東方幻想物語 ~ユメモノガタリ∼   作:空亡之尊

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最後に託した約束

―――神無優夜、穢土の最果てにて

 

 

「……大丈夫。今度は死なせません」

 

 

銃声と共に聞こえたのは、聞き慣れた愛する人の声だった。

俺は目を見開くと、美命と俺の間に人影が割り込んできた。美しく長い黒髪、月下美人の刺繍が描かれた黒い着物、左側の髪には赤いリボンが結ばれている。

それが誰だと考えるまでもなく、俺はその人影が誰なのかを察した。それと同時に、俺は彼女へと手を伸ばした。

 

 

「月美っ!!!!!」

「――邪魔するな、イレギュラー!!!!!!」

 

 

放たれた銃弾は本来狙うはずの俺ではなく、俺を庇うようにに割り込んできた月美へと命中した。

しかし、銃弾は一発では終わらず、まるで美命の怒りを表すように彼女へと何発も撃ち込まれた。

鮮血を空中へと散らせながらも、彼女はその場に倒れず、俺を護るようにその場に立っていた。

 

 

「優…夜……さん」

 

 

月美は銃弾を受けながら、後ろ手を回して俺に一本の小太刀を差し出した。

茫然としていた俺は我に返ると、歯を噛み締めながら走り出した。

月美から小太刀を受け取ると、彼女は糸が切れた人形のように力なくその場に倒れた。

 

 

「頼み……ます…よ」

「あぁ」

 

 

美命を捉えると、俺は迷いなく奴へと向かってがむしゃらに走った。

絶える間もなく銃弾が俺へと放たれ、身体のあちこちへと撃ち込まれるが、それでも俺は走り続けた。この程度の痛み、月美のに比べればかすり傷だ!!!!!

最後の力を振り絞って一気に距離を詰めると、右手に持った小太刀を美命へと突きつける。

 

 

「無駄だよ」

 

 

至近距離で放たれた銃弾は俺が持っていた物を粉々に撃ち砕き、俺の右手を貫通した。

勝利を確信した奴はニヤリと笑みを浮かべるが、それは一瞬にして終わる。

 

 

「どうせ忘れているようだから言っておくけどよ」

「――!?」

「俺は左利きだ」

 

 

口元をニヤッとさせると、俺が左手に持っていた小太刀がギラリと光った。

粉々に砕け散ったのは鞘の方、それを見て美命の目が見開かれる。一瞬だけ動揺した美命は手元が狂い、狙い誤って左目を撃ち抜いた。

それでも俺は前へと突き進み、小太刀を美命の心臓へと突いた。白一色だった奴の服に、赤い血が染められていく

 

 

「届いたぜ……!!」

「そうでうね。賞賛しますよ、優夜」

「そいつはどうも。赤色もよく似合ってるぜ」

「えぇ。けれど、こうも汚れては美しくないですね」

「帰って洗濯でもするんだな。シミでも残らなければいいな」

「ご忠告どうも。では、僕はこれにて」

 

 

美命は歯軋りをして俺を蹴り飛ばすと、その場から姿を消した。

小太刀は元々から錆付いたようで、俺の手元には錆びて砕けた刀身が残っていた。

完全に殺しきるまではいかなかったが、これで一矢報えただろう。

 

 

「そうだ……月…美……!!」

 

 

俺は息も絶え絶えに立ち上がると、月美の下へと歩み寄った。

地面に横たわる彼女の身体には何十発もの弾痕があり、そこから噴き出した血が彼女の着物を赤く染めている。今も息をしていなければ、俺は彼女が生きていることに気付かなかっただろう。

俺は彼女を抱き起すと、彼女の目が薄く開かれた。

 

 

「ユウ…ヤ……さん」

「大丈夫………なんて、聴くのも野暮だよな」

「えぇ……自分でも…解りますよ」

「そうか……お前も無茶をするんだな」

「ユウヤさんには…言われたく………ないです」

「だよな。お陰で片目、見えなくなっちまった」

「それは残念……です。ユウヤさんの目、好きなのに」

「言うなよ。照れる」

「ふふ…意外……です」

 

 

なんてことのない他愛無い会話、けれど互いに血だらけの瀕死の状態。

妖怪の軍勢が迫り、互いに自分が死ぬことが解っていているが、妙に落ち着いていた。

 

 

「なぁ……月美」

「はい」

「なんで、俺を庇った」

「可笑しなことを聴きますね」

「そうか?」

「言いましたよね。惚れた奴の為に行動する、これほど命を懸ける価値があるものはない。と」

 

 

それは、俺が永琳の所で月美と再会した時に言った言葉。

命を懸けて護った彼女に対して言った、俺の心からの言葉だった。

 

 

「言ったな。まさかそれをお返しされるとは思わなかった」

「私は愛され愛することも知りませんでした。けど、それをユウヤさんが教えてくれた」

「俺が?」

「はい……っ!!」

 

