とある転生者の試練   作:雷灯かがり

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☆祝☆黒桜登場決定!

と、言ったはいいものの、何時出るかわからない行き当たりばったりな筆者でした。


※四月四日:ルビ振りや、☆の消去等をしました。


第10話 変化

―――ずるずると音がする。

 

それが鳴き声なのか、粘体を引きずる音なのか、爛れていく音なのか判別することは難しい。

音は、そのすべてだった。

此処には腐触するモノしかいない。

石壁は朽ちた大木のように脆く、

空気は蜜のように甘い。

地に這う生き物は熟れた果実さながらに腐っており、流れる時間さえ、ここでは意味もなく腐っていた。

長い年月を経て消耗しきった空間。

ある血脈の執念の果て、地上に弔われることの無かったモノたちの墓標が、この闇だった。

 

 

「―――――また一人、脱落したようだな。」

 

 

その腐敗の中心に、一際大きい腐蝕が蠢いていた。

虫の声と、腐った肉の匂い。

地下室の主は生きながら腐れおち、この世ならざる虫に集られている。

じぶじぶと、足元から這い上がる虫は踝から皮膚に吸い付き、吸盤じみたモノで肉壁を食い進み、骨に辿り着いたら神経に潜り、なおじぶじぶと這い上がっていく。

這い寄る虫の数は百や二百ではない。

この黒い絨毯に集られたのなら、人間など分を待たずして崩れ落ちるだろう。

人としての外見は手付かずのまま、その中の骨という骨、内臓という内臓を”蟲”にとって代わられ、それこそ骨抜きの皮になって崩れ落ちる。

 

 

「足りぬ。この蟲どもも、じき替えどきか」

 

 

だと言うのに、ソレは崩れ落ちることなど無かった。

否、むしろ蟲が踝から体内に侵入するたびにソレの体は出来上がっていく。

――――――それは、蟲に食われているのではない。

この、夥しいまでに地下室に生息する蟲こそが、ソレに食われるだけのモノだった。

貯蔵量はおよそ百年分。

ソレが蟲を食うモノだとするならば、それだけの余命が約束されている事になる。

 

 

「まだ先はある。此度で最後という訳でもない。万全でなければ静観すべきなのだが」

 

 

さて、とソレは口元を歪める。

今回の“場”は万全と言えるものではない。

前回の戦いから十年足らずで開こうとする孔。

監督役の神父と、前回の勝者が衛宮切嗣の息子は二体のサーヴァントを有している。

条件はあまり良くない。

このような、やや不安定な状況で満ちる杯など完全には程遠い。門は開けようが、中にあるモノにまで手は届くまい――――

 

 

「ならば静観すべきなのだが。困ったことに持ち駒だけは適しておる」

 

 

聖杯を奪いあう場としての条件は最悪である。

だが一点、―――――今まで手をかけて作り上げた“モノ”の仕上がりだけは万全だった。

解放せば到達する。

手順さえ間違えなければ必ずや聖杯に手が届くだろう。なにしろ聖杯の中身が植え付けられたモノだ。

十年間、神経の至るところまで聖杯のかけらに侵食された細胞具である。

ならば元は同じモノ同士、引き合うのは当然だろう。

 

 

「……ふん。ワシには次があるが、アレはそう長く持つまい。胎盤として貰い受けたものだが、よもやあれほどの出来になるとはの」

 

 

実験として用意したモノは、ほぼ完全と言えるまでに適合している。

このまま使い捨てる予定だったが、使えるのならば使うべきだ。

どちらにせよ廃棄する予定だったモノ。

戦いに敗れ破壊されようが不能になろうが、棄てるという結末には違いない。

 

 

「―――となると問題が1つ。

アレをどうやってその気にさせてやるかだが」

 

 

用意した“適合作”はあろうことか戦いを嫌っている。

自由意思を奪えばいいだけの話だが、存外に“適合作”の精神防壁は強固だった。

……まあ、優れた魔術回路を持つ胎盤を望んだのだ。

ならば、自我を犯そうとする毒に強いのは道理と言える。従順な人形を取るか、優れた弟子を取るか。

後者を良しとした以上、洗脳は諦めねばならぬ。

 

 

「一度で良い。僅かな隙間さえ開けば、後は自ら聖杯を求めるのだろうが、さて」

 

 

その隙間を開けることが困難だった。

アレは他者からの強制で崩れる精神ではない。

そのように壊れるモノなら、十一年前にとうに砕け散っている。

アレは反撃する刃を持たぬだけの、この世で最も堅固な要塞だ。

ならば、壊れるのならば内側(おのれ)から。

自らの昏い感情こそが、アレを変貌させる鍵となろう。

 

