東方幻想物語 ~ユメモノガタリ∼   作:空亡之尊

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立ち向かう覚悟

―――神無優夜、神社の居間にて

 

 

奇妙な出会いから少し経ち、俺たちは神社の居間でちゃぶ台を囲んで座っていた。

縁側を背して、俺は考え込むように腕を組んでちゃぶ台の上に置かれたそれを見つめる。

俺から見て左側にには星羅が座り、こっちは訝し気な表情でそれを睨んでいる。

反対に右側にはルーミアが座り、こちらは興味なさげに天井を仰ぎ見ている。

俺の正面には使者である武蔵が座り、真剣な面持ちでこの場の空気に必死に耐えているようだ。

 

ちゃぶ台の上に置かれているのは大和の国、八坂の軍神から洩矢の祟り神へと向けた文書。

内容は簡潔すると、『無駄な抵抗はやめて大人しく国を明け渡せ。さもなくば全力で潰す』というものだ。要は無条件降伏を訴えているというわけだ。

 

八坂の軍神こと八坂神奈子、『東方風神録』で6ボスを務めていた神の一柱。原作では気さくな神様としての印象が強く、革命好きなことがあって東方の異変の原因となっていたりするはた迷惑な面を持っていたりする。

 

洩矢の祟り神こと洩矢諏訪子、こちらも同じ作品でEXボスをしていた神の一柱。原作では神奈子と同じく陽気な神として扱われ、幼い容姿とは裏腹に神様としての威厳を持ち合わせており、時々腹黒い発言をすることもある。

 

そんな二人の馴れ初めとでも言うべきか、それが諏訪大戦だ。

日本全土を統治しようとする大和の国、それに対して抗う諏訪の国。双方の対立によって起こったのが後に諏訪大戦と呼ばれる戦いだった。

ネタバレするとこの戦いは大和の国の圧勝で終わり、諏訪の国は大人しく国を明け渡した。

 

この場でただ一人、その事実を知っている身としては、この場の空気はとてつもなく苦しい。

 

 

「しかし、やっぱりこうなりますか」

 

 

その言葉を発したのは、星羅だった。

彼女は深い溜息を吐くと、呆れるように語りだした。

 

 

「大和の国の噂は聞いていましたし、その最後の標的が諏訪だというのも知っていました」

「失礼だが、貴女は?」

「私はこの神社の巫女ですよ。といっても、私にはここの神を信仰するつもりはないですけど」

「そういえばここは、洩矢の分社であったな」

 

 

そう言って武蔵は見渡すように視線を巡らせた。

 

 

「別に私には誰が何処で戦争をしようと口出しするつもりはありません。

 ですが、そんなことで私を、いやこの村を巻き込みたくない。それだけは理解してください」

 

 

そう言い放つ星羅は武蔵の事を睨みつけた。

たしかに、この村はどこには属してはいないとはいえ、いわば諏訪の国の領地と同じようなもの。だが、この村には大きな力などない。それが原因で諏訪と大和の争いに巻き込まれでもしたら、ひとたまりもないだろう。

だからこそ巻き込みたくない。争いや信仰に関係ない人を、傷付けない為に。

 

 

「……私からも同じ意見よ」

「ルーミア……」

「この村は、ただ自分たちが安全に暮らせれば誰が国を治めようと関係ないのよ。

 それなのに、アンタたちの勝手な都合で争って、それに巻き込まれて死んだら傍迷惑よね?」

「そうだな。貴女たちの言い分はよく解る。それに無関係な人間を巻き込むのは我々も避けたい」

「ここにいる全員の意見は一致しているというわけか」

 

 

俺がそういうと、ふと誰かさんの腹の音が今に響いた。

全員の視線が一人のへと向けられると、その人物は恥ずかしげもなく言った。

 

 