 

月美が苦しげに咳をすると、その口から血が吐き出された。

しかし、それでも彼女は俺の頬へと手を伸ばすと、最後の力を振り絞って言葉を紡ぐ。

 

 

「人を愛するのに、好きという感情以外の障害なんて関係ないということ。

 その人を好きになったのなら、たとえどんな境遇や事情があっても、全部まとめて愛せること。

 そして、本気でその人を愛しているのなら、自分の命を懸けてその人を護りたいと想うこと。

 それを全部、貴方に教えてもらいました。私が愛した、神無優夜という人に」

 

 

月美は自分のお腹を押さえながらそう伝えると、息がだんだんと小さくなっていく。

やがて彼女から全身の力が抜け、伸ばした手が落ちようとするが、俺はそれを握り締めた。

 

 

「嫌だ…!! 逝かないでくれ、月美!!!

 またお前と話がしたいんだ。お前と一緒に歩きたいんだ。お前と一緒に、生きていたんだ!!!

 自分勝手なのは解ってる。でも、あの日から決めていたんだ。お前と出会ったあの日から、俺はお前を護ると決めたんだ。たとえ自分の命を犠牲にしてでも、護り通すって……!!

 それなのに、どうしてお前が先に逝こうとするんだ!!!!! なんでお前だけ伝えること全部告げて死のうとする!!!!! 俺だってお前に伝えたいことがたくさんあるのに、また俺を置いて逝くのか!!!!!

 ふざけるなよ……!! 結局俺は、何一つ護れていないじゃないか。お前も、あの街も……!!」

 

 

自分の腕の中で消えていこうとする愛する者の命に、俺の抑えつけていた感情が噴き出した。

右目からは涙が、左目からは血の雫が、止めどなく俺の頬を伝って零れ落ちていく。

 

 

「……じゃあ、最期に…約束……してください」

「約束?」

 

 

彼女は最後の力を振り絞り、言葉を紡いでいく。

 

 

「一つは、生きてください。私の為に、皆さんの為に、ユウヤさんの為に」

 

「一つは、人を護る為に妖怪の力を使うのなら、ついでに妖怪も護ってください」

 

「一つは、みんなの夢を護ってください。貴方に夢がなくても、それを護ることはできますから」

 

「一つは、運命と戦ってください。でも、最後まで諦めず、人の中で生き続けてください」

 

「一つは、自分が必要とされている時は、人を助けるために一生懸命になってください」

 

「一つは、人を愛せば弱くなりますが、それを恥じないで、それは本当の弱さじゃないから」

 

「一つは、弱かったり、運が悪くて、何も知らなくても、何もしない言い訳にしないでください」

 

「一つは、貴方として生きてください。人間とか、化物でもなく、私が愛した神無優夜として」

 

「一つは、貴方の物語を紡いでください。仲間を作り、それが絆となり、未来を変えるから」

 

 

その言葉は、俺がよく知る台詞だった。

だが、それが彼女から俺に託す最期の約束ならば、俺は喜んでそれを受け入れよう。

 

 

「約束、ですよ」

 

 

月美は弱々しく小指を立てると、俺も小指を立て、互いにゆびきりの約束を交わした。

 

 

「私…ユウヤさんに……出会えて、良かっ…た」

「俺もだ。俺も、月美に出会えて良かった」

「嬉しい…です……それでは、最期の…約束です」

 

 

月美は俺の襟首を掴むと、それを自分の下へと引き寄せた。

互いに唇が重なると、月美の身体が光に包まれていく。

 

 

「みんなの笑顔の為に………戦って、ください」

「あぁ、約束だ」

「ふふ……最期まで、優しい人」

 

 

月美の身体が足から光の粒子になって消えていく。

それでも彼女は俺を見つめ、最期の言葉を伝える。

 

 

「貴方を愛して……私たちは幸せです」

 

 

その言葉を最期に、優しく微笑んだまま月美は光となって消えた。

俺に握られていたのは、彼女がいつも髪に結んでいた紅いリボンだった。

夜空へと昇っていく光の中に、大きな光の魂が俺の下へとゆらゆらと降りてくると、俺の身体へと沈むように消えていった。それと同時に、胸のあたりで暖かな鼓動を感じた。

すると、俺の身体から痛みや弾痕が癒えていき、撃ち抜かれた左目も元に戻っていくのを感じた。

 

 

「受け継いだぞ。お前の命……」

 

 

月美のリボンを握り締め、俺は静かに涙を流した。

 

 

 

 




次回予告

愛した人を失った悲しみ

その命を無慈悲にも奪った者への怒り

彼女から託された最後の約束

そして、彼女から受け継いだ儚い命

それらすべてを背負い、彼はこの物語の終わらせるために戦う。

東方幻想物語・月之刃編、『独りぼっちの戦争』。

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