―――神無優夜、永琳の部屋にて
突然だが、この前ベタなシチュエーションを話したと思う。
ほら、女子高校生と曲がり角でばったりぶつかってしまうというものだ。
あの時はその所為で危機一髪な状態になっていたが、今思えばあのお陰で俺は力を得られた。
まぁそれは今はどうでもいい、重要なことじゃない。
俺が言いたいのは、あのシチュエーションには続きがあり、その後登校したらクラスに転校生がやってきて、その転校生が道端でぶつかった奴だったという、偶然に偶然が重なったような展開だ。
今でこそそういうのはないが、俺はこういう王道的なシチュエーションは好きだ。
さて、ここまで言えば俺の言いたいことが解るだろう?
「あ……」
部屋へと入ってきた少女を見て、俺は言葉を失っていた。
美しく長い黒髪、月下美人の刺繍が描かれた黒い着物、左側の髪には赤いリボンが結ばれている。
忘れもしない。ルーミアに追いかけられ、命を捨てる覚悟で逃がした、あの少女だった。
俺はソファから立ち上がると、彼女の手を取った。
「良かった。ちゃんと生きていてくれた……!!
いや~あれから他の妖怪に襲われないかとか、ルーミアの憂さ晴らしに食べられていないか心配だったんだけど、天野っていう門番の話を聴いて安心してたんだよな。
でも、ちゃんとこの目で確かめないと不安だったんだけど、ようやく心から安心できたよ」
俺は彼女の手を握って、今まで溜まっていた想いを言葉にした。
しかし、彼女は顔を俯かせると突然涙を流し始めた。
「え、あの、もしかして何か悪いこと言った? あ、手を握られるの嫌だった? ごめん今」
「……違うん…です。ただ、私……嬉しくて」
「え?」
彼女を顔をあげて涙を拭うと、俺を紅い瞳で見つめた。
「私、貴方に謝らないといけません」
「なんでだ? 特に謝られるような事された覚えはないんだけど」
「いいえ。本当ならあの時、私があの場に残るべきだったんです。
貴方のことはわかりませんが、私には死んでも悲しむ人はいなかったですから」
そう語る彼女は、自嘲しながら笑った。
冗談とかの類ではない。本当に彼女はそう思っているみたいだった。
「結局、私は街に辿り着いても助けすら呼べなかった。
夜が明けても、私はそのことをずっと後悔していて、だからこうして一言謝りたくて」
「ふざけるなよ」
「え? ――ひっ」
俺は彼女の胸ぐらを掴み、自分の下へと引き寄せた。
「俺はな、自分の命を軽んじている奴が一番嫌いなんだ。
何があの場に残ればよかっただ、誰も悲しむ人はいないだ、ふざけるのもいい加減にしろ。
別に悲しむ奴がいようがいまいが、それでアンタが死んでいい理由にはならないだろ」
俺は心の底から湧き上がる怒りを彼女にぶつけた。
何故だかわからないが、彼女の言葉を聴いているとまるで自分のことように思えてきて、余計に腹が立った。
言いたいことは全部言った俺は彼女を離すし、俺はその場に腰を下ろした。
それを見て、彼女は俺を見下ろしながら問いかけた。
「なら、貴方はどうして自分の命を懸けたんですか?」
「そんなの、俺がアンタに惚れたからだ」
「……………………え?」
思ってもいなかった答えに、彼女は目を丸くした。
「惚れ……え?」
「いや~一目惚れって奴かな? 俺の好みにドストライクでさ。
この人の為に命張って死ねるのなら本望かなって、そう思ってたら自然と身体が」
「貴方、さっきと言ってることが真逆じゃないですか?」
「何を言ってやがる。惚れた奴の為に行動する、これほど命を懸ける価値があるものはないだろ」
俺は当然のことのように彼女にそう言った。
すると、唖然とする彼女をよそに、後ろの方で永琳が失笑していた。
「貴方、思っていた以上に面白い人ね」
「それはどうも。これでも恋愛至上主義がモットーみたいなものなんで」
「そのことはどうでもいいけど、まさかこの子を助けた理由が一目惚れなんてね」
「これじゃあ不満か?」
「いえ、これ以上に無い理由ね」
「八意先生!?」
俺と永琳は互いに笑うあうが、彼女はそれを見て深い溜息を吐いた。
「なぁ、アンタ」
「はい?」
「アンタにどんな事情があるかなんて知らないが、簡単に死んでいいなんて言うな。
