―――神無優夜、ツクヨミの屋敷にて
神様なんて信じられなかった。と、俺はそのことを憶えている。
神の存在を信じないというわけじゃない。神に祈っても、結局何も変わらないという意味だ。
オタク知識を除いた記憶の中で、そのことだけは根強く残っていた。
生前、俺はどんな目に遭ったのかは知らない。だが、そう考えていたということは、おそらく奇跡を願っても、何も変わらなかったからだと思う。
そんな風に考えている俺は、その神様の一柱の部屋にいる。
別に俺が何か悪さをしたというわけじゃなく、ただ単に暇潰しとしてここに来ているに過ぎない。
さっきの話と矛盾するが、ツクヨミのことは信頼している。というより、感謝している。
こんな俺を街に置いてくれることも、永琳に俺の身体を診せてくれるように頼んでいたことも、今思えばコイツのお陰で俺はここに居られる。
「でもな、だからってスペードの列を止めているのはひどいと思うぞ?」
俺は手札から顔を覗かせながら、机を挟んだ向こうにいるツクヨミを睨んだ。
いつも何かの書類やらが置かれているツクヨミの机には、綺麗に並べられたトランプが置かれておいる。そう、要するに俺とこいつは七並べをしている。
この時代にトランプがあるのも驚きだが、何よりツクヨミが乗ってきたのが意外だった。
まさか「ツクヨミー遊ぼうぜ」「いいよ」ですぐにトランプを持ち出した時は本当に驚いた。
「さて、なんのことでしょうか?」
「惚けるな。なんでよりにもよって俺の手札がスペードのAとKだけなんだよ」
そして、俺は今最後の二枚で止められている。
スペードのカードが極端に少ないと思っていたが、まさかこんな罠があったとは思わなかった。
終わるに終われない俺を見て、ツクヨミは次々とカードを並べていく。
「しかし、意外ですね」
「何がだ?」
「てっきり私、ユウヤに嫌われていると思っていました」
「そうだな。壁に埋めやがったときのことは今でも覚えているぞ」
「その件に関しては後日謝りに行ったではありませんか」
「あぁ、いきなり俺の前に現れた時は心臓が止まるかと思ったぜ」
「すみませんね」
ツクヨミは小さく笑いながらクラブの列を埋めていく。
「俺は確かに神様は嫌いだ。祈っても何も変わらないからな」
「すみません」
「別に責めてるわけじゃない、ただ最後に信じられるのは自分だけだって思ってるだけだ」
「信じられるのは自分だけ、ですか」
「俺は神頼みって言葉が嫌いなだけだ。アンタのことはそこそこ気に入ってるぜ」
「それはありがとうございます」
「けど、この手札についてはちょっと戯れが過ぎるんじゃないか?」
「それについては神のみぞ知るってね」
「つまり、アンタの仕業ってことだろ?」
「さぁ?」
ツクヨミは口元をニヤッとさせるとダイヤの列を埋めていく。
「意外といえば、アンタもこういうのに乗ってくれるんだな」
「神様だからって、いつでも威厳張ってるわけじゃないんですよ」
「それもそうだな。……結局、神様も人間も一緒ということか」
「そうですね。貴方から見れば、私たち神様なんて、ただ威張っているだけの奴ですよ」
「そこまで入っていないが、言われてみればそんなもんか」
「人や獣が神になるなんてこともありますし、神様もそこまで偉くないってことです」
「随分と謙虚なんだな、月の神様ってのは」
「私が変わり者ってだけですよ」
ツクヨミはそう語るとハートの列を埋めていく。
「まぁ、変わり者と言えば貴方も違いはありませんが」
「どういう意味だよ」
「永琳の興味を引き、依姫と喧嘩し、豊姫と仲良くなり、輝夜に懐かれ、力とは友となった。
こんな短い時間の中でこれほどの人たちと絆を結ぶなんて、凄い事だと私は思いますよ?」
「大げさだな。半分は偶然知り合ったようなものも多いだろ」
