―――神無優夜、荒れ果てた高原にて
俺はみんなと別れた後、街から遠く離れた高原に来ていた。
そこはこの世で最も穢れが多く集まる場所とされ、街の人間は誰一人として近寄ろうとはしない。
草木は生えず、生物もいないこの地を、いつしか人は『穢土の最果て』と呼んだ。
妖怪共はそこを通り、街へと進行している。食い止めることができるのなら、ここしかない。
「妖怪の軍勢ってのは聴いてたけど………よもやこれほどとは」
俺は目の前に立ちはだかる妖怪の軍勢を目の前にして苦笑した。
ざっと数えるだけでも一万以上はいるだろ。なんだよ、地平線を覆い尽すほどの魑魅魍魎の群れなんて、予想してたのと大分違うぞ。
俺の体力、二時間もつかな? 最悪、能力のごり押しで何とか食い止めるだけはしないとな。
「とりあえず―――出て来いよ、CPH」
「その呼び方、いい加減やめてくれないかな?」
背後から聞こえたその声は鬱陶しがっているが、どこか嬉しそうだった。
振り返ればそこには、この前出会ったクレイジーサイコホモ、略してCPHが立っていた。
「僕のどこがCrazy(狂っていて)で、PSYCHO-PASS(精神病質者)で、Homo(同性愛者)なんだい」
「以前会ったときのお前の行動と言葉をよく思い出しやがれ」
「………………そういえば、自己紹介をしていなかったね」
「そういうことじゃねえよ。まぁ、間違ってはいないけど」
「それじゃあ、改めて自己紹介でもしようか」
俺が振り返ると、アイツはわざとらしくお辞儀をして、こう答えた。
「『明星 美命(あけぼし みこと)』、一応“君”の失った記憶の手がかりとでも言っておこうかな」
「ご丁寧にどうも。………記憶の手がかりというより、むしろ加害者の様な気もするんだけど?」
「そうだね。君の記憶を奪ったのは僕だし、今の君にとって僕は宿敵みたいなものかな」
美命が不自然に左手を降ろすと、俺は咄嗟に横に跳んだ。
瞬間、銃声が響くと同時に俺の居た位置へと銃弾が撃ち込まれた。
アイツの左手を見ると、そこには一丁の白い拳銃が握られていた。
「デザートイーグル……良い趣味してるな」
「やっぱり憧れますよね。こういう銃は」
「そうだな。実用性皆無の装備とか心が躍るな」
「これでも、僕って漫画やアニメのロマン装備が好きなんですよ」
「お互い、違う形で出会えたなら趣味が合う友達になれそうだったのにな」
「僕は今でもそのつもりなんですけどね」
「ほざけ」
俺は刀を構えると、刃先を美命へと向ける。
美命は弾倉を込め直すと、銃口を俺へと向ける。
「では、遊びましょうか」
「本当なら妖怪共の相手をしなくちゃならないんだけどな」
「いいじゃないですが。どうせ滅びる結末ですよ」
「だったらその結末を変えてやる。誰だって笑ってエンディングを迎えたいからな」
「……やはり、貴方は変わらないですね」
美命は嬉しそうに笑うと、無慈悲にも銃弾が放たれた。
咄嗟い俺はそれを避けるが、間髪入れずに次々と銃弾が俺へと襲い掛かる。
美命を中心に走り回りながら銃弾を避けていくが、アイツの表情は見るからに楽しんでいた。
「……何が楽しいんだ?」
「愚問ですね。友達と遊んでいて楽しくないわけがないじゃないですか」
「そうかよ。ちなみに俺はちっとも楽しくないね」
「それは残念。おっと……」
会話の最中、美命の銃から銃弾が放たれなくなった。
弾切れ、俺はそれが起こることをずっと待っていた。たった一瞬でもいい、アイツに詰め寄る隙さえあればそれでいい。
俺は刀を構えると、美命へと向かって迷わず走った。今なら……!!
「……な~んて」
「――!?」
美命は悪戯な笑みを浮かべると、銃口を俺へと向けた。
俺とアイツとの距離はおよそ3m、一直線上に走る俺にはここから避ける手段がない。
ニヤリと笑みを浮かべる美命は迷いなく引き金を引いた。銃弾は俺の左肩、左脚を狙い誤らず撃ち抜いた。どちらも俺の利き腕、利き脚だ。
銃弾が身体を貫通し、そこから血が噴き出し、空気が通り抜けるような感覚、それがまとめて襲ってきた。
「……っ!?」
言葉にならない痛みに、俺はその場に前のめりにこける様に倒れた。
呼吸が乱れ、息も絶え絶えになると、意識が朦朧としてきた。
しかし、闇へと落ちようとする意識を、二発の銃声と痛みが叩き起こした。
「――!?!?!?」
「ダメダメ。君はもう少し起きていないと」
無邪気に話す美命、だがその裏腹に俺へと銃弾が撃ち込まれていた。
右肩と右脚、それぞれの痛みは俺の意識が闇へと落ちることを許さない。
痛みで叫びそうになりながらも、俺は俺を見下ろす美命を睨みつけた。
「おお。怖い怖い。まだそんな元気があるんだね。相変わらずだね」
「ふざ…けるな………この……野郎………!!」
「口も利けるとは、君の精神力とその根性にはいつも驚かされるよ」
「うるせ…ぇ………人間……嘗める…な」
両腕両脚、どちらか一方でも力を入れると弾痕に鋭い痛みが走る。
だが、それでも俺は立ち上がると、落ちた刀を拾い上げて美命へと向かって斬り払った。
しかし、斬撃は奇しくも空を斬り、俺のすぐ背後で引き金を引く音が聞こえた。
咄嗟に背後へと刀を振るうが、放たれた銃弾は刀へと命中し、刀身を粉々に破壊した。
「まだだ!!!」
俺は飛び散った刀身の刃先をつま先で思いきり蹴ると、美命の銃を弾き飛ばした。
アイツは意外そうに目を見開いたが、それがすぐに狂気の笑みへと変わった。
「最初に言いましたよね。僕って漫画やアニメのロマン装備が好きだって」
美命はそう言うと、もう一丁のデザートイーグルを取り出し、銃口を俺へと向けた。
刀身の砕けた刀を奴へと向けて投げるが、奴に届く前に銃弾によって完膚なきまでに破壊された。
もう俺に打つ手はない。それを知ったアイツはニヤリと笑う。
「The bad end for you (貴方の為に終わりを)」
引き金を引くアイツの表情は、今まで見たどの表情よりも楽しげで、狂気に満ち溢れていた。
俺はこの一瞬で死を覚悟すると同時に、こいつは勝てないと心の中で諦めてしまった。
何もかもが終わる………俺は終わりを受け入れるように、目を閉じた。
「……大丈夫。今度は死なせません」
銃声と共に聞こえたのは、聴き慣れた愛する人の声だった。
次回予告
彼女が最期に託したのは、約束。
悲しみと孤独に沈む愛した人へと向けた最愛の言葉。
それは彼女の記憶に刻み込まれた、最も優しい人の受け売りの言葉。
彼女の物語はここで終わるが、その魂は最期に愛した人へと受け継がれる。
東方幻想物語・月之刃編、『最後に託した約束』。