沈黙は金では無い。    作:ありっさ

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22.5 小話は平穏の中で。

 

1、クリード、地獄の修業時代を語る。

 

注1:試験編や闘技場編より以前なので人並みに感情表現が豊かなクリード少年です。 

注2:この時点ではまだサキでは無くキョウコ呼びです。

 

 

「クリード君、今日は素晴らしい天気ですね。肌を撫でる爽やかな風…空気も澄み切っていて、ぽかぽかとした日差しが実に心地良い」

 

 とある日、とある場所にて。

 

 山から山へと掛けられた古めかしい木製の吊り橋。 その中腹にて女が一人、欄干に手を置いて柔らかく微笑んでいた。

 その堂々とした佇まいは一流と呼ばれる武人の風格を強く印象付け、吹き抜ける風にざぶざぶと波打つブロンドの金髪は一面に広がる麦の穂を想起させた。

 

「ええ、ええ、本当にそうですね。 暖かくてハイキングにはうってつけの日和だと思いますよ…! 所で“コレ”、そろそろ終わりにして帰りません?」

 

 見下ろせば紅葉、見渡せば秋の色。視界一杯に広がる艶やかなジャポンの四季。 

 それを心の底から楽しむ女性―——セフィリア・アークスの穏やかな口調と裏腹に、相槌を打つ銀髪の少年、クリード・ディスケンスの声色には明らかに恐怖と緊張の音が混じっていた。

 

「クリード君、何を馬鹿な事を言っているのですか。出掛ける前にちゃんと教えてあげていたでしょう? 貴方が行っているそれは“臨界行”と呼ばれる、一流と呼称される僧達がこなして来たれっきとした修行なのですよ? それを、初めてからたったの一時間弱でギブアップとは。実に情けない限りですねえ…」

 

 繰り返すが、現在、吊り橋の上にはセフィリアが一人のみ。 

 …ではクリード少年は何処に居て、何処から声を発しているのか。

 

「だってこの姿勢、凄い頭に血が上るんですよ? …って、ちょっと師匠!? 貴女、まさか、ワザと橋を揺らしてたりとか、していないですよね? 何だか、明らかに風と橋の揺れが一致していない気が、するんですが!? 師匠!? ねえ!?」

 

 先程より、更に切羽詰まった声で訴える少年。その視界を下せば雲一つない秋晴れが、上へ向ければさらさらと流れる渓流が。そこへ時折混じる紅葉の赤。

 少年から見える絶景は、上と下がぐるり180度逆転していた。 

詰まる所、クリード少年はセフィリアと呼ばれた女が立っている橋の丁度真下、そこから蜘蛛の糸の様に垂れ下がった一本のロープを両の足に巻き付けて、ぶらぶらと揺れ続けていたのだ。

 山と山の間を流れるこの美しい渓谷。その上空遥か数百メートルに設置されてから幾年、或いは数十年か。 

 否応なく風雪に晒され続けて経年劣化を隠せない吊り橋は、ぎしぎしと音を立ててその存在を主張し続けている。

 

「おや失礼な…ぷっ、私がそんな意地悪な真似を…くふっ! 愛しい弟子にする訳が…うぷぷっ、無いでしょう? 言い掛かりも大概にしておきなさいな、全く…!! ぷぷっ!」

 

「この野郎、いやこの陰険美女!! アンタ楽しんでるだろ!! …やめて、激しく揺らさないで!! ちょっ、視界がぐるぐる回って怖い怖い怖いぃぃぃぃ……!!」

 

 それは突然だった。 

 クリード少年の足元――この場合は少し上方と呼ぶべきか。 そこから妙に小気味の良い、ぷつりと云う音が聞こえると同時に、吊るされていた時と違う完全な浮遊感がクリードの全身を包み込んだ。 

 瞬きの間に移り変わっていく景色。空が遠ざかり、その代わりに蒼と紅が頭上に迫って来る。

 

「うわあああああああ、死ぬううううううう! 助けてえええええええええええ、師匠の砂糖中毒ぅぅぅぅぅぅううう!!!」

 

