東方幻想物語 ~ユメモノガタリ∼   作:空亡之尊

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無能な巫女の因縁

―――神無優夜、諏訪の国にて

 

 

半日かけて俺と星羅は諏訪の国へと辿り着いた。

特に思い浮かぶようなトラブルもなく、無事目的地へと来れた。あえて言うなれば、星羅の体力の無さが災いして、大半が俺が彼女を背中に乗せて歩いてきたことだろう。お陰で腰が痛い。

 

 

「とりあえず、お前はもう少し体力をつけろ」

「仕方ないじゃないですか。私は肉体はより頭脳派ですから」

「だからって、歩いて十分もしなうちに息切らす奴がいるかよ」

「う、うるさいですね/// そんなことより、行きますよ」

 

 

星羅はごまかすように俺の前を歩くが、いざ入口の門の前に立つと身体が震えていた。

表向きは平常を装っていても、内心ではまだ怖がっているんだ。自分に向けられた罵詈雑言や蔑みの視線を思い出し、またそれを向けられるではないかと。

俺は星羅の隣に歩み寄ると、その震えを止めるように彼女の頭に手を置いた。

 

 

「……ユウヤさん」

「安心しろ。俺が傍にいる限りは、もうお前を傷付けさせはしないから」

「恥ずかしい台詞を、よく言えますね」

「俺にとってすべての女性はこの世の宝だからな。それを傷付ける奴は決して許さないだけだ」

「良い台詞ですね」

「感動的だろ? そういうことだから、お前は気にせず前を向いてろ」

「ええ。ありがとうございます」

 

 

星羅は少し嬉しそうに俺の手を払いのけると、胸元の星の首飾りを握り締めて歩き出した。

門を抜けた先には、あの村よりも少し大きな集落が広がっていた。通りを人が行き交い、威勢のいい客引きの声や住人の会話などが自然と耳に入ってくる。

 

だが、その賑やかさは星羅が歩みを進めるにつれて波が引くように静まっていく。

ある者は幽霊でも見たかのように目を見開き、またある者は生きていてくれたことに喜び涙を流している。どちらにせよ、彼女の突然の帰省はこの国を震わせた。

 

しばらく歩くと、目の前に無駄に長い石造りの階段が現れた。

考えるまでもなくこの先にあるのは諏訪の祟り神がいる神社、諏訪大社だ。

かすかに残っている前世の記憶、それは東方の聖地巡礼と称して長野県の諏訪大社に来た時の記憶だった。あの時はケロちゃんの痛絵馬を描いたっけ。

いや、今はそんな感傷に浸る暇はない。俺らがここに来た理由は、そんなもんじゃないだろ。

 

 

「残酷だな、俺も」

「そうですね。敵国からの事実上の宣戦布告、それに加えて亡霊の帰省ですよ」

「まともな判断が出来る事を願うしかないか」

「大丈夫ですよ。あの方は、貴方が思っている以上に偉大な方ですから」

「意外だな。てっきり罵るのかと思ったぜ」

「まさか。これでも私はあの方に仕えた身、たとえ見捨てられても、悪く言うつもりはないです」

「強いんだな」

「さっきまでは逃げてましたけどね」

 

 

星羅が皮肉を言い終わると、いつの間にか俺らは階段を登り切っていた。

目の前には見るからに立派な本殿があり、そして、賽銭箱の前に一人の少女が立っていた。

見覚えがある。東風谷 叶恵、少し前に村に来て俺に説教したここの巫女だ。

 

 

「久しぶりだな。叶恵」

「ええ、お久しぶりです。優夜さん、そして……」

 

 

叶恵は俺の隣にいる星羅へと視線を向ける。

それは見るからにうれしそうだったが、それを覆い尽すほどの悲しみと後悔が伝わってくる。

 

星羅は深い溜息を吐くと、叶恵に歩み寄った。

彼女は徐々に歩み寄ってくる星羅に怯えるように瞳を震わせている。

やがて二人の距離が互いの手を伸ばしてようやく届くほどに縮まると、星羅は叶恵に言った。

 

 

