―――神無優夜、月の民の街にて
この世界に来て六ヶ月、そろそろ俺も限界に近くなってきた。
永琳は俺の丈夫さを利用して色々な薬を試し、その反応を見るのが楽しみになってきている。
いくらなんでも俺も死にたくないので、永琳の『あらゆる薬を作る程度の能力』を使って対抗しているが、天才と凡人では使う能力が同じでもその差は歴然だった。
ちなみに今朝は二時間ほど身体が麻痺していた。もはやステータス異常だ。
それに加えて、依姫は相変わらず俺との戦いに躍起になっている。
こっちは慣れてきたお陰か、余裕をもって相手ができるようになった。だが、それを彼女に悟られると逆上して、むしろ苦労が増えるのが多々ある。こっちだって人間なんだから少しは手加減してほしい。
ちなみに、あれから(前回参照)豊姫ともよく会うようになった。
と言っても、お互い他愛のない世間話をする程度だったり、彼女が取ってきた桃を食べさせてもらったりしているだけだ。そして、決まって依姫に見つかって連れて行かれる。
都よ紐、よく懲りないものだと関心する。しかし、俺も一緒に叱られるんだよな。
そんな平穏(?)な日常を思い返しながら、俺はいつもの様に街を歩いていた。
未だに人々の視線は痛いものがあるが、これでも前よりはマシになった方だと思う。
依姫と喧嘩したせいで街を追い出されることまで考えていたが、まぁ結果オーライということでいいだろう。
「さて、とりあえず今日は趣向を変えてボルシチにするか。……ハラショー♪」
そんなことを考えながら歩いていると、街が何やら騒がしいことに気付いた。
そこら中でどっかの屋敷の使用人たちが道行く人々に聞き込みしている。
僅かに聞こえる単語は………逃げ出した、姫様、見つける、か。どうやら、どっかの貴族のお嬢様が屋敷からいなくなったようだ。それを探して躍起になっている、ということか。
「使用人も大変だな。まぁ、俺には関係ないか」
「…………なさい!!」
俺は使用人たちを尻目に歩き出したが、路地裏の向こうから少女の叫ぶ声が聞こえた。
周りの人間は気付いていないようだが、確かに俺の耳には声が聞こえた。間違いない、俺の耳が女の子の声を聞き逃すなんてことはないはずだ。
「……面倒なことになりそうだけど、行くだけ行ってみるか」
俺はそう呟くと、狭い路地裏へと入っていった。
まだ昼間なのに薄暗い道の向こうに、俺は少女を囲んでいる男たちの集団を目撃した。
男に襟首を掴まれている少女は、それに臆することなく叫んでいた。
「離しなさい!!」
「…………………………」
「ちょっと、聴いてるの!?」
「…………………………」
肝が据わった子だなと思っていたが、それにしては周りの男どもの反応が奇妙すぎる。まるで反応していない、というより本当に人間なのかと思うくらい気配を感じない。
まぁ、そんなことよりも今はあの子を助けるのが先決だな。
俺はその場から走り出すと、少女を掴んでいる男に向かってライダーキック張りの飛び蹴りをかました。見事に蹴りが男の頭に命中すると、近くにいた男もろとも吹き飛んだ。
「嫌がる女の子に手を出すなんて、紳士的じゃないな」
俺がその場に着地すると、残っていた男が俺に向かって背後から殴りかかってきた。
咄嗟にそれを受け止めると、男の表情をよく見た。男はうつろな目をしているが、拳から伝わってくる殺気は本物だった。まるで何かに操られているように思えたが、この際それはどうでもいい。
「どんな事情だろうと、か弱い女の子に手を出す奴には容赦しない」
俺は男の拳を受け流すと、そのままその顔面に向けて回し蹴りをあびせた。
男はその勢いで壁に激突すると、そのまま地面にゆっくりと倒れた。
「弱いな。ちなみにこの前依姫に同じ事やろうとしたらカウンター喰らったぞ」
「比べるものが別次元だと思うわよ」
「それもそうだな。そして、アンタは何事もなかったかのように自然と話してきたな」
「これでも内心焦っていたんだけど、貴方を見ていたらなんだか落ち着いてきたわ」
「それはどうも」
「ところで、貴方は誰? 少なくともうちの使用人じゃないみたいだけど」
「神無優夜、通りすがりのただの人間だ」
「神無……優夜、って永琳のところに居候してる男ね」
「知ってるのかよ……って」
俺は改めて少女を見て、つくづく自分の運に感心させられた。
腰よりも長いストレートの黒髪、上には手を隠すほど袖の長いピンク色の服、下には日本情緒を連想させる模様が金色で描かれている赤いスカートと白いスカート、見るからに和風という言葉が似合いそうな格好だ。