「おや? 少々、やりすぎましたか。 まあ下は結構な深さの川ですし、死ぬ事は無いでしょう。 …多分」

 

 不意に渓谷の間を木霊するソプラノの絶叫が途切れる。 

 セフィリアが欄干から身を乗り出して見れば、クリード少年がピクリともせずに激流に揉まれ、滝壺へ向かって一目散に流されていく所だった。

 

 修羅場は何時も唐突に訪れる。 

 土壇場に遭遇した時、込み上げる恐怖と死への畏怖を相対する者に悟られてはならない。心臓の皮一枚に仕舞い込んで、外側に溢れさせない様に克服する技術はこの先必ず役に立つ筈だ。 

 そうする事で()()()の様な悲惨な事態にならない様に少年を鍛え上げる。それが今回、ハイキングに訪れた目的の一つでも有ったのだが。

 

「全く、仕方のない弟子ですね。  ―——――よいしょっと」

 

 溜息を一つ吐いて、セフィリアは加重を感じさせない軽やかな動作で橋から飛び降りた。

 

 

__________

 

 

 

「…とまあ、一歩どころか半歩間違ったら死ぬ。 大体がそんな感じの修業ばかりだったかな」

 

 ああ、そうだ。丸一週間ぶっ通しで活火山に放り込まれて、魔獣と勝ち抜きデスマッチを強制させられた挙句、ガスを死ぬ寸前まで吸って中毒になった所を山頂から一時間で走って戻って来いとかも有ったなあ。

 朝、目が覚めたらぼろぼろのゴムボートに乗せられていて、夕飯までに沖から帰って来いとか、あったあった。

 懐かしむ様に遠い目をしながら。クリードは悲惨な修業時代のメニューの数々をぶつぶつと呟きつつ、指を折って数えている。

 

「えぇ~。 ま、まあクリードさんが高所恐怖症になった理由は十分過ぎるほど理解できましたよ…」

 

(良かった、師匠がそんなセフィリアさんの指導を私で繰り返そうとしないで。あのクリードさんがこんなになるまでの過酷な修業なんて。 私じゃあ到底耐えられそうにないし)

 

 そんな感想を胸の内で零し、まあ所詮私には関係ない話か、とほっとキョウコが胸を撫で下ろした瞬間だった。 

 全くの唐突に、一切の気配を立てずに。キョウコの両肩に暖かい掌が置かれる。

 

「わっひゃあ!! …って、セフィリアさんですかぁ、ビックリしたー」

 

「失礼、何やら面白そうな話が聞こえましたので。」

 

 何やらクリード君のトラウマがどうとか。 

 そう言いながら広げて見せたチラシには、何処かの誰かのトラウマをぐりぐりと錆びたナイフで抉る、懐かしい風景が印刷されていた。

 

「何やらこの付近で隠居暮らしをしている、不可思議な衣装を身に纏った蟲使いの男が居るとの有用な目撃情報が入りましてね。 折角ですし、今動ける星の使徒のメンバーでハイキングに出掛けましょうか?」

 

 何気なく振り向いたキョウコは見た。クリードの額をつうっと流れる一筋の冷汗を。

 

「すいません師匠、拒否権は?」

 

「ありません」

 

 素晴らしい真顔でセフィリアが告げる。

 

「じ、じゃあ、私はこれから自主練が有りますので~…」

 

 素晴らしいスピードでキョウコが逃げの一手を打った。

 

「…キョウコ、僕と一緒に逝ってくれるよね?」

 

 そして、素晴らしい笑顔でクリードがキョウコに告げる。

 

「うわあ、クリードさんったらすっごい良い笑顔だぁ…」

 

 逃がさないとばかりに両の手をがっしと握りしめられ、キョウコは思った。

  …本当なら飛び上がるほど嬉しい筈なのに、微塵も喜べないのは何故だろう。

 

 

 

2、クロロ、初めての合コン。

 

注:時系列的にはハンター試験編の後です。

 

 ギィと椅子を軋ませて、パソコンからクロロの方へ振り返ったシャルナークが僅かに目を見開いた。

 

