東方幻想物語 ~ユメモノガタリ∼   作:空亡之尊

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旅人よ覚悟せよ

―――神無優夜、夜の洩矢神社にて

 

 

諏訪大戦は、意外とあっさり終わった。

大和側が勝利を勝ち取ったが、原作通りというか、諏訪の民達は大和の神を受け入れなかった。

祟り神である諏訪子の恐怖、というのは表向きの理由。本心は諏訪子以外の神を信仰するつもりはないのだろう。本当に恵まれているな。

そういう理由で神奈子が困っていると、俺は『史実通り』の提案を彼女にした。

 

表向きは今まで通り、諏訪子の国を諏訪子が治めているように見せ、外では名前だけの新しい神が国を支配しているように見せかけるというもの。

これなら、両者共々悪い話ではないと思う。諏訪子はそれでも構わないと言っていたが、神奈子はアマテラスに相談してみることにするらしい。

 

とりあえず、これで俺の心配することは無くなったということだろう。

後は、自然と成り行きに任せるだけで大丈夫だろう。もう俺が出来る事なんてないからな。

 

 

「さて、これからどうするかな」

 

 

俺は神社の屋根に腰を下ろし、いつものように夜空を見上げた。

ここでやるべきことは終わった。だが、それで俺の物語が終わるはずもない。

明星美命、俺がこの世界に来た原因(と思う)であり、最愛の人を殺した俺の復讐するべき相手。アイツの事を一時も忘れたことなんてない。

アイツを殺すまで、俺の物語は終わらない。そう思うと、俺の物語なんて虚しいんだろうな。

 

ここに来たときは心の底から楽しもうとしていたのに、いつの間に復讐することが目的になってしまったのだろう。

解っているんだ。月美もそんなことは望んでいない、そんなことの為に俺に生きてほしくないと。

 

 

「……じゃあ、俺はどうすればいいんだよ……!!」

 

 

答えが返ってくるはずのない俺の言葉は、夜空へと消えていった。

今夜は運が悪い事に、雲がかかっていて月も星もよく見えない。月に叢雲、なんてよく言ったものだ。まるで俺の心情を表しているようで、なんだか腹が立った。

今夜の月見はやめて、もう寝るとしよう。そしたら、この悩みも少しは晴れるだろう。

 

 

「そういえば、星羅は今何してるんだろうな」

 

 

見えるはずもない夜空を見上げ、俺はそう呟いた。

いつまで自分を騙し続ける気だ? そんな声が俺の心から聞こえてきたような気がした。

気付いているさ、星羅が俺の事を気にしていること、それと俺も彼女に恋をしている事もな。

 

あゝ、なんで俺は彼女に出会ってしまったのだろう。

一目見た時、俺は月美に出会った時と同じ感情を抱いていた。つまり、また一目惚れしたということだ。自分でも驚きだ、まさかこれほどまで惚れやすい性格だったとはな。

 

でも、俺はずっと目を逸らしてきた。恋をしてはいけない、愛してはいけないと。

それは月美の事を裏切ることになるから? 違う、俺は怖いんだ。また愛する人を失うのが、この手の中で命が消えていくのが、一人だけ残されるのが、とてつもなく怖いんだ。

失うのが怖いのなら、初めから持たなくていい。俺は、あの人妖大戦で心に決めていたんだ。

 

 

「お前ならどう答えてくれる。月美」

 

 

過去に囚われたまま生きていくか、過去を捨てて生きるか、どちらを選んでもアイツは喜ばない。

月だけを見てきた俺に、星を見る楽しさを教えてくれた彼女、けれど今は月も星も見えない。

 

 

「これぞ、正に」

「正に、お先真っ暗というやつかしら?」

 

 

背後から聞こえた声、振り返るとそこにはルーミアが立っていた。

その様子からして、どうやら俺の悩みもすべて見切られているようだった。

 

 

「何しにきやがった?」

「何も。ただ、アンタと月見でも洒落込みたかっただけよ」

「残念だったな。今夜は生憎、お月様は顔を出してくれないらしい」

「あら、それは残念ね」

「そういうことだから、俺はもう寝るぜ」

 

 

俺はそう言ってルーミアの横を通り過ぎる。

 

 

「……アンタも、逃げるのね」

「なに?」

 

 

ルーミアの言葉に、俺は足を止めた。

 

 

