言霊の巫女は食の世界へ?   作:セシア

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白夜の怒りと焔の涙

白夜side

俺はココが毒を使ってアゲハコウモリ達を動けなくしたところを見ていた。毒の強さも調整できるのかと興味深く見ていたその時、俺の近くで何かが落ちる音が響く。

-カラン-

気になってみると、そこにあったのは俺が焔に買ってやった針・・・。俺はそれを拾い上げると肩をすくめる。あれほど落とすなと言ったのにあのバカ・・・一言文句を言ってやろうと焔の方を見たが、そこには誰もいなかった。

「ッ!」

俺はようやく今の現状を理解する。この針はあいつが俺に気づかせるように投げたものなのだと・・・そして、投げた張本人が連れ去られたことに。俺はふつふつと湧き上がる怒りに戸惑うこともなく、ギリッと歯を食い縛る。なぜ急に消えた気配に気づかなかった?なぜアイツの傍にいてやらなかった?俺が傍にいればあいつは攫われる事はなかったはずだ!

「おい白夜!焔と小松は・・・白夜?」

「白夜!?」

トリコとココの声に俺はハッとなり、いつもの顔に戻る。それは顔だけだが・・・

そして、同時に近くにいたそいつに気づくことができた。

「悪い、こいつのこと任せる・・・」

俺はそう言って駆け出した。アイツは巫女、俺は妖怪(奈落の分身)・・・だがそれは“あちら”でのことだ。今のあいつは無知でか弱い子供なんだぞ・・・!?いくら破魔の矢があっても普通の人間には何の影響もない。誰かが傍にいてやらなければあっさりと死んでしまうのだ。そしてなにより、アイツを攫ったやつに強い憎悪を覚える俺自身に疑問を持った。俺は奈落の分身なのだ。心も心臓もないただの奈落の駒・・・その駒である俺になんでこんなモノが生まれてくるんだ?いや、今はそんなことどうでもいい・・・。

今やるべきことは・・・アイツを、焔を助け出すことだ!攫ったやつに対する報復なんて後でいい。

「頼むから無事でいてくれよ、焔・・・!!」

 

焔side

私と小松は今口を塞がれた状態で知らない美食屋に捕まっていた。どうする?ナイフには手は届かないし弓も使えない・・・言霊だって口を塞がれていればなんの意味もなさない。私はなんて無力なんだ・・・森の守護者なんて肩書きじゃなんの役にも立たない。今の私はなんの力もないただの小娘だ。

(白夜・・・あの針に気づいてくれたかな?きっと気づいてくれるよね?)

そんなことを思いながら私は隣を見た。男の方ではなくて小松の方だ。小松は必死になって男から逃れようとしている。

「んぐぐぐ!!…むぐぐ!」

「大人しくしてな!すぐ楽にしてやるぜ…」

“楽に”という言葉に私はビクリと身体を強張らせた。その言葉はあの時も聞いた言葉なのだ。あの時、父の口から聞いた言葉に・・・

お父さんは森の守護者の仕事を嫌っていた。いつもこんな森に縛られずに自由に生きたいと言っていたのだ。そして死に際、幸せそうな顔でこう言ったのだ

-これで・・・楽になれる-

私はその時に泣いたことをよく覚えている。でも、あの時とは訳が違う・・・私達はこの男に“殺される”のだ

「美食屋四天王のトリコにココ!奴等なら、あのデビル大蛇にも食い下がるだろう…その隙に、幻のフグ鯨は俺が先にいただくぜ!てめぇらには、猛獣共の気を引いてもらうぜ?生贄としてな…」

美食屋が不敵な笑みを浮かべている・・・その時私は初めて恐怖というものを覚えた。普通なら誰でも持っている死への恐怖・・・森という場所に守られていた私は知ることもできなかったのだが、これでよくわかった。人間は誰だって死は怖い。そんなことを考えていると、遠くから何か聞こえた。人の足音じゃない・・・!

これは・・・獣の足音。

ドシン!

「?!」

「ば、馬鹿な!何故…ここにも!」

男は恐怖に怯えた。そこにいたのは、巨大な紫の体を持つ獣・・・書物を読み漁っていた時の絵と同じだ。

「嘘…」

これが・・・この獣こそが・・・

(デーモンデビルオロチ・・・)

デーモンデビル大蛇はデビル大蛇の上をいく猛獣・・・上には上があるものだとよく知っていたが、こんなところにいるなんて・・・

「っの化物め!」

美食屋はそう叫ぶと小松をデーモンデビルオロチの方へ投げた。私は予備の生贄なのかそのまま担がれたままだ。

「んーー!(小松ー!)」

「うわぁぁ!」

「ほら餌だぁ!餌だ餌だぁ!!!」

小松に手を伸ばしても届くことはなく、そのまま連れて行かれる。そして、その先には私が一番見たくないものが・・・。そこにいたのは、蠍ゴキブリ・・・私が大嫌いな虫だった。私の目から涙がこぼれ落ちる。

怖い・・・怖いよ・・・助けて・・・!

「んんん!!!!(白夜!!!!)」

男が私の身体を投げようとしたその時、嗅いだことのある匂いがした。

「クソッ、おまえもあいつのとこに・・・「アンタが逝けよ」ガッ!!?」

聞き覚えのある声と同時に太い腕ではなく、細くても頑丈な腕が私を包んだ。恐る恐る目を開くと、目の前には見知った服・・・そして、知っているのは当たり前の蓮の匂い・・・。そう、目の前にいたのは・・・

「大丈夫か?焔」

「白・・・夜・・?」

いつになく真剣な目で私を見る白夜だった。




白夜が初めて本気で怒りました。同時に主人公が初めて恐怖を覚えたわけですが、白夜のこの感情の意味に気づくのはいつになるのでしょう?
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