「私がここに来た理由、解りますか?」

「噂程度ですが、大和の国からの文書、それを持ってきたと」

「はい。だからと言って、私があちら側についたというわけではありません」

「解っています。いくら貴女でも、そんなことはしない筈ですから」

「随分と信用されてるのね。まぁ、無能な私があちらについても問題ないわよね」

「そんな意味では……」

 

 

力なく否定する叶恵を見て、星羅は悪戯に笑う。

 

 

「冗談です。叶恵は優しいですからね」

「星羅……」

「私はあの方に会わなければならない。そして聴かなければならない、あの方の答えを」

「それが、この場所に帰ってきた理由ですか」

「それもあるけど、もう一つは私の因縁に決着をつけるためよ」

 

 

星羅はそう言って踵を返してもう一度階段へと戻っていく、俺もその後に続く。

すると、星羅は立ち止まって振り返りもせずに、叶恵へと向けて言葉を贈る。

 

 

「言いたいことはたくさんありますが、これは先に言っておきますね」

「……はい」

「私の代わりに、ここを護ってくれてありがとう」

 

 

それだけを告げると、星羅は階段を下りて行った。

俺は最後に叶恵を一瞥すると、彼女は静かに涙を流していた。俺は何も告げず、星羅を追った。

 

 

 

少 年 少 女 祈 祷 中

 

 

 

しばらく歩いて辿り着いたのは大きな湖、諏訪湖だった。

星羅によれば、ここにあの方がいるという。まぁ、誰かなんて解りきっている話なんだけどな。

そんなことを考えていると、湖の畔で釣りをしている一人の少女の姿があった。

 

 

「相変わらずですね」

「ん?」

「……今日の調子はいかがですか?」

 

 

星羅が少女に歩み寄ってそう尋ねると、少女は振り返った。

金髪のショートボブ、青と白を基調とした壺装束によく似た服とミニスカート、頭には蛙の目玉のような物が付いた市女笠的な物を被っている。何も知らない俺だったら、ただの少女にしか見えないほど幼く可愛い子だと思っただろう。

彼女、洩矢諏訪子は俺を一瞥すると、星羅へとすぐに視線を移した。

 

 

「今日はだめだね。いくら待っても小魚一匹掛からない」

「洩矢様は相変わらず魚に好かれませんね」

「うるさいわね。なんならアンタもやるかい?」

「誘いに乗りたいですが、私にも釣り道具は」

「いいよ。ここにあるから」

 

 

そう言って諏訪子は自分の隣に置いてあるもう一つの釣竿を指さした。

星羅はそれを見て小さく笑うと、彼女の隣に座って釣竿を垂らした。

 

 

「一人で釣りに来てるのに釣竿が二本、おかしな状況ですね」

「もう一人が来るのもずっと待ってたのよ。一人で釣りなんて、つまらないだけね」

「でしょうね。特に、洩矢様は下手ですから」

 

 

そう言っている間に、星羅は一匹のわかさぎを釣り上げた。

 

 

「ね?」

「相変わらず、可愛げのない娘だね」

「これが私ですから」

「そうね。その通りね」

 

 

諏訪子は未だかからない釣り糸の先を見つめながらそう呟いた。

 

 

「……星羅」

「なんでしょう」

「アンタは、私が憎くないの?」

「どうしてですか?」

「私は、アンタを叶恵の代わりの巫女として育て、そして道具のように捨てた。

 本当ならあの時、アンタが攫われた時にすぐにでも助けに行くべきだったのに、私は動けなかった。叶恵の負った傷の手当てを優先して、アンタを見捨ててしまった。そんな私をアンタは」

 

 

その時、諏訪子の言葉を遮るように星羅がまたもわかさぎを釣り上げた。

 

 

「久しぶりにやりましたが、まだまだ私も腕は鈍っていないみたいですね」

「アンタ、話を聴いてる?」

「聴いてますよ。結局、私は見捨てられていた。貴女というよりは、人間にですけど」

「それは……」

「私の件については、貴女が謝る余地なんてないです。むしろ、感謝したいくらいです」

「え?」

 

 

星羅は釣り糸の先を見つめながら語る。

 

 

