―――神無優夜、街のとある公園にて
依姫との出会い@喧嘩から一週間後、俺は街にある公園のベンチで寝転んでいた。
公園では子供たちが元気に遊び回り、近所の奥様方は井戸端会議に熱中し、カップルがイチャイチャしながら歩いていく。リア充爆発しろ。
そんな風に思いながら、俺は筋肉痛になっている自分の身体がを大きく伸ばした。
依姫との喧嘩の後だが、目が覚めたら依姫が永琳に叱られている場面に遭遇した。
街中であんなに派手に暴れ回ったんだ、怒られても何も言えない。幸いにも街の被害はなく、怪我人は当事者の俺と彼女だけ、この時改めて依姫を再確認された。
当然だが俺も叱られ、永琳に厳重注意された。本当ならそれだけでは済まないはずだが、この街でそれなりの権力を持っているからか、それ以上はお咎めなしだと。
それからしばらくして、依姫はよく俺のところに来るようになった。
そういえば、最初に来たときは俺と月美に謝ってくれたな。月美はいきなり頭を下げた依姫を見て困惑してた。今でも思い出すと少し笑えてくる。
最初はあんな出遭い方だったが、今ではなぜか依姫が俺に勝負を挑んでくるのが日課になっている気がする。今日も、今さっきまでこの街の修練場で彼女とやり合ってきたところだ。
よほど引き分けたのが悔しかったのか、最初からクライマックスで来るから手の抜きようがない。
その所為でほぼ毎日筋肉痛で辛い。永琳の薬を服用しても限度があるんだよな。
「あゝ、退屈はしないが過酷な毎日だ」
「あの子に付き合うのも大変ね」
「アイツにはもう少し手加減してもらいけどな」
「無理よ。あの子ってば良くも悪くも真っ直ぐだから」
「結局望み薄か………って、今更だが誰だ?」
起き上がって声のした方へと視線を向けると、隣のベンチに一人の少女が座っていた。
腰ほどもある長さの金髪、白くて半袖・襟の広いシャツの上に青いサロペットスカートのような物を着ている。そして、その手にはどこかで見たことのあるような扇子が握られている。
俺は彼女を見ると、思わず深い溜息を吐いた。
「綿月豊姫、やっぱり出会うのか………はぁ」
「あら、女性の顔を見て溜息なんて失礼ね」
そう言って彼女は俺のことを睨んだ。
綿月豊姫、東方儚月抄に登場する依姫の実姉であり、妹と違ってこちらはのんびり屋というより、サボり癖のある困った姉とでも言った方が解りやすい。
実はのほほんとした雰囲気に似つかわしくないとんでもなく強い武器を持っていたが、この時代ではどうなのだろうか? まさかと思うがその手に持っている物ではないことを切に願う。
俺だって溜息なんて吐きたくないが、こうも立て続けに原作キャラに出会うとそうもなるよ。
しかも、よりにもよってあの八雲紫を退いた数少ない人物だ。下手なこと言って俺の素性を悟られたくない。
「失礼。さっきまで堅物娘に相手をしてたもんでな、その疲れで溜息を吐いたんだ」
「それは大変だったわね。でも、その割にはお互い楽しそうだったわね」
「見てたのかよ」
「だって、あの依姫と引き分けた相手よ? 見に来たくもなるわ」
「それで、実際に見た感想はどうでした?」
「思ってたよりも普通だったわね。その服のセンスはどうかと思うけど」
「うぐっ……人が一番気にしていることを!?」
俺は苦しげに胸を押さえると、それを見て豊姫は楽しげに笑う。
「面白い人ね。依姫が言ってた通り」
「どういう風に聞いているかはこの際聴かないことにする」
「それは残念。依姫からはお話し好きだって聞いてたのに」
「何ならお話しするか? お互い他愛のない話ってのを」
「それもいいわね。いい暇潰しになるわ」
豊姫はそう言って俺の隣へと座り、期待した様子でニコニコと笑っている。
本当、この姉があの妹と血が繋がっているとはにわかに信じがたい。だが、実際にも全く似ていない兄妹というものは存在するしな。どこの誰とは言わないが(実話)。
「さて、何から話そうかしら?」
「そうだな………アンタたちにとって、穢れっていうのはそんなに醜いものなのか?」
ふと、俺はそんな言葉を豊姫に問いかけた。
なんでこんな事を聴いたのか、それは依姫が俺と月美の事を嫌っていた理由がそれだったからだ。
穢れに穢れた外の人間、それはこの街では疫病神とまで呼ばれている。俺には、どうしてそこまで毛嫌いされているのか、その理由が知りたかった。
「穢れはこの地に住む生物が生きてきた証。それを拭いさり、死ぬことのない人生を歩む。
それがこの街の人間にとっては当たり前の事。誰もそのことに疑問なんて抱かないのよ。
