「じゃ、一足先に行くわよ。
出来るだけ早く追い付いてきなさいよね」
と、遠坂が言うやいなや彼女は逃げるように走り去ったいったため、俺とセイバーは慌てて追いかけようとした。さっきアーチャーと、遠坂について約束したのに、もし
「ぐっ……」
けれども頭が走れと命令したのに、体はそれを拒否している。足はフラフラと、まるで酩酊状態に陥ったかのような頼りない動きだ。
「……まずいな」
歩いて帰るだけの体力は恐らくあるが、魔力はもう空っぽだ。士郎と戦っていたときは常に強化を使い、その上ガンドを撃って撃って撃ちまくったからだろう。
セイバーは己がマスターの異常に気が付いたのか、士郎を腕に持ちながら此方に駆け寄ってきた。
「もしやマスター、体の調子が悪いのですか?
……わたしが凛を探す間、あなたは此処で休んでください」
決して動かないように、と言い残してセイバーは遠坂を探しに行った。
木に寄りかかり、体を休める。
「……疲れた」
今日という日で聖杯戦争は一気に終盤へ突入した。
自分のサーヴァントであるセイバーとアサシンを除くと、残りはランサーとアーチャーだけ。
あの
「大聖杯ってホントにどこにあんだろ?」
返事が返ってくるとは端から思ってないが、葉に覆われている
だが、しかし。
「イキツグ、大聖杯のことを知りたいの?」
「えっ? ああ、それ、どこにあるんだ?」
返事が返ってきたのを不思議に思いながら、咄嗟にどこにあるか聞いた。
「えーっとね、柳洞寺の地下にあるんだけど……。
………どうしても知りたい?」
「お、おう、そりゃもちろん………って姉さん!?」
いつの間に起きていたのか、姉さんは起き上がってから
「……もしかして、わたしが起きたことにずっと気づかなかったの?」
こくん、と顔を縦に振る。
「まあいいわ。で、イキツグは大聖杯の場所を知りたいんだよね? どうして知りたいの?」
大聖杯を跡形も残さず破壊したいから、という理由では納得してくれないだろう、たぶん。
もっとマシなものは……………、よしあれだな。
「それに魔力は貯まっているのか、見たいから」
ふっ、我ながら完璧な理由だな。
遠坂の家で聖杯戦争が説明されている本を読んだがそれによると、聖杯戦争とは聖杯を求める七人のマスターが各々サーヴァントを召喚して最後の一組まで殺しあい、残った一組が聖杯で願いを叶えるという。
だが、願いを叶えるために必要な魔力は膨大だ。もしその願いがお金とか簡単なものだったら少なくても良いが、それが世界を大きく変革するもの―――例えば、世界平和や人類殲滅など―――、ならば消費する魔力は莫大だ。
つまり、それだけの魔力が本当に貯められているのかどうか、勝利が目前に迫った今ソレを知りたいのは一握りの例外を除いて当然のことであろう。
……まあ、俺は貯まっていようが貯まってまいが壊すだけだがな。
「……ふうん、じゃあ今からイキツグの視界をわたしの
あと絶対に動かないでね、違うものに入っちゃうと元に戻すのがタイヘンでしょ」
「ん、わかった」
姉さんの額がこっちの額に当てられる。血が繋がっている肉親なので、べつにドキドキするといったことはない。断じて、ドキドキするといったことはない。
「目を閉じて。あと、あんまりキョロキョロ周りを見ちゃダメよ。いくら移すって言っても他人の視点なんだから、イキツグがここにいるかぎり乗り物酔いをしかねないわ」
言われた通りに目蓋を閉じる。
――――――途端。
物凄い速さで視界が加速し、拡大した。
いや、それは意識がそうなったのか。
俺の意識は木になったり壁になったりしながら、柳洞寺の階段、その近くにある洞窟、さらにその先の、大聖杯が存在している大空洞に順々に飛ばされた。
“道筋は覚えた? じゃあ、意識を元に戻すわね”
そんな声が何処からか聞こえたとき、自身の意識は大空洞から自分の肉体に戻された。
「どうだった? ちょっとした変身魔術だったでしょ、今の」
「なるほど、確かに自分が……、いや、自分の意識が木とか壁に移ったのか? いや、それとも………」
意識ではなく魂? まてよ、そもそもこの世界において魂とは一体なんなんだ? くそっ、こういうときに原作知識があったらっ! あっ、と言う間に分かったのにっ! これもあれもそれも全てあの、神って名乗ってるヤツが悪いんだ! 大聖杯破壊してあの空間に戻ったら絶対にアイツに抗議してやる!
「―――え、ねえってば! イキツグ、大丈夫?」
おっと、姉さんに心配されてしまったぜ。うん、これも間接的にあのバカ神のせいだな、と責任転嫁する。
………いや、今のはやっぱり自分のせいか。
「ごめん、ちょっと考え事してた。
だからもう、肩を揺らさないでくれ。只でさえ意識が変になったことで少し酔ってるのに、ますます酔ってしまう」
何故か転生しても受け継がれた、この酔いやすい性質。もしやこの性質はずっと未来永劫残り続けるのだろうーか?
