―――神無優夜、???にて
奇妙な夢を見ていたような気がする。
寂れた劇場でアイナと名乗る女性と出会い、自分の記憶を取り戻すために旅をすることになった。
改めて思い返してみると、なんとも突拍子もない話だ。俺はディ○イドじゃねえぞ。
しかし、現に俺は彼女から受け取ったカメラとカードホルダーを持っている。
あれが単なる夢ではないのなら、どうやら俺は本当に旅をしなくてはならないらしい。
我ながら、何の保証も根拠もなく安請け合いしてしまった。まぁ、今更後悔しても遅いだろう。
「……あゝ、もう遅いんだよな。色々と」
俺はそう言いながら、頭上に広がる“大地”を見上げた。
どういう状況なのか簡単に説明するならば、雲一つない青空の中、俺はパラシュートなしの状態でスカイダイビングしている。しかも逆さまで。
前にキ○グダム○ーツで似たような場面を見たことある気がするが、実際に体験すると怖いな。
まぁ、あれやこれやと考えていても埒は開かない。
不幸中の幸いか、俺の落下予想地点は大きな湖になっている。このままいけば、地面に激突することはなさそうだ。
………あれ? でもこういう場合って、むしろ水面の方が危なかったような気がする。
「ざんねん おれのものがたりは ここでおわってしまった」
俺は苦笑いを浮かべながら、もうすぐ来るはずの痛みに備えた。
しばらくして、俺はなす術なく水面に激突した。死ぬほど痛かったが、それだけだった。
水底にまで一気に沈んだ俺だったが、そんなことよりも骨一本すら折れていない自分の身体に驚いていた。
とにかく、俺は水面まで泳ぎ出ると、近くの岸から地上に上がった。
「なんか………前世でもこんなことしたような記憶が」
俺はさっきまで自分がいた青空を仰ぎ見ながらそう呟いた。
水も滴るいい男なのは俺でも認めるが、このままだと風邪を引いてしまいそうだ。
ずぶ濡れの服を脱ごうとしたその時、俺は自分の服装に改めて気付いた。
シンプルな黒いロングコートに真っ黒なズボン、頭の先からつま先まで真っ黒な服装だった。
なんだこの中二病を全身で表現したような服装、まあ確かに一時期そういうのに憧れて衣装を造ったけど、というかこれ俺が昔手作りした衣装だ!!
「なんでまた……」
色々な疑問が残るが、とりあえずコートだけでも脱いで乾かしておくことにした。
しかし、乾くまで暇だ。そういえばカメラを貰っていたし、せっかくだから周りの景色でも撮ってみよう。原作通りにならないことに期待だな。
少 年 祈 祷 中
肝心な事を忘れていた。
このカメラは二眼レフ、フィルムを現像しない限り自分の撮った写真を見ることはできない。
こんな単純な事に気付いた頃には、もうすでに太陽は西に沈み、空を茜色に染めていた。
まぁ、結果的に時間は潰せたことだし、とにかく今はこの森を抜けることから考えよう。
ここに落ちる時、森の外に大きな街があるのは見えた。まずはそこを目指すとしよう。
俺は乾かしたコートを羽織ると、自分が落ちた湖を一瞥してその場を去った。
その時の俺は気付いていなかった。背後から迫る、その存在に……………。
少 年 祈 祷 中
「さぁ~♪ 夜を超えて~、闇を駆け抜けて~、月と~私だけの空~♪」
俺はお気に入りの歌を口ずさみながら暗い森の中を歩いていた。
まだ夕方だというのに、森の中にはわずかな木漏れ日の光しか射していない。
夕方でこの暗さだとしたら、夜になれば一寸先も見えないほどの闇が俺の視界を覆うだろう。
「……嫌だな」
俺は怖いものから逃げるように、その足を急いだ。
自分のことをあまり覚えていない(オタク知識だけはなぜか健在)のに、夜の暗闇が恐ろしいということは憶えていた。
そのことに焦っていたのか、それとも急に足並みを速めた所為か、俺は地面から這い出た木の根に気付かなかった。
「うおっ!」
案の定、俺はそれに躓いて前のめりに倒れた。
その瞬間だった。風を斬る音共に、俺の頭上を黒い刃物のような何かが横切った。横に生えていた一本の木がその“何か”によって音を立てて地面に落ちた。
位置からしてそれはさっきまで俺の首があった場所。そう思うと、俺は背中に嫌な汗をかいた。
俺は立ち上がり、俺の背後へと視線を向けた。
そこには、不自然なまでに暗闇が広がっていた。一切の木漏れ日の光もなく、ただ純粋に真っ暗な闇がそこにあった。
その闇の向こうに、俺は一人の少女の姿を見た。
金髪のロング、白い長袖のシャツに黒い上着と黒いロングスカート、頭には闇色のリボンが付けられている。それは俺がよく知る人物の姿だと気付くのに、一瞬もいらなかった。
彼女は俺を見ると、自分の姿を隅から隅まで見ながら言った。
「へぇ~アンタには私がこう見えるのね」
「……どういう意味だ?」
「私にはそもそも姿なんてない常闇の妖怪。その人間が闇の奥に見た物によって姿が変わるのよ」
「そういえば、そんな話を聴いたことあるな」
「そういうこと。今まではセンスのない姿だったけど、これは結構気に入ったわ」
「それは良かった。それじゃあ俺はこの辺で」
俺はにこやかな笑顔を浮かべて踵を返す。
すると、俺の真横を黒い弾が通り過ぎ、その先にあった木に直撃した。
「まさかこのまま帰すと思って?」
「そう思っていたのだけど、やっぱり駄目?」
「ダ~メ♪ せっかく新しい姿を手に入れたのですもの、お礼に骨の髄まで食べてあげるわ」
「やれやれ。普通の人間にとって、カニバリズムは理解に苦しむな」
俺はため息を吐くと、彼女の方へと振り返る。
彼女の瞳は、まさに獲物に襲い掛かろうとする獣そのものだった。
もはや彼女には、俺はただの喋る食材としか認識されていないのだろう。
「いいぜ。ただし、俺だって黙って食われるほど物分かりは良くないんでな」
「その方が良いわ。少しは運動しないと、二人も食べきれないもの」
「言ってくれるな。まぁ、すぐにでもその自信を打ち砕いてやるよ」
「言ってくれるわね。ならその自信、ズタズタに引き裂いてあげる」
俺と彼女は互いに睨み合い、口元をニヤッとさせる。
そして、太陽は完全に沈み、夜の戸張が降りてくる。
「さぁ、遊ぼうか。常闇の人食い妖怪さん」
「さぁ、遊びましょう。食べられる人間さん」
優夜「なんだか俺、最初からとんでもないことになってないか?」
空亡「最初の印象って大事じゃないですか?」
優夜「答えになってないぞ」
空亡「まぁ、要するにゲームでよくある『最初っからボス戦』ですよ」
優夜「その場合、主人公は最初はそれに対抗する力を持っているはずだよな?」
空亡「そうですね。その後のイベントで、結局初期レベルになりますけど」
優夜「俺の場合、その力すら持ってないんだけど?」
空亡「……………なんとかなりますよ、きっと、恐らく、メイビー」
優夜「オワタ」
次回予告
最初からクライマックスなこの状況、果たして優夜は切り抜けることができるのか?
東方幻想物語・序章、『決死』、どうぞお楽しみに。