東方幻想物語 ~ユメモノガタリ∼   作:空亡之尊

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夜空へ昇る流星

―――神無優夜、街の跡地にて

 

 

月の明かりがない夜、俺は廃墟となった街を駆け回っていた。

長い長い年月でもう見る影すらないが、それでも俺が一年の月日を過ごしてきた場所だ、道順は未だに憶えていた。

 

 

「だから!!!」

 

 

俺は銃を構えると、右にある廃屋の窓へと向かって発砲した。

すると、その陰に隠れていたミ=ゴの一匹に風穴を開けた。仲間をやられて怒ったのか、その手に持ったは鉤爪の様な多数の足を俺に向けて振りかざしてきた。

それらの攻撃をすべて回避すると、すぐさま後ろに回って背後から銃弾を3発撃った。ミ=ゴたちの身体は絶命すると同時に、バラバラと崩れ去った。

 

 

「どこに隠れているかなんて、全部お見通しなんだよ」

 

 

俺はカードホルダーから1枚のカードを引いた。

鈴蘭咲き誇る丘、傍らに自分と似た人形を肩に乗せて眠る毒の人形。

 

 

「――毒花『鈴蘭畑で踊る人形』」

 

 

俺はカードを頭上へと投げると、それに向かって4発撃った。毒々しい色をした銃弾は俺に襲い掛かろうとしていたビヤーキーの翼に命中した。弾丸に宿った毒は瞬く間に前進へと渡ったことで飛行できなくなり、蜂と飛龍を混ぜたようなバケモノは使い終わった弾倉と共に地面へと落ちた。

 

リロードする隙を突くように背後から空気を裂く音が聞こえた。

それを避けると、そのまま回し蹴りをその見えない何かへと放ち、カードを引いた。

地獄の裁判所内、並び立つ死者の列の向こう、裁判長席に鎮座する小さな閻魔。

 

 

「――白黒『等しく罪を裁く閻魔』」

 

 

カードを介して銃弾を放つと、黒と白の2つの銃弾へと解れ、その何かへと当たった。するとその姿形が影絵のように現れた。よく見るとそれは星の精だった。

姿を現した星の精はその鉤爪を俺へと向けながら詰め寄ってきたが、俺はそれを容易くかわすと奴が血を啜るための口へと銃を突き出し、そのままゼロ距離で1発。星の精は地面へと倒れた。

 

銃口に息を吹き付けると、突如俺の身体が強風に寄って空高く舞い上げられた。

視線を巡らせると、すぐそこに眼のある紫の煙と緑の雲、イタクァがいた。どうにか体勢を整えようとすると、像のように大きな身体の鳥に突進され、近くにあった廃ビルの中へと激突した。

 

 

「いつつ……シャンタク鳥、かよ」

 

 

汚れた廃ビルの床から起き上がると、反対側の窓から飛び立っていくシャンタク鳥を見つめた。

元は戦闘向きではないとはいえ、あの体型に鱗で覆われた身体は意外と痛かったな。

 

 

「って、そういえばここって、永琳が住んでたビルか」

 

 

すぐには気付かなかったが、よく見ると面影は残っていた。確か6階だったかな。

しかし、もうここには何も残っていない。ここにあるのは、神話生物の気配だけだった。

明りのない廃ビルの暗さは異常で、すぐそこに何かいてもその姿を確認することはできない。

 

 

「まあ、だからってただで終わるのは嫌なんだよな」

 

 

俺は暗がりの中を用心しながら歩いていくと、闇の向こうから4つの腕が俺を掴もうとしてきた。咄嗟に後ろへと逃げるが、またその向こうから今度は不快なゴムのような腕と爬虫類のような腕、魚のようにぬめっとした腕が俺の身動きを止めた。

 

 

「ガグ、喰屍鬼、蛇人間、深きもの………奉仕種族のオンパレードだな」

 

 

