魔法科高校の劣等生 花冠の主   作:月雲凪紗

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入学編 3

入学式終了後、IDを受け取った達也達一行は講堂を出てすぐの場所に集まっていた。

周囲には満開の桜の木。

講堂の出口付近には、色とりどりの様々な花が植えられた花壇もあった。

 

大多数の生徒が同じクラスの友人を作るために、ホームルームを見学に行っている。

達也達はE組、一科生である紫苑はA組になった。

美月、エリカと共にいた二人の女子生徒は残念ながら違うクラスだったようで、IDを受け取ってすぐに別れた。

彼女達も類に漏れず、新しいクラスに向かうらしい。

エリカもそのつもりだったようだが、達也がそれを断った。

 

今日の予定は入学式とIDの交付のみ。

授業や連絡事項も無かった。

IDの交付さえ終われば帰宅しても構わない。

達也は妹である深雪と一緒に帰る約束をしていたのだ。

 

その深雪はといえば、入学式直後から教員を含めた無数の人に囲まれていた。

首席であることに加え、生まれつきのアイドル性をもつ深雪であれば当然とも言えるが、その数が尋常ではなかった。

仕方なく達也達は出口から少し離れた外で深雪を待っているわけだ。

 

「司波くんの妹か。さぞかし可愛いんじゃないの?」

 

深雪が可愛いことは大いに認めるが、自分の妹だから可愛いと言われては諸手を上げて賛成することができなかった。

自分の容姿は精々、中の上だと思う。

対して深雪の容姿は上も上。

 

(明らかに釣り合ってないと思うんだが……)

 

「深雪。可愛い」

 

「もしかして妹さんと言うのは、先程答辞を述べられていた新入生総代の司波深雪さんですか?」

 

何が面白いのかしゃがんで花壇をじっと見つめていた紫苑が、こちらを振り返りもせず話す。

 

「ああ、そうだが……。二人はよく分かったね」

 

「なんといいますか……。面差(おもざ)しというかオーラが似ていますから」

 

(オーラと来たか……)

 

やはり、というべきか。

美月は霊子放射光過敏症で間違いないようだ。

 

「オーラが似ているなんて、面白いことを言うね。……本当にいい目をしている」

 

含みを持たせたその言葉に、美月は眼鏡の奥の瞳を大きく開いて固まってしまった。

一人理解していないエリカは、頭に疑問符を浮かべて美月を覗き込んでいる。

 

ぼうっと花壇を眺めていた紫苑は、(ようや)く立ち上がりこちらに向き直った。

 

「達也。いじめは良くない」

 

「別にいじめてはいないんだが……」

 

そういって目の前に立ちふさがる。

確かに少し意地の悪い言い方をしてしまったと自覚しているが、そう言われては肩を竦めるしかなかった。

 

「お兄様、お待たせ致しました」

 

背後からの鈴を振るような声に振り向けば、僅かに息を切らした深雪が立っていた。

 

人垣から半ば強引に抜け出してきたのだろう。

未だに離れたところからこちらを伺う視線が向いている。

そして、その視線の多くが二科生である自分達に対する蔑みの視線であることも気がついていた。

 

深雪は予定外の同行者も連れていた。

 

「また、お会いしましたね。司波達也くん」

 

生徒会長でもある七草真由美と副会長らしき男子生徒だった。

 

七草、と言えば十師族の中でも最有力とも言われる家系だ。

魔法師として強力であるのは勿論だが、苦手な系統の魔法が無いために万能とも呼ばれる。

更には、十師族の中でも政界に強い繋がりを持つ。

そして何よりも、()()()()()()()

 

達也は顔にこそ出さないが、内心で舌打ちをしていた。

入学式前に偶然会ってしまったが、まさかこうしてまた会うとは思わなかった。

入試テストの成績を称賛された事も、世間話の延長だと思っていた。

だが、名前を覚えられていたところを見るとそうではなかったようだ。

 

