沈黙は金では無い。    作:ありっさ

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強いノブナガさんを書きたかった。(書けたとは言っていない)


5.寄り道をする時は、サムライに気を付けよう

 

「団長、かなりまずいかも」

 

「シャル、きちんと説明しろ」

 

「ノブナガがクリードにケンカ売りに行ったってマチから連絡が」

 

「…それは確かにまずいな」

 

 クロロは顎に手を当てて唸った。 

 普段なら勝手にしろと放っておく所だが、今回は相手が相手だ。

 ノブナガは確かにクロロが知る中でも上位に位置する強者だが、クリードと殺し合った時、確実に勝てるかと問われると疑問符が残る。

 そして幾ら替えの利く戦闘員だとは云えども、これ以上団員が減るのは避けたい。

 

「仕方ない、行くか。 シャル、場所をナビゲートしろ」

 

「はいよー」

 

 

 クリード・ディスケンスは街中を歩いていた。 

 特に目的地を決めている訳では無い。強いて挙げるなら、人が居らず、開けた場所があれば良いと思っていた。

 行き交う人の波に逆らう事無く進み、極々自然に脇道へ逸れて行く。

 

 そのまま建物の間を縫う様にしばらく歩き、やがて広場へ出た。広場とは名ばかりで遊具の一つも無く、寂れた空き地と云った方が正確かもしれない。

 

 広場の中心、そこでクリードは足を止め、振り返る。

 

 

「そろそろ出て来ても良いんじゃないか?」

 

 その言葉を聞いて、陰から現れたのは長髪の男だった。 

 

「…気付いていたんならもっと早く言えや、優男」

 

 こんな所まで歩かせやがって。

 

 吐き捨てた男の眼には陰惨な光が籠っている。

 獲物を品定めする様な男の視線を受けて、それでも尚クリードの顔に張り付いた笑みは崩れる事は無い。

 

「…それで? 僕に何の用かな? これでも忙しい身でね、なるべく早く解放してくれるとありがたい」

 

 ある種の挑発にもとれる言葉。みるみる内に男の顔に青筋が浮かび上がっていく。

 

「優男、テメエがアル…旅団の八番をゾルディックに売ったのは調べが付いてんだ、ワリィが逃がす心算はねえぞ」

 

 構えろや。 

 そう吐き捨てる様に言い放つと、男は半身になり刀に手を添えた。

 大仰に溜息を一つ漏らすと、クリードも腰にぶら下げていた刀に手を掛ける。

 

「…おい、何だそりゃあ。 馬鹿にしてんのか、テメェ」

 

 無造作に引き抜かれたその【刀】を見て、長髪の男の怒気が更に膨れあがる。

 クリードの右手に握られたその刀には、一切の刀身が無かった。柄だけの刀、それはもはや武器ですら無いガラクタだ。

 そんなふざけた物で戦おうとするとは。目の前の優男の舐めきった対応に脳みそが怒りでぐつぐつと煮立ってゆく。 

 

 だが、長髪の男―ノブナガ・ハザマは幾度も死線を乗り越え、百戦錬磨の経験を積んだ猛者だった。このまま頭に血が昇るのに任せて突っ込んで行くべきでは無いと第六感が告げている。

 

 ――――コイツを舐めて掛かると、死ぬな。

 

 刀身の無い刀、か。 そこから予想される攻撃は。

 其処まで思考した所で、目の前、数メートル程先で無造作に立っていたクリードの姿がぶれる様にして掻き消えた。

 急速にスローモーション化する視界。 脳内で危険を知らせる警報が大音量でかき鳴らされる。ノブナガは自らの勘を信じ、刀を逆袈裟に振り上げた。 

 

「…へえ、この一撃を初見で止めるか」

 

 何処と無く愉悦を含んだ声だった。 聞いた者を魅了し、惑わせる。 そんな色気の籠った声だった。

 振り上げた刀は空中で何か硬い物にぶつかったかの如く、急停止している。

 ギチギチと耳障りな音を立てる刀。その手前には柄を振り下ろした(様に見える)姿勢のクリードが居た。

 

