―――神無優夜、月の民の街にて
この街に来てもうすぐ三ヶ月が経とうとするが、ここまでで解ったことがある。
まず、この街の人間は極力外へと出ようとしない。
街の中だけでも不自由することはないからともあるが、何より街の中の方が安全だからだだろう。
この世界では人間よりも妖怪の方が断然強いらしく、人間がそれに出会えば助かることはないとまで言われているらしい。
その為か街は外壁で隔たれ、人間は不自由なく安全に暮らしているというわけだ。どこかの某進撃の何かを思い出したが、ここでは伏せておこう。
まぁ、それでも街の外にかないものも多々あるようで、その際には調査隊なる物が取ってくるらしい。要するに、軍隊みたいなものが危険を冒して危険区域に行ってくるようなものだろう。
それなりには戦闘力はあるようだが、やはり妖怪相手には月とスッポン。一部を除いては逃げの一択しかないらしい。
よくもまぁ、そんなところから俺は無事に帰ってこれたな。
永琳の話ではルーミア、この辺りでは常闇の妖怪はこの辺りの妖怪の中でもさらに強いらしく、出遭えば骨の髄まで食べられて死体すらこの世に残らないらしい。
そんなの相手に煽りながら追いかけっこしていた俺って、本当に凄いな(小並感)。
それと、これは補足なんだが、この街の人間は『穢れ』が大嫌いらしい。
本来生命は寿命を持たなかったが、弱者を糧にし、僅かな勝者がいることで血塗られた歴史が形成され、やがて血塗られた世界に穢れというものが生まれ、生物から永遠を奪い、寿命を与えた。
外の世界はその穢れに満ち溢れているようで、そこから来た人間をあまりよく思っていない。
生と死、それらを含めて月の民は『穢れ』と呼ぶ。何ともバカバカしい話だ。
生きることがそんなに醜い事なのか? 死ぬことのがそんなに無駄な事なのか?
現在進行形で俺を遠巻きから見つめている街の住人どもに大きな声で言いたい。
「……ま、こんなことで永琳に迷惑はかけられないな」
俺は溜息を吐いて街の通りを歩いていく。
そういえば、今は食材を買いに行く途中だった。回想していてすっかり忘れていた。
なんというか、永琳の所で居候させてもらってからずっと俺が食事作ってるんだよな。唯一家事ができるのが俺しかいないと知ったときは本気で驚いたけど。
永琳は部屋を見て察していたけど、まさか月美までとは思わなかったな。
「とりあえず……今日はジャガイモと豚肉が安かったから肉じゃがにでもするか」
そんなことを思いながら歩いていると、道行く人とすれ違った。
「……待て」
ふと、俺はその言葉に応えるように立ち止まった。
「なに?」
「貴様が、八意様の所に居るという男か」
「そうだけど。何か文句でも?」
俺は振り返りもせずにそう答えた。
この街に来てからこういう輩によく絡まれるようになったが、今では慣れたものだ。
声からして女の子のようだし、ここは適当にあしらって逃げ………!!