「えっ、クロロって合コン行った事無いんだ。 …何か意外」

 

「…そうか?」

 

「うん、何かそう云うのには手慣れてるイメージだった」

 

 手元の缶コーヒーのプルタブを開けながら、もう一本をクロロに投げ渡す。

 

「クリードに聞いた話だと、合コンというヤツはモテない男女が集まって相手を見繕う場らしいじゃないか。生憎と、俺にはそんな必要は無かったからな」

 

 欲しい物は買わずに奪う。それは商品も女も変わらないという事か。まあ、クロロ位の顔面偏差値になると相手から寄って来るもんなぁ…。

 そんな勿体も無い事を思考しつつ、シャルナークはコーヒーに口を付ける。不純物が多分に含まれた独特の苦みが口内でじわじわと広がっていく。

 

「うぇ、このコーヒーまっず~。 そういえばウボォーも同じ事言ってたね、欲しい物は奪い取るって。 団長のそれとはちょっとばかし方向性は違うけれど。 兎にも角にもご立派、盗賊の鑑だ。 …ってあれ? クロロ、もしかして今クリードって言った?」

 

「ああ、そもそもこの話を持ち込んで来たのはアイツからだ」

 

 常人より少しばかり回転の速い脳内で思考するが、シャルナークにはどうにも合コンと彼のイメージが重ならない。 

 先に考えた様に、クロロに負けず劣らず上から数えた方が早いレベルのイケメンとしてインプットされているクリード・ディスケンス。シャルナークには彼が女に飢えている図がどうしても想像できなかった。 

 そんな彼の様子を見て、してやったりと言いたげな表情でクロロは薄く笑った。

 

「シャル、言っておくがな、別にアイツが女に飢えているから手伝いに行くとかいう話じゃあないぞ?」

 

「いや、それはそうだろうけどさ、じゃあ何で?」

 

「極々単純な理由だよ。本当なら俺とクリードがサシで飲むだけの話だったのだがな、何時の間にやらアイツの女にそれを聞き付けられてしまったらしく、連れてけと五月蠅く喚き散らしたらしい。 それで、それならもう少し人数を増やして合コンにしようって事になっただけの話だ」

 

「…成程、それで俺にクロロのフォローに回れって事ね」

 

「流石に察しが良いな、そうしてくれると助かる」

 

 先に自分が飲んで不味いと言ってしまった為か、クロロは缶コーヒーを開けようとせず、掌で器用にクルクルと回して弄んでいる。

 

「まあ、消去法だよね。 ウボォーは論外だし、ヒソカは変態だし、フランクリンやボノは見た目で怯えられるだろうし、フィンクスはチンピラっぽいし。 …ん? ノブナガは? 髪下せば割とまともじゃない?」

 

「…ああ、お前は知らないのか。 アイツはな、酒飲むとヤバいんだ。 だからNG」

 

「ヤバい? …ごめん、具体的にどうなるの? 全っ然想像つかないんだけど」

 

 う~ん、見境なく居合で人を襲い始めるとか?

 ああでもない、こうでもないと首を捻るシャルナークを見やったクロロはそのまま視線を空へ投げ、遠い目をしながらぼそりと呟いた。

 

「……踊るんだよ。 こう、腰に手を当ててな、扇を振って、やたらくねくねしながら…」

 

 何、そのつまらない冗談。

 …そう笑い飛ばそうとしたシャルナークだが、クロロの真剣な表情を見るに、どうやら冗談でも、出まかせでもないらしい。

 扇を片手にキレッキレのダンスを披露するノブナガを想像し、シャルナークは軽く嗚咽を漏らした。

 

「ええ~? 何それ、気持ち悪っ!!」

 

「だろ? …これ、俺が話したってノブナガに言うなよ? 前にやらかした時の事をまだ気にしてるっぽいから」

 

 兎に角、当日は宜しく頼んだ。 出来高に応じて報酬は払う。

 結局、クロロは缶コーヒーを飲む事無く机に置きなおして部屋を出て行った。その後姿を見送ってからシャルナークはパソコンへと向き直る。

 

「…あっ、クロロに場所と女の子の詳細を聞き忘れてた」

 

 

 

 後にシャルナークはこの合コンについて感想を求められた際、他の旅団メンバーにこう語っている。

 

 ―——――ああなる事を知っていれば絶対に参加なんかしなかったのに。 俺の知ってる()()()は絶対あんなじゃない。 あれはきっと、人間の皮を被った魔女だったんだ…と。

 

 

 

 とうじつ!!

