ、美月、よろしく」
そうしている間に入学式は始まった。
幾つかのプログラムが終わり、新入生代表による答辞。
彼女が舞台に現れると、会場が僅かにざわめいた。
まさに圧倒的な美貌と言うのだろう。
160cm程度の身長に、背の半ばまで伸びた艶やかな長い髪は鴉の濡れ羽色。
全て完全なバランスで整った小さな顔。
滑らかな肌は白すぎるほどに白い。
制服を押し上げる胸の膨らみは確かな大きさを主張している。
細く括れた腰、その落差を示す下品でない程度に膨らんだ臀部。
そこから伸びるほどよく引き締まった脚は、素晴らしい脚線美を誇る。
男女問わず魅了するその容姿に、会場は完全に呑まれていた。
始まった答辞も素晴らしいものだった。
「皆等しく」「一丸となって」「魔法以外にも」と言った際どいキーワードも含まれていたが、彼女の棘の無い雰囲気に隠されて気が付くものはいなかったようだ。
司波深雪と名乗った新入生代表を紫苑はその感情を感じさせない瞳で、ひとしきり観察していた。
名前から考えても、
(やっぱりあの子は私に良く似ている。面白い)
初めて自分と良く似た存在を見つけた喜びからか、これから面白くなりそうな未来に向けてか、紫苑は初めてその無表情を崩し、小さな笑みを浮かべていた。
入学編 2です。
おかしい。
どうしてこんなに進んでいないんだ……。
思わせ振りなことが何度か出てきましたが、今のところ漠然としか考えていません。
後々、矛盾が出てくるかもしれませんがご容赦を。