「予想通り、見えない刀かよ」

 

「正解。 まあ、初撃を凌いだなら誰でも分かる事だね」

 

 能力を看破されたにも関わらず、クリードは動揺する気配を全く見せない。

 ノブナガの脳内で急激に焦りが広がっていく。 見えない刀、それだけなら前例はある。過去にも似た様な能力を使って来た奴は居た。

 だが今回はその能力の使い手のレベルが桁外れだった。 

 

 ―――本当に、全く刀身が見えないのだ。 

 

 オーラ自身やオーラが籠められた物体を限りなく見えにくくする技術、【陰】 ノブナガはクリードがそれを刀身に使っているものだとばかり考えていた。

 だが、見えない。熟練の念能力者であるノブナガを持ってしても刀身を見る事が出来ない。

 隠されたオーラを見破る技術【凝】を使っても、それは変わる事の無い事実だった。

 

「その刀、妙な細工をしてやがるな」

 

「…さあ、どうだろうね?」

 

 鍔迫り合いの状態から、またしても一瞬にしてクリードの姿が消える。 速度を売りにしている旅団員、フェイタンを鼻で笑う様な馬鹿げたスピードだ。

 舌打ちを一つ打ち、反射的にノブナガは【円】を展開する。

 刀身が見えないだけならば、ノブナガには幾らでも対処のしようがあった。

 簡潔に言えば柄の方向、位置を見て刀身の位置を読み取ればいいだけの話だ。 が、今回は刀を振るっている人間が規格外すぎる。 ちまちまと目で追っていたら到底間に合わない。

 腰だめに構えた刀の間合い、およそ四メートル。 【円】の範囲内、感じ取れた気配を目掛けて、半自動的に左後方へ振り返りつつ横薙ぎの一撃を振り抜いた。

 狙い通りに標的の身体を真っ二つに引き裂く軌道を刀は描くも、反応される事を予測していたのか、容易く受け止められてしまう。 

 二度目の鍔迫り合い。 繰り返す様に瞬き一つの間に姿は消え、気配は頭上に。 半自動的に腰だめに構え、居合い抜きを放つ。 

 ノブナガの脳天を目掛けて振り下ろされつつあった不可視の刀と居合いで放たれた神速の一撃がぶつかり合い、盛大に不協和音が掻き鳴らされた。

 

 空中衝突の勢いを利用して器用に着地したクリードは、しかし四度目の攻撃を仕掛けようとはしなかった。

 依然、腰だめに刀を構えた姿勢のノブナガを見て、ぼそりと呟く。

 

「円を張り、そこから動かない事とその構えを制約にする事で、頭で考えるよりも早く、反射よりも迅速に向かって来る相手を切り裂く。 …それが君の能力か」

 

「…チッ、今のやり取りだけで見抜いたってのかよ」

 

 ぽりぽりと後ろ頭を搔きながらノブナガはぼやいた。

 わざわざご丁寧に解説してくれる辺り、団長と瓜二つである。 嫌味な優男だ。

 

「素晴らしい腕だ。 君の能力は大した物だった。 ...些か一対一限定な所は否めないけれどね」

 

「そりゃどーも。 思ってもねぇ事抜かすんじゃねーよ」

 

「いやいや、本当にそう思っているのだけれどもね。 …だがすまない、そろそろ本当に時間が迫っているんだ、次で終わらさせてもらう」

 

 言葉と共に消えるクリード、半自動的に迎撃するノブナガの能力。 ここまでは三度繰り返したやり取りと同じ、そして―――。

 

「ぐああっ!?」

 

 吹き上がる鮮血。 ゴロゴロと地面を転がり、土と泥にまみれた腕。 噴水の様に血が吹き出し続ける、右腕が有った場所を左手で庇いながらノブナガは戦慄していた。

 

(野郎、今まで手を抜いてやがったな…!!)

