―――神無優夜、諏訪の国にて
村があった場所から、俺は諏訪の国へとやってきた。
目的は村で起こったことを説明すること、それと………いや、これは後でいいだろう。
国へ入ろうとした時、湖の方に人影が立っていることに気付いた。歩み寄ってみると、それが諏訪子だということに気付いた。
彼女は俺がここに最初に来た時と同じ、湖の畔で釣りをしていた。
「……今日の調子はどうだ?」
「ダメだね。全然だ」
「そうか」
俺は彼女の隣へと腰を下ろすと、少し霧がかかっている湖を見つめた。
「なあ、諏訪子」
「なんだい?」
「どうして、俺の周りから誰もかれも消えていくんだろうな」
俺は諏訪子にそう尋ねるが、当然だが答えはすぐに返ってこない。
ただ、弱音を吐きたかっただけなのかもしれないな。
人と関わることが俺の“人間”としての証明だと思っていた。でも、その所為で関係のない人たちを巻き込み、傷付けてしまった。
人であるがためにその周りの人を傷付けるのなら、俺は………ただの“バケモノ”だ。
美命の言う通り、アイツは俺が大切にしているモノを片っ端から破壊していく。
もしも俺がまた誰かと仲良くなれば、それを破壊するためにまた動くだろう。それを幾度も繰り返し、最初に折れるのは………恐らく俺の心が先だろう。
こんなに苦しい思いをするのなら、俺は人間をやめたい。そう思ってしまった。
けれど、そんなことをすれば、俺は本当に生きる目的を失ってしまう。
そんなことを考えていると、諏訪子から答えが返ってきた。
「人なんて、私らが思ってたよりもすぐに周りからいなくなるものなんだよ。
それが寿命であれ、流行り病であれ、理不尽な死であれ、それを止めることはできやしない」
「諏訪子……」
「人だって苦しい思いをするけど、神様だって苦しいんだよ。
たった一人の巫女を救えず、やっと仲直りできたと思ったのに、またいなくなってしまった」
「知ってたのか」
「ああ。それだけじゃない、あの子がいた村がもうどこにもない事も知ってるよ」
そういえば、あの神社には諏訪子の分霊が祀ってあったな。
なるほど、じゃあ俺がここに来た理由もよく知っているというわけか。
「私がアンタを責めることなんてしない。ただ、これだけは言わせてもらうよ」
「何だ?」
「あの子が最期に託した命を無駄にすることだけは、私は決して許さないよ」
そう言って諏訪子は俺を睨んだ。
殺気がこもった瞳、返答次第では俺がただでは済まなそうな、そんな雰囲気を感じた。
どうやら俺は、ここで人生を諦めることすらできないらしい。いや、諦めたらダメなんだ。
たとえこの先に待ち受けるのが悲惨な結末でも、俺はもう後には戻れないんだ。だったら、最後まで進み続けるだけだ。
「アンタに言われなくても、この命を無駄になんてするかよ」
「それは良かったよ。そうじゃなかったら、アンタを餌にしてるところだよ」
「俺に釣られるのはロクな奴じゃないけどな」
「だろうね」
諏訪子はそう言って笑うと、釣り糸を引き上げた。
「ところで、この後はどうするだい?」
「そうだな。呑気に一人旅でもしていこうと思っているさ」
「どうせならここに永住してくれてもかまわないよ?」
「やめておく。……また失うのは、さすがに堪えるからな」
「そっか。残念だね」
「でもまあ、たまには遊びに来るつもりだ」
「その時は旅の話でも聴かせてもらおうかな」
「ああ、楽しみにしておけよ」
俺はその場を去ろうとすると、諏訪子に呼び止められる。
「待って」
「ん?」
「これ、持っていきなさい」
諏訪子は俺に向かってあるものを投げた。
振り返って受け取ると、一冊の小さなノートと一発の弾丸だった。
どちらもこの時代にはないはずの物、それをどうして諏訪子が持っているんだ?
「これは?」
「それは星羅が持っていた物だよ。昨日、アンタに渡してほしいと頼まれたんだ」
「星羅が?」
そういえば、星羅は俺とは違って何かを知っていた。
もしかしたらその手掛かりになるかもしれない。そう考えていると、ノートに不自然が厚みがあることに気付いた。
ノートを開いてみると、そこには星の栞が挟まれていた。そのページには、たった一節だけの文章が書かれていた。
『“嘘吐き”によって始まったこの物語、舞台は死んでも繰り返すだけ』
この言葉の意味を、俺は知っているような気がした。
けれど、記憶がない俺にはその意味を理解することもできない。
やっぱり、すべての鍵を握っているのはアイツしかいないようだ。ノートにはまだいろいろと書かれているが、また次の機会に読むとしよう。
「さてと、それじゃあ今度こそお別れだ」
「そうね」
「それと、星羅からお前らに伝言があるんだった」
「なに?」
「『今までありがとう』、ただそれだけだ」
「そっか……あの子らしいね」
「……じゃあな、次に会う時を楽しみにしてるぜ」
俺は諏訪湖に別れを告げ、その場を後にした。
……何か忘れているような気がするが、はさて、何だったっかな?