「それでもですよ。人の出会いは一期一会、その一会で貴方は絆を深めたんです」
「そこまで言わるような大事なことなのか?」
「いずれ解りますよ。出会いによって紡いだ絆の大切さがね」
ツクヨミはそう言ってスペードのQを置いた。
「しかし、出会いがあれば別れがある。よく在る言葉だ」
「そうですね」
「もうすぐなんだろ。月への移住っていうのも」
「知っていましたか」
「永琳の部屋でロケットの設計図を見たんだよ。相変わらず散らかしやがって」
「変わらないですね。……ならば、この際聴きておきたいことがあります」
「その質問、俺の答えは『NO』だ」
俺はスペードのKを置くとツクヨミにそう告げた。
「どうせ、一緒に月に行くかって言うんだろ?」
「その通りです。それが解ったうえで、さっきの答えですか」
「悪いな」
「そうですか。みなさん、悲しみますよ?」
「その時は、今度会った時に謝るさ。どうせ寿命もないんだから」
「貴方は?」
「俺は……どうしよう」
一応この地上に残るという選択はしたけど、よくよく考えたら俺ってただの人間だよな。
能力が使えると言っても限度はあるだろうし、何より人間が再び地球に誕生するまで何億年は掛かるよな。そうなるとどうやってやり過ごせばいいのだろう?
「……まぁ、その時はその時で考えるか」
「行き当たりばったりな考え方ですね」
「それが俺だよ。一々考えながら動くより、直感で動くタイプだからな」
「言われてみれば、その通りですね。だから考えが読めない、そんな人間です」
「よく解ってるな。そういうわけだから、これが俺の覚悟だ」
「その覚悟、確かに聞き届けましたよ」
ツクヨミはスペードの2を置いた。同じタイミングで俺はスペードのAを置いた。
「これで遊びは終いだな」
「ええ。楽しかったですよ。今度は何をします?」
「悪いな。今日はここまでにしておくよ」
「珍しいですね。何か用事でも?」
「下見だよ。今度月美と出掛けるから、その確認にな」
「デートですか」
「本人に言ったらただの外出ですって言われたけどな」
「あの子も素直じゃないですね」
「まったくだ」
俺は席を立つと、ツクヨミに背を向けて歩き出した。
「彼女の事、最期まで頼みますよ」
「そんなこと、アンタに言われなくても解ってる」
「……彼女との思い出を、大切に」
ツクヨミのその言葉は、なんだか励ましているようにも聞こえた。
部屋を出て行こうと扉に手をかけたとき、俺は振り返った。
「そうだ。俺が月に行かない理由、話しておくぜ」
「なんでしょう?」
「月に行ったら月見ができねえんだよ、そのくらい察しろ」
「それだけですか?」
「そうだよ。悪いか?」
「いいえ。貴方らしい理由ですね」
「だろ」
俺はツクヨミにそう伝え、部屋を出ていった。
「さて、来週の準備でもしながら楽しみを待つか」
空亡「七並べ、あれって美味い人はすごい上手いですよね」
優夜「呆れるほどの小並感だな。俺もそうは思うけど」
空亡「ちなみにこれ、仮面ライダー剣を意識しました」
優夜「……ああ、そういえば最後に残ったのはスペードのAとKか」
空亡「特に意味はないですが、こういうお遊び要素も楽しいと思いませんか?」
優夜「完全に個人の趣味だな。どんだけ仮面ライダー好きなんだよ」
空亡「二十歳前でも一人で映画に行くほどには」
優夜「そうだったな。そして今回の話と全く関係ない」
空亡「そうですね。でも、特に語ることなんてないでしょう?」
優夜「う~ん。反論できない」
空亡「というわけで、次回はお休みですからね」
優夜「どういうわけだよ。じゃあ誰がこの俺の代わりを」
空亡「それでは、次回をお楽しみに」
次回予告
これは私の想いを描いた一人語り、彼にも言えない私の独白。
東方幻想物語・月之刃編、『夢燈月美の独白』、どうぞお楽しみに。