ハンター世界のジャポンって想像しづらい・・・。
書いてて某デレマスの蒼担当の娘が浮かんでででで
【Ⅰ】
私は孤独だった。家にも学校にも居場所は無かった。
私は強かった。孤独を耐えられない子供では無かった。
私は空虚だった。朝起きて、テーブルに置いてある買い置きのパンを齧り、学校へ行き、教師の放つ言葉の羅列を聞き流し、下心と打算を隠そうともせずに親しげ風に話しかけてくる級友達を適度にあしらい、灯りの無い家へ帰って寝る。
そのサイクルの繰り返しが私、キリサキ・キョウコの全てだった。
きっとこのまま、空っぽのままで大人になり、老いて死んで行くのだろう。
――ああ、私の人生の何とつまらない事か。
その日も変わらない朝だった。
味気の無いパンを適当に齧り、屑籠に放り込む。そして、何時もの様にバス停で学校へ行く為のバスを待っていた。
つまらない、下らない。 いっその事、一思いに死んでしまおうか。
其処まで考えた所でスクールバスが向こうからやって来るのが見えた。ぼんやりした頭のまま、さっさと乗り込もうと乗り場の一番前に出る。
唐突に響き渡る年上の女性の甲高い悲鳴。
ひったくりか何かかな? と視線を左右に巡らせた。
そこで漸く私は対向車線のトラックが車線をはみ出してこっちへ向かって来ている事に気が付いた。右へ左へ、明らかに蛇行運転だ。
運転席を見ると、運転手らしき男性が前のめりに俯せていて、操縦者を失ったトラックは暴走する凶器と化していた。
ゆらゆらと揺れながら猛烈な勢いでこちらに近づいて来るトラックを見て、私は安堵感さえ覚えながら目を閉じる。
...何だ呆気ない、これで終わりか。
次の瞬間、私は鉄の塊に勢い良く跳ね飛ばされ……ていなかった。
温かくて柔らかい物に包まれる感触、柑橘系の甘い匂い。そして、少しの浮遊感。
暫くの間身構えていたが、跳ねられたはずなのに幾ら待っても痛みが襲って来ない。
「キリサキ……キョウコ?」
男の人の声だった。 ……名前を呼ばれた? 恐る恐る目を開けると、顔面数センチ、超至近距離に男の人が居た。
光に透ける様なサラサラの銀の髪。TVで騒がれているアイドルみたいな、ううん、そんなのとは比べ物にならない位に整った顔。
落ち着け私、ときめいている場合じゃない。状況から考えるとこの人が助けてくれたと考えて間違い無い筈。 とにかくお礼を言わなくちゃ。
「あ、ありがt」
「うん、怪我は無いみたいだね。……すまない、急いでいるんだ」
「え……? ちょ、ちょっと!」
それだけ言うと男の人はスーツに付いた埃を掃いながらすたすたと立ち去ってしまった。まさかまさかの放置プレイである。
座り込んだまま、茫然自失状態の私。
此方へ近づいて来る救急車の音がやけに空々しく響いていた。
幸い擦り傷も打ち身も無かったので、次のバスに乗ってそのまま学校へ。 サボる事も考えたが、どうせ他にやる事は無い。
結局の所、時間を浪費するには学校が一番だという事なのだろう。一応、登校がてら担任に連絡しておいたので問題は無い筈だ。 時間的にはホームルームの最中か。
「すみません、事故で遅れました、キリサキで……っ!?」
集まるクラス中の視線。いや、其処じゃない。
担任の隣、とんでもないイケメンが其処には居た。……というかどう見てもさっきの男だった。 何故か黒髪のウィッグを付けているけど。
暫くの間ドアを開けたままで固まっていた私だが、担任に急かされて慌てて席に座る。
隣の席の女子生徒A(名前忘れた)が執拗に話しかけて来るのをシカトして、教壇で自己紹介をしているあの男の情報に集中する。
教育実習生、帰国子女。 嘘くさい、て云うか絶対嘘だ。 大体今は六月のど真ん中、この時期に実習に来る人間何て居る訳ないじゃん。
「栗井・ディスケンスです。短い間ですが宜しくお願いします」
そして狙った様なキラースマイル。 芸能人かっての。次の瞬間、割れんばかりの黄色い声が教室を埋め尽くした。 五月蝿い、耳が痛い……。
ホームルームが終わるとあの男、栗井さん(仮)は早速女子達に囲まれていた。
まあ当たり前か、ガキばっかりの所にいきなりあんな大人のA級イケメンを放り込まれたら騒ぐのも無理はない。
当然、私はその喧騒の外で一限の開始を待っている。彼に聞きたい事は沢山あるけれど、あんな所に入って行くなんてまっぴらごめんだ。
窓の外をぼんやりと眺めていると、何処からか甘い匂いが漂って来た。……この匂い、つい最近何処かで嗅いだ様な気がする。 シャムフローズンの最新の奴かな? とか考えているといつの間にか教室はしんと静まり返っている。
いきなり訪れた静寂を疑問に思い、視線を前に戻すと件のイケメンが私の机の前に立っていた。
「……私に何か用ですか?」
「いや、大した事じゃないよ。キリサキ、君? ……今朝の事故について、少し話を聞かせてもらってもいいかな?」
「怪我が無かったから問題ないのでしょう?」
少しばかり皮肉を籠めて言ってやった。栗井さん(仮)は顎に手を宛てて、ん~、実はそこじゃないんだけどなあ。 とか何とかぼそぼそと小声で呟いている。
「……まあ良いか。そんなに急ぐ用でも無いから放課後で良いよ」
「? はぁ、分かりました」
私がそう言うと彼は教卓へ戻り授業の準備を始めた。 再び群がる女子達の半分。 舌打ちする男子共。
...そして私は残りの女子達に囲まれていた。
「キョウコちゃん、あの人とどういう関係なの?」
そんなの知らないっつーの、むしろこっちが聞きたいわ。
「知り合い? 親戚とか?」
知り合いなら紹介しろって顔からダダ漏れしてますよ?