 

 過去三度の斬り合いと同じく、刃と刃がぶつかり合うと思われたあの瞬間、クリードはバックステップをして距離を取った。 行動を訝しがる間も無くノブナガの刃は空を切る。

 直後、間合い外から飛んで来たクリードの刃によって体勢が十分で無かったノブナガの刀は弾き飛ばされ、次の瞬間には返す刀で肩口からすっぱりと斬り飛ばされた。

 咄嗟に身を捩らなければ容赦なく心臓を抉られていたのは想像に難くない。

 

「糞が…見えねぇだけじゃなくて伸びる機能付きかよ…」

 

 俺と違って便利な事で。

 そう毒づこうと思ったが、既に声が出せない事に気が付く。 意思を無視して身体が崩れ、血溜まりに盛大に倒れ込んだ。

 

(全くよぉ、たまったもんじゃねーな。 …世の中、案外クロロみてぇな化物が転がってやがるもんだ)

 

 出血多量で朦朧とする意識。眼前で柄を振り上げる優男の姿がコマ送りの様に再生される。 

 

 そこでノブナガの意識は途絶えた。

 

 

 

 何時からだろう、人間を殺すのに躊躇しなくなったのは。

 何時からだろう、内臓を見ても嘔吐しなくなったのは。

 何時からだろう、笑顔が癖になったのは。

 

 眼前で血だまりに伏した男。 沈んだ気持ちを振り切ろうと、虎徹を思い切り振り上げ、心臓を目掛けて振り下ろした。

 

 次の瞬間、唐突に景色が切り替わり、僕は思い切り地面を突き刺す事になったのだが。

 

 周囲を見渡すと、左手で本を開きながらこちらへ歩いて来る男が見えた。 後ろには喫茶店で見た金髪の男。 ―――やっぱりアンタらグルだったんかーい!

 内心で叫びつつも、決して顔には出さない。 それがこの十年で学んだ一番の処世術である。

 

「…クロロか」

 

「すまないが、そいつを殺される訳にはいかないんだ」

 

「そうか、構わないよ。 …一応言い訳をさせてもらうと、彼から仕掛けて来たんだ」

 

「ああ、知っている。 その事についてとやかく言う心算は無い」

 

 団長さんが目くばせすると、物陰から女の子が飛び出て来て、瀕死状態のサムライを何か凄い勢いでコネコネし始めた。 て云うか腕くっ付けようとしてる? シュバババ!とか擬音が聞こえて来そうな動きだ。

 

「それで、ノブナガはどうだった?」

 

「強かった。 …これはお世辞じゃ無く本音だよ。 一つ間違えれば僕がこうなっていても何ら不思議では無かった」

 

 団長を見る。 どうやら回答がお気に召したらしく、くつくつ笑っていた。 

 

「そうか、後で伝えておくよ。 …それはそうと、クリード」

 

「…何かな?」

 

 びっくーん! 背中が跳ねかけました。 こそこそ逃げようとしてたのがばれたか!? 

 

「禁忌術、読み終わった。 続きを貸してくれ」

 

 

 僕は今度こそ崩れ落ちた。 

 

 

 




幻想虎徹(イマジンブレード)

LV1  具現化系+変化系

柄に刻まれた神字で補助する事で不可視の刃を具現化する。 
刃の切れ味と耐久力は変化系の習熟度に比例する。 
刃の伸縮は原作通りなら80mまで可能だが、この作品のクリードは最大で約30mまで。 
伸縮する長さに応じてオーラの消費量が増大する。
刃は如何なる手段を持ってしても視認する事は出来ない。(クリード自身も含まれる) 

制約:刃が破損した場合、破損の度合いに応じてクリード自身にダメージがフィードバックする。 修復が不可能な程に完全に折られた場合、死亡する。 

また、柄に刻まれた神字が破損した場合、修復するまで刃を具現化する事は出来ない。

この作品ではこんな感じの能力です。

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