東方幻想物語 ~ユメモノガタリ∼   作:空亡之尊

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月至る前の街

―――神無優夜、壁に囲まれた街にて

 

 

門番である男、天野 力によって案内? いや、連行されながら俺は街の中を歩いていた。

道行く人たちは天野に挨拶し、彼もまたその人たちにに笑みと挨拶を返している。外見だけ見れば怖い人だが、意外にも人望はあるみたいだ。

それと違って俺はというと、怖がられているような蔑まれているような、そんな視線が突き刺さっている。こうも差を見せつけられると、やっぱり人間はそんな生き物だなと思い知らされる。

 

俺は少しでもその視線から逃げるように空を見上げた。

俺の目に映るのは現代でも嫌というほど見せつけられたような高い建物、それを見て俺がどの時代に居るのかがなんとなく理解できた。

 

 

「そういうことか」

「どうかしたのか?」

 

 

俺が思わず呟くと、前を歩いていた天野が振り返った。

 

 

「いや、なんでもない。今日の空は澄み切っていていいなと思っただけだ」

「呑気な奴だな。これから会いに行くのがどんな人かも知らないで」

「人というより、どちらかというと神じゃないのか?」

「そうだな。………って、なんでそれを知っている?」

「勘」

「侮れないな」

 

 

天野はそう言って前へと向き直った。

俺の推測が正しければ、おそらく俺がいるのは月の民が地上に居た頃の時代。

よく二次創作での出発点にされているが、俺の場合はこうなるとは………。

そうなると、俺が今から会うのはやっぱりそうことになるのだろうか。

 

好奇心と少しの不安が俺の胸に積もっていくと、とある門の前へと辿り着いた。

そこは街の中央に位置しており、門の向こうには大きな屋敷が建てられている。

余計なことかもしれないが、屋敷の方から外壁に残っていた神力と同じものを感じた。

つまり、この先に居るのは神様だということか。

 

 

「う~ん。いざここまで来ると少し緊張するな」

「今更何を言っても無駄だ。大人しくついてこい」

「は~い」

 

 

俺は天野に言われるがままその後を付いて行った。

屋敷の中を歩いていくと何人ものしようとすれ違ったが、それぞれ反応は街の人間と何ら変わらなかった。これはまた、居心地が悪そうなところに来てしまったな。

 

 

「あゝ、しんどい」

「すまないな。余所者には少し辛かったか」

「いや、それはいいんだけど。可愛いお嬢さんや婦人方から避けられると心が折れそうだ」

「………それだけ余裕があれば心配することはなさそうだな」

「うるせぇ。どうせイケメンには一生解らない悩みだ。畜生」

「あまり俺の顔は良いものだとは思わないがな」

「お前は今、全世界の非リア充男子に喧嘩を売ったぞ……!!」

「知るか」

 

 

天野は呆れるようにそう言うと、やがてとある部屋の前に立ち止まった。

まぁ当然というか、その部屋の中からさっきの神力がひしひしと伝わってくる。

武者震いする俺の腕を抑えつけると、俺は深く深呼吸をした。

 

 

「よし、行くか」

「……ふん。あまり失礼がないようにな」

 

 

天野はそれだけを伝えると部屋の扉を開けた。

俺の目に映ったのは、大きな部屋の中で机に向かって執務をしている一柱の神だった。

見惚れるほど美しい銀色の長い髪、蒼色の着物の上に白い羽織を羽織っており、首には月の首飾りをかけている。容姿だけを見ても、その人が神だと言われれば俺は疑うことなく信じただろう。

その神様は俺たちが入ってきたことに気付くと、机から目を離して視線を俺たちへと向けた。

 

 

「いらっしゃい。力くん」

「遅ればせながら失礼します。ツクヨミ様」

 

 

そう言って天野は深々と頭を下げた。

月夜見命、日本神話を代表する三貴子の一柱、その名の通り月の神だ。

東方では月の民のリーダーとしてよく描かれており、それぞれで違った個性をしている。

天野の態度を見て、ツクヨミは溜息を吐いて彼に言う。

 

 

「そこまで畏まらないでください。私とアナタは友人でしょ?」

「いえ。私情と仕事はきっちりと分けないといけませんから」

「相変わらず堅いですね。そうは思いませんか?」

「ああ。ここまで堅物だと将来が不安になるな。主に色恋沙汰が」

「神無!! 貴様、ツクヨミ様の御前でなんてことを!?」

「そうですよね。そう思って何度かお見合いの話を持ち込んだのですけど……」

「どうせ仕事一筋とか、馬鹿正直に言って相手を怒らせたりでもしたんだろ」

「よくお分かりで。人望はあるんですけどね」

「ツクヨミ、お前な!!!」

 

