―――神無優夜、月の民の街にて
「斬り伏せてやる。穢れた人間!!」
「遊んでやるよ。依代のお姫様!!」
そして、二つの刃が交錯した。
刃はそれぞれの眼前でぶつかり合い、火花が舞うと共に腕を震るわせるような衝撃が伝わった。
それは依姫の方も同じだったようで、鍔迫り合う刃の向こうで悔しそうに歯軋りをした。
「やっぱり、それなりには強いよな」
「女だからと嘗めていると、その首と身体が離れるぞ」
「おお、怖い怖い。なら、そうならないように頑張らないとな」
俺は鍔迫り合いの中で依姫の刀を受け流すと、それに引き寄せられてきた彼女に対して回し蹴りを放つ。しかし、蹴りは彼女に当たる前に片手で受け止められた。
驚いている俺を見て依姫は鼻で笑い、受け止めた俺の脚を離した。すると、お返しと言わんばかりに今度は彼女の方が回し蹴りを放った。その攻撃は見事俺の身体に直撃し、数m先へと吹き飛ばされてしまった。
「いたた……嘗めてたわけじゃないが、能力なしでも強いな」
「その口振り、私の能力まで知っているのか」
「それなりにはね」
俺は立ち上がって服に付いた埃を叩き落とすと、大きく背伸びをする。
相手も能力を使えばそれに対応できるようにこっちも使うけど、純粋な真剣勝負に能力を使うのは無粋だからな。ここは俺自身の力を信じてやってみますか。
「さて、やれるところまでやるか」
「まだ向かってくるか。無駄なことを」
「無駄じゃねえよ。それにさっきのでお前の特徴も良く解ったしな」
「戯言を。そんなはったりが私に効くとでも?」
「信じるか信じないかは、これを見てから言ってもらおうか」
俺は刀を依姫の方へと向けると、そのまま手を離した。
真剣勝負で刀から手を離すなんてことは負けを認めるようなもの。
それを見て依姫は落胆するように溜息を吐くが、俺はそれを見てニヤッとした。
「隙あり」
地面に落ちる直前、俺は脚を思いきり振りかぶって刀の柄を蹴り上げた。
蹴られた刀は刃を構え、依姫へと向かって飛んでいった。
「……下らない手だ」
依姫は冷たくそう言い放つと、一刀のもとにそれを空中高くへと弾き飛ばした。
「こんな姑息な手で私が」
「私が、なんだって?」
彼女は俺の言葉を至近距離で聞き、目を見開く。
さっきまで数mも離れていた俺が突如目の前に居るんだ、驚くのも無理はないな。
「貴様…!!」
「慢心はダメだぜ。お嬢さん」
「くっ……」
俺の言葉で冷静を取り戻した依姫は刀を俺に向かって振り下ろす。
俺はそれを横に避けると、斬り上げようとする彼女の刀を思い切り踏みつけて地面に突き刺す。
弾き飛ばされた刀が落ちてくるところを受け取ると、俺は刀を彼女の首に突き立てた。
「教科書通りの戦い方で殺し合いはできないだろ?」
「貴様は、ここまでの流れを」
「堅物なお前ならそうしてくれるはずと信じただけだ」
「そうか。少しお前のことを見誤っていたようだな」
「それなら、勝負もこれで終わりに」
「ああ、遊びはこれで終わりだ。―――ここからは本気で行く」
今の依姫の瞳には、さっきまでの人を見下すような感情ではなく、本気で殺しに掛かるような殺気が宿っていた。
やっぱり、こういう相手は火が付けば誰であろうと本気になってくれるんだよな。
「――燃やし尽くせ!! 『火之迦具土』」
そう叫んだ彼女の身体が炎に包まれると、刀から突如炎が燃え上がった。
咄嗟に刀から離れると、俺に向かってサッカーボールほどの大きさの火球が放たれた。
刀でそれらを斬り裂いていくが、その向こうから炎を纏った刀を持った依姫が走り寄ってきた。
その様子が恐ろしかったが、炎の刀が薙ぎ払われるとその射程が異様なほど伸び、どれだけ距離置こうと俺に届き、それを受け止めるにも炎の熱が伝わってきてまともに防げなかった。
炎の刀に吹き飛ばされ、街の通りから多くの車が行き交う車道へと飛ばされた。
しかし、今日は車の一台も通っておらず。だだっ広い車道は俺と、向こうに居る依姫だけのバトルフィールドとなっていた。
「まさか、俺の為だけにこんなことを」
「念には念をな」
「良い心掛けだな。なら、それに応えないと失礼だよな」
俺は刀を構え、依姫と向かって走り出した。
彼女はそれを見て炎の刀を構えると、俺に向かって振り下ろした。
その瞬間、俺はカードホルダーから一枚引いた。
太陽照らす湖の上、湖面を凍らせながら笑顔で飛び回っている氷の妖精。
「――冷気『呑気なおてんば氷精』」
カードを握り砕くと、光の破片が俺へと吸収された。
すると、俺の周囲の温度が急激に下がり、カードを握りつぶした右手には白い冷気が纏っていた。
俺は右手を上に向け、炎の刀を受け止めると、炎が俺が触ったところから凍っていった。
数秒のうちに炎は氷へと変わると、俺が拳を握り締めると同時に氷は砕け散った。
