沈黙は金では無い。    作:ありっさ

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視点ごっちゃごちゃ。  作者、筆力の無さを痛感するの巻。


25.長い夜、短い生。(中)

【Ⅵ—3】

 

 

「う~ん残念、またハズレか♠」

 

 踏みしめた靴底がぐじゅりと湿った音を立てる。 

 懐に小型の無線機を仕舞い込んで、誰に聞かせるでも無い独り言と共にヒソカが立ち上がった。その手の中では斑に赤が散ったプレートがクルクルと回転している。 無残に息絶えた受験者から頂戴した物だ。 

 現在、ヒソカの手元には他の参加者から頂戴した一点分のプレートが二枚のみ。 四次試験を通過するには六点分、単純に考えると残り四点分ものプレートが必要な計算である。只、今のヒソカにとっては大事の前の小事、些末な事柄に過ぎなかったが。

 

 みすみす極上の御馳走を逃した腹いせという訳でも無いが、苛立ち紛れに適当な獲物を見つけて瞬殺してみたものの、やはり根本的な解決には至っていない。 

 

 ―――こうもあっさりと死なれると、つまらないのだ。 

 

 確かに殺しは楽しいけれども、それでハイお終い、満足だ、プレートを集めよう♡ とは行かない話だった。 何故なら、今現在ヒソカが求めているのは『ソレ』では無くて、未知の強敵や能力と戦うスリルや興奮、ともすれば死の奈落へ突き落されるかもしれない、絶頂に至る事が出来る麻薬染みた快楽なのだから。

 

 満たされない不満の代わりに溜息を一つ。しゃがみ込み、視線を下げた先には死に立てほやほやの躯が鎮座している。

 断続的に躯の首筋から吹き出る赤黒い血潮。 何時の間に、何処から飛んで来たのか、それに群がる好血蝶。 

 その光景をぼんやりと眺めていると、頭に昇った血が少しずつだが冷えて来るのが分かる。

 

 ほんの少しばかり理性の柱が戻った頭の内で、ヒソカはこれからどうするかを思案し始めた。その矢先。

 

「ん?んん~~~!?」

 

 徐に立ち上がったヒソカが視線を上げて片手で丸を作り、右目に宛がう。 戦闘直後で冴え渡る彼の鋭敏な嗅覚と第六感が、遥か先の森林に存在する新たな玩具の存在を伝えていた。

 

「…面白そうな三人組、見~つけた♡」

 

 

◆◆◆

 

 

「…はいはい、じゃあ明後日の正午に島の中央辺りで待ち合わせで。 …君も大概しつこいなあ。 分かってるよ、見つけたらスグに連絡するから。 …はいはい、じゃあね」

 

 何だか知らないけれど、電話越しでやたらとハァハァ言っていたヒソカとの通話を終了する。 バックミュージックにおっさんの悲鳴が聞こえて居た様な気がするけれど、まあそれはどうでも良い事だな。

 

 通話の内容を要約すると、懲りずにクリードを追い掛け回してたら隙を突かれて自分のプレートを奪われた上に、まんまと逃げられて現在激おこプンプンです。 もしクリードを見つけたら教えてね♡という事らしい。

 今さっき逃げて行った弟子の方なら兎も角、クリードの居場所何か知らないし、どうでも良い。 何処かでばったり出会ったら、さっきの件を聞いておくかな。 精々がその程度だ。

 

 どうでも良い事を頭の中から追い出して、これからどう動くかを思案する。 点数は早々に四次試験の通過ラインに届いちゃったし、特に現時点でやっておくべき事も無い。 

 

 ―――良し、とりあえず明日まで寝るか。

 

 そうと決めたらすぐ行動。こう見えて、俺は睡眠の邪魔をされるのが一番嫌いなのだ。

ので、安眠用に穴を掘ろうと右手を地面に突き刺した瞬間だった。 またしても懐から着信を知らせる振動と音が鳴り響き始めた。

 

 何だ? 今話したばかりでまたヒソカか? 念能力と同じでしつこい奴だな。と思いかけた所で気が付いた。 この独特の高周波の音は――ゾルディック専用無線、しかも緊急時のコールサイン。 

 

 う~ん、何だろう? 親父が標的に返り討ちにされたとか? …幾ら何でもそれは無いか。 裏山が噴火したとか? それならまだ有りうるかもしれない。

 

 まあ、何にせよ通話ボタンを押して内容を聞かない事には始まらない。早く出ろとばかりにぶるぶる震えて耳障りな音を立てる無線機。その真ん中に有る星型のボタンを何時もより少し強めに押し込んだ。 俺の睡眠時間を削った罰だ。