 

 

 前髪を下し、額に白いヘアバンドを付けたクロロはラフなジャケットに身を包み、好青年めいた笑みを浮かべてシャルナークの左に座り、居酒屋の一室で本を読んでいた。

 それを横目に眺めつつ携帯電話を弄っていたシャルナークがふと顔を上げ、クロロの左側で本を読み耽っていたクリードに話しかける。

 

「クリード、中々良い所だねこの店。値段も良心的だし、何より完全個室でこの広さなのは有り難いや」

 

「そうか、気に入って貰えたなら何よりだ。 …ちなみに僕のお勧めは裏メニューの…」

 

 次の瞬間、クロロとクリードが同時にピクリと身体を震わせる。 何事かと身構えたシャルナークも、暫しの間を置いて理解した。 

 

 —――ああ、今、この瞬間から戦争が始まるのだと。

 

 

「クリード、今入って来た三人組がそうか?」

 

「ああ、そうだ。 …言い忘れていたが、三人ともかなりのレベルの使い手だよ。 一応忠告はしておくけれど、下手な真似は止めておいた方が君達の身の為だ」

 

 火傷では済まないかもしれないからね。 

 何時にない程の真顔でそう言い放つクリードの表情に真剣さを感じ取り、シャルナークはごくりと生唾を飲み込んだ。

 

「(ヒョホホホ!流石に彼女のセレクトなだけは有るだわさ、超が付く程のイケメン揃いだわさ!! 今夜は)フィーバー…じゃなかったわさ、遅れてごめんなさい、ビスケットです、ビスケって呼んで下さい♡」

 

 扉を勢いよく開け放ちながら現れたのは、どう見ても十代前半にしか見えない容姿の可憐な少女。 絹の様な細さの金髪を分けたツインテールが実に可愛らしい。

 そんな危ない感想が浮かびかけたシャルナークが、寸での所で自分を取り戻してクリードに詰め寄る。

 

「(フィーバー?) …ってクリード、どう見ても子供じゃないか! この国ではあんな年齢から酒を飲めるのかい? …もしかして、クリード、ああ云うのが好みなの!?」

 

「ん? ああ、そういう事か。 問題ない、ああ見えて彼女はゴジュウっ……。 い、いや、十五歳、の間違いだった、済まないビスケ、さん…」

 

「うふふ、ビスケさんだなんて、そんな他人行儀な。 ビスケで良いんですよ♡」

 

 少女から絶対零度の視線を浴び、冷汗を滝の様に流しながらもクリードは辛うじて堪えてみせた。 

 この時、隣に座っていたシャルナークが本日一度目の死の予感を感じていた事を記しておく。

 

「うふふふふ、パーム・シベリアです、宜しく…」

 

 次いで自己紹介したのは、腰元まで伸びた長い黒髪をざばらに流し、乱れた髪の間から淀んだ瞳が爛々と覗いている女性だった。

 

「OH…。クロロ、ああいうオバケが居るってマチに聞いた事が有るよ、ジャパニーズゴーストでさ…TVから出て来て首を締めあげるんだって…」

 

「あら、怨霊だなんて…。 失礼しちゃうわ、私はこうして生きて居るっていうのに…。 そう、私は生きて、ノブ様にたっぷり愛して貰わないといけないんだから…」

 

 うふふ…うふふふふ…。 くふふふ…。 

 

 先の少女に負けず劣らず、異様な気配を身に纏った女にじっとりと見つめられ、シャルナークはゴクリと生唾を飲み込む。

 

「あら、よくよく見れば貴方、中々に素敵な顔立ちをしているわね…。 まあノブ様には遠く及ばないにしても、及第点よ、喜んでいいわぁ…」

 

