東方幻想物語 ~ユメモノガタリ∼   作:空亡之尊

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変わっていた風景

―――神無優夜、どこかの森にて

 

 

大蛇との戦いからしばらく、俺と少女は森の中を歩いていた。

この世界で最初に訪れた森とよく似ているが、あの時とはなんだか雰囲気が違って感じられた。

というより、こうやって女の子と一緒に歩いているから新鮮に感じるだけなのだろうが。

 

そんなことを考えながら歩いているが、さっきから会話がない。

世間話をするにも、何から話せばいいのかよく解らない。ここは無難に「いい天気ですね」と話しかけるべきか、いや、それだと在り来たりすぎて俺のキャラに合わない気がする。

意見まじめそうだし、下手に話題を振って嫌われたくもないんだよな。

 

 

「う~む……」

「……無理に話そうとしないでいいですよ」

「あ……そうか」

 

 

少女は少し呆れるように溜息を吐いた。

 

 

「すみません。私も人と話すのは苦手なもので」

「あぁ……確かに、なんか話しかけにくそうな雰囲気だもんな」

「それもありますが、私はあまり人に会わないようにしているもので」

「それってどういう……」

「気にしないでください。私自身、あまり詮索はされたくありません」

「解った。じゃあそれについては深くは聞かないことにする」

「ありがとうございます」

 

 

少女は軽く頭を下げる。

 

 

「ところで、アンタみたいな子がなんでまたこんな森に?」

「お参りですよ」

「お参り? こんなところに神社でもあるのか?」

「いえ。神社というより、祠ですね。御神体が祀られていると聞いていたのですが」

「ですが?」

 

 

俺が聞き返すと、少女の視線が俺に突き刺さる。

 

 

「その祠から出てきたのが、貴方だったんですよ」

「え?」

「驚きましたよ。祠の扉が飛んできて、急いで行ってみればそこには貴方がいた。

 訳の解らない道具や誰のかも解らない遺体かと思えば、まさか人間が出てくるとは」

「驚きたいのはこっちだ」

「その様子を察するに、ご自身でも憶えていないようですね」

「当たり前だ。こっちだって寝る場所くらい選ぶ」

「そういう問題じゃない気がしますが」

 

 

少女はそう言うと、懐からおにぎりを出し、俺に差し出した。

 

 

「……これは?」

「おにぎりですよ。まさか知らないとは」

「馬鹿にするな。こっちが聴きたいのは、どうして俺にってことだ」

「本来は祠にお供えするものでしたので、そこに祀られていた貴方に渡すのが常識では?」

「そういうものかな」

「そういうものです。あと、人の親切は素直に受け取っておくことです」

「わかった。ありがたく貰う」

 

 

俺は少女からおにぎりを受け取ると、一口食べた。

久しぶりに食べた米の美味さに、なんだか涙があふれ出そうになった。

 

 

「そういえば、気になっていたのですが」

「なんだ?」

「どうして、あの妖怪を殺さなかったのですか?」

 

 

少女は首をかしげながら、俺にそう尋ねた。

まぁ、普通はそういう反応をするよな。自分たちを食べようとした妖怪を見逃すなんて、普通じゃ考えられないことだからな。

 

 

「言っただろ。妖怪だって生きるのに必死なんだ。それを責めることなんてできねえよ。

 人間だって生きるために動物を食らう。人間と妖怪との関係なんてそんなものだ」

「なら、人間は大人しく妖怪に食われろと?」

「そうは言ってない。目の前で困ってる奴がいれば、俺は妖怪でも人間でも助ける。それだけだ」

「偽善ですね」

「そうでもないさ。逆に、俺の目の届かないところで何が起きようと、俺は知らないからな」

 

 

俺は絵にかいたような善人というわけじゃない。

ただ、月美との約束、大切なものを失くさないようににするために俺は戦うだけだ。

まぁ、それ以前にあの大蛇は話が分かる奴だったし、殺すには惜しかったのも理由の一つだな。

 

 