 

 

 

 

 

 

「…うん、大体状況は分かった。当たり前だけど、居場所を見失わない様に追跡だけ宜しくね。 …はいはい、こっちも心当たりに聞いてみるから。 何か進展有ったらスグに報告宜しく」

 

 

…カルトが家出したらしい。それも、あの忌々しい金髪女の手引きで。 

 

 呑気に欠伸をしていた先程とは状況が180度変わってしまった、可及的速やかにこの島の何処かに潜んでいるクリードを探し出して事情を聞き出さなければ。

 この島の地理と、周囲を廻る海流の流れを眠気がこびり付いて来る頭の片隅から思い出し、ヒソカから聞かされたクリードが海に飛び込んだ場所を脳内でマーキングする。

そこから此処までの時間を考慮して、最終的に辿りつく場所…。

 

「駄目だ、全然分からないや。 ……勘だけで言うと、この辺りかな?」

 

 

 

【Ⅵ—4】

 

 

 薄暗闇に乾いた衝撃音が響く。 

 響いたのはクラピカさんの頬っぺた。 響かせたのは私の掌。 はっと我に返って謝罪の言葉と共に差し出した私の手。少しだけ迷う素振りを見せていたものの、クラピカさんは手を取って立ち上がってくれた。

 

 何にせよ、立ち直ってくれて良かった良かった。これでレオリオさんを入れて三人組である。 夜が明けかけているとはいえ、まだ辺りは暗いしお腹は空いたし、変態は襲ってくるし、いい加減に一人が寂しくなって来た所だったので、お供が出来たのは渡りに船なのだ。 これで何か食べる物を恵んでくれたなら百点満点なのだけれど…。

 

 

 それは丁度、此処までの四次試験、三人それぞれの状況を教え合ってほんわかした空気がそこはかとなく漂い始めた頃だった。 

 

「…という経緯で、レオリオと一緒に行動している訳だ。 甚だ不本意ではあるがな」

 

「はっ、さっきまでメソメソしてやがった癖して、偉そうにしてんじゃねーよ」

 

「何? 訂正しろレオリオ、私はメソメソ何てしていないぞ!!」

 

「こいつ、立ち直った途端にこのガキは…。バレバレの嘘こくなってのクラピカ!! ヒソカ怖いよ~~っ!! つっていじいじメソメソしてたじゃねーか」

 

「ぐぅっ!! う、五月蠅いぞ、レオリオの分際で!!」 「お? やる気か? 相手になるぞ?」

 

「あ、あはは…。 ~~~っ!? そこに隠れているの、誰?」

 

 背筋に氷柱を入れられた様な、言い様の無い寒気がいきなり私に襲いかかる。 視線を感じた先へ振り返り、私に出来る限りで速やかに警戒態勢に入った。

 

 

「―――へえ、面白い話じゃないか、是非ボクにも聞かせておくれよ♡」

 

「…ッ!!」 「ヒソカだと!? どうしてこんな所に居やがる!!」

 

何でやねん!!

 

 星の使徒に所属する前にカンサイに住んでいた――訳では無いが、心の内でそう突っ込まざるを得なかった。

 変態去って、また変態。 針男から逃げた先にピエロ男。全く面白くない、冗談にもなっていない。

 

「二人とも、直ぐに此処から逃げて下さい!! 私が時間を稼ぎます…急いで!!」

 

「おやおや、酷いなあ♠ ボクはまだ何も言っていないし、していないだろう?」

 

「生首を掴んだままで何を言っても説得力皆無ですよ!!」

 

 ここから先へは行かせない。 有らん限りの勇気を振り絞って、私は両手を力の限り、横へと伸ばした。

 

 

【Ⅶ—3】

 

 

 後ろ手に釣り竿を構え、狙いを付け、標的を目掛けて振るう。 

 

 為す術無く激流に流された先で出会ったゴン君。 彼がヒソカに一矢報いる為の特訓を再開してから、早くも半日余りが経過していた。 僕が来る前、試験が始まってから間を置かずに此処に来て振っていたらしいから、もう丸一日は竿を振り続けている訳か。

 愚直とは正にこの子の事を表す言葉だと思う。 愚かなほどに真っ直ぐ。 誓っても良いが、悪い意味では無い。受験者達がプレートを狙ってそこらをうろうろしているこの現状で、無心になって一つの事に集中していられるのは一種の才能と断言しても良い。

 