「は、はあ…。 どういたしまして?」

 

 生返事を返した所を、有無を言わさずシャルナークの隣へパームが座りこむ。 

 疑問を感じてちらりと見れば、パームが座っていた場所に移動して居た筈のクリードは件の少女に首根っこを掴まれて壁際へと連行され、何事かを熱心に囁かれている所だった。

 

「お待たせしました、どうやら私が最後の様ですね」

 

 そして、最後に現れたのは…。

 

「どうもー、セフィリア・アークスでぇす!  今日は気合入ってるんでぇ、ξ・∀・)ノヨロシクゥ!!」

 

 反応できず、固まる二人。 ウインク+親指を立てて華麗に登場したセフィリアを見て、男性陣の中で唯一固まっていないクリードがぼそりと呟いた。

 

「師匠、流石にそれはきついですよ…」

 

 

 ―—――—――瞬間、店内に轟音が響いた。

 

 

 それなりの高さの有る天井の梁。そこから力なく落下したクリードの胸元を容赦なく掴み上げ、クロロが詰め寄る。

 

「おい、クリード。 アイツが来るなんて聞いていないぞ。 ...お前、俺を騙したな? これは契約違反だ、悪いが此処で帰らせてもらう!!」 

 

「ちょっ、クロロ、俺は!? 置いてけぼりにする気!?」

 

「だ、駄目だ、君は僕にあの三人の相手を纏めてさせる心算か?」

 

 ごほごほと咳き込みながら、クリードがクロロの腕を振り払って立ち上がる。

 

「知るか、俺は自分の命の方が大事なんでな。 どうしてもというなら…そうだな、報酬、追加で三冊だ。 それでこの茶番に付き合ってやる」

 

「…ぐっ、背に腹は代えられない、か…。仕方ない、その代わり、仕事はきちんとこなしてくれ」 

 

「くくっ、良し、契約成立だ。シャル、予定通りフォローを頼む」 「り、了解!!」

 

 

「はいはい、男同士のお話はそれ位にして、楽しい合コンを始めるだわさ!!」

 

 

 以下、ダイジェストで合コン? の様子をお楽しみください。

 

 

 ※王様ゲーム?

 

「ヒョホホホホ、王様は私だわさ! さあどんな命令をしてやろうかしらね、グフフフ、グフッ! …よし、決めたわさ、一番と三番が抱き合ってキスをするだわさ!!」

 

 勿論濃厚なヤツじゃ無いと認めないだわさ。 鼻息荒く宣言するビスケと裏腹に、男達の意気は海溝の底を漂う深海魚の如く、異様に低かった。

 

「どうしようクロロ、一番…俺だよ…」

 

「安心しろシャル、骨は拾ってやる、存分に散って来い」

 

「(この野郎、自分が違うからって嬉しそうにしちゃってさあ) …くっ、後で覚えてなよクロロ」

 

「あっ、因みに三番は僕では無いよ」 「私でも有りません」

 

 クロロでも無い、クリードでも無い。 セフィリアでも無い。 王様はビスケ。 …では、三番は誰?

 

「うふふ、貴方に限ってそんな心算は無いでしょうけれど、一応言っておくわ。 ニガサナイから……」

 

 急速に冷え込む周囲の温度。 シャルナークには床を這いずる様にして、異様に低い姿勢でじりじりとにじり寄って来るパームが生きて居る人間だとは到底思えなかった。

 

「あ…あ….あああ……や、やめ…!!」

 

 

  ズギュルズギュルズギュルズギュル!!

 

 

 そんな擬音を立てて唇を貪り合う二人を見て。 

 男二人は戦慄し、ビスケは興奮し、セフィリアは…一心不乱に焼き鳥を串から外していた。

 

「ほほほ、こっちが焼けるほど情熱的ですこと。 パームったらキスに魂、籠ってるわさ~」

 

「…魂を吸われているの間違いじゃないのか?」

 

「奇遇だなクロロ、僕も同意見だ…」

 

「は、激しいですねぇ…」 ←から揚げにレモンを掛けながらの一言。

 

 

※ヤマノテ線ゲーム?

