完全勝利したマリーダ・クルスUC 作:1100/870
そして、十二月になった。
「来た!」
マリーダは携行ミサイルを肩に担ぐと、身を潜めていた藪から立ち上がった。
アンジェロは軽機関銃を小脇に抱えたまま、震えて膝をついていた。
連邦軍ロンド・ベル隊のモビルスーツはコロニー中心の無重力帯から内縁部に降下しようとしていた。スラスターの爆音が近づいてくる。
森の切れ目から飛び出したマリーダは、スコープの十字へ巨大な人型を捉えた。
「当たれっ!」
時間は少しさかのぼる。
「姉上、どちらへ?」
「エグムの連中に会いに行く。そして、姉上はよせ」
アンジェロに向け、マリーダは眉を吊り上げる。「マスターはよせ」と言ったジンネマンの気持ちが今は分かる。
「では、私も一緒に参ります……、お姉さま」
「なんでそうなる!」
バラ色に頬を染めたアンジェロに見つめられても、マリーダは萌えない。
「そこは『クルスさん』とか、『マリーダさん』とか、……」
説教しつつ、バー『アンクル・サム』に向かう。街は赤、白、緑のクリスマス・カラーに彩られ、難民コロニーなりに活況を呈していた。
――しかし、こんな時期にまさかロンド・ベルがやってくるなんて。
――ジオン残党のいぶり出しのつもりだろうが、難民コロニーへ軍艦を差し向けるのはスペースノイドに対する……、とりわけ貧困層に対する
拳を固めて足早に歩くうち、目指すエグムの溜まり場へ着いた。事情を知った店の主人がふたりを奥へ通す。
「やっと下っ端まで集まったか! 時間がないからさっさと始めるぞ!」
髭面、片目の男が大声で言う。
(誰です?)
(ゼダ・マンディラ。エグムを乗っ取った
ゼダがひとつしかない眼でにらんだので、マリーダは慌てて口をつぐむ。
「連邦軍がスウィート・ウォーターに入港する。我々はこの艦に攻撃をかけ、奴等を中へ誘い込む!」
空気が緊張し、ざわめきが起こる。
「ふざけたことは止めろ。コロニーを潰す気か」
「なにを小娘が! 遅れて来て口答えするな!」
マリーダの反論にゼダは巨大な鉄拳で答える。
「姉さん! 貴様ぁ……え?」
「よせ、大丈夫だ」
驚異的な対衝撃能力で立ち直ったマリーダがアンジェロを遮る。少女の異常な身体能力など興奮したゼダは気付かず、気勢を上げていた。
「こっちにはモビルスーツだってある! 連中に仕掛ければ追って来るはずだ。コロニーの中じゃ自由には撃てない。地の利は我々に味方する!」
同調して他のシンパも気炎を上げていた。奥の物置から銃や手榴弾など武器を出し始める。
「オイ、お前たちは森の斜面に行け! 敵が降りてくるなら撃ち落すんだ」
ゼダがミサイル・ランチャーを放り投げた。軽々と受け止めたマリーダがにらんでいた。
「変なことを考えるなよ。お前のことを知っているぞ。ルチーナって、かわいいお友達がいるよな。難民キャンプで爆弾テロが起きたって不思議じゃない」
「戦う相手は分かってるつもりさ」
子供ずれした言いようにゼダは満足したのか、それ以上は何も言わなかった。きびすを返したマリーダの表情は見ていなかった。決意した顔だった。
――こいつは殺そう。
だが、まずはロンド・ベルのモビルスーツを撃破しなくてはならない。
「当たれっ!」
ミサイルは見事モビルスーツの脚部に命中した。マリーダの頭上を黒煙を引きつつ、背後の森へフラフラと飛ぶ。墜落とも不時着ともつかない、ラフな落ち方だった。
「姉さん!」
「分かってる!」
アンジェロの悲鳴に近い警告のときには、マリーダは次弾のミサイルを担ぎ上げていた。後続の敵機が迫る。
頭部から逆落としに降下するモビルスーツに、マリーダは必中のトリガーを絞る。
――当たる。
その確信とは裏腹に、敵機は地表近くで機体を反転させミサイルを逃れた。
「チッ」
小さく舌打ちをもらしたマリーダは、ランチャーを捨て森へと走った。
「どこへ!?」
「最初の奴を仕留める」
木々を左右にかわしながら、稲妻となってマリーダは駆ける。
「そこか!」
森の中から上空に撃ちあがる信号弾が見えた。
尻餅をついた姿勢の機体の前にパイロット・スーツが立っていた。高速のマリーダの視界にも鮮やかな白いスーツが入る。
「てやぁぁぁ!!」
裂帛の気合を放ち、マリーダは豹のように跳躍した。
必殺の飛び蹴りが命中する刹那、
――ダメッ!!
叱咤の声と共に人型のシルエットが突如現れる。パイロットを守るかのように、両手を広げていた。
――今のはっ!?
はっきりと見極める間も無く、マリーダはシルエットをすり抜ける。
「う、わっ!」
動転したマリーダは靴底全体で敵パイロットの胸を蹴り飛ばしていた。本来の爪先がめり込めば、命を奪ったかもしれない強撃だった。
地面に転がるパイロット・スーツはぐったりとしているが、同時に足先が細かく痙攣しているので死んでもいない。
パイロットを無力化した後、即座にコクピットに上がりモビルスーツを奪う。そのつもりでいたマリーダは、しかし、横たわる白いスーツを前に呆然としていた。
――なんだ、なんだったんだ、今の? あれはまるで、
その人影は一瞬だった。しかし、
――私、自身? いや、前のもっと子供じみた……。
鏡写しの姿にマリーダは思えた。
――それに、なんだか。温かい。
ぬくもりは白いパイロット・スーツからにじみ出してるようだった。マリーダは胸を押さえる。
――キュンキュンする。
自分の表現に思わず赤面する。
その顔面を熱い排気ガスがなめ回して行った。
「しまっ……!」
尻切れになったのは、別の敵機が直上から急降下してきたためだ。ミサイルをかわした機体だ。
スラスター噴射に揺れるワイヤーに向けてマリーダは走る。小破したモビルスーツのコクピットから垂れていた。パイロットが地上に降りたときに使ったものだろう。
「そこっ、動くな!」
モビルスーツのスピーカーで拡声された警告を聞いたとき、マリーダはワイヤーを手にしていた。敵のモビルスーツはビームライフルを向けていた。
――ジェガン・タイプに似てるがちょっと違うな。試作機か? いずれにしろ、賭けるか。
足元にはパイロットが倒れ、起きる様子は無い。仲間を殺す危険を冒してまでビームを発するとは思えない。
――よしっ!
マリーダが決意し、ワイヤーを巻き上げようとした、
その時!
「ジュドー、大丈夫か!? 起きろ、ジュドー・アーシタっ!」
敵機の拡声にマリーダは凍りついた。
「ジュドー、……アーシタ?」
エゥーゴの戦時徴用兵。ダブルゼータ・ガンダムのパイロット。
記憶の彼方から刷り込まれた怨念が黄泉返った。
「ガンダムは、敵!」
呪詛のように呟く。