 

堪忍袋の緒が切れたのか、天野は顔を真っ赤にさせながら怒鳴った。

それを見て、俺とツクヨミは笑った。

 

 

「ふふ」

「あ、いや、これは」

「ざっとこんなもんか。意外と沸点が低いんだな」

「貴様、調子に」

「まあまあ。元はといえば私が仕掛けたことですし、怒るなら私にしてください」

「うぅ、それは」

 

 

天野は見るからに狼狽えていると、やがて深い溜息を吐いて肩を落とした。

 

 

「はぁ……もういい。これ以上怒っても無駄だ」

「ククク……素直じゃないな」

「お前といると何かと調子が狂う。早いところ用事を済ませよう」

「そうか? 俺はもう少しお話ししたいけどな。なぁ、ツクヨミ」

「そうですね。その方が力くんも楽しいと思いませんか?」

「これ以上何かするのなら、俺は今すぐにでも部屋を出ていくぞ」

 

 

天野はそう言って俺の方へと振り返ると、鬼の形相で睨んできた。

あえてツクヨミに見せないあたり、やっぱり公私きっちりと分けているってわけか。

 

 

「はいはい。もうこれ以上は余計なことはしねえよ」

「全く信用できん」

「ひどいな。じゃあ俺から聞くぜ。ツクヨミ、アンタは俺をどうする気だ?」

 

 

俺は天野の横から顔をのぞかせ、ツクヨミに尋ねた。

 

 

「そうですね。報告によれば外で妖怪と一戦交えたようですけど」

「どうかしたのか?」

「……平常を装っているつもりでしょうが、アナタの身体はボロボロですよ」

「え?オデノカラダハボドボド?」

「ふざけないでください」

「アッハイ。正直に言うと慣れない事(全力疾走、無茶な戦闘)をした所為で体が悲鳴上げてます」

「と、いうことらしいです」

「となると、あの人の所へ連れていけというわけですか」

「そうです。話が早くて助かります」

 

 

二人で勝手に話が通じていたみたいだが、俺にはさっぱりだった。

 

 

「アナタの処遇を考えるにしても、その身体を放っておくこともできません」

「いや、これでも「黙って聞いてください」はい」

「そこで、私の知り合いに腕の良い“薬師”がいるので、その人に治療してもらってください」

「お前の処遇を決めるのはその後、というのがツクヨミ様の考えだ」

「それは助かるけど、“薬師”ってまさか」

 

 

俺がツクヨミに詰め寄ろうと一歩踏み出したその時、足元の地面が光輝いた。

光は俺を囲むように円状に広がると、俺は何故かとてつもなく嫌な予感がした。

 

 

「ここから歩いていくのもなんですから、特別に送ってあげます」

「え、ちょ、これってまさかよくある瞬間移動的な奴か!?」

「大丈夫だ。瞬きする間に目的地着く。………座標さえ誤らなければ」

「おい、今なんて言いやがった!?」

「大丈夫。ここ最近は成功するようになったから」

「その最近の前まではどうなってたんだよ」

「また会おう神無。生きていればな」

「あァァァんまりだァァアァ!!!!!」

 

 

俺の叫びは虚しく響くと、光が瞬くとともにその場から姿を消した。

消える一瞬、天野がこれほどまでにないほど良い笑顔を浮かべていた。

次に会った時は絶対仕返ししてやる、そう心に誓った俺であった。

 

 

 

 




空亡「大変ですね」
優夜「俺に言うセリフがそれだけかよ」
空亡「余所者への風当たりが強いのはどこの世界でも共通ですよ」
優夜「それでも心にグサッとくるんだよ」
空亡「そういえば、メンタルだけはガラスのハートでしたね」
優夜「本当だったらあの場で泣きたかった」
空亡「大変ですね」
優夜「でもその後の展開の所為で別の意味で泣いた。なんだあのツクヨミ」
空亡「この物語に相応しいフリーダムなお人でしょ?」
優夜「その所為で天野が苦労人キャラと化したな」
空亡「イケメンは苦労しろ。非リア充の苦しみを思い知りやがれ」
優夜「おい、素の口調が出てるぞ」


次回予告
優夜はこれでもただの人間である。その身体は昨夜の戦闘で限界が来ていた。
東方幻想物語・月之刃編、『月の薬師の検診』、どうぞお楽しみに。

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