 

「うふふ…古今東西、拷問器具の名前。 せーの、ギロチン♡」

 

「苦痛の梨!! グフフ…」

 

「スパニッシュ・ブーツ、で良かったですか? クリード君、合ってます?」

 

「大丈夫ですよ師匠。…ガロット」

 

「アイアン・メイデン」

 

「え~っと、 …っておい、ちょっと待って待って!! 怖いよ!! 何で合コンに来て拷問器具の名前を羅列しなくちゃいけないんだよ!! そこは普通、スイーツとか本の名前とか、当たり障りの無いお題にするだろ!! ってーかクロロもクリードも何普通にやってるんだよ!! 突っ込めよ!! 頼むからさ!! 一瞬俺がおかしいのかと思っちゃっただろ!!」

 

 なけなしの勇気を振り絞って、先程のショックから辛うじて復活したシャルナークが突っ込む。 

 

「…ふむ。 確かに本なら俺が有利だな」

 

 顎に手を当て、クロロが考え込む仕草を見せる。

 

「あっ、スイーツなら私の得意分野です。 何百個でも挙げられます!」

 

 若干酔いが回り始めたセフィリアが赤みが差した顔を綻ばせてそう言えば、

 

「アタシは、世界イケメンランキングなら何も見なくても唱えられるだわさ! …まあ、今日は其処にもう一人加わったんだけどねえ…ぐふふ….」

 

 何時の間にやらかなり酔いの回ったビスケがクロロを怪しげな眼で見つめつつ嗤う。

 

 シャルナークは怯えていた。この場に居る六人の内、まともに会話が成立する人間が只の一人も居ない恐怖に。一体何時までこの地獄の宴は続くのか。早く帰りたい。一刻も早く。

(もう嫌だ、こんなの、俺が知ってる合コンじゃない。 こんなの、合コンの名を借りた魔女達の晩餐会だよ…)

 

 堪えきれず溜息を吐くが、その腰には依然としてパームががっしと抱き着いたままだった。

 

 

 

 

 

 どうにかこうにか女たちの魔手から逃れた帰り道、疲弊しきった表情で歩くシャルナークの横でクロロは何事かを考えていた。

 因みに、クリードはクロロ達が二次会という名のサバトから無事逃げ出す為の生贄として女達に捧げられた為、この場には居ない。

 

 

「ふむ…」

 

「どうしたのクロロ、また何か考え事?」

 

「いや、案外というか、意外というか。 合コンという奴も悪くなかったと思っていた所だ…」

 

「!?」

 

 

 

3、セフィリアさんハード

 

注:良い子はクリムゾン コピペで検索してはいけませんよ? セフィリアお姉さんとの約束です。

 

 

 ジョギングの帰り道、漂って来た甘い香りに釣られて単身で敵地へと乗り込んだセフィリア。 

 しかし、それはかつてセフリィアに店の商品を冷蔵庫の中身まで全て食べ尽され、恨みを募らせていた店主の仕掛けた巧妙な罠だった。

 減量の最中だった筈の彼女の目の前に、職人が趣向を凝らした至高の甘味の数々が次々と並べられていく。 

 

 こんな砂糖の塊、食べてはいけない筈なのに、どうして…!?

 

 整然と並べられたスイーツ達が放つ芳香が、容赦無く捕らわれの身に堕ちたセフリィアの精神と忍耐力を削っていく。

 

「くっ、何時もの様に好き放題に食べる事が出来れば…! この程度のスイーツの量を躊躇う事なんて無いのにぃ…!」

 

「良かったじゃないですか、ダイエットの所為にできて」

 

「んんんんんんんッ!! (いけない、このショコラムースの舌触りの良さと来たら…! 生地の絶妙なしっとりさと相まって、美味しすぎるっ…!)」

 

 優越感に卑しく顔を歪めた店主が、手にしたインスタントカメラで恍惚の表情に染まったセフィリアの顔を激写していく。

 

「へへへ、生お姉さんの生クリームこびり付きトロ顔ゲ~ット。 有り難く店の宣伝に使わせて頂いても宜しいですかね?」

 

