―――神無優夜、村外れの森にて
この村に来てしばらく経つが、俺は最近になってあることに気付いた。
俺には東方の全キャラの能力が使えるが、それ以外はてんでダメだということだ。
一応、剣術は依姫と互角に戦えるほどには鍛えているのだが、この前戦った大蛇と戦っている時に腕が鈍っていることに気が付いた。
しかし、今まで天野や依姫のような良い練習相手がいたからいいものを、ここには剣術を学べそうなやつがいない。ルーミアはいるが、彼女だと本気で殺し合いになるから却下だ。
そんなわけで、しばらくは能力を封印して剣術一筋で妖怪退治をしている。
元から我流でやっていたり、漫画の引用だったりと型にはまっていない戦い方だが、これなら余計な体力を消耗せずに戦えるから楽だ。
そしてもう一つ、気付いたことがある。
それはこの刀、『月美』の特性とも言うべきか、これで攻撃すると相手に外傷を負わせることなく殺すことができるのだ。まるでアニメや漫画のように、斬った部分からは血は出ずに痛みだけを相手に与える。ある意味では、『最も優しい刀』だと思った。
「まぁ、そんな感じだから、選ばせてやるよ」
俺はそう言って『月美』の刃先を目の前の妖怪に向ける。
ここ最近村の人間に襲い掛かるという妖怪、それを退治するのが今日の依頼だった。
運良く目的の妖怪を見つけ、傷一つ負わずに瀕死まで追い詰めることができた。
「このまま殺される死への道か、二度とこの村に近づかずに生きる道、どちらかを選びな」
「タ……助ケテ………!!」
「答えろ」
「ワ、分ッタ!! モウコノ村ノ人間ハ襲ワナイ、ダカラ」
「良い答えだ」
俺はそう言って妖怪に背を向けると、村へ戻るために歩き出した。
しかし、残念なことに後ろから殺気を感じてしまった。俺が後ろを見せたことで油断したと思ったのか、その妖怪は俺に向かって飛び掛かってきた。
「死ネェェェェ!!!!!」
「いいや、死ぬのはお前だよ」
妖怪の攻撃を避けると、『月美』を構えて奴の心臓部へと向かって勢いよく刺突した。
妖怪は驚きで目を見開くと、血が一滴も出ていない自分の胸を見つめ、次に俺を恨めしそうに睨んだまま動かなくなった。
『月美』を引き抜くと、元の紅いリボンへと戻して俺の腕へと巻いた。
「たった一つの命、無駄にしやがって」
「妖怪にも自分の誇りがあるんだよ」
声のした方に視線を向けると、そこにはあの祠の前で出遭った大蛇が這い寄ってきていた。
「元気にしてるみたいだな」
「おかげさまで、二度ほど死にかけたけどな」
「生きてるなら問題ねえだろ」
「そうだな」
大蛇はそういうと、その場でとぐろを巻いて俺を見つめる。
「しかし、お前の事もこの辺りじゃ随分と有名になったもんだな」
「そうなのか?」
「ああ。妖怪に選択し与え、改心する者には救いを、それでも襲う者には死をってね」
「間違ってはいないな」
俺はそう言って近くの岩に腰掛ける。
「お前はどうして、妖怪にさえ救いの手を差し伸べる?」
「深い理由はない。人間も妖怪も、どっちも同じように扱っているだけだ」
「同じ、か。ならば、人間が妖怪を殺したらどうする?」
「同じだ。事情を聴いて、判断して、それで人間の方が悪なら、俺は斬る」
「ははっ……それではまるで、死神だな」
「どっちつかずなだけのただの人間だ」
俺はそう答えると、大蛇は面白かったのか笑っている。
「何かおかしいか?」
「いや、ただお前の事を人間と呼ぶには無理があると思ってな」
「うるさい。それより、俺に何の用だ?」
「用ということはないが、ひとつ面白い話でもと思ってな」
「話?」
俺が聞き返すと、大蛇は語りだした。
―――???、とある物語
今から数年前、諏訪の国に『星の巫女』と呼ばれる少女がいました。
彼女は神社の祭神に拾われ、我が子同然に育てられ、やがて立派な巫女へと成長しました。
彼女には妖怪を倒せるだけの力はありませんでしたが、誰にでも優しく、一生懸命に神職に努めるそんな彼女を人々は褒め称えていました。
しかし、神社にもう一人の巫女がやってきました。
彼女は遠くで巫女としての修業を積み、戻ってきたのでした。
彼女は積み重ねた力で妖怪を倒し、さらに身に付けた奇跡を起こす力で人々を救いました。いつしか彼女は『奇跡の巫女』と呼ばれるようになりました。
星の巫女は奇跡の巫女の事を姉のように慕っていましたが、次第に認識されていくお互いの差に、星の巫女は思い詰めるようになりました。
何もできない自分よりも、強くて優れた巫女の事を人々は頼るようになった。そのうえ、人々は彼女の事を蔑みの目で見るようになったのです。
落ちこぼれ……期待外れ……代用……巫女の代わり………そんな言葉を投げかけられました。
彼女の心は崩れそうになりながらも、自分が信仰する神の為だと必死に働きました。
そんなある日、国を強力な妖怪が襲いました。
奇跡の巫女は必至に戦い、妖怪を退けることはできました。
しかし、深手を負った妖怪は人間を連れ去ろうと国の人々に襲い掛かりました。
そこへと、星の巫女が現れて人々をかばい、代わりに妖怪へと連れ去られてしまいました。
星の巫女は、遠ざかる国を見つめながら助けに来てくれることを信じました。
だが、いくら時間が経とうと、誰一人として彼女を助けに来る者はいませんでした。
信じた神にも願いは届かず、助けた人々にも見捨てられ、ついに彼女の心は壊れてしまいました。
それから、彼女がどうなったのかはその妖怪しか知りませんでしたとさ。
めでたしめでたし
―――神無優夜、村外れの森にて
大蛇の話を聴き終え、俺は言葉を失っていた。
それは一人の少女の半生を短く綴ったあまりにも悲しい物語、自分の信じてきたものに裏切られ、心を壊された少女の、報われない物語。
「人間というのは愚かな生き物だよ。自分たちのために頑張ってきたものを、こうも簡単に見捨てるのだからな。この巫女も心の中ではこいつらの事を憎んでいたんじゃないのか、そう思ってる」
大蛇はそう言うとその場を去ろうと地面を張っていく。
「待てよ。どうして俺にこの話をした」
「ただの気紛れだ。以前喰おうとした小娘と、その巫女の印象がよく似ていたもんだからな」
「そうか。貴重な話、ありがとうな」
「別にいいさ。俺は頭に血が上りやすいが、戦いはあまり好きじゃないからな」
「なら、今度はゆっくり世間話でもしようぜ。えっと……」
「浅蔵(あさくら)だ。名を呼びたければそう呼べ」
「浅蔵か……解った。じゃあな、浅蔵」
「ああ。また会う時があれば、今度は敵ではないことを願う」
大蛇、浅蔵はそう言い残してその場を去っていった。
アイツが話してくれた巫女の話、もしもあれが本当ならば星羅は………。
「……帰るか」
吐き気を催すような後味の悪さを感じながら、俺は村へと戻っていった。
人間は時としてどんなバケモノよりも残酷になります。
次回予告
平和な日常、それは歴史の出来事の前にはいとも容易く崩れ去る。
東方幻想物語・星之煌編、『諏訪と大和の境』、どうぞお楽しみに。