Fate/Volsunga saga   作:じーくとるふぉ

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"黒"の写し鏡

 

シグルドとブリュンヒルデは獅子劫達に一言入れてから街外れの道路に向かいそこで待ち伏せをしている。

 

裁定者を殺せ、との"お願い事"にシグルドは何も思うところはない、というわけではなかった。シグルドはただ自分の一言の責任を果たすまで、そしてブリュンヒルデはシグルドに付き添うだけのことだった。

 

「ブリュンヒルデ、来るぞ」

「...はい」

 

シグルドが合図を出すとブリュンヒルデの格好は何処にでもいる女性の姿ではなく戦乙女としての格好になっていた。

 

恐らくルーラーが乗っているであろうトラックが目視出来たところで止まった。

 

「気付かれたか」

「...あなた達は何をしに来たのです?英霊ブリュンヒルデとそのマスター」

「...」

「へえ」

 

 

ーーー成る程、それが裁定者の特権か。

 

 

真名が割れているのなら相手は堂々と攻めくるだろう。隠し玉など気にせずに戦うことができるならそれはそれは楽なことだろう。

 

「...もう一度聞きます、あなたは何をしに来たのです?」

「ーーー理解していることを聞くのは賢いと言えないな」

 

確信していたとは言え、改めて告げられるとルーラーは気が滅入った。

 

「愚かなのは貴方です。今ここで私を仕留めることに何の意味があるのですか?」

「知らない、そして俺は"お願い事"を聞いただけだ」

 

簡潔に、そして簡易に答えを出す。

 

ーーーここに善も悪もない。

 

「正義の味方が英雄なわけじゃない」

「...」

 

ルーラーは静かにシグルドの言葉を聞いていた。

 

「英雄だって間違えるし、忘れるし、下衆なこともする...」

「...シグルド」

 

ブリュンヒルデは悲しそうにシグルドの言葉を聞いていた。

 

「英雄ほど狂った存在は居ないし英雄ほど間違えるやつは居ないよ」

 

シグルドは閉じていた目を開き、ただ最後に一言だけ"告げた"。

 

「...ランサー」

「はい、わかりました」

 

ただクラス名を呼んだ。その刹那、ブリュンヒルデの槍が魔力を帯び始める。

やがてその魔力は色を帯び、それは蒼い焔の様にも形を持たない冷気の様にも見えてくるようになる。

 

「クッ...」

 

そう、ブリュンヒルデは宝具の真名を解放する準備を最初からしていたのだ。シグルドが自分に命令を下した時、すぐにでも行動を起こせるように。

 

「それではーーー」

 

不思議な魔力を帯びた槍を、ブリュンヒルデが降ろそうとした時だ。

 

 

「やれ、セイバー!」

 

 

野太い男の声と同時、ブリュンヒルデとシグルドがいた地面が叩かれ、抉れた。勿論、シグルドは既にその場から距離を置いていた。

 

そしてシグルドはーーー

 

 

「"黒"のセイバーか...」

 

 

ーーー魔力を解放していた。

 

"黒"のセイバーが無言で頷く。声で返事を貰えなかったのが少し残念だったがそんなことは大した問題ではなかった。

 

「...シグルド!あなたの姿...そしてセイバーは...何が一体ーーー」

「ブリュンヒルデ、そなたはルーラーに意識を向け給え。私が"黒"のセイバーを相手しよう...あなたもそれで異論は無いか?」

 

 

再び"黒"のセイバーは頷き、剣を構えた。ブリュンヒルデも再びルーラーに槍を向ける。それに呼応するように旗を構えたルーラーは内心動揺していた。

 

ーーー確かに、"赤"のランサーのマスターはサーヴァント並みの力を持ってる。でもわからない...見えない。

 

しかしそんなことで困惑していられるほど今のルーラーには余裕がない。

 

 

槍が、酷く恐ろしく見える。

 

 

燃えるような熱さと凍るような冷たさを宿していた。本来なら相殺するはずの存在が...絡み合っているのだから。

 

あの槍だけ、あの槍が存在する空間だけ...この世の理が切り取られているように思えた。

 

「...」

「それでは行かせてもらう...いざ尋常に勝負!」

 

シグルドが"黒"のセイバーに斬りかかったと同時にブリュンヒルデも槍をルーラーに振り下ろした。

 

「やはりか...」

 

シグルドと"黒"のセイバー、最初の力比べはほぼ互角であった。

鍔迫り合いの最中、シグルドは"黒"のセイバーと純粋な力が同じ程度、ということをわかっていたような表情を見せたがーーー

 

「く...重い!」

 

ーーーもう片方は違った。

 

上からくる槍を下から受けたルーラーだったがその足下のコンクリートには亀裂が走っている。

その顔にも苦悶の表情が見える。

 

「このままでは...」

 

ーーーレティシアの体が...!!

 

今のルーラーは、限界する際にフランス人の少女に肉体を借りた。

 

つまり力はサーヴァントといえど、体は生身の人間...、骨が折れた腕が無くなった、よし治そうとは済ますことができないのだ。少なくともルーラーは申し訳なさや罪の意識で押し潰されてしまう。

 

"借りたモノ"を壊すわけにはいかないとルーラーは槍を旗で滑らせ、後ろに下がる。

 

「...」

 

相変わらず無表情で何処か儚ないブリュンヒルデは声を発さない。"黒"のセイバーと同じようにシグルドが力を解放してから無言を貫いている。

 

「...どうしましょうか」

 

冷や汗を流しながらブリュンヒルデを見るが、対する方は自分を見てないようにルーラーは感じた。

 

ーーー相手にもされてない..."赤"ランサーの目に映るのはあのシグルドと呼ばれたマスターだけ...