鬱陶しさに耐え切れず盛大に溜息を吐く。
……あれ? 事故の時が栗井さん(仮)との初対面の筈でしょ? 私、あの人に名前教えて無いよね?
鞄の中でブルブルと携帯が振動し続けている事に私は気付けなかった。
【Ⅱ】
早朝、四時半。けたたましく鳴り続ける携帯の音で目が覚めた。
……こんな朝早くに誰だ、マナーの無い。
覚醒しきらない頭で携帯の画面を見て、ベッドから転がる様にして飛び起きた。
震える手でボタンを押す。……南無三。
「おはようございますクリード君、君が電話に出るまで35秒も掛かりました。35秒もです」
「い、今は朝の四時半ですが……」
「あらあら、何時の間に君は私に口答えできる程、偉くなったのですか?」
これはまた、近い内に実力が鈍っていないか確かめておかなければなりませんね。
ひうん、ひうん。 電話の向こう側から聞こえて来る師匠の愛剣が風を切る音。怒っている、大魔王は大層お怒りの様だ。
修行時代のトラウマがフラッシュバックし、頭の中が急速にクリアになっていく。
「ひぃぃ……!! し、師匠、それより電話を掛けて来られたという事は何か用事が有ったのでしょう?」
「ああ、そうでした。いきなりですがクリード君、貴方にはジャポンという島国でハイスクールの教師をお願いしたいのです」
「……すみません師匠、仰られている意味が分かりかねますが」
「おや、文字通りの意味ですが。クリード君、まさかハイスクール程度の授業を教える自信が無い等と戯言を吐く心算ではないでしょうねえ?」
「いえ、滅相も無い。……只、後学の為に教師をやって来なさいと云う訳では無い……ですよね?」
「ええ、当然です。貴方にはもう一つ、任務を与えます」
「……成程、了解しました。ちなみに、何時から何時まで教師として勤務する予定なのでしょうか?」
「今日から数えて一月です、その間に任務を達成しなさい」「……はい?」
「聞こえませんでしたか? 今日からですよ? ちなみにホームルーム開始は九時からなので、遅くとも八時にはあちらへ着いておきなさい。……書類やその他諸々は私が書いてあちらに出して有りますのでご心配なく」
「……師匠、僕が今何処に居るか知っていますか?」
「はい? そんな事を知る訳がないでしょう。君は私を何だと思っているのですか」
「(怪獣を超えた超獣を超えた宇宙怪獣辺りですかね)はあ……。師匠、時間が無いので失礼します。進展が有ればまた連絡しますので」
「ええ、朗報を期待しています。――そうそう、これが一番大切な事ですが、お土産をちゃんと買うのですよ?」
「雪○大福抹茶味……ですよね?」
「覚えていましたか。当然ですが箱単位でお願いします。後、怪獣ならベムスター一択です」
溜息と共に電話を切って時計を見る。
現在の時間、午前五時を少々過ぎた所。このホテルから最寄りの空港まで約一時間。そこからジャポンまで高速便で約二時間か。……成程、つまりは。
「初日から遅刻確定じゃないですか師匠……」
そして午前八時、僕はジャポンへ降り立った。
ジャポンはこれで二度目になるか。感慨に耽る間も無く、空港から出るや否や全力で走る。
セフィリア師匠との厳しく辛い修行(拷問)の成果がここで遺憾なく発揮された。
何かもう下手に車とか使うより自分で走った方がよっぽど早い。
そもそも重石を全身隈なくガチガチに装備して朝から晩までフルマラソンさせられたあの夏の日に比べれば、この程度の距離は走った内にも入らないのである。
少しでもペースを落とそうものなら、音速を超えた居合い突き、通称マッハ突きが容赦なくびゅんびゅん音を置き去りにして背後から飛んで来たあの日。
師匠は無茶振りの達人だった。正面からでも殆ど視えないのに背後から放たれてどうやって避けろと。
地獄の修業時代を回想しながら走る事二十分弱。FAXで送られて来た資料に有った、勤務させてもらう学校の制服がぽつぽつと目に付き始める。
生徒に笑われそうだしそろそろ走るのは止めておこうかな。そう考えて若干早足で歩く。
バス停の前に差し掛かった時、乗り場の先頭に立っている一人の少女がふと目に付いた。 何の変哲も無い女子高生だが、何故か気になったのだ。 何処かで見たような気がする。
――何処だ?