 …というか、僕がゴン君ならまずヒソカを狙わない。狙われる事は有っても狙わない。単純にリスクが高すぎるのも有るし、このそこそこに広い島の中を闇雲に動いて他の参加者に追い回される面倒の方がリスクとして大きいからだ。

 それよりは、多少の手間を掛けてでも自分のプレートを守りながら三点分のプレートを集める事を優先するだろうな。 

 

 とまあ、そんな事を考えている僕は何をしているのかというと、集中しているゴン君の邪魔をしない様に少し離れた場所に座り、疲労が溜まらない程度に薄く、それでいて最低限の範囲をカバー出来る距離の【円】を展開していた。 …今の体調と地形等を加味して、大よそ半径50m位か。 これが広いのか狭いのかは、人と比べる機会が滅多に無いのも有ってイマイチ分からない。まあ正直な話、ウチの師匠が規格外過ぎるだけの気もしないでも無い。あの人、鼻歌交じりに一km位有る【円】を自在に動かして索敵したりするからなぁ。 

 

 この間何か、偶にふらっと家を訪れてはタダ飯を喰らいに来る謎の中華風衣装を身に纏った老人(といっても上から数えた方が早いレベルの熟練の使い手)相手に、自分を中心にして球状へ変化させた【円】を張り巡らせて「流水制空k…ゴホン!!」とか良く分からない事をやっていたりしたのを調理の合間に横目で見ていた。最終的に老人の方も同じ事をやり出して大層、呆気に取られた覚えが有る。 

 下を見ればキリが無いが、上にもまた、存外に化け物が犇めいているという事か。

 

 …脱線し掛けた話を戻すが、【円】という技術は念能力の他の応用技に比べて精神的疲労が格段に激しい。 というのも、広げたオーラの内側に有る物や外から入って来る物全てを、視界という制限フィルターを通さずに強制的に脳で認識してしまうからだ。 

 いうなれば、昆虫の複眼に近いかもしれない。 当然と云えば当然だが、人間の脳は多角的に複数の情報を取り込み続ける様な無茶に耐えられる様に出来てはいないから、時間と共に加速度的に疲労が蓄積して行く訳だ。 

 平気な顔をして長丁場の戦闘にバリバリ使う前述の二人がおかしいんです、本当に種族:人間にカテゴライズして良いモノなのか迷うレベルである。

 

 誰に向けてでも無く、脳内で言い訳と解説を展開している最中、【円】の末端に近づいて来る動体が一つ。

 

(…南南西、約30m先の木の陰に人間の形が一つ。 動き方からして男、それなりに腕が立つ…か)

 

 例え一点分でも貰っておくに越した事は無い。 瞬きの間に意識を戦闘モードに切り替えると、精孔を閉じてオーラを体内へ仕舞い込む技術——【絶】を使って一瞬で気配を絶ち、師匠直伝の無音歩行術で間合いを詰める。 

 

 ―――良し、発見。 この静かな湖畔で周囲に悲鳴が響いてしまっては少々不味い。 何より、折角頑張っているゴン君の邪魔をしたくは無い。 ので、まず最優先で喉を潰し、次いで鳩尾に肘を減り込ませる。蛙の様な鳴き声を発しながら崩れ落ちた男を手早く地面に寝かせて身体を改めさせて頂く。 

 誤解の無い様に予め弁解しておくが、僕はソッチの気が有る訳では無い、これは試験を突破する為に必要不可避な事なのだ。

 

「…残念、彼も自分のプレートだけか」

 

 さながら誘蛾灯の如く、特訓中のゴン君に引き寄せられる様に近づいて来るさもしい受験者を不意打ちで締めてプレートを頂く。 無駄が無くて素敵、正しくWin-Win。これで一点分が二つ、ヒソカのプレートと合わせると三つか。 

 

 …あれ? 何時の間にやら点数が合格ラインに届いているじゃないか。 といっても、44番はゴン君の欲しがっているプレートだしなぁ。

 

 【円】を再展開しつつ、なるべくゆっくりと音を立てずに元の場所へ戻ると、ゴン君が項垂れていた。釣竿を脇に放り出して。

 僕がプレート漁りに夢中になっている内に誰かにやられたのか? と焦りつつ考えたが、見た所何処にも怪我は見られない。 

 

 とりあえず、何が有ったか話を聞いてみよう。その一心で隣に座った僕に気付いたゴン君だが、一度こっちを向いて、また項垂れてしまった。

 

 

「何か、有ったのかい?」

 

 あっ、しまった。沈黙に耐えきれず、先に話し掛けてしまったではないか。危うくタイトルを回収してしまう所だった。危ない危ない。

 