 

しかしそんなことを知っても意味はない、今、ルーラーにできることは時間を稼ぐことだけだった。

 

 

ほぼ一方的な戦闘が行われる中、シグルドと"黒"のセイバーが行う戦闘はやはり全てにおいて互角だった。

 

二人の戦闘の中で聞こえるのは剣も剣が打たれ合う音だけ。シグルドは"黒"のセイバーに合わせ一言も発していない。

彼が、喋らないことにどんな理由があるのかはわからないが元々戦闘中は無口になりやすいのでシグルドは全く気にならなかった。

 

 

「ぬう...」

 

"黒"のセイバーのマスターであるゴルドは"参っていた"。ただの人間と侮り、さっきまで自分が勝負を挑もうと思っていた魔術師が、今はあのジークフリートと互角に戦っている。

 

 

訳がわからなかった。

 

ーーーサーヴァントとマトモに戦うことができる魔術師だと!?ありえん...

 

ゴルドにわかっていたのはアレはただの魔術師ではない、アレからでる気配はサーヴァントと相違ない。ということ。

 

さっきまでは普通の人間だったのにも関わらず、だ。

 

 

「やはり、私はあなたの真名を知っているぞ...」

 

シグルドは距離を置いて口を開いた。その言葉はゴルドとこの場を監視していた者たちの興味を虜にしたのだが、続いた言葉は思いもよらないものであった。

 

「が、言わん...それでは公平でないからなあ...その場を監視している輩もいるのでな」

「...感謝しよう、高貴なる剣士」

「ぬ、セイバー勝手にーーー」

 

命令を違反し、"黒"のセイバーが喋ったので、口を開くな。と言いかけた時だった。

 

『ゴルドよ、今増援がそちらに到着した。どうやら一筋縄ではいかぬ者らしいのでな』

『は、はい...わかりました』

 

"黒"の陣営のリーダーであるダーニックから念話が届いたので口を閉じた。ゴルドは情けなさと苛立ちで拳を握った。

受けた仕事すらマトモにこなせず、結局は力を借りてしまった...なんたる様か、と。

 

「さて、再戦といこーーー」

 

 

シグルドか再び"黒"のセイバーに剣を構えようとした時、隣の方で戦っていたブリュンヒルデとルーラーの間に変化が起きたことに気付いた。

 

 

「ウーーーーーーーーアァァ!」

「バーサーカー!?」

 

近くの木を薙ぎ倒しながら、"黒"のバーサーカーが飛び出してきた。

 

"黒"のバーサーカーが勢いと力に任せブリュンヒルデに武器を振り下ろした。

その突然さに攻撃されていないルーラーですら驚きを隠せなかった。

 

「っ...」

 

 

初めてブリュンヒルデの表情が変わる。

 

 

不意を突かれたこともあり、バーサーカーからの一撃を受け止めきることはできずそのまま後ろに吹き飛んだ。

 

それに追撃を入れるべく、"黒"のバーサーカーは更に勢いをつけブリュンヒルデに走ったが横から蹴りが入り次はバーサーカーが横に吹き飛ぶ。

 

「...ごめんなさいシグルド...油断しました」

「構わない...今宵はこの辺で幕を閉じよう。"三対一"となると些か部が悪い...ランサー」

「...はい、わかりました」

 

先ほどと同様にシグルドはただクラス名で呼んだ。するとやはりブリュンヒルデは何を指示されたかを理解し次はその手に魔力を集中させる。

 

 

今度は熱が入り混じらない、単純な冷気のみが周辺を漂った。

 

 

「...!」

 

"黒"のセイバーとルーラーが直感的にブリュンヒルデと距離をとった。

恐れ知らずのバーサーカーですらあまりの強大さに撤退を選択した。

 

「シグルド、私に力を...」

「ああ」

 

シグルドがブリュンヒルデの腰に手を回した。

 

「ではーーー"撃ちますね"」

 

 

その言葉が発せられた瞬間、ブリュンヒルデの手に集中していた魔力は全て放出され冷気がルーラー達を襲った。

 

 

ただの寒さではない。

 

 

 

 

体を芯まで凍らせる"絶対零度"だ。

 

 

 

気がつけば足が凍っていた。ルーラーと"黒"のバーサーカーは無傷だったものの、"黒"のセイバーはマスターであるゴルドを冷気から庇い足から徐々に上へ上がるように凍っていった。

 

 

死にはしない攻撃だったがシグルドたちがこの場を離脱するには十分すぎるほどの大きさだ、氷の中の"黒"のセイバーはあの魔術師があの英雄シグルドである、との可能性を感じ始めていた。




今日か明日にシグルドとブリュンヒルデのステータスとスキルなどを更新したいと思います。
氷のルーンをバレンタインの時に使っていたのでキャスターになるにつれ氷の方が強化された、ということにしておいてください。

では次回、お会いしましょう
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