東方幻想物語 ~ユメモノガタリ∼   作:空亡之尊

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過ちを止める勇気

―――ルーミア、物静かな境内にて

 

 

人間なんてただの食糧、そう思っていた。

けれど、アイツに出会ってから私の中の人間に対する価値観というものが少しずつ変わっていた。

今も、境内で話しているユウヤと星羅を見て、私はそれを注意深く観察していた。

 

星羅は私よりも後にこの村に来た。いや、連れてきたというのが正しいわね。

ある日、森の中で狩りをしている最中、私は奇妙なモノを見つけた。

そこは私がアイツを安全に眠らせるために作った祠がある場所、人間や妖怪を近寄らせないために私の影を配置させていた場所だった。そんな場所に、彼女はいた。

人生に絶望したかのように虚ろな目をした少女が、祠に寄り添いながら、ただ黙って虚空を見つめていたのだ。

 

人間に対して多少優しくなった私は彼女を村へと連れて帰った。

事情を聴けば妖怪に連れ去られたらしいが、逃げる時に負った傷が致命傷になり、道中で息絶えたらしい。その後は、ただ森の中をふらふらと彷徨っていたようだ。

帰る場所もない彼女を、村の人間を快く受け入れ、私も新しい住人を歓迎した。

最初の頃は他人に怯えていたみたいだったけど、時間が経つにつれて彼女の瞳に光が戻ってきた。

 

それからしばらく経ち、村にある神社の巫女が若くしてこの世を去った。

村の人々は皆悲しんだが、その後に小さな問題があった。それは神社の巫女の跡継ぎだった。

神社には祟り神の分霊を祀っているということもあり、このままでは村に災いが降りかかってしまうのではないかと不安になっていた。

 

そんな時、星羅が自ら巫女になると皆に言った。

そして、その際に彼女は自分が元居た場所で巫女として努め、そして無能と呼ばれていたことを告白した。それは初めて、彼女が私たちに話した彼女自身の話だった。

 

 

「私では力不足しれませんが、どうか私を信じてください。それが、無能な私にできる唯一の恩返しですから」

 

 

その言葉に村の人々の心は動かされ、皆は星羅を神社の巫女として受け入れた。

誰よりも神を憎み、神職というものに忌まわしい過去を持つ彼女が、私にはとても美しく見えた。

同じだった。人間でありながら恐怖に立ち向かう心を持つ、あの人ととても良く似ていた。

 

 

「かつて自分を見捨てた国へ戻る、以前のあの娘じゃ考えられないことね。

 でも彼の言葉が彼女に覚悟を与えた。なんて良い美談なのかしらね。アンタもそう思わない?」

 

 

私はわざとらしくそう言うと、隣に座る彼へと視線を向ける。

そこにいたのは、さっきまで酔い潰れていた大和からの使者、武蔵だった。

彼は無くなった文書を探して大慌てしていたのだが、私がここに連れてきて、二人の会話を静かに見守らせていた。

武蔵は難しい顔をして頭を抱えると、二人の方へと視線を向ける。

 

 

「俺の役目は諏訪へとあの文書を渡すことだ」

「なら良かったわね。わざわざ遠い国へ行く手間が省けて」

「ふざけるな。俺には諏訪側の答えを聴く必要が」

「聴く必要なんてあるのかしら?」

「なに?」

 

 

私は夜風に靡く髪をかき上げると、彼に尋ねた。

 

 

「アンタも解っているんでしょ。一方的な無条件降伏なんて、あちらが呑むわけないと」

「………それは」

「いくら戦力差があるかと言っても、自分の国を売るような真似はしないわよ」

「だが、万が一……」

「それに妙なのよね。あの八坂の軍神が、戦うことを避けるなんて行為自体がそもそも怪しいわ」

 

 

私の言葉に、武蔵の様子が少し変わった。

 

 

「今回の事だけじゃない。高天原でのんびりと暮らしているはずの天津神がなぜ、わざわざこの国の統治しようと躍起になるのか。今まで見向きもしなかったくせに、随分と都合がいい連中よね?」

「いくら害のない妖怪とはいえ、それ以上の神への侮辱は許さんぞ」

「侮辱じゃないわ。同じなのよ」

「同じ?」

「数億年前、月に逃げる人間の事を知らされ、躍起になってそれを襲おうとした、あの時と同じ」

 

 

私は夜空に浮かぶ月を見つめる。あの時の記憶を思い出すように、私は語る。

 

 

「行動にはきっかけとなるものが必要よ。それは何でもいい、ただの一声で、始まるものよ」

「…………………………」

「教えなさい。今回の騒動、言い出したのはどこのどいつ?」

「……俺は知らない。おそらくは、八坂様も知らないだろう」

「困ったわね。聴けばこの騒動、何とか治められると思ったのに」

「知っているとすれば、あの方だけだろう」

「あの方?」

 