 有無を言わさずテーブルの周囲を取り囲んだ店員達から容赦なく浴びせられるカメラのフラッシュ。 

 

「くうっ……!(耐えなきゃ、今は耐えるしか無い…っ)」 

 

 現在の時刻は昼を回ったばかり。当然、店内には他の客達も存在する。

 そんな中、あられもない姿を衆目に晒される恥辱、フラッシュの中でケーキを頬張らなくてはならない余りの屈辱にセフィリアの身体がぶるぶると震え始める。

 

 小腹を満たす分だけ。少しだけ食べて、直ぐに店を出る心算だったのに。 悔しい、こんな筈では無かった。  

 

 未だかつて味わった事の無い程の屈辱感と焦燥。 …とにかく、一刻も早くこの魔境から逃げなくては。取り返しの付かない事になる。

 セフィリアは必死の思いでテーブル脇へと置かれた伝票に必死に手を伸ばすが、甘味に蕩けた身体は意思に反して知らず知らずの内にフォークを掴み、口直しの名目で追加注文したパンプキンパイを等間隔で切り分けていた。

 

「お姉さんのダイエットとやらは私に崩される為に続けて来たんですものね?」

 

 一心不乱にパイを頬張るセフィリアの耳元で、本日のお勧めケーキをワゴンからテーブルへ移し終わった店長が厭らしく囁いた。

 

「あああああああッ!!」

 

 悔しい、でも食べちゃう。 ぱくんぱくん。

 

 

セフィリアさんハード2

 

 

 

 セフィリアが甘味の誘惑に屈し、一生の不覚とも云える無残な敗北を喫してから早くも一時間が過ぎた。 

 彼女にとって永遠にも等しく感じられた苛烈な甘味の攻撃は、依然として止む事無く繰り返されていた。

 入店当初、彼女の心の内に僅かに残っていたダイエットへの未練はとうに消え失せ、今では店員達から一定の間隔を置いて只管に与え続けられる至上の快楽の波。 その匠の技に翻弄されるばかりの哀れな雌と化していた。

 

「おいお前ら、お姉さんが喜んでいらっしゃるぜ? とっておきのスペシャルジャンボパフェを用意しろ、生クリームたっぷりでな…!」

 

「んんんんん!! (いけない、生クリームの上に乗った苺が大好物なのを悟られたら…!)」

 

「そうだお姉さん、ケーキばっかりでそろそろ口が乾いて来ただろう? 口直しに当店自慢の濃厚生クリーム入りカフェラテは如何かな?」

 

 もうひと押しでこの女は完全に堕ちる。ウチのスイーツの魅力に屈するのだ。 

 執拗なまでに繰り返されたスイーツフルコース責め。その余韻にふやけきったセフィリアの表情から店長はそう感じ取っていた。 

 

 …そして、それは正しかった。

 

「…みます」

 

「へへ、良く聞こえなかったなぁ。 済まないがもう一度言ってくれよ、大きな声で」

 

「飲みます、そのカフェラテを飲ませて下さい!! あっ、ついでにこの特製シュークリームを追加で三つ程お願いします…」

 

 かつての世界での時の番人、クロノナンバーズ【Ⅰ】、セフィリア・アークスが心の底からプライドを圧し折られ、店長に敗北を認めた瞬間だった。

 

「へへへ、そう来なくっちゃなあ?」

 

「店長、先程仰られていた品、出来上がりましたぜ!!」

 

 歳の若い店員が皿を片手に持ったままの姿で厨房から現れる。

 

「…おっと、常連様の為にサービスで作らせていた宇治抹茶入りティラミスが出来上がってしまったか。 お腹の贅肉が何時までも取れないだろう?」

 

「あああああああッ!!(悔しい、こんな屈辱を…。 でも…食べ過ぎてしまう…!)」 。

 

 

 

 

 ―――—―———その後、セフィリアは後から突入して来たクリードによってSEKKYOUされた。

 

 

 




んんんんんッ!!(いけない、シリアスが書きづらくて安易なネタに逃げた事を読者様に悟られたら…!) 


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