魔法科高校の劣等生 花冠の主   作:月雲凪紗

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そして読んでくださった全ての方に愛と感謝を。

今後もどうぞよろしくお願い致します。


入学編 8

2095年4月6日

国立魔法大学付属第一高校

 

魔法師の育成を主軸においた魔法科高校だが、基本的には普通の学校と変わりはない。

当然、というべきか部活動もある。

しかし、そこはやはり魔法科高校。

魔法科ならではのクラブ活動も少なくない。

メジャーな魔法競技では、九校戦と呼ばれる各付属校同士の対抗戦も行われ、その成績が各高校の評価の高低にも反映される傾向がある。

であれば学校の力の入れようも並々ならぬものがある。

優秀な成績を納めればクラブ予算からそこに所属する生徒個人の評価まで、様々な便宜が図られている。

 

「諸君。今年もまたあのバカ騒ぎの期間がやってきた」

 

授業も終わった放課後。

風紀委員会本部は厳かな雰囲気に包まれていた。

 

摩利は立ち上がり、全員の顔を見渡す。

昨日まで摩利からすれば()()、散らかっていた部屋は達也によって綺麗に片付けられ、十人の生徒が中央に置かれた長机に着席し神妙に話を聞いていた。

摩利から一番遠い席には達也とその隣に紫苑、向かいには教職員推薦枠で風紀委員入りした森崎の姿もあった。

 

「知っての通り、これからの一週間は風紀委員会にとって最初の山場になる。ただでさえトラブルが多発するんだ。くれぐれも風紀委員が率先して騒ぎを起こすような真似はするなよ」

 

これからの一週間は新入部員勧誘週間とされている。

有力な新入部員の獲得は、クラブに直接の影響を与える最重要課題である。

九校戦の結果次第で学校の評価が高低するとあれば、学校が後押しするのも当然だろう。

その結果、各クラブの新入部員獲得合戦は熾烈を極めるのだ。

 

この期間は、各部が一斉に勧誘のテントを出し、お祭り騒ぎになる。

密かに出回っている入試成績リストの上位者や、実績のある新入生は取り合いになるのだ。

当然、勧誘にルールは存在する。

しかし、学校が積極的に後押しをしていることもあって半ば無法地帯と化しているのだ。

殴り合いや魔法の撃ち合いになることも珍しくなかった。

勿論風紀委員の摘発対象だ。

 

「では早速行動に移ろう。全員、出動!」

 

全員が一斉に立ち上がり、部屋から出て行く。

新入生の三人は最後に一礼して部屋を出た。

扉を閉じて巡回に向かおうとした達也だったが、森崎が敵意に満ちた視線で達也を睨みつける。

 

「何だ?」

 

「どうせお前達は大した魔法も使えないんだ。恥をかかずに済むように、こそこそ立ち回るんだな」

 

先日の模擬戦は非公式とされている。

あの場に居たものしか結果は知らないのだ。

つまり、森崎からは目障りな二科生と一科生最下位の落ちこぼれと思われているのだ。

達也からすれば、二科生である自分はともかく、知らないとはいえ実質の学年主席である紫苑にその言葉を向ける森崎に半ば感心していたが、当然口にも表情にも出さなかった。

 

「僕はお前らと違う。一昨日は不意をつかれたが、次はもう油断しない。お前らとの格の違いを見せてやる!」

 

言い捨てて立ち去る背中を眺めながていた達也だったが、不意に紫苑が口を開いた。

 

「達也。誰?」

 

「1-Aの森崎駿。一昨日の校門での騒動のとき、紫苑がCADを蹴り飛ばしたやつだ」

 

「……もぶさき?」

 

「森崎、だ」

 

「ふーん……。じゃあ、巡回行く」

 

全く興味無さそうにそれだけ言うと紫苑は、振り返りもせず歩き出す。

 

クラスメイトであるはずだが、紫苑の記憶には無かったらしい。

それどころか、一昨日の騒動での相手だということも覚えていなかったようだ。

 

森崎に対する紫苑の余りにも関心のない反応に、僅かに同情しつつ、達也は巡回を始めるべく歩き出した。

 

 

 

 

 

新入部員勧誘週間中は、基本的に一人での巡回となる。

この広い学園を僅か十人程度で取り締まろうというのだ。

二人一組になどする余裕はない。

紫苑もその例に漏れず一人で巡回中であった。

だが、お世辞にも上手く行っているとはいえない。

 

紫苑は小柄だ。

平均的な同級生よりも二十cm近く身長が低い彼女は、人混みを進むのに少なからず苦労していた。

魔法を使えば簡単なのだろうが、風紀委員が率先して魔法を使用するわけにも行かない。

そして彼女の巡回が思うように進んでいない理由はもう一つあった。

 

どこか達観したかのような雰囲気はともかく、その愛くるしい容姿と小柄な体躯をもつ紫苑は真由美からして人形のように可愛らしい、とよく言われている。

そんな彼女に部のマスコットとして入って欲しい、と声をかける者が跡を絶たなかったのだ。

そして、風紀委員の腕章を見てすごすごと引き下がっていく。

そんなことが何度も繰り返された。

 

(面倒臭くなってきた……)

 

紫苑からすれば風紀委員に興味はない。

ただ真由美から半ば無理矢理に推薦されてしまったために、とりあえずやっているだけなのだ。

彼女の性格上、余程のことがなければとりあえず従う。

しかし、彼女は見た目通り良くも悪くも子供っぽいのだ。

 