 

「――来たか。さて、では隙間を作ってやるとするか」

 

 

暗闇に足音が落ちてくる。

現れた何者かは、腐敗の中心である蟲へと歩み寄り、

 

“マスターは1人残さず殺さなくてはならないのか”

 

などと、その蟲にとって予想通りの問いかけをした。

 

 

「―――――」

 

無論、そのような事は返答するまでもない。

マスターは全て殺す。

サーヴァントは全て奪う。

それが、この地下室に渦巻く執念だ。

だが、それを押し殺して、

 

 

「おまえがそう言うのであらば仕方ない。では、今回も傍観に徹しよう」

 

ソレは言った。

安堵の声と、弛緩する空気。

もはや戦いの意思などない、とソレは優しく笑みを浮かべたあと。

 

 

「しかし、そうなると少しばかり癪だのう。今回の寄り代の中では、遠坂の娘は中々に良く出来ている。勝者が出るとすれば、おそらく今回はあやつであろう」

 

そう、残念そうに囁いた。

 

“―――――――――”

 

……緩んだ空気が戻る。

僅かな変化、見逃してしまいそうな小さな負の感情が地下室に灯る。

戦いを嫌ったモノはその一言だけで天秤を揺らした、揺らしてしまった。

揺れてしまえば出来てしまう。

僅かな軋み。

本人すら気づかない、開けてはならない筈の隙間。

 

 

「―――――ク」

 

 

腐肉が笑う。

蟲に集られ、今もなお腐り落ちるソレは、人の形を保ったままクツクツと笑っていた。

 

 

 

 

☆―☆―☆

 

 

 

 

――2月5日

 

 

 

「……あれ……? なんだ、もう朝か」

 

ぼんやりする意識を起こして、二度寝したがる根性に渇を入れる。

時計はもう朝六時過ぎ、とっくに朝食の準備をしなくてはならない時間だ。

急いで居間に向かい、眼に入ってきた光景は信じがたいものだった。

 

 

「あ、士郎。今日の朝食は俺が作っているから」

 

そこんとこよろしく、となにやらやたら赤い物体を炒めている生嗣。よく視ると、豆腐やネギがあったのでどうやら麻婆豆腐っぽい。

……衛宮家の朝食はいつも和食なのだが、平然と中華を出してくるあたり、彼の性格も自ずと察せられるだろう。

そして何よりも有り得ないのは、テーブルの前に座っている金髪少女の存在である。此方が彼女と目を合わせようとすると、気まずそうに目を逸らすし、そもそも彼女の姿をこの衛宮邸で見たことがない。

 

「なあ生嗣、そこに座っている子は誰なんだ?」

 

「ん? ああ、その子は遠い親戚の子でな。名前はセイバーって言う名前でな。まあ、様々な事情があってな。えっと、切嗣を頼りに、ここまで来た訳なんだよ、うん」

 

区切れが悪い。

まず、『様々な事情』というのが、如何にも怪しい感じだがまあいいとして。

確かに切嗣はよく外国に行っていたため、今の話は有り得ない話ではない。

が、一つどうしても訊きたいことがある。

 

「えっと、セイバー? 一体何しにわざわざ此所まで来たんだ?」

 

すると、セイバーという名前らしい少女は何でか俺のことを痛々しげに見つめ、

「……それはあらゆる敵から貴方たちを守るようにと、切嗣に言われたからです」

と、とんでもないことを言った。

こんな自分より小さくてか弱そうで綺麗な少女が俺たちを守るって。

 

「……なんでさ」

 

頭が混乱している。

さっきから、生嗣が朝から麻婆豆腐を作っているやら、知らない遠い親戚らしい綺麗な少女が現れて俺たちを守ると言い出すやらで、もう訳がわからない。

そう言えば、さっきから桜と藤ねえを見かけないのだが、何かあったのだろーか?