「ところでお兄様……。早速クラスメイトとデートですか?」

 

声色と表情こそ淑女を思わせる完璧なものであったが、どう見ても目が笑っていない。

周囲の気温も僅かに下がったように感じる。

 

達也からしてみれば、可愛い妹との戯れに過ぎないが、場所が不味い。

他の生徒や上級生の前でそのような態度は良いとはいえない。

軽く(たしな)めると、我に返ったのかすぐさま謝罪と自己紹介をした。

 

やはり兄の贔屓目を抜いても良く出来た妹だと思う。

 

「こちらが柴田美月さん。こちらが千葉エリカさん。そして……」

 

三人並んで立って居たはずだったが、気が付けば紫苑は深雪の真横に立っていた。

またしても全く気が付かなかった事に驚愕する達也を気にする様子もなく、紫苑はじっと深雪を見つめていた。

 

「そして……、彼女が泉紫苑さんだ」

 

「ん。よろしく、深雪」

 

達也に促されて(ようや)く深雪も真横に居た紫苑に気が付いたのか、驚きを浮かべながらも挨拶を交わす。

 

見え透いたお世辞や愛想にいい加減嫌気が差していたのだろう。

エリカのざっくばらんな態度や、紫苑の朴訥な返答を気にするどころか喜んでいるようだ。

特にエリカとは馬が合ったのか、とても楽しそうに話している。

ともすれば、置いてけぼりな感が否めないが、仲の良い友人になれるのであれば歓迎すべきだろう。

 

「そうだ、深雪。生徒会の方々の用件は済んだのか?」

 

「いえ、私達はご挨拶だけの予定でしたから」

 

そんな様子を微笑ましく見守っていた真由美に気が付き、深雪に確認を取ろうとした達也だったが真由美が答えた。

 

お付きの男子生徒と揉めているところを見ると、会長が気を使ってくれたのだろう。

 

では私たちはこれで、と優雅に一礼して踵を返した生徒会一行であったが、途中で思い直したかのように真由美が振り返った。

 

「そうそう、しーちゃん。今日はうちに来て頂戴ね?貴方の入学祝いをしたいから」

 

「分かった。行く」

 

それだけを伝えると今度こそ真由美は去っていった。

 

「紫苑……。会長と懇意だったのか?」

 

「小さい頃からよく遊んでた。懇意といえば懇意」

 

相変わらず無表情の紫苑を尻目に達也は考えを巡らしていた。

 

(泉……。七草に近しい家にそんな家は無かったと思うが……。一応、調べたほうが良さそうだな)

 

少なくとも今日だけで二回。

彼女の移動に気が付くことができなかった。

最初はともかく、先程のはすぐ近くに居たというのに、だ。

 

(数字持ちの関係者なら少し警戒しておくか)

 

達也の結論が出たところでエリカから声がかかった。

 

「さて、それじゃ。お茶でもして帰ろうよ。美味しいケーキ屋さんがあるらしいんだ」

 

確かにいつまでもここにいては迷惑がかかるし、何より居心地が悪い。

友人と親交を深めるのも悪く無いだろう。

 

「ケーキ……。美味しいの?」

 

無口な紫苑がエリカの制服を軽く摘んで引っ張りながら口を開いた。

その子供のような行動に、僅かに驚きながらもエリカは明るい笑みを浮かべる。

 

「らしいよ?もちろん来るよね?」

 

「行く」

 

半ば被せるように応える紫苑は、表情こそ変わりはないが、どこかそわそわしているように見える。

どうやら甘いモノが好きだったらしい。

 

(本当に子供のようだな)

 

警戒しなくては、と思った矢先にこの言動。

毒気を抜かれた達也は、単純に友人達とのティータイムを楽しむことにした。




入学編 3 でした。

おかしい……模擬戦まで行けると思ったのに。

一応、今日中にもう一つの上げる予定ではあります。
が、予定ですので!
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