「それ一つ頂戴」

 

「はい!どうぞ……って風紀委員?と、とりあえず、どうぞ」

 

風紀委員本部を出てからまだ十数分。

思うように進むこともできず、面白いことも起きない巡回に飽きた紫苑は、料理研究部が配っていたカップケーキを貰い、とりあえず食欲を満たすことにしたのだ。

当然、本来であれば褒められた行為ではない。

 

「……美味しい」

 

「……この子、すごい可愛い!ねえ、君。これもどう?」

 

その小さな口でモグモグと食べる紫苑。

 

最初は風紀委員と分かり警戒していた上級生は、彼女の愛らしさに感激したのかテントに連れ去り、いろいろなお菓子を渡し出す。

周囲の部員達もいつの間にか集まり、どこか恍惚とした表情を浮かべながら次から次へとお菓子を渡す。

気が付けば部員とお菓子に囲まれていた紫苑だったが、気にした様子は無く黙々と食べ続けていた。

 

傍から見れば間違いなく餌付けである。

 

 

 

「また来てね、紫苑ちゃん!絶対ね!」

 

料理研究部員の歓待を受けた紫苑は、貰ったお菓子を食べつくし再び巡回を始めた。

いや、始めようとした。

ふと予感がしたのだ。

このまま巡回するより小体育館、闘技場と呼ばれる場所に向かったほうがいいと。

 

一つの仮説がある。

魔法師は認識はできないが、全員がイデアとの繋がりを持っている。

そしてイデアには、過去、現在の全てのエイドスが記録されている。

ならばそこには起こるかもしれない未来のエイドスも含まれるのではないか。

過去に予知夢や未来視と呼ばれたものは、この未来のエイドスが断片的に逆流したことにより起こったのではないか、と。

あくまで一般には仮説にすぎないし、実際には誰も確認できない。

だが、唯一紫苑はイデアを直接認識できる。

それ故に仮説が真実であることを知っている。

 

他の魔法師とは比べ物にならないほどイデアと強い繋がりを持つ紫苑は、度々こういった逆流、予知の類を受ける。

しかし、知りたい未来を見ることはできない。

未来は不確定で常に変化している。

いくら彼女でも数えきれないほどある未来を確認することはできないのだ。

その結果こういった予感という中途半端な形で予知を受けることがある。

一高に入学したほうがいい、と彼女が考えたのもこの予感からだった。

 

僅かに迷った紫苑だったが、闘技場に向かって走りだした。

 

 

 

闘技場には既に人だかりができていた。

どうやら予感は当たったらしい。

周囲から聞こえるのは、総じて「二科生が風紀委員」といったものだ。

その人垣の中に知り合いを見つけ、紫苑はすぐに声をかけた。

 

「エリカ」

 

「お、紫苑じゃない。見に来たの?」

 

「そんなとこ」

 

紫苑を一瞥するとすぐに視線を戻す。

エリカの視線の先には、大立ち回りをする達也が居た。

 

殴りかかる拳を闘牛士のように身を翻して次々と躱す。

しかし、反撃はしない。

軽やかなステップで拳を躱し、いなし、あしらい続けていた。

達也の身のこなしは華麗というよりは堅実なものだ。

前後左右から襲い掛かってくる拳を、最小限の動きで危なげなく余裕を持って躱す。

時にフェイントを掛けて同士討ちを誘い、時にステップで外側へ回り込む。

相手は十人以上だというのに、達也の呼吸を乱すこともできずにいる。

人垣の後ろでは、頭に血が上った生徒が達也へ魔法を放とうとした。

しかし達也が視線を向けるたびに、乗り物酔いのような吐き気をもたらす揺れと共に、魔法式に成りきれなかったサイオンの塊が散っていった。

 

「凄い体捌きよね。あれ」

 

「……うん」

 

そう答えながら紫苑は達也を見ていなかった。

模擬戦の時の動きを見ていた紫苑は、この程度で達也がどうにかできるとは思っていない。

紫苑が見つめていたのは、乱闘から離れた位置にいる女子生徒。

剣道の防具を付けた彼女の目を紫苑はじっと見つめていた。




イデアの件の補足です。
あくまで私なりの解釈ですのでご注意を。
イデアを図書館とするなら一つのエイドスは一冊の本のようなものです。
ここで過去、現在に関係する本は、分類や種類によって本棚や並べ方で整頓されていますが、未来の本だけは常に変化する上に膨大な数になるため、分類分けもされず平積みで大量に置かれているような状況です。
望んだ未来を見ることが出来ない、というのはそこからたった一冊の本を探すに等しいことなので出来ないというわけです。
時間を掛ければ出来るような気もしますが、その分だけ変化し追加されていくので出来ないと言うわけです。

また、過去、現在、未来の本がある、と言いましたが、その本、エイドスはあくまで事象に付随する情報体です。
そのため事象そのものの改変は紫苑でも出来ません。
紫苑は魔法使いとまで呼ばれていますが、あくまでイデアを認識しエイドスを自由に書き換えることができるのみです。
同じ理由で過去と未来を変えることは出来ないと、お考えください。



入学編 8 でした。

書くたびにクオリティが下がってる気がしなくもないですが……。
なるべく頑張ります!
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