「そういえば、まだ昼食を食べてなかったわね」

「もうそんな時間か」

「難しい話をしているとお腹が空きますからね」

「武蔵もどうだ? ついでだし」

「いいのか?」

「構いませんよ。それに、長旅で疲れているようですから泊まっていかれては?」

「いや、しかし」

「どうせ今すぐ戦争ってわけでもないんだ。一日くらいはゆっくりしていけよ」

「……では、お言葉に甘えさせてもらう」

 

 

嬉しそうに笑う武蔵、それを見ながらちゃぶ台に置かれた文書を一瞥する。

その時、星羅と目が合ってしまったが、彼女はすぐに目を逸らして今から出て行った。

 

 

「……さて、今日は張り切りますか」

「アンタの料理、悔しいけど美味しいのよね」

「一言余計だ」

 

 

ルーミアの頭を軽く叩き、俺も居間を出て行った。

 

 

 

             少 年 少 女 祈 祷 中

 

 

 

時間は経ち、空には夜の帳が降りている。

俺はそんな夜空を眺めながら、風に裏返りそうになるコートを握り締めていた。

 

 

「さて、行きますか」

「どこへですか?」

 

 

振り返ると、そこには星羅が呆れたような表情で俺を見ていた。

 

 

「星羅……」

「諏訪へ行く気なんですね。ユウヤさん」

「そうだな。アンタに隠しても、意味はないだろうな」

「素直ですね」

「俺は女性には嘘を吐かない性格なんだよ」

「だから、武蔵さんには嘘を吐いたというわけですか」

「ご名答」

 

 

俺はそう言って懐から大和からの文書を取り出す。

実は、武蔵には度数の高い酒を飲ませて今はぐっすり眠ってもらっている。その隙に文書もいただいてきたのだが、どうやら彼女には昼の時点から俺の思惑は気が付いていたようだ。

 

 

「どうするつもりなんですか?」

「諏訪への観光と、ついでに少しのお節介をね」

「お節介、ですか」

 

 

星羅はゆっくりとした足取りで俺に歩み寄ってくると、俺を見上げた。

 

 

「もしかして、諏訪側へと手を貸すつもりなんですか?」

「戦うつもりならな。まぁ、手を貸すといっても俺には出来る事も少ないと思うけどな」

「どうしてですか……この戦いは貴方には関係のないはず」

「確かに、昼間言ってたようにこの戦いは俺には関係のない話だ。

 それに、戦わなくてもどちらが勝ち、どちらが負けるかなんて火を見るよりも明らかだ」

「だったら、どうして諏訪側に手を貸そうと?」

 

 

そう尋ねる彼女の目には、怒りや憎しみの色が見えた。

 

 

「ある妖怪から聴いたが、諏訪の国には二人の巫女がいたみたいだな」

「――ッ!?」

 

 

俺の言葉を聴いて、星羅は目を見開いた。

 

 

「一人は妖怪退治もでき、奇跡を起こせる『優れた巫女』として人々に褒め称えられ。

 もう一人は非力で特筆するような才能もない『劣れた巫女』として人々に蔑まれた。

『劣れた巫女』は無能ながらも必死に神の為、人の為にと日夜努めてきました。

 けれど、その苦労は誰にも認められず、見捨てられるような形で『彼女』は国から姿を消した」

 

 

浅蔵から聴いた物語を話し終えると、星羅は俺の事を睨んでいた。

それは怒りと悲しみ、二つの感情が行き場を求めているように、俺に向けられている。

 

 

「そんなに憎いのか?」

「………決まっているじゃないですか。自分を捨てた人たちですよ?」

「そうか? 俺には、元の場所に帰りたいと涙ながらに願う子供にしか見えないけどな」

「ふざけないでください」

 

 

静かに、しかし明らかに殺気を孕んだ声が夜の境内に響いた。

 

 

「知ったような口を利かないでください。貴女に私の何が解るんですか」

「解らねえよ。だから、俺は見たままの感想を言ったまでだ」

「それでさっきの答えですか? だったら尚更たちが悪いですね」

「でも、あながち間違いでもなさそうだよな?」

「何を勝手な……!!」

 