穢れを持てばその人は寿命で死ぬ。呪いにも似たそれを、人々は怖れ、そして蔑む」
「寿命で死ぬのが、呪いね……」
俺はその言葉聴いて、とある歌を思い出した。
遠い遠い時の果てに、そこに住まう人々が永遠の命を持つ世界での話。
そして、その世界一人、死の呪いがかけられた一人の少女の物語。
「呪われているのは少女か、それともこの世界か………何とも皮肉な話だ」
「そうね。死ぬことも生きることもないなんて、まるで世界が死んでいるみたいね」
「そんな死んだ世界で、アンタたちに蔑まれながらも生きていたのか、アイツは」
「月美ちゃんね……私は彼女のことを気に入っているのよね。可愛いから」
「おいおい。結構真面目な話をしてるつもりなんだが?」
「真面目に話してるのよ。だからこそ、可哀想だと思っていたのよ」
そう語る豊姫は悲しげな目をしていた。
「穢れが嫌われる理由としては、やっぱり妖怪を引き寄せるというのが主かしらね」
「妖怪を、引き寄せる?」
「そう。詳しい事は知らないけど、昔から言い伝えられてきてるのよ」
「なるほど。妖怪に怯えるここの人間にとって、穢れを持つ奴は本当の意味で疫病神って訳か」
「ひどい言い伝えね。その所為で、依姫はあの子のことが嫌いだったのよ」
「バカバカしい……」
俺の感想はそれだけだった。
結局、人間というのはどの時代、どの世界でも同じだ。
情報ばかりに翻弄されて、個人を見ようとせずに勝手に決めつけて、吐き気がするぜ。
「……でも、貴方のお陰でそれも少しは改善されるかしら」
「どういうことだ?」
「外から来た貴方がこの街でも実力者である依姫と派手に喧嘩して、それに引き分けた。
虫のいい話だけど、それを知った人々の見方が少しだけでも変わるかもしれない」
「単純思考なのも人間のいいところだな」
俺は皮肉を呟くと、ベンチから腰を上げて大きく背伸びをした。
「ところで、どうして依姫と喧嘩したのかしら?」
「ん? そんなの、俺の事を散々」
「いえ。あの子の話だと、月美ちゃんの話をした途端に殺気が伝わってきたと言っていたわ」
「そうだっけな」
「誤魔化さなくてもバレバレよ。貴方、あの子に惚れているでしょ」
豊姫に言われ、俺はそれ以上誤魔化す言葉が思い浮かばなかった。
そこまで俺って解りやすいのかな? これでもポーカーフェイスには自信があるのに。
「惚れていて何か悪いか?」
「いいえ。ただお願いがあるのよ」
「お願い?」
「……月美ちゃんの事、ちゃんと愛してあげるのよ」
「言われなくてもそのつもりだ」
「それは良かったわ」
そう言って豊姫は小さく笑った。俺が彼女の方へと振り返るとある事に気付いた。
「ところで豊姫。アンタって何か用事とかないのか?」
「用事ね……依姫との鍛錬があるけど、今はそのサボり中ね」
「大丈夫なのか?」
「いいのよ。あの子いつもいつも口うるさいから、少しは休んでいても問題ないわ」
「そうか。なら、アンタの背後に居る口うるさい妹にもう一度言ってやれ」
「え? ……え?」
豊姫が振り返ると、そこには青筋浮かべて笑顔で仁王立ちしている依姫の姿があった。
「お姉様。今の話、後でゆっくりと聴かせてもらいましょうか?」
「いや、え~と、今のはちょっとした言葉の綾というか……」
「問答無用。今日はいつもの倍は働いてもらいますからね」
「そんな!? た、助けて優夜!!」
「すまん。いくら俺でも須佐之男命を宿している依姫には近づきたくない」
「裏切者!! 薄情者!! 服装のセンスゼロ!!」
「依姫、連れて行ってくれ」
「い~や~だ~!!!!」
その日、一人の姫の叫びが平和な公園にこだました。
だが、その叫びも子供たちの遊ぶ声にかき消されていったのであった。
せっかくなので、豊姫が依姫に連れていかれる様を写真に撮った。
空亡「綿月姉妹の姉の方、豊姫様の登場でしたね」
優夜「前回のに比べて穏便に終わったな」
空亡「前回が殺伐としてただけですよ。日常系ってこういうものですし」
優夜「その割には話の内容が微妙に重いよな」
空亡「書いているとなぜかこういう話になってしまうんですよね」
優夜「お前の人生に何があった」
空亡「特筆することもないごく普通の人生ですよ」
優夜「そうかよ。ところでさ、写真撮ってくれって俺に言っただろ?」
空亡「言いましたね。舞台裏で」
優夜「現像できないだろ、これ」
空亡「そのうちできますよ。まだまだ先ですけど」
優夜「ならいいんだけどさ」
次回予告
平凡な日常、そんな平穏よりも刺激を求める、そんなお姫様と優夜は出会う。
東方幻想物語・月之刃編、『路地裏のお姫様』、どうぞお楽しみに。