今回は幕間になります。
本編と直接の関係はありません。
2095年4月3日
七草家
「それではしーちゃんの入学を祝って……乾杯!」
真由美の音頭で始まったのはささやかな入学祝いのパーティ。
パーティと言ってもこの場にいるのは紫苑と真由美、そして真由美の妹である香澄と泉美の四人だけだった。
「紫苑ちゃんもついに高校生かー」
そう言いながらポンポンと紫苑の頭に手を置くのは、見るからに活発な雰囲気を持つ香澄。
癖の無いショートカットの髪を持つ。
「香澄ちゃん、いくらなんでもそれは紫苑姉さまに失礼ですよ」
そう言って
セミロングの髪を肩口で切り揃えている。
彼女達は真由美の妹で一卵性の双子でもある。
雰囲気は対照的で髪型こそ違うが、顔の造りは全くと言っていいほど似通っている。
「だって、ボク達紫苑ちゃんの身長超えちゃったじゃん?ボク達姉妹も小柄なほうだけど、紫苑ちゃんはそれよりも小柄じゃない。それなのに高校生って聞くとさー……」
「言いたいことはわかるよ?紫苑お姉さまはお人形さんみたいに小さくて可愛いし」
七草家の血筋なのか、真由美も小柄だが香澄と泉美も小柄なほうである。
それと比べても紫苑は小柄なのだ。
現に中学三年である二人の身長は紫苑の身長を超えている。
そんな話題の当人である紫苑は、年下に頭を撫でられているが気にした様子は無く、ケーキを食べていた。
このケーキは入学式後に達也達と立ち寄った「美味しいケーキ屋さん」で買ってきたものだ。
そこでも結構な量を食べたらしいが、こうして買ってきたところを見るとよほど気に入ったらしい。
擬音を付けるならもっきゅもっきゅだろう。
周囲を気にすること無く、その小さな口で食べる様子はどこか愛らしい。
そんな様子を微笑ましく眺めながらも、内心は冷や汗をかいていたのが真由美である。
彼女の本来の苗字である霊泉。
日本で最強と言われる十師族を取り纏める家、それが霊泉である。
日本の魔法師の頂点である霊泉の名と存在を知っているのは、十師族でも当主とその周囲、百家に至っては当主ですら名前を知っているかどうかという程度だろう。
霊泉の力は十師族を遥かに凌ぐ。
極端な話ではあるが、彼女の気分を害せば十師族の家系であっても消滅する可能性があるのだ。
妹達はまだ零泉の名を、その意味を知らされていない。
だからこそ年の近い友人として接する二人が、度を越えた接し方をしそうで怖いのだ。
只でさえトラブルメーカーでもある。
直情的な香澄と、理性的だがブレーキを滅多にかけない泉美。
二人の起こしたトラブルで頭を抱えたのは一度や二度ではない。
そんな姉の苦労を知らない香澄と泉美は、今度は紫苑の髪型を変えて遊んでいた。
魔法が一般化する前に流行った昇天ペガサスMIX盛りと言うらしい。
無表情な紫苑と角のように縦にうず高く盛られた髪型は恐ろしくミスマッチでシュールだった。
「その辺にしておきなさいよ、二人共。目に余るわよ」
はーい、と返事だけは良いが本当に分かっているのかは定かではない。
全く、と言いながら紅茶に口をつける。
紫苑からすれば真由美の猫可愛がりな接し方も双子とそんなに変わらないのだが、やはり姉妹ということだろう。
「そうだ。しーちゃん。これ私から入学祝いのプレゼントよ」
そう言って、持ってきていた黒色のケースを机に出す。
「何それ!お姉ちゃんずるい!」
「香澄には中学の入学祝いで渡したでしょう?今回はしーちゃんのお祝いだからね。開けてみて、しーちゃん」
促されて紫苑が蓋を開けると、中には黒色に鈍く輝く拳銃型のCADが鎮座していた。
全体が黒色のそのCADは、銃身の部分に白と紅色で紫苑の花を模した装飾が施されていた。
グリップにはFLTの刻印が刻まれている。
「シルバー・ホーンのオリジナルカスタム、クリムゾン・アスターよ」
「……すごい」
珍しく紫苑が感嘆の声を漏らす。
香澄と泉美も眼を見開いて驚いている。
「そこまで喜んで貰えたなら私としては満足よ」
表情こそ変わらないが、よほど嬉しかったのだろう。
手に取って様々な角度から眺めていた。
「でもお姉さま。このCAD、シルバー・ホーンのオリジナルカスタムモデルですよね?でしたら……」
相当なお値段がしたのでは?と泉美は視線で問いかける。
CAD本体の値段は30万から50万だが、9割が政府の補助金から出るため実際の価格は3万から5万円前後。
しかし、これはオリジナルカスタムモデル。
その3倍程度の値段がした。
しかも、特注品では補助金も降りない。
七草家の令嬢である真由美であっても、決して安い買い物ではない。
「私にとって紫苑は、大切な友人で、妹で、家族だもの。このぐらいするわよ。だから受け取って頂戴」
真由美は何でもないことだと微笑む。
「ありがとう。真由美……お姉ちゃん。大切にする」
そう言って紫苑も静かに微笑み、真由美に抱きついた。
その笑みは男女を問わず魅了する魅惑の笑みだった。
同姓だというのに真由美は僅かに頬を染める。
その照れ隠しに紫苑の髪を静かに撫でる。
「紫苑ちゃんいいなー!お姉ちゃん!ボクの入学祝いも期待してるね!」
「
そう言うと二人も勢い良く抱きつく。
(今日一日の様子を見ていて、司波くんをシスコンだと思っていたけど……どうやら私も相当だったらしいわね)
暫く、そうしていたが普段の表情に戻った紫苑が顔を上げ、どこか嫉妬を含んだ視線を向けた。
「…………真由美」
「何かしら」
「胸、大きすぎ……」
「好きで大きくなったわけではないのよ……」
こうして七草家の賑やかな夜は過ぎていった。
幕間 七草家の夜でした。
完全に趣味が出たような気がします。
今後も時折、こういった幕間を挟もうかと思っております。
2016年4月4日 一部セリフを修正
2016年4月5日 描写を僅かに追加