生きていれば辛い事がたくさんあるだろうが、それと同じくらい幸せな事だってたくさんあるはずだ。だからさ、もう少し自分の命に胸張ってみろよ。そうじゃないと惚れた意味がないからさ」
俺は彼女にそう言って笑いかけた。
「なんですか、それ……」
それにつられて、彼女は可愛らしく笑った。
そうだ、俺が見たかったのはこの笑顔だったんだな。
「良かった。アンタの笑顔が見れて」
「さっきから変な事しか言いませんね」
「言っただろ。惚れたって」
「そういわれても、私も貴方もお互い事をよく知らないですし」
「なら、一緒に住めばいいでしょう?」
「「え?」」
永琳の提案に、彼女は呆気にとられ、俺は思い切り首を振り返して嫌な音が響いた。
「いたた……」
「大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ない。それより、さっきの言葉は?」
「そのままよ。どうせ貴方、行く宛なんてないでしょ?」
「いや、最悪天野の所にでも転がり込もうかと思って」
「やめておきなさい。あの人、ほとんどが門番に就いているから住居なんてないわ」
「マジか。ん? でもそれって」
「察しの通り、この子もここに住み込みで働いているのよ。私の助手としてね」
ああ、やっぱりそういう関係だったのか。
どおりで、そこまで俺の事についていろいろと詮索しなかったわけだ。
しかし、永琳の助手というと鈴仙を思い出してしまう。まぁ、ここではそういうことはないだろう。
「さて、どうする?」
「いいのか?」
「個人的にも貴方のことについては興味があるのよ」
「嫌な予感しかしないな」
「そう身構えないで。別に実験体にしようってわけじゃないから」
「……もしかして、さっきの能力の事か?」
「そうよ。こんな面白いもの、簡単に手放すのも惜しいわ」
そう語る永琳の瞳は無邪気に輝いていた。
せっかくだからこの表情を写真にでも撮っておくとしよう。
「やれやれ。どうやら俺には面倒事が付き纏うらしい」
「嫌かしら?」
「いや、俺は面白い方が好きだ」
「なら、さっきの話は了承してくれるわね」
「どうせ野宿するなら、監獄の中にいた方が良いからな」
「ひどい言い方ね」
「まぁ、可愛い看守が目当てってのもあるけどな」
「それが本音でしょ」
「ま~ね」
「二人とも、何をふざけたこと言っているんですか」
「そう言いながら、実は貴女も嬉しいでしょ?」
「なな、何を!?」
「それは光栄だな」
「貴方も!! 変なこと言わないでください!!」
「可愛い奴め……」
俺は立ち上がると、ふと重要な事に気が付いた。
「そういえば、名前聴いてなかったな」
「そうだったわね。自然と話してたから気付かなかったわね」
「まぁとりあえず、俺は神無優夜、ただの人間だ」
「「嘘ね/嘘ですね」」
「二人とも酷いな」
「冗談よ。私は八意永琳、薬師をやっているものよ」
「よろしく。……まぁ知ってるんだけど」
「何か言ったかしら?」
「いえ何も。えっと、アンタは……」
俺は話を逸らそうと彼女の方へと向いた。
彼女は溜息を吐きながらも、俺を見て言った。
「夢燈 月美 (むとう つきみ)です。よろしくお願いします」
今思えば、これが俺が一番初めの恋だった。
空亡「ベタな展開だと言う方もいると思いますが、基本この物語はこういう展開ばかりです。ご都合主義? 王道? ふん……それらすべて僕の大好物ですよ。勿論邪道もね。ところで、さっきから優夜が大人しいと思っていたのですが、どうやら部屋の端で膝を抱えて落ち込んでいるようです。その様子をご覧ください」
優夜「俺は一帯何をやってんだ……女子の、それも惚れた相手の胸ぐらをつかむなんて、男として最低だ。これ絶対嫌われただろ、好感度システムがあったら間違いなくマイナスだ。もうどう頑張っても挽回できねえよ。………絶望した。自分勝手な思いを相手にぶつけたことで実らぬ恋にしてしまった自分の行動に絶望した。鬱だ、死んで楽なろう」
空亡「こんな調子ですが、一日もすればすぐに元に戻りますのでご安心ください」
次回予告
この世界に馴染んできた優夜、だが、そんな彼を邪魔だと思う人物がいた。
東方幻想物語・月之刃編、『気に入らない奴』、どうぞお楽しみに。