 

 

「桜は当分ここには来れないらしいぞ。あと、藤ねえは今日の朝はここに来れないって」

 

「……どういうことだ、桜と藤ねえに何かあったのか?」

 

「桜は家の事情とかでな。まあ多分一週間くらいしたら衛宮邸(ここ)に来れると思うぞ。藤ねえは今日の夜にまた来る」

 

家の事情か。間桐の家にはここ一年ぐらい行ってないが、それは桜に止められていたからだ。

あの家はどういう事情を抱えているのだろうか。

もしかしたら桜に何かあったのだろうか。

胸騒ぎがする。

このまま何かを放っておいたら誰かが不幸になる。

そんな予感がした。

 

その後衛宮士郎は麻婆豆腐の辛さのため一時的に意識を失い、もう二度と生嗣の食事を食べないと誓ったのであった。

 

 

 

☆―☆―☆

 

 

 

退屈な四時間目の授業が終わった。

なぜ退屈なのかというと、俺には此処に転生する前の知識で大体授業の内容をわかっているからだ。俺が転生する前の学校は進学校であるため授業の進みが速く、高2の時点で既に高3の範囲が終わっていた。

と、転生する前の記憶を回想するのはこのぐらいにして屋上へと急ぐ。

そして何故、俺は廊下や階段を走るほど急いでいるのかというと、あの遠坂凛(あかいあくま)が屋上で待っているのである。そして偏見かもしれないが、遠坂は守銭奴のため、彼女より遅れてきたらこう言われるかもしれない。

 

『おい衛宮! 金払えよ金! じゃねーとガントぶっぱなすぞゴラァ! は!? なんで金をわたしに払わなければいけないのかって? 遅れてきた方は早く来た方の時間を消費してんのよ! ほら、時はマネーなりって言うじゃない。だから一秒千円として、一分三十二秒遅れてきたから九万二千円今すぐ払えや!!!』

 

………いや、流石にそれはないな、うん。

『遠坂たるもの常に余裕を持って優雅たれ』が家訓のヒトはそんなこと言わない。

もう少し言葉オブラートに包んでこう言うだろう。

 

『ねえ、衛宮くん。誘って来た方が時間に遅れるってどう思う? やっぱりそんなヤツには罰が必要だと思わない? ねぇ、貴方はどう思う? 衛宮くん』

 

と、こんな風に言うに違いない。

さて、あと一歩で屋上だ。

果たして既に遠坂はいるのかいないのか!?

次週に続く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、冗談はさておき。

結果から言うと、遠坂はすでにいた。

常に余裕を持って優雅たれ。

そしてお金を請求されることも無かった。

いくら守銭奴の遠坂でも分別は弁えているようだ。

常に余裕を持って優雅たれ。

話し合いの結果、バーサーカーよりも先にライダーを倒すことに決定。俺が持っている情報と、遠坂が持っている情報を交換したら、ライダーが学校に結界を張っているという結論になった。

遠坂曰く、慎二ぶん殴る。

常に余裕を持って優雅(・・)たれ?

そして何故か遠坂は衛宮邸(ウチ)に泊まるらしい。

遠坂曰く、同盟を結んでいるのなら一緒に住むがヨロシ。これからよろしくアルよ♪

………常に余裕を持って優雅たれ???

 

 

――――すみません、ちょっと調子に乗りました。

だからアサシン、そんな目で俺を見るな。

なんだか悲しくなって来るだろうが。

 

☆―☆―☆

 

 

 

放課後になり、生徒は下校したり部活をしたりと、一見平和で何一つ日常と変わらない感じがするが、実は結界が張ってあって、俺はその起点を絶賛探し中である。

 

「どう? 見つけた?」

 

「いや、全然見つからない」

 

「はあ、貴方の目の前にあるわよ」

 

「ええ! あ、ホントだ」

 

確かにそれは目の前にあった。

遠坂がすごいのか俺が駄目なのか。

たぶん俺が駄目なんだろうなー、と遠坂に対して申し訳ない気分になる。

 

「ごめん、遠坂。全然見つけられなくて」

 

「ええ、まさか目の前にあるのに見付けられないのには驚かされたわ。でもね、貴方の才能は戦闘センスにあるんだから。という訳で、実戦では肉壁よろしく」

 

「断る。それは俺じゃなくてサーヴァントの仕事だろ。もしバーサーカーを相手に戦ったら万全の状態でも瞬殺される自信があるね」

 

この前ランサー相手に五分もったのは、相手がおそらく本気じゃなかったことと、戦闘場所が俺のホームだったからだ。それらの条件が揃わなかったら、それこそ一瞬で仕留められていただろう。

 

「あら、か弱い女子に戦わせる気?」

 

「だから戦うのは主にサーヴァントの仕事だろ。まさかそんなこともわからないのか、遠坂は」

 

お前がか弱い女子なものか! とは絶対に言わない。もし言ったらガントの上級職、フィンの一撃が待っている。

 

「冗談よ。だからそんなに顔をしかめない」

 

「ホントか? どう聞いてもあの言葉は本気だったぞ」

 