正面からじりじりと寄ってくるガグ、それに三体もの奉仕種族たちに動きを封じられている。

筋力勝負なら負けるが、さっき咄嗟に引いておいたカードが俺の手の中にある。

広い青空と大きな雲、天を指さして雷を放ちながら羽衣を揺らす竜宮の使い。

 

 

「――空気『我儘に苦労する竜宮の使い』」

 

 

カードを握り砕くと、俺の身体から雷が放出された。

それに驚き、周りの奉仕種族たちは一斉に俺から遠ざかった。その瞬間を見計らい、俺は銃を首飾りへと戻し、リボンを解いて『月美』を構えると、雷を纏った刃で周囲を薙ぎ払った。

奉仕種族たちの胴と体が真っ二つに斬り咲かれると、地面へと転げ落ちた。

 

だが、束の間の静寂を打ち破るように天井から髑髏の様な顔をした黒い蛇が現れ、俺ごと床をぶち抜いた。6階から5階、4階、3階、2階、そして1階へと直通で落とされた。

何とか受け身をとって最低限のダメージまで削ったが、今ので右脚を痛めてしまった。

 

 

「くそ、忌まわしき狩人まで参加か」

 

 

さっきのでもうこれ以上厄介な奴はいないだろうと思っていたが、考えが甘かった。

最下層で待っていたのは、無邪気に笑い声をあげるムーンビースト、獲物を見つけて息を吐くティンダロスの猟犬、そしてさっき俺を巻き上げたイタクァ、上を見るとシャンタク鳥に忌まわしき狩人が逃げ間を塞いでいる。まさに豪華5体のラインナップだ。

 

 

「ったく、ただの人間にはちょっとキツイかな?」

 

 

俺が余裕気に笑うと、周りの神話生物どもは一斉に襲い掛かってきた。

猟犬は俺に向かって口から出た鋭く尖った針の様な舌を俺に突き出し、次にムーンビーストはどこからか槍を取り出し投擲する。俺が避けると2つはビルを支える柱へと深々と突き刺さった。

逃げ回りながらが策していると、背後から狩人が散乱した物を蹴散らしながら俺を追ってきた。それに加え、シャンタク鳥が正面から俺に向かって飛んできていた。俺は直角に曲がると、2体は柱を壊しながら進行方向を変えて再び追いかけてきた。

一度外に出てから態勢を整えようとするが、イタクァの強風によってその場に足止めされた。

 

左右からはムーンビーストと猟犬、背後からはシャンタク鳥に狩人、そんでもって身動き不能。

絶体絶命のこの状況、その時ホルダーから1枚のカードが飛び出した。

広大な湖の上、真昼の空に浮かぶ客星へと手を伸ばそうとする風祝の少女。

 

 

「――奇跡『常識に囚われない神様な風祝』」

 

 

カードを握り砕くと強風の風向きが変わり、まるで俺を避けるように風が週に吹き荒ぶ。

突然の強風に周りの神話生物の動きが止まった。俺はその隙にその場から脱すると、部屋の中央へと向かった。だが、狩人だけが強風をかき分けて俺に向かってきた。

俺はがむしゃらに走ると、目の前にビルを支える柱が見えた。

 

 

「行くぜ!!!」

 

 

俺は『月美』を構えると、その柱を勢いよく斬り抜けた。

柱をすべて破壊され、廃ビルは徐々に崩壊を始める。しかし、このままでは俺が間に合わない。

その瞬間、『射命丸文』のカードで足に風を纏わせ、俺は風の速さで駆け抜けた。

背後から狩人が迫ってくるが、偶然にも天井が崩れ落ちてきて、それが頭に直撃した。その隙に俺はビルの中から脱出した。

 

 

「お前らにはぴったりな棺桶だ。ゆっくり眠りやがれ」

 

 

ビルに背を向けて歩き出すと、やがて廃ビルは神話生物たちの悲鳴と共に完全に崩壊した。

これですべての神話生物は倒した………と、思っていたんだけどな。

 

 

「―――っ!?」

 

 