「あ、ごめんねイキツグ。
……それにしても、セイバーが遅いわね。とっくにリンを見つけてここに来てもいいはずなのに」
「確かに」
なにかトラブルに巻き込まれたとしか考えられないくらいの遅さだ。
ちらっとセイバーが向かった方の道を見てみると、四人の人影があった。
「セイバー、遠坂、士郎。こっちに来るのは三人のはずだが」
少し、イヤな予感がする。
例えるならば、空から戦闘機が堕ちてくる三秒前! 的な。目を凝らすと、そこには。
「なんだよ……、あれ……………」
どうみてもゾンビである。しかもゾンビのくせして妙に新鮮というかなんというか。あたかも死んだ直後にゾンビになったみたいな感じ。
「警察の服を着てる………ってことはあれ、もとは警察なのか!?」
つまり、自分たちのために呼ばれたカレらは、何者かに何かされて、ああなってしまったようだ。
『グァッーーーー!!! 誰か助け』
『セン――、パイ。ごめんなさい』
『ま、まテ。ヤメロ、ワシはマダシニタク』
『お前は出来るだけ早く殺りたいからな』
今まで殺してきたヒト。
今から殺す予定のヒト。
そして、将来殺すかもしれないヒト。
カレらは、俺を恨み、憎む権利がある。
そして、俺はカレらを殺したときはカレらのために祈る義務がある。
だが、俺はまだ死ぬわけにはいかない。
誰にも殺される気はないし、勿論自殺する気も全くない。
今まで殺したヒト。これから殺すであろうヒト。
カレらの命を、俺は無駄にはしない。してはいけない。
そう、俺は――――――、
「俺は死なない。生きて元の世界に帰るんだ。オマエらにも、それ以外のヤツらにも殺されてはいけない。
だって、それだけが―――――」
この異世界で生きていくための唯一の柱なんだから―――――。
ゾンビらしき元ヒトが少しずつ、少しずつ俺たちに近づいて来る。
しかし、俺はアレらを殺す方法を知らない。手段を知らない。大体、死人の殺し方なんて知るはずがない。だから、ソレを知っているだろう
「姉さん。アレ、どうすれば殺せる?」
「彼らはまだ死徒になっていない、
「
髪の毛から四つの銀色の剣を生み出し、アレらを串刺しにした。
「ふふん、スゴいでしょ。今のは髪の毛を使い魔に変える、錬金術の一種でね――――」
「姉さんって意外に強いんだな。
じゃあ、アイツらが来た方に行くぞ。たぶんそっちにセイバーたちもいるはずだ」
姉さんには悪いが、一刻でも速く向こうに往かないといけない。セイバーがいるから大丈夫だとは思うが。
「ちょっと、待ってよイキツグ。まだ説明し終わってないのに―――」
と言いつつも、ちゃんと後ろから着いてくる足音を聞いて安心する。
「そういや姉さんがさっき死徒とかリビングデッドとか言ってたけど、アイツらは何?」
「えっとね。まず吸血鬼って知ってる? 死徒っていう存在は一般に言われる吸血鬼と同じで、簡単に言えば彼らは他の死徒に血を吸われたことで人から変異したものよ。
で、吸血された人が必ずしも死徒になるわけじゃなくて、ソレになるための条件があるのよ。肉体のポテンシャルと魂のキャパシティに優れていること。それらが死徒になるために必要最低限の条件よ」
「あと、彼らは死後にすぐさま活動するわけじゃなくて、遺体として埋葬された後に幾つかの段階を踏んで死徒になるの。
まずは脳髄が解けて、魂が肉体から解放されるまでに数年をかけてからさっきの
「何か質問とか、疑問に思ったことはある?」
「さっきのヤツらは警察の格好をしてた。普通、リビングデッドになるためには何年もかかるはずだろ?
なら、何で一年どころか一日も経っていないのにアイツらはソレになってるんだ?」
そう、彼らは昨日までは普通の人間だったはず。なのに、今日オレが見たヤツらはまんまそのリビングデッドというモノだった。
「たぶん、それはカレらの『親』の能力かそれ以外のナニカが原因ね。
あ、ここで言う『親』って言うのはカレらがリビングデッドになってしまった原因。つまり、カレらの血を吸った吸血鬼のコトを……。この声は、もしかして」
音が聞こえる。
一つは、沢山の、ヒトでは無くなった声。
一つは、大声で得意げに嗤う、不快な声。
そしてもう一つは、―――――――――。
それらの音を聞いた瞬間に両腿に鞭を打ち、気合いと根性だけで走り出していた。
――――走る。
セイバーと遠坂が必死に戦っている。
――――走る。
――――走る。
だから、少しでも速く助けにならないと。
――――そして、走った先には。
「……多すぎるだろ、おい」
――――百は居そうな
「増援か? だが、その数では話にならん。
――――カレらを統べる何者かが、セイバーたちと交戦していた。
次回、~冬木市、存続の危機~(仮)
お楽しみに?