開幕
―――???、???にて
耳を劈くようなブザーの音によって、俺は目を覚ました。
うっすらと目を開けると視界はまだ真っ暗だったが、暗闇を照らすように徐々に天井から明かりがつき始めた。
やがてすべての明かりが点き、ようやく俺がいる場所の全貌に気付いた。
「映画……館?」
俺は覚醒しきっていない頭を軽く振ると、改めて周囲を見渡した。
緞帳(どんちょう)が閉じられたままの舞台、誰もいないもの寂しい空っぽの観客席、映画館というよりは、むしろ演劇などを行う劇場のように感じられた。
「どうして、こんなところに………」
ここに至るまでの行動を思い出そうとするが、ここで奇妙なことに気付いた。
思い出せない………自分の名前、出生、家族、友人、趣味、好き嫌い、どれもこれもまるでテレビのノイズと砂嵐がかかるように、俺の記憶をかき乱す。
「参ったな……」
俺は落ち着いた様子でそう呟いた。
記憶がないというのに、随分と俺は落ち着いていた。もしかしたら、こういう事に関してはある程度の耐性があったということなのだろうか?
それはそれで、自分がどういう人間だったのかある意味不安になるというものだ。
「とりあえず、ここを」
「出ることはできませんよ」
「ん?」
席を立とうとすると、ふと隣からそんな言葉を言われた。
隣を見ると、そこにはさっきまでいなかったはずの女性が台本を見ていた。
目を見張るような白く長い髪、見惚れるような綺麗な紅い瞳、白いワンピースの上に黒いロングコートを羽織っていた。
どこから現れたのか、などという疑問はあるが、俺は彼女の言葉が気になった。
「ここから出れないって、どういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ。今はまだ、準備が整うまでもうしばらくってところですね」
「ますます意味が解らねえよ」
「でしょうね。突然現れた奇妙な女の言うことなんて、そう簡単に信じてもらえないでしょうね」
「その通りだよ」
彼女は台本を閉じると、俺の方へと向いてこう言った。
「“はじめまして”、私はこの劇場『ユメモノガタリ』の支配人、『アイナ』と申しますわ」
「アイナ……」
彼女の名前をどこかで聞いたことがあるような気がするが、それを思い出すことはできない。
いや、自分の記憶すら思い出せないんだ、今更疑問に思うこともないだろう。
「ところで、私に何か聞きたいことはありますか?」
「そうだな。色々あるが、ここはどこなんだ?」
「ここは劇場、人が演じる“物語”を観る為だけの、物寂しい場所です」
「物語?」
「アナタもすぐに解りますよ」
彼女はそう言って小さく笑った。
引っかかることはあるが、他にも聞きたいことはる。
「アンタは、俺がここにいる理由を知っているのか?」
「ええ。でも」
「それは教えられない、って言うんだろ?」
「お察しが良いようで」
「こういうののお約束だからな。残念なことに」
「ごめんなさいね」
彼女は申し訳なさそうに目を伏せた。
「そういえば、さっきまで何か上映でもしてたのか?」
「してましたよ。もっとも、救いのない終わりでしたけど」
「BadEndか、それは俺も嫌だな」
「でしょうね。でも、それがもしも、アナタの記憶と関係していると言ったらどうしますか?」
「………どうしようかな、それは」
俺は彼女の言葉にそう答えた。
俺の記憶がない理由、それは是が非でも知りたいところだ。
もしも、その手掛かりがあるのなら、俺はそれに賭けてみたい。
「突然ですが、アナタ東方二次創作小説は好き?」
「いきなりだな。まあ、好きだけど………あれ?」
さっきまで自分の名前さえ思い出せなかったのに、なぜかその事はすんなりと思い出せた。
それだけじゃない。俺の趣味の全部を思い出せた。
「………俺、そういえばニコ厨だったな」
「そうね。それに趣味はコスプレ衣装作り、意外と器用ね」
「言わないでくれ」
急に思い出してきた自分の趣味に恥ずかしくなったが、そのお陰で自分がどういう人間だったのか思い出した。
「面白い事には自ら飛び込む。それが俺だったな」
「……相変わらず、恐れ知らずな性格ね」
「それはどうも」
俺は口元をニヤッとさせた。
人生、何があるかなんてわからない。だから面白い事には自分から首を突っ込む。
生きてるうちは楽しまなければ損だ。
「それで、さっきの話の続きは?」
「そうだったわね。東方二次創作小説といえば?」
「……まさか東方の世界に行けってか?」
「そういうこと。面白そうでしょ?」
「面白そうだけど、最悪死ぬぞ?」
「だから、少しだけ手助けしてあげる」
彼女はそう言って俺に何かを投げた。
受け取ると、それは黒い色をしたトイカメラと中にカードが入った黒いカードホルダーだった。
「これは?」
「アナタの力になるものよ。カメラはおまけだけど」
「カードとカメラ、どこぞの世界の破壊者さんみたいだな」
「そうね」
彼女が小さく笑うと、劇場がブザーの音と共に徐々に暗くなっていく。
「もうすぐね」
「なにがだ?」
「言ったでしょ。これからアナタには東方の世界に行ってもらうって」
「行ってもらうって、どうやってだよ」
「心配しなくても、気付いたらそこにいるから」
「今更だが、すごい不安になってきた」
「本当に、今更ね」
彼女が優しく微笑むと、急な眠気が俺を襲い始めた。
「なん…だ……」
「そろそろ役者は舞台に上がる時間ね」
「そうか……」
「楽しみにしてるわね。アナタの活躍」
「期待……すんな………」
俺は苦笑いを浮かべるが、眠らないように意識を保っているのがやっとだった。
そんな俺の眠りを深くするように、彼女は語り始めた。
「これから始まるのはアナタの記憶を取り戻す旅、けれどそれは決して楽しい物語じゃない。
本来あるはずの歴史はアナタたちの介入で大きく変わり、多くの悲劇と喜劇を生むでしょう。
アナタはこれからたくさんの人たちと出会い、そして別れを経験していくわ。
でも、自分を見失わないで………この物語の終わりは、アナタの心が決めるものなんだから」
静かな声に、俺の意識は最後まで保っていられず、静かに目を閉じた。
最期に聞こえてきたのは、俺が最も知りたかったことだった。
「さあ、舞台へ上がる時間よ。………『神無 優夜(かみなし ゆうや)』」
さて、お久しぶりという方やはじめましての方が多いと思います。
どうも、この作品の駄作者こと空亡之尊です。
この度は前作のリメイク版、ユメモノガタリを読んで頂き有難うございます。
初っ端から東方要素皆無な話ですが、そこは目を瞑っていただきたいところです。
しかし、毎度毎度リメイクしてうんざりしている方もいると思いますが、その事については本当にすみません。
自分の納得のいく内容にしたつもりなんですが、途中で設定が増えていくうちに自分でも把握できなくなり、結局ふりだしに戻ることになりました。
いつになったら完結するかよくわからないこの作品、自分勝手な願いですが、それまでお付き合いいただければ幸いだと思います。
さて、それではいつも通り、予告でもして終わるとしましましょう。
それでは、今後とも『東方幻想物語 ~ユメモノガタリ~』をよろしくお願いします。
次回予告
主人公、落ちる。「結局リメイクしても同じなのかよ⁉」
東方幻想物語・序章、『邂逅』、どうぞお楽しみに。