「星羅に偉そうに説教しておきながら、自分は弱々しく逃げるのね。呆れたものね」

「お前、聴いていたのか」

「そんな事はどうだっていいのよ。今は、アンタのお話でしょ?」

「……俺は、逃げてなんか」

「逃げてるじゃない。星羅の想いから、自分の想いからもね」

「違う……いや、でも」

「情けないわね。そこまで自分の気持ちが解らなくなっているのかしら」

 

 

ルーミアは深い溜息を吐くと、俺にこう言った。

 

 

「じゃあ、アンタは彼女が殺されそうになった時、どうして助けたの?」

「そんなの、俺が放っておけなかっただけ………」

「いえ、違うわ。アンタは私に言ったわ『身を挺してでも護る』、それが心情だって」

「そういえば、そうだったな……」

 

 

俺は遠い昔の記憶を思い出すように、夜空を見上げる。

惚れた女には優しくし、心の底から愛し、そして身を挺してでも護る。それが俺の心情だ。

月見と出会ったとき、ルーミアから護った時に俺が彼女に言った台詞だ。そうか、あの時と同じことを俺は星羅にもやっていたということか。

 

 

「阿破破………まったくお笑い草だ。心で決意しても、無意識に護っていたという事か」

「アンタには自分を騙すなんてできないわよ。正直に生きていく方が、アンタらしいわよ」

「お前に教えられるとはな。でも、ありがとう」

「どういたしまして。これで色々吹っ切れたでしょ」

「ああ。明日、星羅に伝えてみるよ。俺の正直な想いを」

 

 

俺がそう呟いたその時、境内に人影が見えた。

こんな真夜中に誰が来たのだろうか、気になっているとその人影は参道のど真ん中に倒れた。

異常だと思い、俺は急いで境内へと飛び降りると、その人物が血塗れになっていることにようやく気付いた。それも返り血などではない、身体のあちこちに深い傷を負っている。

 

 

「よくこんな傷でここまで来れたわね。普通なら死んでるわよ」

「称賛するのはコイツを手当てした後だ。とりあえず叶恵に」

「……う……や」

 

 

叶恵を呼びに行こうとした時、俺の腕を血塗れの手が掴んでいた。

そして、その先へと視線を向けると、その人物が俺の知っている顔だということに気付いた。

それは大和の句の使者であり、そこの神主をやっている生真面目な男、武蔵だった。

 

 

「お前……武蔵!!」

「優…夜……」

「おい!! どうしたんだこの傷は!? 何があった!?」

「ユウヤ、落ち着きなさい」

「……解ってる」

 

 

俺は冷静さを取り戻すが、心の中は焦っていた。

武蔵はそこらの妖怪程度に引けを取らないということはルーミアから聴いていた。なら、この傷は何なのか、どうして村にいるはずの武蔵がここへ来たのか、それが疑問であり不安だった。

最悪の可能性が、俺の心を埋めていく。そして、武蔵は息も絶え絶えに俺に言った。

 

 

「村…が……化物に……襲われ…た………」

 

 

その時、俺は忘れていたんだ。

アイツが俺に対して執着していること、そして、自分の障害になるものを無邪気に壊すこと。

アイツは俺の注意を惹くために、俺の周りのモノを壊そうとする。そう、俺の幸せを、平和な日常を、アイツは壊すんだ。

 

 

 

 

―――???、襲撃された村にて

 

 

「旅人よ覚悟せよ、夜明け前の闇は深く、暗く、そして残酷なのだ………」

 

 

月明かりのない夜、闇に包まれた村に蒼い瞳が光る。

聞こえてくるのは地面を走る無数の足音、肉を貪る音、そして耳を覆いたくなるような悲鳴。

たった一人の観客は、まるでテーマパークのショーを観ているかの様に、無邪気に楽しんでいた。

 

スポットのない舞台、その闇の奥に広がっているであろう光景は、残酷なのだろう。

あゝ、この場面を一言で言い表すのならば、正に『狂気の世界』と呼ぶに相応しい。

 

 

 

 





次回予告

物語は、残酷にも彼に最悪の結末を見せつけてくる。

それでも、彼女たちは最期の時までこの舞台で悲劇のヒロインを演じるだろう。

絶望することなく、ただ一人の主人公へと最後の願いを託すために。

儚くも小さな星の煌きは、最期に何を託し、舞台を降りるのか?

東方幻想物語・星之煌編、『最期の星の煌き』。
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