咄嗟に振り返ると、瓦礫の底から狩人が躍り出て、長く大きな尾で俺を空中高く舞い上げた。

その衝撃で『月美』を地面に落としてしまった。狩人は動けない俺に巻き付こうと向かってくる。

 

 

「あんまり、ふざけるなよ………!!!」

 

 

俺は首飾りを銃へと変えると、カードが銃口の前へと躍り出てきた。

星が煌く夜空を背に、上空へと向かって手を伸ばしながら箒に跨る白黒の魔法使い。

 

 

「――魔法『星空を翔ける魔法使い』

 

 

銃口を狩人へと向け、その引き金に力を籠める。

 

 

「――『ライジングメテオ』!!!」

 

 

引き金を引いた瞬間、銃口から極太い閃光(マスパ似)が放たれた。

閃光が狩人を覆い、その動きを止める。だが、威力が不十分だったのか閃光が徐々に薄れていき、やがて狩人に跳ね返されてしまった。

 

 

「しまっ……!!」

 

 

逃げる手段のない空中、狩人は俺の身体へとその黒い胴体を巻きつかせようとする。

覚悟を決めて瞳を閉じると、暗闇の向こうに2つの光が見えた。黒白、青白、その光はカードへと変わると、ひとつに重なり、そして砕け散った。

 

 

「………なるほど、こいつの本来の使い方は」

 

 

俺は口元をニヤッとさせると、カードを1枚引いた。

晴れ渡る青空を背に、地上へと向かって手を伸ばしながら落ちていく紅白の巫女。

 

 

「――空飛『幻想を護る素敵な巫女』」

 

 

カードを握り砕くと奇妙な表現だが、俺は空を蹴った。

すると、慣性の法則で動くように俺の身体が自分の行きたい方向へと動いた。

空を飛ぶのにはまだ慣れていないが、単調な攻撃を避ける程度なら今はこれで十分だった。

俺は自分に巻き付こうとする狩人の横をすり抜けると、一瞬で地面へと着地する。

それを見て狩人は悔し気に目を光らせると、大地を震わすような叫びをあげながら向かってきた。

 

カードは1枚だけで勝負するモノじゃない。組み合わせることで無限の可能性を引き出せる。

俺は『霧雨魔理沙』と『東風谷早苗』のカードを引き、それを握り砕くと破片が徐々に収束していき、やがてひとつとなって新しいカードを生み出した。

満天の星空に割れた海、互いに肩を並べ、お祓い棒と八卦炉を向ける巫女と魔法使い。

 

 

「ワンペア――超神星『常識破りな二つの客星』」

 

 

カードが銃口の前で砕け散ると、射線上に六芒星の魔方陣が展開された。

危険を察した狩人は逃げようとするが、魔方陣と共に展開された星の弾幕が、まるでモーゼの十戒のように狩人を中心に割れていた。これで奴は逃げられはしない。

俺は引き金に指を掛けると、この夜に散って逝った命に対し、黙祷を捧げる。

 

 

「これが、俺にできる………お前らへの懺悔だ」

 

 

銃口に魔力が収束していくと、俺は地面を踏みしめて、狙い澄ました。

 

 

「――『ライジングヴェスペリア』!!!!!」

 

 

銃口から放たれた閃光は六芒星の魔方陣を突き破ると、その美しさと威力を増しながら狩人へと向かっていった。狩人は逃げることすらできず、今度は閃光に身体全体が飲み込まれて、そして消えていった。

 

夜空へと翔け昇っていく閃光は、空を覆っていた雲へと届き、その雲を綺麗に晴らして消えた。

夜空には綺麗な月と、それに劣ることのない………小さくても美しい星々の煌きがあった。

 

 

「月と星が綺麗だな」

 

 

 

 





次回予告

バケモノ退治は終わり、彼は村へと戻ってきた。

しかし、もうそこには彼を迎えてくれる人間はだれ一人いない。

悲しみに暮れながら、彼は最後の手向けを彼へと送る。

夜明けと共に、一つの物語が人知れず消えていく。

東方幻想物語・星之煌編、『夜明けに煌く客星』。
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