思い出そうと足を止めた次の瞬間、前方からトラックが猛烈な勢いで蛇行運転しつつ此方へ暴走して来るのが見えた。
誰かの悲鳴。タイヤがアスファルトを削る音。
運転手を見る。運転席に凭れ掛かる様にして意識を失っていた。
……いや、あれは死んでいるな。
トラックの進行方向に目をやると、ドンピシャのコースに先程の少女が居た。恐怖に固まってしまっているのか、逃げる素振りの全く無い少女。
まずい、このままでは跳ね飛ばされる!
舌打ちしつつもスーツの内側に忍ばせていた虎徹を抜き打ちでトラックの前輪二つへ放つ。 次いで納刀の勢いを利用して遠心力を付けつつ、氣を集めた回し蹴りを全力で車体へブチかます。衝突コースがずれたのを確認して、少女を抱えて歩道へ飛び下がった。
……ここまで0.7秒か、大分鈍っているな。師匠が見ていたらきっと小一時間ほど説教されるに違いない。 ……見ていないよね?
着地から数秒遅れてトラックは横倒しのまま標識に衝突し、轟音と共に停止した。
未だに衝突の恐怖を堪えているのか、固く目を瞑ったままの少女を真正面から見据える。
……思い出した、彼女の名前はキリサキ・キョウコ。かの原作で星の使徒に所属していた女の子だ。
赴任初日でこの出会い。
若干、いやかなり作為的な匂いがするものの、まさかまさかの邂逅に驚きを隠せない。
混乱する僕を尻目に恐る恐ると云った感じで開かれる眼。 そして、少女と僕は真正面から見つめ合う。
……待て、良く考えるとこの状況、凄まじくまずいぞ。事故を見ていない第三者からみれば、今の僕は公衆の面前で女子高生とゼロ距離で抱き合っている変態にしか見えない。 現に周りの人間がざわめき始めている。
(リア充爆発しろ)(イケメン杉ワロタ)(通報しますた(^Д^b))(……恐ろしく速い居合い抜き、俺でなきゃ見逃しちゃうね)
手早く少女の状態を確認する。擦り傷無し、打撲も見た所大丈夫そうだ。――良し、逃げよう。
キリサキさん(仮)が何か言いかけていたが、今はこの場から逃げるのが先決である。
くりーどは、にげだした!
「……何アイツ、邪魔されちゃった」
すたこらさっさと逃亡して早歩きで歩く事暫し。
校門が目に入った時、僕は気が付いた。さっきの少女の制服、この学校のじゃないか……。
まあしかし、担当するクラスが被っていなければ問題無いだろう。……ここで立ち止まっていても仕方が無い。 気を取り直して何時ものように営業スマイルを張り付ける。
守衛さんに会釈をして、今日から勤務する事になった旨を伝えた。 内線で確認を取って貰っている間にカバンからウィッグを取り出し付ける。
ジャポンは基本的に黒髪が基本であり、銀髪は目立つので避けた方が良いとの師匠の助言である。登校している生徒を見ると確かに黒髪が殆どで、まれに茶髪がちらほらと見える位。確かにこれでは僕の銀髪は悪目立ちするに違いない。
「師匠も偶にはまともな事を言うものだな……」
「おや失礼な。私は何時でもまともな事しか言っていませんよ?」
がばりと前を向いた。
見覚えの有るブロンドの金髪。 聞き覚えの有る艶っぽい声。対峙する者を竦ませるこの威圧感。
「嘘でしょう、ええ~……」
我が愛しの師匠、セフィリア・アークスが其処に居た。
……いや、貴女確か電話口でお土産がどうとか言っていませんでしたっけ?