「…何て言うか、クリードさんって凄いよね。 ヒソカもそうだけどさ」

 

 その一言で僕は察した。 成程、珍しくゴン君が神妙な顔をしているとおもったらそういう事か。子供らしく無邪気に見えて、案外考えているらしい。 考え無しに動く某師匠にも見習って欲しい物である。

 

「幾ら頑張って努力しても、オレ何かじゃあ一生掛かっても追い付けないんじゃ…。 そうやって考えだしたらさ、こうやって釣竿を振っている事も全部無駄何じゃないかって思えて来ちゃって…」

 

 こういう場面に出会った時、僕は何時も躊躇してしまう。 僕では無く、()()()()()()()()()()()ならどうするべきかを考えてしまうからだ。

 師匠なら、横っ面を張り飛ばして無理やりに立ち上がらせるだろう。サキ君なら、きっと親身になって話を聞いて、一緒に解決方法を模索するだろう。

 

 では、()()()()()()()()()()()ではない、僕なら?

 

「ゴン君。 君は一つ勘違いをしているね。 …努力が無駄になる事、それ自体はこの世の中で多々有るけれども、無駄な努力何て物はこの世には存在しないんだよ」

 

「そう…なのかな?」

 

 此処まで根気良く頑張っていたし、少し位ヒントを上げても罰は当たらないかな。 

 そう考えた僕は腰を屈めてしゃがみ込むと、右手で足元の小石を一つ掴んでゴン君に投げつけた。 

 

「わっ!? いきなりどうしたのさ、クリードさん」

 

 問い掛けには答えず、もう一度。 今度は左手の石を投げつける。 

 先程と同じ位の速度と軌道で楕円を描いて飛ぶ石礫。 当然と云えば当然だが、同じ様に動いて避けようとしたゴン君。次の瞬間、その脳天に《別の》礫が鈍い音を立てて衝突した。

 

「あ痛っ~~~!?」

 

 それなりの大きさの石による、不意打ちの衝撃に堪らずに頭を押さえて蹲るゴン君。折角なので、もう一つヒントをプレゼントしておこう。 というか、今の時点で半分以上答えを教えてしまっている気がしないでも無い。 …まあ良いか。僕だし。

 

「君は何故に僕の投げた石を避けられたのか。 そして、二度目は何故に避けられなかったのか。 それがヒントだよ、良く考えてごらん」

 

「ヒント...! うん、ありがとう、クリードさん。 良し、やるぞ!! 絶対、ヒソカに一泡ふかせてやるもんね!!」

 

 頭を擦りつつ、満面の笑みで頷いてくれたゴンの顔を見て安心する。 

 …うん、これでゴン君は大丈夫だろう。少なくとも後悔しない結果で終われる筈だ。 頑張れ若人。

 

 さてさて、点数も溜まったし僕は残り六日の間、何をして過ごそうか。 

 そんな事を考えながらくるりと踵を返した僕の視界の先。 先程変態と追い掛けっこをしていた辺りの岩山付近、山峰に広がる森林から轟轟と、盛大に火柱が上がっているのが見えた。

 

 (恐らく)未だに大興奮状態のヒソカ、いきなり立ち上った火柱。 

 二つを合わせて思考する。 …猛烈に嫌な予感が過り始めた。 愉快な思い過ごしで有って欲しいが、恐らくはそうでない事も否応なしに理解出来てしまう。

 

(まさか、サキ君、ヒソカと鉢合わせてしまったのか…!?)

 

 火柱を上げているのがサキ君と決まった訳では無いが、誰かがヒソカと戦っているのはほぼ間違いないだろう。 

 こういう状況の時、()()()()()()()()()()()はどうするべきか。 決まって何時も逡巡してしまう。 助けに行くのは過保護だろうか? 助けに行かないのは非情だろうか?

 

 行くか、行かないか。 判断を下せずに迷う僕の視界の先を、迷わないゴン君が走り抜けて行った。

 

 

【Ⅵ—5】

 

 

 ヒソカは訥々と語る。

 

「ついさっきの話だよ。折角の御馳走にまんまと逃げられちゃってね♦ 猛りを鎮めようと思って、そこらを回りながら適当に鬱憤晴らしをしていたんだけれど…♠」

 

 暗闇から音も無く現れたヒソカは、右手に哀れな受験者の生首を片手に掲げ、歓喜の表情のままに三人の居る方向へずい、と近づく。

 それをさせまいと、サキがレオリオとクラピカを庇う様に一歩前へ踏み出し、ヒソカを睨みつけた。

 