 

武蔵は東の夜空を見つめると、小さく呟いた。

 

 

「太陽の象徴、三貴子の一柱にして最高神、天照大御神様だ」

「………やっぱり、そうなるわよね」

 

 

ことの発端、それを知るのはやはり最高神である彼女しかいない。

もしかすれば、諏訪と大和の戦いを止められるかもしれない。………そんなことを考えていた。

以前の、人間を食材としか見ていなかった私が見たら、どう思うのでしょうね。

 

 

「アマテラスは今どこ?」

「!? お前、まさか」

「その“まさか”よ。直接会いに行って、話を聴いてくるわ」

「無茶だ。いくらお前でも、大和の国の包囲網を突破など」

「あら、大和の国居るのね。それは都合が良いわ」

「しまっ……」

 

 

武蔵は失言してしまったことに気付き、悔しそうに歯ぎしりする。

根が真面目すぎる性格の所為なのか、ボロが出やすいわね。ある意味心配になるわ。

境内を見下ろすと、優夜と星羅はすでにその場を去り、無人の境内に夜風が吹いていた。

 

 

「居所は分かった。あとは向かうだけね」

「待て!!」

 

 

私が境内に飛び降りると、その後を追って武蔵も飛び降りた。

振り返ると、彼はここに来た時と同じように妖怪退治用のお札を私に向けていた。

 

 

「あくまでもアンタは、神の使いなのね」

「俺は神の事を心の底から信じている。それ故に、お前を大和へ向かわせるわけにはいかない」

「アンタから見て、私は狂っていて、今のアンタの行動は正しいと?」

「そうだ」

「なら、アンタにいい言葉を贈るわ」

 

 

私は三日月のように口橋を吊り上げると、狂ったようにそう囁いた。

 

 

「アンタの信じる神の正気は、一体どこの誰が保証するというの?」

「――!?」

「もしもアンタが信じるその神が正気の沙汰ではないとしたら、アンタはどうする?」

「そ、それは………」

「それに、アンタはどこのどいつと話していると思っているのかしら?

 私が神を信仰する参拝客にでも見える? 残念だけど、私は妖怪、神にさえ盾突く化物よ」

 

 

私は月明かりに照らされる影をゆらゆらと揺らしながら、久しぶりに狂気の笑みを浮かべる。

それを見て、武蔵は目を見開いて言葉を失っている。私もまだ妖怪として恐れられるみたいね。

天津の神? 最高神? それがどうしたのかしら。どれもこれも、私からすれば人間よりも“少し偉いだけ”のモノには変わりないわ。

私は踵を返すと、鳥居の先を見つめる。

 

 

「それに、過ちは止めなければいけないわ。それが下僕が主にできる唯一の救いよ」

「過ち……お前には、これが過ちだと?」

「神を信じるのもいいけど、その所為で盲目になってたらそれこそ救い様もないわよ」

「さっきから好き勝手言ってくれるな」

「怒ったかしら?」

「いいや、お陰で少しだけ目が覚めた」

 

 

武蔵はそう言って私の隣まで歩み寄る。

 

 

「だが、俺は神が過ちを犯したなど微塵も思っていない」

「なら、どうして私を止めないの?」

「俺はただ、この戦いに本当に意味があるのか、それを知りたいだけだ」

「その答えだけで十分よ。折角だから道案内、頼むわ」

「呑気な奴だ。こっちは心臓が張り裂けそうだというのに」

 

 

武蔵は深い溜息を吐くと、鳥居の先を見据えた。

 

 

「では、行くとするか、大和の国へ」

 

 

 

 




空亡「如何でしょう? ルーミアさん視点というのは」
優夜「俺としては自分の台詞を聴かれて死ぬほど恥ずかしんだけど」
空亡「普段から恥ずかしい台詞言ってるアナタが何を今更」
優夜「その場の雰囲気ってのもあるだろ!!」
空亡「そんなことは置いておいて」
優夜「おい」
空亡「優夜は諏訪へ、ルーミアさんは大和へ、ということになりましたね」
優夜「綺麗に分かれたな。諏訪大戦、思ったより大変そうだ」
空亡「と言っても、長々とやる気はないのですぐに終わると思いますよ」
優夜「マジか。これ本当に東方二次創作か?」
空亡「自分でも最近疑問に思ってきたころですよ」
優夜「ダメだろ」


次回予告
過去に立ち向かうため、星羅は諏訪へと帰り、自分の信じる神と対峙する。
東方幻想物語・星之煌編、『無能な巫女の因縁』、どうぞお楽しみに。
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