 

否定しようとする星羅を見て、俺はあることに気付いてしまった。

 

 

「……怖いのか」

「――!?」

「今更元の場所に帰ったところで、待っている者はいない。神にすら見捨てられた身だ。

 帰ってもいるのは優れた巫女、それと見比べてお前を蔑む人々の視線。それが怖いんだな」

「違う……私は………!!」

「だからこそ、お前はこの場所から出られない。再びあの日々に戻りたくないからだ。

 はっきりと言ってやる。お前は逃げてるんだよ、弱い自分から目を逸らすようにな」

「うるさい!!!!!」

 

 

俺の言葉をかき消すように、星羅のあらん限りの叫びが夜の静寂を打ち破った。

 

 

「私だって……私だって必死にやってきたんです!!!

 妖怪と戦えなくても逃げる方法を探したり、非力なりにできる仕事を一生懸命果たしました。

 無能だと自分で理解していたからこそ、それを補うために努力をしてきたというのに………!!!」

 

 

星羅の目に、涙が浮かんでくる。

 

 

「私は叶恵には遠く及ばず、あの子が活躍するたびに私の存在は煩わしくなるだけだった。

 そんな時、妖怪から人を護って、代わりに連れ去られたあの時、ようやく気が付いたんですよ。

 私はあの子の代わりだった………あの子を引き立たせるだけの、形だけの代用品だったと。

 その証拠に私は見捨てられ、無様にも生き残ってしまいました。でも、帰る場所は、もう……」

 

 

星羅は顔を俯かせると、地面に涙が落ちていく。

それは彼女は今まで溜めていた苦しみ、それが涙となって彼女から流れ出ているようだった。

 

 

「恐怖からは決して逃げられない、人間が必ずぶち当たる試練の一つだ」

「ユウヤ……さん?」

「恐怖を目の前にして逃げる者は、一生それに怯えて人生を終えることしかできない。

 けれど、それに立ち向かい、恐怖を克服してこそ、その先に真の幸福があるはずだ」

「真の、幸福……」

「と言っても、どこかの人の言葉を借りてるだけだけどな。でも、良い言葉だろ」

「そう、ですね」

 

 

星羅は顔を上げると涙を拭い、俺を見つめた。

 

 

「ユウヤさん」

「ん?」

「私も、行きます」

「いいのか?」

「はい。ユウヤさんのお陰で、少しだけ振り切れました。それに」

「それに?」

 

 

星羅は小さく笑うと、俺の横を通り過ぎてくるりと振り返る。

 

 

「私の行き先は、私自身が決めます。周りを気にするのも、この夜明けで最後です」

「そうか」

「忌まわしい記憶には、私自身が決着をつけます。そのためにも、私は帰ります」

 

 

星羅は振り返ると、鳥居の向こうに見える景色を見つめる。

 

 

「行きましょうか。諏訪の国へ」

 

 

 

 




空亡「優夜って、説教することが多いですよね」
優夜「俺も思った。でもなんであんなに言葉が出てくるんだろうな?」
空亡「そういうものですよ。人間って即興で何でもしますから」
優夜「納得できるような、できないような答えだな」
空亡「まあ、それよりいよいよ原作キャラの登場ってとこでしょうか」
優夜「本当に長かったな。この章始まってもう⑨話だろ」
空亡「そうですね………あ」
優夜「どうした? もしかして、次の原稿が」
空亡「いや、それはもうないですけど」
優夜「じゃあどうしたんだ?」
空亡「………次の話、ルーミアさん視点の話ですね」
優夜「……え、じゃあ原作キャラの登場」
空亡「来週に持ち越しです」
優夜「………大丈夫かよ、この物語」


次回予告
国譲り、この騒動に何かを感じたルーミアは、武蔵にとある提案をする。
東方幻想物語・星之煌編、『過ちを止める勇気』、どうぞお楽しみに。
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