「もう結構です。それ以上、口を開かないで下さい。 残念ですが、貴方何かにプレートは一枚たりとも渡さないし、お友達も傷つけさせません!!」

 

「下がるんだサキ、幾ら何でも無茶だ!!」 「そうだぜ、此処は三人で何とか…!」

 

「二人共、その気持ちは嬉しいですけれども。 酷い言い方ですが、二人に居られる方が戦いにくいんです。 …ほら、気にしなくて良いですから、私に構わず行って下さい。 

 

―――――ぼさぼさするな!! 行けッッ!!」

 

 滅多に見せないサキの怒声に衝き動かされる様にして二人が山を駆け下りて行く。

 徐々に気配が遠ざかって行くのを背中で感じながら、サキは禁止されていた【念】を使う覚悟を決めた。先程とは状況が違う。使わなければ二人が完全に逃げ切るまでの時間を稼げない。 

 

 ―――使わなければ、私は此処で死ぬ。

 

(クリードさんごめんなさい、約束破ります。 でも、これは決して自分の為じゃない。他の誰かを、友達を守る為…!) 

 

「やあっ!!」

 

 二人が十分に離れた事を確認すると、烈号の気合と共にサキの身体からオーラが噴き上がる。

 サーカスの見世物を楽しむかの様にヒュウ♪と口笛を鳴らすヒソカに構わず。間髪入れずに、勢い良く地面を踏みつけた。 

 夜明け間近、白み始めた空へ勢い良く舞い上がる森林に堆積した大量の木の葉。 次の瞬間、その全てが前触れ無しに紅炎に包まれた。

 

「へえ…中々の震脚だ♡ それで? 次はどうするのかな?」

 

「こうするんです!! ―――『超・火炎竜巻(ちょ~・ふれいむとるねーど)!!』」

 

 気合一閃、交差させた細腕から生み出されたとは思えない程に激しい突風が、宙を舞う火の粉を含みながらヒソカへと向かって吹き抜けて行った。 

 当然、それだけでは終わらない。 縦横無尽、指揮者のリードに従って風は吹き付け続ける。 一陣、二陣、十、百、千を超えて、尚も風は止まない。 万に至ろうと終わらない。

 

 ヒソカを此処で足止めする、私の後ろへは決して行かせない!!

 

 彼女の意思を反映するかのように、炎を孕んだ風の強さが加速度的に増していく。それは瞬く間に気流の渦を巻き上げながら突風から旋風へと成り替わり。 舞い散る火の粉は炎へ変貌して。やがて二つは合わさって火災旋風へと変貌を遂げ、尚もその大きさを膨れ上げながら二人の間で轟轟と音を立てる。瞬く間に、白み始めた夜の闇を盛大に打ち払う照明が出来上がった。

 

 渦を巻く橙に照らされたヒソカの唇が堪えきれない歓喜に吊り上がって行く。 

 臨戦態勢に入った今も、ビックリする程に隙だらけで有り、依然として未熟な果実で有る事には違いないが、鬱憤を晴らす玩具としては申し分無い。 

 そこそこ以上に期待出来る前菜が自ら飛び出て来たのだ、嬉しくならない方が間違っている。

 

(このイライラしたキモチを鎮める為に、誰でも良いから見つけ次第に殺さないといけないかと思っていたけれど♠ …う~ん、少しは気分が晴れそうかな♡)

 

 

 

 

『良いですかクラピカさん。 【弱いのは罪では有りません、守られるのは情けない事何かじゃ有りません。 本当に弱くて情けないのは…それらを自覚して尚、立ち上がろうとしない人間なのです】…ってまあ、ぶっちゃけちゃうと、これは師匠の師匠、つまり、大師匠の口癖何ですけれどもね』 

 

『年下の癖に叩いたり偉そうな事を言っちゃってすいません。 でも、今のクラピカさんは…昔の私みたいで、黙って見て居られなかったので』

 

 

 殿と言えば聞こえは良いが、要は体の良い囮だ、止む事の無い後悔がクラピカの胸を押し潰そうと湧き上がって来る。試験が始まってから幾度となく感じた無力感。それをまた、立ち直りかけた矢先で味わう事になろうとは。

 

「くっ…。また私は…!」

 

 抑えきれない悔しさが歯軋りと共に唇から溢れ出て来る。 

 

「自分の命も満足に守れず、挙句の果てには、ヒソカに立ち向かう事すら出来ずにサキを見捨ててのうのうと逃げているなんて…! 情けない、これではどちらが年上か分からないじゃないか…」

 

「クラピカ…お前…」

 


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