言霊の巫女は食の世界へ? 作:セシア
そこに着くと、長い黒髪と顔に傷がある男が倒れていた。気を失っていても、浅く息をしている状態だ・・・私はそっと近寄ってランプでその人を照らすと息を飲んだ。その人は怪我をしていた・・・それも、普通の手当てでは間に合わないほどの重症だ。
「救急車・・・駄目だ、こんなところまで車で来れるはずがない。それに時間がかかる・・・」
どうすればいい?このまま見捨てる?いや、そんなことしたくない!この人が悪人か善人なんてのは後からで十分なのだ。今は消え去りそうな命を助けることが・・・命?
「そうだ、命のユリ・・・!」
命のユリなら彼の傷を完全にふさぐことができなくても、命をつなぎとめることができるかもしれない。でも、間に合わなかったら?
「いや、間に合わせる・・・!その前に少しでも出来ることをしなきゃ」
私は持ってきた薬草を煎じたものを綺麗なタオルに染み込ませて傷に当てた。苦しそうにするその人をぎゅっと抱きとめてやる。これで少しはマシになったはずだ。そう思って私はリュックを置いて弓矢とランプを持つと立ち上がった。
「待ってて、絶対に助けるから!」
私はそう言って洞窟の奥へと走って行った。
洞窟の奥の方に行くと、先ほどより広い場所に着いた。そこにはたくさんの骸骨が散らかっており、とても不気味なところだ・・・私はずっと奥の方に目を凝らした。骸骨がたまっているその奥に、一つの綺麗なユリが咲いている。まるで、戦場に咲く一輪の花・・・
「あれが、命のユリ・・・!」
あのユリであの人を助けれる・・・!そう思った矢先、背後から殺気を感じてとびのいた。私がいた場所につるのようなものが叩きつけられる。いや、つるなんかじゃなくてあれは尻尾だ!目の前にいたのは、鋭い牙と長い尾を持った恐竜・・・
「グオオォ!《人間がこの地に何の用だ!》」
どうやらこの恐竜はこの洞窟の
「私は焔!貴方はこの地を守る主ですか?」
《!貴様、ワシの声が聞こえるのか?》
「はい、私はある森の守護をしていた巫女。わけあって別の世界から来てしまいました・・・」
恐竜はそれを聞いて振り上げた牙を下ろした。
《巫女か・・・この時代には珍しいものもいると思えば・・・それで、この地に何用だ?》
「この洞窟で今にも生き絶えそうな人がいます。命のユリならその人を助けられると思ってここに来ました」
私は真剣な目をして話した。そして、誠心誠意を込めて頭を下げる。
「図々しいのも承知でお願いします。命のユリの蜜を少し譲ってください!」
《・・・その者はお主にとって大切なものか?》
「!」
主の言葉に私は狼狽えた。何故なら、あの人と私は互いを全く知らない赤の他人なのだ。
《その者はお主にとってなんだ?親か?恋人か?》
「いえ・・・今日初めて会った他人です」
《なら何故その他人のために頭を下げる?お主は巫女だ、それもかなりの力を持った巫女だろう?》
主は私を見下ろした。確かに、あの人とは話したこともなければ見たこともない・・・互いを知らぬ赤の他人だ。でも・・・それでも!
「・・・私の両親は、私と同じ森を守護する存在でした。掟により、森の外に出ることを禁じている一族です」
私は一つ一つを噛みしめるように自らの過去を話した。
「ある日、その両親が名も知らぬ病に倒れました。その病は外にあるという薬草を使えば助かると風の話で知っていたんです。でも、私は森の掟に縛られて取りに行かなかった・・・休めば治ると鷹を括ってそのまま普通に看病したんです。その翌日、両親は亡くなりました・・・」
私は手をギュッと握りしめた。もし、私が掟を背いて薬草を取りに行っていたなら、あの二人は助かったかもしれない。そして、今もあの人は生と死の間を彷徨っているはずだ。
「私は、もう誰かを失いたくないんです!それが赤の他人でも、手を差し伸べれは助かるかもしれない命を見捨てることなんてしたくない!それが偽善だと言われても構いません!」
私はポロポロと頬を伝う涙を拭くこともせずにまっすぐに主を見た。主はしばらく黙ったあと、命のユリに近づいて花びらの一つを摘まんで取った。そしてそれを私の手の上に乗せる。
《お主の強き想いと覚悟に免じ、それを分けてやろう。早くその者の元に向かえ、そして救ってみせよ!》
「・・・!はい!!ありがとうございます・・・!」
私は礼をしてその花びらを持ってその場を去って行った。主がこう呟いたことに気づかずに・・・
《言葉の力・・・言霊か。走れ、言霊の巫女よ》
はい!主人公の過去と決意、どうでしたか?次回はあの人目線の方もやりたいと思います!できたらですが・・・お楽しみに!