少 年 祈 祷 中
諏訪から少し離れた街道にて、俺は一人寂しく歩いていた。
旅に出ようとは決意したものの、この時代に観光地みたいなものはないだろうし、何より一人だと滅茶苦茶つまらないな。
「う~む。孤独ってこんなにも寂しいものだったのか」
「そうよ。これが永遠に続くと考えると、気が狂いそうになるでしょ?」
「たしかに………って、え?」
隣を見ると、そこにはいつのまにかルーミアが立っていた。
俺は驚いて道の端まで離れると、ルーミアは俺の事を睨みつけてきた。
「な、なんだよ」
「アンタ、私の事を忘れてたでしょ?」
「え? あ、いや、それは」
「否定はしないのね」
明らかに怒気を孕ませた声が俺の心に突き刺さる。
そういえばルーミアにも別れの挨拶するべきだったんだよな。諏訪子と話してた所為ですっかり忘れてたぜ。
「ご、ごめん。ちゃんと別れを言わなくて」
「そんなことはどうでもいいのよ」
「……ん? じゃあ、何で怒ってんだよ」
「決まってるでしょ。私も連れていきなさいよ」
「……………………は?」
俺は自分の耳を疑ったが、どうやら聞き間違いではないようだ。
「え~と、どうして?」
「正直に言うと、アンタの事が気に入ってるのよ」
「それは知ってる」
「それで、私は気に言った奴は意地でも喰いたいのよね」
「おいおい、まさか俺の寝てる隙に」
「そんなことはしないわ。ただ、アンタが私の知らない所で死なれると困るのよ」
「………つまり、自分の目の届くところに置いておきたいと?」
「その通り。それなら、もしアンタが死んでも私がちゃんと食べてあげられるでしょ?」
ルーミアは無邪気にそう言い切った。
俺は彼女の眩しいほどの笑顔を見て溜息を吐くと、小さく笑った。
「やれやれ、そんな動機で旅についてくる気かよ」
「そうよ。それにアンタに付いていけば面白い事がありそうでしょ?」
「それについては否定しないが、命の保証はねえぞ?」
「誰に向かって言っているのかしら? 少なくとも、自分の身は自分で護れるわ」
「それならいいんだけど………」
「何よ、何が不満なのよ?」
「いや……」
正直、一緒に旅をしてくれるのは嬉しい。
だが、やっぱり俺の心には不安があった。いくら妖怪でも、美命には………。
そう思っていると、ルーミアは俺に向かって手を差し出した。
「……?」
「心配しないで。私はアンタから離れていかないわ」
「でも……」
「信じなさい。これでも、私だってもう覚悟は決めているのよ」
「ルーミア……」
ルーミアの瞳はまっすぐ俺に向けられていた。
そこには嘘や偽りなんてない、ただ純粋な想いを感じた。
……そうだな。何事も恐れてたら、前にも進めないな。
「だったら、最期まで付き合ってもらうぞ」
「望むところよ」
俺も覚悟を決めるように、ルーミアの手を取った。
空亡「これにて、第二章は終わりですね」
優夜「なんか、色々と出てきたな」
空亡「『ユメモノガタリ』、前世の記憶、神話生物、謎が多いですね」
優夜「これ全部回収できるのかよ」
空亡「大丈夫ですよ。これ、元を辿れば一つにまとめられますから」
優夜「マジか」
空亡「それより、ここでようやく仲間が追加ですね」
優夜「ルーミアか。なんだか前は滅茶苦茶強かった気が」
空亡「言っておきますけど、味方になったら弱くなるようなことありませんからね」
優夜「どこのスパ○ボだよ」
空亡「さて、次回から幕間。原作キャラやオリキャラとの交流と行きましょうか」
優夜「嫌な予感がするのは俺だけか?」
空亡「その予感、当たりますよ♪」
優夜「マジか」
次回予告
図書室の噂、彼の友達はもう二度と仲間のところへ戻れなかった。
東方幻想物語、『最も高潔な君の話』、どうぞお楽しみに。