「おお、やっぱり俺ってば最強だな」
「なっ…なんだその能力!!」
「知らねえよ。というかそっちだって同じようなチートだろ」
「神の力をそんな力と一緒にするな!!」
「俺にとっては神と同じ位に信仰してるんだよ!!」
俺は依姫の下まで距離を詰めると刃を振り下ろした。
「――雷鳴よ轟け!! 『建御雷神』」
斬撃が当たる寸前、依姫に纏っていた炎が雷へと変わる。
瞬間、彼女の姿が残像を残してその場から消え去った。いや、正確にはその名の通り雷のような速さで移動したのだ、俺の背後に。
俺は刀を後ろに回すと、背面で依姫の斬撃を受け止める。
「こういう素早い奴っていうのは、大抵相手の背後を取る物だからな」
「それは良い事を聴きいた。今後の参考にさせてもらう」
「なら、授業料にご一緒に食事でもいかがかな?」
「それは遠慮させてもらう」
「あらら、残念」
俺はさやに手をかけ、依姫へと薙ぎ払った。
しかし、またも彼女は光速で移動してそれを避ける。
動きを捉えようとしても光速で動かれては攻撃のしようがなく、俺の目には彼女の姿が一本の剣閃のようにしか見えない。
ファイズのアクセルフォームやカブトのクロックアップの凄さが良く解るぜ。
「雷神には風神を、ってね」
俺はそう言ってカードを引き、ニヤッと笑う。
茜色の空を背に、黒い羽根を舞わせながらカメラをこちらへと向ける鴉天狗。
「――風靡『何者にも捉えられぬ自由な天狗』」
カードを握り砕くと、一陣の風が街に吹いた。
その風は俺の脚へと集まっていくと、俺は軽く靴を鳴らした。
「さてと……雷と風、どっちが速いか勝負と行こうか」
俺はクラウチングスタートの構えをとると、そこから一気に走り出した。
すると、さっきまで姿さえ見えなかった依姫が、隣で並行して走りながら驚いていた。
速さはこっちが劣るとはいえ、姿が見えるのなら勝機はある。
依姫にも更に火が付いたのか、さらに速度を上げると、向こうから俺に向かって走ってきた。
俺はそれを迎え撃つように刀を構えながらさらに速度を上げ、交差すると同時に刃を振るった。
それから距離を置いては交差し、斬撃を放ちを繰り返し、またから見れば車道は雷が轟き、風が吹き荒ぶ激戦区へと変わっていた。
幾度となく刃を交わしていくと、互いの能力は時間切れを迎えた。
ここまで来て互いに致命的な攻撃は受けず、息を切らす声だけが静寂な街の中で響いていた。
「やっぱり、神様の力ってのも凄いな。俺のには劣るけど」
「貴方も、中々やりますね。私のには劣りますけど」
「言ってくれるぜ」
「そっちこそ」
俺と依姫は互いに顔を見合わせると、小さく笑った。
そこにはもう下らない憎しみの感情なんてものはなく、ただ目の前に居る奴に勝ちたいという想いだけがそこにあった。
「なあ依姫」
「なんですか」
「どうせお互い力なんて残ってないんだ。なら、最後くらい派手に行こうぜ」
「奇遇ですね。私も同じことを思っていた所ですよ」
「なんだかんだ言って、俺たちは似た者同士ってことか」
「みたいですね」
互いに最後の一撃を放つ構えをとる。
依姫は刀を地面に突き刺し、祈るように手を組む。
俺は『博麗の巫女』のカードを引き、それをと刀を構える。
「――慈母の光明よ、照らせ!! 『天照大御神』」
「――忘却『幻想を護る素敵な巫女』」
依姫は神を降ろすと目の前に鏡が現れ、そこから視界を覆い尽すような閃光が放たれた。
俺はそれに構わず彼女へと向かって走り出すと、カードを握り砕いた。すると、俺の周りに七色の光弾が現れ、それらが俺の剣に集束していく。
光が宿った刀を構えると、向かってくる閃光をそれで受け止めた。思った以上の衝撃に押されそうになるが、俺はそれでも前へと進み続けた。
「人間を、嘗めるな!!!!!!!!」
心からの叫びがこだますると、俺はいつの間にか閃光を真正面から斬り裂いていた。
死力を尽くしたというべきか、俺はその場で倒れた。最後に目に映ったのは、満足げに微笑む依姫の姿だった。
空亡「なんだか、夕暮れの河原で殴り合う場面を想像してしまいました」
優夜「そこから芽生えるのは対抗心と友情だけだな。王道過ぎるだろ」
空亡「でも、そのお陰で依姫さんは口調がだんだんと砕けていってたんですよね」
優夜「そういえば、最後の方はなぜか警護だったんだよな。あとで気付いたけど」
空亡「認めてくれたということでしょうね」
優夜「それはうれしいけど、結局負けたんだよな。悔しい」
空亡「ただの人間が贅沢言い過ぎですよ」
優夜「厳しいな。まぁ、その通りだけどさ」
空亡「カードをまだ完全に使いこなせてないうちは、まだなだですよ」
優夜「何様だよ」
空亡「作者です」
次回予告
依姫との喧嘩からしばらくが経ち優夜はもう一人の姫と出会う。、
東方幻想物語・月之刃編、『他愛ない会話』、どうぞお楽しみに。