―――神無優夜、神社の居間にて
星羅に案内されて、俺は居間に通された。
そこについたときにはルーミアが寝転びながら団子を頬張っていた。あまりにもシュールなその光景に、俺は思わず失笑してしまった。当然、彼女には怒られた。
星羅がみんなの分のお茶を淹れてくるまで、俺は縁側から青空を眺めながら待つことにした。
「あゝ、良い天気だな」
「年寄り臭いわね」
「よく言われる」
陽気な日差しを浴びながら、俺はそう答えた。
刺激的な日常を送っていたせいでもあるのか、こういうのんびりとした時間は何となく気が緩んでしまう。まぁ、俺の趣味は昼寝と月見だからな。そこらの年寄りより枯れているだろう。
「なぁ、ルーミア」
「なに?」
「なんで俺を食わなかったんだ?」
「喰われたかったの?」
「いや、たださ……」
俺はルーミアに問いかけるが、その先の言葉が出てこなかった。
「アンタが言ったのよ。生きたいって」
「そうだっけ?」
「そうよ。生きて、あの娘が見れなかった景色を、その心に刻みたいって」
「言ってたな。というより、よく憶えてたな」
「憶えてるわよ。アンタと出会った記憶は、忘れたくても忘れられないわ」
ルーミアはそう言うと、俺の隣へと座った。
「私を退けさせた、ただの一人の人間。アンタの事を忘れた日なんて一度もなかったわ」
「それは光栄だな」
「でも、アンタがあの戦いの後で眠っていた時、不安だったわ」
「不安?」
「アンタが二度と目覚めないんじゃないか、ってね」
そう語るルーミアの表情は、決して冗談を言っているようなものじゃなかった。
「でも、それも杞憂だったみたいね」
「そうだな。ご丁寧に祠なんて造りやがって」
「自信の出来だったのよ?」
「だったら、もう少し人がいるところに建ててくれ」
「仕方ないでしょ。あの時は人間どころか妖怪もいなかったのに」
「……それもそうだな」
忘れかけていた常識を指摘され、言葉が詰まった。
思えば、半不老不死なら恐竜とかも見れたかもしれないんだよな。惜しい事をしたぜ。
「にしても、まさかここに来るとは思わなかったわ」
「俺が来ることは知っていたみたいな感じだったのにか?」
「私の影に見張りをさせていたから、アンタが起きたことはすぐにでもわかったわ。
すぐにでも迎えに行こうとしたけど、この村に向かっていたみたいだから待っていたのよ」
「星羅に出会えていなかったら、またお前と出会うことになっていたというわけか」
「残念だったわね」
「微塵も思ってねえよ」
俺はルーミアの頭をチョップで叩くと、彼女は痛そうに頭を押さえた。
「痛いわね」
「手加減しただけまだマシだと思え」
「まったく、女性の扱いがなってないわね」
「お前に気を使いたくない」
「酷いわね。ここの人たちはもう少し友好的だったわよ」
「はいはい」
ルーミアの言葉を適当に聞き流すが、気になることがあった。
「よくここの人間はお前を受け入れたな」
「やっぱり気になるわよね」
「当たり前だ。街でのお前の評判、相当ひどかったからな」
「あの時はやることがなかったから。適当に暴れたらいつの間にか噂されていただけよ」
「でも、人間の妖怪に対する恐れはいまだ健在だろ?」
「そうね。ここの村も、私が来る前はよく妖怪どもに荒らされていたらしいわ」
「どの時代でも変わらないもんだな」
「ええ。だからこそ、放っておけなかったのよね」
ルーミアは昔を懐かしむように語りだした。
「この村に流れ着いたのは今から数年前、あの時の私は死にかけだったわ」
「お前が?」
「何億年も独りで彷徨って、心身ともに疲弊して、空腹で力も出せなかった。
もう死ぬんだと思ったわ。でも、ここの村の人たちは私を助けてくれた」