「さて、こんな話よりもっと明るい話でもしようぜ」

「呑気ですね。ここにはまだ妖怪がいるというのに」

「心配ないさ。いざという時はアンタを抱きかかえて逃げるさ」

「戦わないんですね」

「無駄に体力を使いたくないだけだ」

「怠惰な人ですね。まぁ、私もその方が助かります」

「だろうな………ん?」

 

 

俺が歩みを止めると、少女も一緒に足を止めて俺を見上げた。

 

 

「どうかしましたか?」

「なぁ……この先って、何かあったりするのか」

「この先ですか? 何もないですよ。あるのはだだっ広い草原だけです」

「そうか」

「あ、でも聞いたことがありますよ。なんでもはるか昔、そこで人間と妖怪が争ったとか」

「っ!?」

「妖怪の軍勢に立ち向かった独りの人間、その圧倒的な力で軍勢を制すると深い眠りに落ちた。

 生き残った妖怪はその雄姿を称え、森の中に祠を………………って、あれ?」

 

 

少女の話を聞き終える前に、俺は無意識に走り出した。

どうしてそこへと向かっているのか、それは俺にもわからないが、どうしても俺はそこへ行きたかった。しばらく走り続けると、森を抜けた先で俺は信じられないものを目にした。

 

草木さえ生えないと云われていたあの荒れ果てた高原が、

妖怪の軍勢を蹂躙し尽し、その亡骸と血で染めたあの地が、

なんということだろうか、地平線の彼方まで草や花で覆いつくされた草原へと変わっていた。

 

風に揺れる花を見つめていると、あまりの変わり様に感動して涙が頬を伝った。

嬉しさと同時に、もうここにはあの時の俺の思い出は何一つ残っていないということを知ったからだ。

 

 

「もう、後戻りなんてできないんだな」

 

 

過ぎ去った日々にはもう戻れない。それを改めて実感させられた。

感傷に浸っていると、後ろから声をかけられた。

 

 

「何かありましたか?」

「いや、もうここには何もない」

「そうですか。では、行きましょう」

「あぁ」

 

 

俺は最後に草原を見渡すと、少女の後を追って歩き出した。

しかし、少女は不意に立ち止まると、俺の方へと振り返った。

 

 

「そういえば、名前、聞いていませんでしたね」

「それを言うなら俺もだ」

「なら、貴方から聞かせてくれませんか?」

「いいぜ。俺は神無優夜、ただの人間だ」

「……ただの人間は祠の中に封印なんてされていないと思うのですが」

「そういうなよ。これでも肉体的や精神的にはまだまだ人間のつもりなんだから」

「そうですか。まぁ、そういうのは他人が決めるものではありませんからね」

「そういうことだ」

 

 

俺は小さく笑うと、そのお返しに彼女の名前を尋ねた。

 

 

「天宮 星羅(あまみや せいら)、しがない村娘ですよ」

 

 

彼女はそう言うと凛々しく笑った。

 

 

 

 





空亡「時が経つというのは美しいと同時に、残酷ですね」
優夜「そんな真面目な橋、この物語に似合うか?」
空亡「面白おかしくしようというのに、なぜか話題が真面目になってしまいますよね」
優夜「ほら、アンタがご贔屓にしてる古河音ちゃんみたいにはっちゃけようよ」
空亡「おい、やめろ」
優夜「冗談だよ。しかし、数億年でこうも変わるのか」
空亡「白亜紀やら氷河期を余裕で越えてますからね。生態系も変わるでしょう」
優夜「恐竜見たかったな。主にティラノザウルス」
空亡「……襲われるより返り討ちにする図が思い浮かびましたね」
優夜「やめろよ。マジで俺も想像しちまった」
空亡「この話題はやめましょう。ますます優夜の人間性が失われます」
優夜「そうだな。俺もできる限りは人間でいたいからな」


次回予告
星羅に連れてこられたのは長閑な村、そんな場所でまさかの再会が。
東方幻想物語・星之煌編、『思わぬ奴との再会』、どうぞお楽しみに。
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