「――!?」
振り返ろうとしたその瞬間、俺に向かって刃が薙ぎ払われた。
俺は咄嗟に後ろへと跳んでそれを避けると、刃の向こうで悔しそうな舌打ちが聴こえた。
「なるほど。外から来ただけのことはあるな」
「危ないな。他の人間に当たったらどうするんだよ?」
「穢れた人間風情が他人の心配か。随分と余裕だな」
見下すようなその口振りに嫌気がさすが、俺は周囲を見て気が付いた。
さっきまで俺を遠巻きで見ていた通行人や建物を護るように結界が張られている。
今の短時間でここまでやってのける人物、それも月の民関連で行くとやっぱり………。
俺が視線を向けた先に居たのは、俺あよく知る人物だった。
一薄紫色の長い髪を黄色のリボンで纏めているポニーテール、白くて半袖・襟の広いシャツの上に赤いサロペットスカートのような物を着ている。その手には俺を斬り裂こうとした刀が握られている。
彼女は見下すような視線を俺に向けると、俺は思わず笑った。
「ははっ。まさかこんなところで出遭っちまうとはな」
「その様子だと、私のことを知っているようだな」
「あゝ知ってるよ。綿月の依姫様」
俺は小馬鹿にするような口振りでそう言った。
綿月依姫、東方儚月抄に登場する月の民の一人。永琳を師に持ち、またその能力は歴代東方キャラの中でも公式でチート呼ばわりされている。
八百万の神の力をその身に宿すことができ、戦闘力だけなら霊夢・魔理沙・咲夜・レミリアをあっとうできるほど。つまり、マジで強い。
「その依姫様がこんなごく一般的な人間に何の御用で?」
「単刀直入に言う。八意様の傍からすぐに居なくなれ」
「あ、それってもしかして俺に永琳取られるか思ってるのか? なんだ、結構可愛いな」
「ふざけるな。貴様のような穢れに満ちた奴が、あの方の傍にいるは許されない筈だ」
「悪いが、先に勧めてきたのは永琳だ。文句があるなら本人に言うことだな」
「私が言ったところであの方は考えを変えないことぐらい解っている」
「だから、俺が自主的に出ていってくれた方が都合がいいって訳か」
「物分かりがよくて助かる」
「ああ、お前がどうしようもないほど下らない奴だってことは解った」
俺は踵を返すと、依姫に背を向けて歩き出す。
もっと深刻な事で戦いを挑まれたかと思ったが、ただの教え子の嫉妬だったとは。
下らなすぎて戦う気すらなくなってしまった。無駄な労力を使わずに済んだと思っておこう。
「……あの女同様、気に入らない奴だな」
俺は依姫の言葉に反応し、歩みを止めた。
「今、なんて言った」
「あの女、夢燈と同じくらい貴様も気に入らないと言ったんだ」
「どうしてそこで月美の名前が出てくる」
「アイツも同じだからだ。外から来た穢れた女、見ているだけでも虫唾が走る」
「おいおい。そこまで言うことはないだろ」
「貴様は知らないからだ。アイツは災いを招く疫病神だ。いつか私が排除する」
「そうかよ……」
「だがいずれ、貴様も私が――」
その時、依姫の言葉が途中で途切れた。
それも当然だ。最後まで話す前に俺が彼女に殴りかかったのだから。
俺の拳は彼女の眼前で受け止められ、その向こうでは目を見開いている彼女が見えた。
「どういう風の吹き回しだ?」
「なに、ちょっとお前の言葉が気に障っただけだ」
「害虫を駆除すると言って怒ったか?」
「それもあるが、お前のことが気に入らなくなった。ただそれだけだ」
「十分だ」
依姫は受け止めた状態で刀に手をかけると、目にも止まらぬ速さで抜刀した。
寸前、俺は彼女を蹴って後ろへと反転しながら跳んだが、剣閃が俺の頬に一筋の傷を付けた。
「さて、言い忘れていたが最初はお前から仕掛けてきたんだよな」
「そうだったな。それがどうした」
「別に、ただその場合は正当防衛ということでいいんだな」
俺は口元をニヤッとさせると、手元にあの刀が現れた。
「なら、倍返しされても文句はないな」
「ふん。寝言は寝てから言え」
依姫は刀を構え、俺を睨む。
殺伐とした空気の中、静かな静寂がその場を包み込んでいた。
すると、正午を告げるアナウンスが街中に響いた。
「「――!!」」
その瞬間、俺と依姫は互いに向かって走り出し、一瞬でその距離を零へと縮めた。
「斬り伏せてやる。穢れた人間!!」
「遊んでやるよ。依代のお姫様!!」
そして、二つの刃が交錯した。
空亡「この章の最初の戦闘、いよいよ始まりましたね」
優夜「とりあえず、原作キャラとか女とかなしで、ぶちのめしたい」
空亡「物騒ですね」
優夜「好きな奴の悪口言われて怒らないほど、俺は大人じゃないんだよ」
空亡「だと思いましたよ」
優夜「そんなことより、全力で叩き潰してやる」
空亡「やれやれ、公式チートにこの物語きってのチートですか。笑えますね」
次回予告
神の力を使役する姫と、幻想の力を借りる人間、最後に勝つのはどちらの信念か?
東方幻想物語・月之刃編、『似た者同士の喧嘩』、どうぞお楽しみに。