「どうしたのよ?」
「いや、まさかこんなところで出会うとは思ってなかっただけだ」
「その様子だと、私が誰だか知ってるみたいね」
「まぁね。蓬莱山の輝夜様」
蓬莱山輝夜、東方永夜抄の6ボスであり竹取物語のかぐや姫と同一人物として描かれている。永琳は彼女の教育係であり、原作では主と従者というより、家族のような深い関係だと思う。
彼女の能力は永遠と須臾を操る程度の能力で、要は時間に関する能力。永遠を操れば万物に変化というものは訪れず、須臾を操れば他人には認識されない一瞬の中を行動できる。チートだ。
まさか屋敷から消えた姫様がぐーや、もとい輝夜だとは思わなかった。
「その口調、なんだか気に入らないわね」
「だろうな。お姫様なら聞き飽きてる言葉だったな」
「本当、私だって好きで姫なんてやりたくないわよ」
「家出したのはそれが理由か?」
「それもあるけど、友達の所に行きたかっただけよ」
「なんだよそれ。だったら素直に行き先伝えて出かければいいだろ?」
「相手が相手だけに、許してくれないのよ」
「もしかして……これか?」
俺はそう言って親指を立てた。すると無言で頭を叩かれた。
「馬鹿なこと言わないで。相手は貴方がよく知ってる子よ」
「俺が……もしかして月美か?」
「そうよ。まったく、貴族のくせに差別するなんて最低よね」
「そうだな。そんなこと俺の目の前で行ったらこいつらと同じ目に……あれ?」
俺が地面へと目をやると、そこにはさっきまで倒れていた男どもの姿はなかった。
立ち去ったのなら俺か輝夜が気付くはずだし、何よりこの狭い路地裏を持の一つ立てずに抜け出せるはずもない。
「どういうことだ?」
「さぁ? それより、ちょっと頼まれてくれないかしら?」
「切り替えが早いこと………って、皆まで言わなくてもいい。
俺に月美のところまで案内しろってことだろ? それなら頼まれなくてもするつもりだ」
「察しが良いわね。でもいいの?」
「どうせこのまま出ていっても使用人に見つかって退屈な籠の中。
そんなところに可愛いお嬢さんを戻すのは嫌だからな。たまには羽でも伸ばしてやらないと」
俺はそう言ってカードホルダーの中から丁度いいのを選んでいく。
「お人好しなのね」
「これが俺の普通だ。何と言われようと変えられないからな」
「良いわね。そういうご機嫌取りでも何でもない言葉は」
「アンタのご機嫌なんて取っても何の得もないからな」
「言ってくれるわね」
「言ってやるさ」
俺はカードの中から一枚引いた。
森の中、木漏れ日から漏れる太陽の光を浴びて元気に飛び回る日光の妖精。
「――光折『悪戯主犯な日光の妖精』」
カードを握り砕くと、能力を発動させて太陽の光を屈折させる。
この能力は光を屈折させ、自分の姿を光学迷彩の様に見えなくすることができる。原作では他二つの能力を合わせて悪戯などに使用されていた。
「さて、後は人にぶつからないようにこっそりと向かうか」
「大丈夫なの?」
「心配するな。俺を信じろ」
俺はそう言って輝夜の手を掴むと、路地裏から出ていった。
慌てる彼女を見ていて、俺は少し楽しかったな。
―――???、外の森にて
「あらら。結局失敗でしたか」
少年はそう言って自分の前に倒れている男どもを見下ろした。
そいつらは、輝夜に襲い掛かっていた男どもだったが、今はもう何も語らぬ骸となっている。
「できれば今のうちに殺しておこうと思っていたんですけど、なんとも『運が良い』」
少年は自分の作戦が失敗したというのに笑っていた。
「ようやく見つけましたよ。“ユウヤ”」
少年は目を輝かせながら狂気に笑う。
その手で白い銃を回しながら、彼は満足しながらその場を去って行った。
空亡「このタイトルを考えた時、サラリーマンが乗るスパロボの主題歌が」
優夜「それ以上言うな。そうとしか見えなくなるだろ」
空亡「しかし、普通の人間にとってお姫様は憧れですが、自由がないのは嫌ですね」
優夜「豪華な暮らしか、自由な暮らしか、俺は当然後者だな」
空亡「僕もですよ。自由もない人生なんて、鳥籠の鳥と同じですからね」
優夜「似合わない台詞だな」
空亡「そうですね。ところで、思ったのですが」
優夜「なんだ?」
空亡「誰にも気付かれずに移動するなら、紫さんのカードを使えば良かったのでは?」
優夜「………あ」
空亡「それに移動系なら小町さんのも」
優夜「………それ以上はやめておこうぜ。お互いに」
空亡「アッハイ」
次回予告
優雅に見えるお姫様、その実は誰にも言えぬ悩みもあるようです。
東方幻想物語・月之刃編、『姫様の悩み事』、どうぞお楽しみに。