「私はずっと無能だと言われ、もう誰にも必要もされない人間だと思ってきました。

 妖怪に攫われた時は見捨てられた悲しみよりも、ようやく死ねるという安心感がありました。

 あの場所から出る勇気もない私は、死ぬことであの場所から逃げようとしていたんです」

「星羅……」

「でも、こんな私でも、無能な私を必要としてくれたのがあの村の人たちなんです。

 妖怪と戦えなくてもいい、奇跡なんて起こさなくていい、そう言ってくれましたから。

 だから、わたしはあの人たちの為に恩返しをする。それが、今の私のやるべきことです」

 

 

星羅は小さく微笑むと、二人の釣り糸が同時に揺れた。

二人が釣竿を上げると、二人の釣り糸が互いに絡まっていた。

 

 

「それに、貴方は私が信仰する神以前に、育ての親です。憎むなんてことはしませんよ」

「星羅……ごめんね、本当に、ごめんね」

 

 

諏訪子は涙を流しながら、星羅に謝っていた。

やっぱり、彼女も星羅の事が大事だったのだ。だからこそ、元の場所に戻れるようにと叶恵も何度も星羅の下に訪れていたのだろう。

 

 

「泣かないでくださいよ。それでも泣く子も黙る祟り神様ですか?」

「だって……叶恵が何度行っても門前払いされているから、私の事だって嫌いに」

「嫌いにはなりませんよ。むしろ、心配していましたけどね。何せ洩矢様は頼りないですから」

「あーうー……言い返せない」

 

 

二人で戯れているその姿は、まんま母娘の様だった。

思えば、俺の親とはどんな人だったのだろうか。前世の記憶がほとんど失くしてしまっている俺にはその答えは解らない。

でも、願うことならこの目の前の母娘のように、笑顔の絶えない関係だった。そう想った。

 

 

「さて、私個人の用事はこれで終わりました。あとは」

「解ってる。そこの男が持ってる文書の事でしょ」

「神無 優夜だ。遅ればせながら、お会いできて光栄だぜ洩矢諏訪子様」

「そんな堅苦しい言葉使わなくてもいいよ。気軽に呼んでくれてもかまわないわ」

「わかった、それじゃあケロちゃん」

「ケロちゃん!?」

「大和からは無条件降伏しろって書かれてるけど、どうする気だ?」

「と、とりあえず呼び方の方は放っておくとして………」

 

 

諏訪子は深い溜息を吐くと、俺の見上げてこう言った。

 

 

「当然、そんなものは飲まないよ」

「だろうな。だとすると、正面戦争だな」

「そうなるね。でも、やっぱり民を傷付けるのは」

「その心配は、どうやらいらないみたいですね」

 

 

星羅の言葉に、俺と諏訪子は同時に振り向いた。

彼女の手には、俺が持っているものと同じ文書が握られていた。

 

 

「それは?」

「武蔵さんが持っていたもう一つの文書ですよ」

「どうしてアンタがそれを」

「私もユウヤさんと同じように盗ってきたんですよ。これでも手先は器用ですから」

「マジか」

「マジです。それにこちらに書かれている内容は、こちら側にとっては都合が良いようです」

 

 

星羅はそう言って文面をこちらへと向けた。

そこに書かれていたのは、無条件降伏を飲まない場合、一対一の決闘を行うというものだった。

 

 

「どうやら、どちらも考えることは一緒のようですね」

 

 

 

 





空亡「なんというか、原作キャラの影がことごとく薄いと感じる今日この頃」
優夜「オリキャラと展開が原作キャラより濃いからな。仕方ないだろ」
空亡「おかしいな。まさかここまでとは」
優夜「そんな事より、なんか無理やり史実に持って行ったけどいいのか?」
空亡「まあ……その話は次回を見ればわかりますよ。きっと」
優夜「もはや東方の要素が皆無になるのも時間の問題だな」
空亡「この話、毎回やってますけど、割と現実になってますもんね」
優夜「俺も早く原作キャラに会いたいぜ……」


次回予告
大和の国へと向かったルーミア、そこで待ち受けるは二つの意味で手厚い歓迎だった。
東方幻想物語・星之煌編、『歴史動かす影一つ』、どうぞお楽しみに。
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