「お前が妖怪だと知ってもか?」
「ええ。あの人たちは私に食べ物を与えてくれた。人に恐れられる妖怪が、堕ちたものだったわ。
でも、私はその優しさがとても嬉しかった。今でも、その気持ちは忘れていないわ。本当よ」
「そうか。人間も、一枚岩ってわけじゃないってことだ」
「そうね。それから、私はその恩を返すためにこの村を住み着くことにしたわ。
元々、ここにはよく妖怪が荒らしに来るようだったし、それらから護る為に私はここに残った」
語り終えた彼女は澄み渡る青空を見上げた。
「でも解らないわ。なんで、ここの人たちは私を受け入れたのか。
妖怪に家族を殺された人もいたというのに、どうして私を助けたのかしら?」
「さあな。俺はその当人じゃないんだ、知る由もないだろ」
「その通りだけど、もう少し言うことがあるでしょ?」
「生憎と、俺は憶測で良い台詞なんて言いたくないんだ。無駄に期待なんてするな」
俺はルーミアにそう言うと、青空を見上げた。
「ただ、お前にもちゃんと心はあるんだな」
「何よその言い方は、失礼ね」
「ごめん」
「でも、そうね。私にも妖怪としての本能以外のものがあったのね」
ルーミアは小さく笑った。
「人間よりも人間らしい妖怪かもな、お前は」
「アンタは逆に、人間かどうか疑いたくなるわね」
「何を言う。俺のどこが人間らしくないんだよ?」
「たった一人で妖怪の軍勢に勝つ奴が、ただの人間だと思う?」
「それを言われると……」
「話が弾んでいるようですね」
その声に反応して俺とルーミアが振り返ると、そこには三人分のお茶を淹れた星羅が立っていた。
「そうだ、星羅はユウヤの事をどう思ってるの?」
「私がですか?」
「そうそう。この人の戦いぶり、見ていたんでしょ?」
「おい、それだと答えが明らかに絞られるだろ」
「仕方ないわよ。だってあれ、私から見ても異能すぎるわよ」
「それもそうだが」
「私は……」
星羅は少し考えると、こう言った。
「面白い人だとは思いました」
「あら。私としては面白くない答えね」
「すみません。でも、そういうルーミアさんも同じ考えでは?」
「言ってくれるわね。まぁ、ここは否定しないでおくわ」
二人は互いに見つめると楽し気に笑い合った。
「俺から見れば、お前らも十分面白い奴だとは思うけどな」
「「アンタには言われたくないわ/貴方には言われたくありません」」
「仲良いな、おい」
空亡「この物語に出てくる妖怪って、なんだか人間らしいんですよね」
優夜「そうだな。そこら辺にいる人間より、人間らしいから困るぜ」
空亡「その中でも、ルーミアさんは人間に一番近い妖怪なんですよね」
優夜「妖怪の中でも最恐クラスが一番人間らしいか、なんだか皮肉みたいだな」
空亡「そんな事はありませんよ。まあ、今の世の中は人間が一番恐ろしいですがね」
優夜「そういう真面目な話、この茶番に持ち込むなよ」
空亡「そうでした。ではここでどうでもいい話を一つ」
優夜「なんだよ?」
空亡「優夜のイメージソング的なのを考えてたら丁度良いものがありましてね」
優夜「ああ、前にもらったあれか。俺らのイメージソング的なの」
空亡「こっちも本気で考えてみたら、『インフィニティ』という曲がありましてね。
一度聞いてみたら、なんだか優夜にピッタリなんですよね。いや本当マジで」
優夜「……もしかしてこれで終わりか?」
空亡「言ったでしょう。どうでもいい話を一つ、ってね」
優夜「もうあとがきじゃなくてお前の近状報告だろ」
次回予告
神社に仕える星羅、しかし彼女は神を信仰しない、それは語れぬ過去の話。
東方幻想物語・星之煌編、『見捨てられた過去』、どうぞお楽しみに。