東方幻想物語 ~ユメモノガタリ∼   作:空亡之尊

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邪なる化物の宴

―――神無優夜、街の跡地にて

 

 

村を後にした俺は、村の外で浅蔵に出会った。

アイツの話では、あの街の跡地に村を襲った化物どもが向かっていったという。

どうしてそれを俺に教えたのかは疑問だったが、俺はそれを信じ、街の跡地へとやってきた。

 

そして、そこに奴はいた。

瓦礫の海を見渡すように腰掛け、耳にイヤホンをつけて暢気に音楽を聴いていた。

その音楽は俺の耳へと届き、それが俺のよく知るBGMだと気付くのに、時間は掛からなかった。

 

 

「信仰は儚き人間の為に、か」

「そうですよ。まあ、信仰なんて人間の為になった試しはないんですけどね」

「それもそうだが、好き勝手に人の命を弄ぶ奴が言えた台詞じゃないよな」

「その通りですが、僕にとって君以外の人間なんて、道端に転がる小石みたいなものですよ」

「だったら、わざわざどけなくてもお前に問題はないだろ」

「僕はよく小石に躓くので、どうしても綺麗どけておかないと気が済まないんですよ」

「なるほど。やっぱり、お前とは話が合わないな」

「今更でしょ?」

 

 

美命は振り返ると、口端を吊り上げて笑った。

それを見て、俺は拳を握り締めた。

 

 

「教えろ、物語ってのは何なんだ?」

「やはり、彼女の記憶も死に際になって戻ったようですね」

「答えろよ。どうせ知ってるんだろ?」

「知っていますよ、けれど僕より知っているのは………君ですけどね」

「何?」

「すべての始まり、『ユメモノガタリ』を知っているのは君だけだよ」

「どういう意味だよ………」

「記憶の亡い君にはまだ解らない。でも、いつか知ることになる。この物語の終わりをね」

 

 

美命はそう言って耳からイヤホンを外すと、ポケットへと仕舞った。

 

 

「もう一つ、どうして村の人間まで襲った?」

「……ああ、そういえばいたね。羽虫のように耳障りだったから覚えてるよ」

「アイツらは物語なんてのに全く関係ないはずだ。なのに、どうしてあんな殺し方をした!?」

「ムカついたからだよ」

「何?」

 

 

美命は表情を隠すように右手で顔を抑える。

 

 

「どいつもこいつも幸せそうに暮らして、そんな奴らを見ていると心底怒りが込み上げてくる。

 裕福でもないくせに、妖怪に怯えているくせに、何でそんなに幸せなのか僕には理解できない。

 だから確かめたかった。そんなに幸せなら、無惨に殺されても幸せなのかを、ね」

 

 

美命の表情は解らなかったが、その声は今まで感じてきたものは違っていた。

子供の様に幼稚な理由、けれど、その行動は大人の様に無情で残酷な結果を残した。

 

美命の言葉を最後まで聴くと、俺は一気に走り寄ってその拳を奴の顔面へと放った。

しかし、案の定俺の拳は奴に受け止められ、その奥では狂気を瞳に宿しながら笑っていた。

 

 

「……僕の気持ち、理解してくださいとは言いませんよ」

「当たり前だ。てめぇのどす黒い感情なんて億分の一も解りたくねえな」

「……やはり、今の君は僕の知っている“君”じゃない」

 

 

そう言って美命が俺の手を放すと、その間を引き裂くように赤い鎌が振り下ろされた。

咄嗟に後ろへと跳ぶと、今度は俺を追跡するように黒い弾幕が光の軌跡を描きながら迫ってきた。

弾幕が地面へと直撃し、土煙が俺の視界を覆った。すると、その向こうから黒い人影が躍り出て、俺へと向かって手刀を薙ぎ払った。

俺は手刀を紙一重で避けると、その人影を蹴って土煙の中から脱出した。

 

土煙が風にあおられ、その向こうにいた三人の姿を露わにした。

紅いドレスを身に纏った女性、黒い扇子で口元を隠す女性、黒服を装い目を前髪で隠した男性、姿形は人間だというのに、彼女らから伝わってくる殺気は妖怪や神を超えるモノだった。