「まあ、そんなくだらないことはさておき、このままだと不味いわ。このペースだと、あと数日で結界が完成する。その前にさっさとライダーを倒さないと」

 

「そういや慎二って今日学校来てたっけ?」

 

「ええ、さっき廊下ですれ違ったわ。で、それがどうかしたの?」

 

「いや、慎二ってライダーのマスターだろ。マスターってことはアイツも魔術師だったのかなーって」

 

「……そう言えば、確かに慎二から魔力は感じられなかったわね。本当にアイツがライダーを召喚したのかしら」

 

と、遠坂は冗談めかした言い方をしているが、それはあながち間違えていなさそうだな。勘だけど。

 

「アイツがマスターってことはライダーよりもアイツを倒してしまった方が簡単じゃない?」

 

「馬鹿ね。アイツを倒すということはライダーを倒すのと同じ意味よ。普通マスターの近くにはソイツのサーヴァントを置いておくものでしょ。慎二が襲われたらライダーが出てくるわよ」

 

「じゃあ慎二をアーチャーかアサシンで襲って、ライダーが出てきたところで、さっき慎二を襲わなかった方が慎二を仕留めよう」

 

「なかなかいい案かもね、それ。でもそれをやるには大前提として慎二以外の人がいないところでやらなきゃダメよ。そんなの大勢に見られたら隠蔽工作も意味をなさないわ」

 

「じゃあ、結界が発動するまで待つ?」

 

「冗談よね、それ。」

 

「勿論冗談だ」

 

「そう。じゃあこの続きは帰ってからしましょう。いい案も出そうにないし、ここは一回頭を整理させたほうがいいわ」

 

「それには賛成だけど、本当にウチに泊まるのか?」

 

「ええ。そうする予定だけど、なに、まだ文句あるの」

 

ムッとこっちを睨んできた。いやまあ、俺には異論がないのだが。

 

「じゃあ藤ねえと士郎は遠坂が説得しろよ。俺より説明力があるだろうし」

 

「了解。任せといて」

 

 

☆―☆―☆

 

 

 

家に帰り、居間に行くとそこには衝撃的なのを発見した。

 

「藤ねえが料理をしている、だと………!」

 

「あ、お帰り生嗣ってええ! なんで遠坂さんが衛宮邸(ウチ)にいるのよ!」

 

すかさず遠坂とアイコンタクトを取る。

 

「今日から下宿することになりました。これから宜しくお願いしますね、藤村先生」

あ、藤ねえが震えてる。これは大爆発の予兆だわ。

少し離れておこう。

 

「げ、下宿ってなによ遠坂さん! 大体遠坂さんと生嗣たちは女の子と男の子なんだから、一つ屋根の下で暮らす、というのはどうかと思うわ」

 

「どうか、とはどんな事でしょうか、藤村先生」

 

「え……えっとね、遠坂さんは美人だし、生嗣も士郎もなんだかんだって男の子だし、間違いがあったらイヤだなって」

 

「何も間違いはありません。生嗣くんには別棟からこちらに移ってもらって、わたしはその後別棟の隅に住めばいいのですから。距離にしてみれば三十メートルは離れているのではないでしょうか。ここまで離れていれば何も問題はないと思いますが」

 

「う……うん、別棟には鍵もかかるし、違う家みたいなものだけど……」

 

「でしょう。それとも藤村先生は衛宮くんたちを信用しないとでも? 先生は衛宮くんたちの性格どのようなものかはわたしよりご存じかと思います。彼らがそのような間違いを犯すというのでしたら、わたしも下宿先には選びませんが?」

 

「失礼ね、生嗣と士郎はちゃんとしてるもん! ぜったい女の子を泣かすような子じゃないんだから!」

 

「なら安心でしょう。わたしも衛宮くんたちを信用していますから。ここなら、安心して下宿できると思ったのです」

 

「むーーーーーー」

 

藤ねえから迫力が消えていく。

どうやら勝負あったようだ。

藤ねえは遠坂のことを仕方なさげに認めて、夕食作りに戻ったようだし、これにて一件落着だ。

そしてその後士郎が帰ってきて、どう思ったのは語るまでもない。

 

 

 

☆―☆―☆

 

 

藤ねえが作ってしまった散々な夕食(エセカニ玉丼)も終わり、いつものこと(鍛練)をして寝床につく。

明日どうなるのか考えながら、俺の意識は落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 




Fate/編は鬼畜にはしません。
ちょっと難しくするだけですよ?
ホントウdeath、ヒッシャウソツカナイ。
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