俺はその姿を見て、咄嗟に思い浮かべてしまった、俺がよく知るあの邪神たちを………………。

 

 

「赤の女王、膨れ女、チクタクマン………ニャルラトホテプの化身かよ」

「そうなるね。最も、今は僕の手先だけど」

「まさか、お前がニャル様だとかいうなよ」

「当たらずとも遠からず、僕は本物ではないけど、力は彼女の自身のモノだよ」

「さしずめ、偽ニャル様か」

「それだとカッコ良くないから、美命のままでいいかな」

「知るかよ。それより、俺の相手はコイツらか?」

 

 

俺は服についた汚れを払い、その場にいる三人へと睨みつける。

すると、美命はクスクスと笑い、俺に言った。

 

 

「違うよ。君の相手は、もうすでに周りで待っているよ」

「――!?」

 

 

そう言われ、俺は周囲を見渡した。

廃墟となった街のいたるところに、そいつらは居た。

それは現実では決して関わることない狂気、それを見た者の正気を奪い、冒涜的なまでに殺戮の限りを尽くす。そいつらを区別するのであれば、俺はこう言おう。

 

 

「神話生物………」

 

 

喰屍鬼、ムーンビースト、深きもの、ショゴス、蛇人間、ガグ、ティンダロスの猟犬、イタクァ、星の精、ミ=ゴ、ビヤーキー、シャンタク鳥、忌まわしき狩人、どれもこれも俺が見たことのある神話生物たちで溢れかえっていた。

 

 

「たまげたな。普通だったらSAN値はとっくに零になってるぞ」

「それでも君が狂うことはないさ。一度見た神話生物に対しては耐性が付いているからね」

「………少しだけ、解ってきたぜ」

 

 

どうやら俺の記憶と神話生物、いやクトゥルフ神話は深い関わりがある。

暗雲……空を覆う化物……地を蠢く化物……逃げ惑う人々……それ見て笑う一人の少年。

 

 

「今日は嫌な事ばかり思い出すな」

 

 

 

俺は右手に持っていた星羅の首飾りを強く握りしめると、強い光と共に形を変えた。

それは一丁の黒いデザートイーグル、全長27㎝、重量2㎏、装弾数8発、仕様弾薬は50AE弾、銃から黒い鎖が伸び、俺の右腕を手錠のような物で繋いでいる。

まったく、パーフェクトとしか言いようがない。

 

 

「とりあえずお前ら全員、ぶち殺せばいいんだろ」

「シンプルで良い答えですね。でも、そう簡単にいくかな?」

「どっちでもいいさ。憂さ晴らしぐらいはさせてくれよ、もちろんお前でも構わないぜ」

「遠慮しておきますよ。僕は楽しみは最後まで取っておきたい性格なのでね」

「だったら帰るなり黙るなりしておいてくれ。でないと、本気で殺すぞ」

 

 

俺が美命を睨みつけると、傍にいた赤の女王から鋭い視線が向けられた。

しかし、それは怒りではなく、何かを懇願しているような、そんな瞳だった。

 

 

「……美命、私たちはそろそろ行くわよ」

「わかった。それじゃあ、君もせいぜい死なない程度にやりなよ」

「言われなくてもそのつもりだ。さっさと行きやがれ」

「ふふ。それじゃあ始めようか、狂った奴らの宴会の始まりだ」

 

 

美命は背を向けると、高らかに指を鳴らした。

それが合図となり、破竹の勢いで神話生物どもが俺に向かって一斉に飛び掛かってきた。

 

 

「さあ、踊ろうか。神話生物(バケモノ)ども」

 

 

俺が銃口を空へと向けると、始まりの銃声が高らかに鳴り響いた。

 

 

 

 




次回予告

人間でも、妖怪でもない”神話生物(バケモノ)”。

それらと対峙するのは、復讐に燃えるただ一人の人間。

夜明け前の暗闇に、彼が受け取った力の銃声がこだまする。

もう賽は投げられた。後は、女神に祈るのみ。

東方幻想物語・星之煌編、『夜空へ昇る流星』。
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