とある転生者の試練   作:雷灯かがり

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では、少しダークかもしれない本編始まるよ!






第20話 破滅の行進

――――時は少し遡り、まだ衛宮生嗣らがライダー陣営と戦っていた頃。

とある丘の上の教会にある石造りの部屋には、書き上げた報告書から目を離し、――近年の携帯電話の普及により僅かに廃れて来ている――固定電話の液晶画面に表示されている見覚えの無い電話番号をじっと見詰めている男がいた。

 

「別に取ってもいいんじゃねえの? 間違って掛かってきた電話なら相手にその間違いを伝えればそれで終わりだし、もしかしたら迷える子羊からのものかもな?」

 

口は悪いが、しかしどこか面倒見の良くさっぱりとした性格が滲み出ている口調で、全身青タイツの男は電話の前で受話器を取るのを躊躇う彼に助言する。

だが、そんなことは彼も百も承知だ。この教会の神父である彼はこの教会に掛かってくる電話への対応を誰よりも知っている。

けれども、彼は嫌な予感がしたのだ。前回の聖杯戦争と比べると明らかに事後処理等が楽な今回の第五次聖杯戦争。前回の監督役であり、彼の父親でもあった言峰璃正はホテル爆破、複数の殺人事件、怪獣大決戦等の隠蔽・事後処理に追われていた。

つまり、彼がソレから感じたものとは。

 

――――無限の隠蔽(Unlimited hiding works)――――

まるで滝の様に降り注ぐ事後処理。机を占領する協会への報告書の山。もう、全てガス爆発でいいと投げやりになっている自分の未来が見えている。

「(ふむ、だがしかし…………)」

 

が、事後処理が有れば有るほどそれに応じて苦しみが有り、彼にとっての愉悦が増すと言うこと。他者の苦しみ、それは彼の感性にとっては熟した果実や、豊潤なワインのように滑らかなモノだ。

瞬間、彼の手は稲妻のごとき俊敏さで受話器を取り、一分近く待たされた電話の相手に話し掛けた。

 

「此方は言峰教会を任されている言峰綺礼という者だ。失礼ながら、貴方の名前は?」

 

彼はある種の確信を持っていた。間違いなく電話の相手はこちら側の人間だろう、という確信を。

 

「私は聖堂協会に所属している代行者の、シエルと言います。そちらは言峰神父で間違いないようですね」

 

「……ふむ。では、貴女はこの寂れた教会の神父に何の用事があって電話したのかね?」

 

「一応確認しますが、貴方の周りには誰も人はいませんね? この会話は機密事項なので、誰にもバレてはいけません」

 

ランサーが同じ部屋に、そしてギルガメッシュが退屈しのぎにこの部屋の様子を見聞きしているが、彼らは人ではなくサーヴァントだから良いだろうと、神父は考えた。

 

「ああ、勿論居ないとも。では、本題に入りたまえ」

 

「では。率直に言いますと、そちら(冬木市)には吸血鬼が潜伏していることがつい先程判明しました。

ですので、一刻も早く教会に住民を避難させてください。幸い、アレは教会の周囲には近寄らないので」

 

「なるほど、了解した。

だが市民を避難させる前に幾つか聞きたいことがある」

 

「出来るだけ手短にお願いします。時間は一刻の猶予もないので」

 

「承知した。

では一つ目、その吸血鬼とは一体何者だ? 貴女の発言から考えると危険なヤツらしいが?」

 

「彼の名はシュピーゲル=ヴラド・スヴェルテン……と、名乗っていますが実名は恐らく違います。

彼は、『白騎士ヴラド』・『吸血伯爵』と呼ばれているフィナ=ヴラド・スヴェルテンのことをまるで神のように崇め、自分が尊敬する彼の名に肖りたくて同じ姓にしたようですね。ですが、尊敬されている当の本人はシュピーゲルを殺したいそうですよ。

何故かと言うと、シュピーゲルはヴラドへの貢ぎ物として各地の人間を血祭りにあげて、その上『自分のする行為は全てヴラド様の意思だ!』とか言っているんですよ。こんなの、許せませんよね」

 

「……シエルさん、私は彼が持つ能力を知りたいのだが」

 

「あ、それでしたら問題ありません。彼とは私が戦うので、言峰神父は教会で市民の皆さんを安心させてください。

もう一度言いますが、彼は教会に近寄らないので」

 

「万が一ということもある。

それに、いま現在冬木市では聖杯戦争が行われている。召喚されたサーヴァントは戦力になるはずだが?」

 

「ええ、そうでした。聖杯戦争についての話もしなければなりませんね。

まず、聖杯戦争は冬木市にいる死徒を全員処理するまで中止です。その戦争に参加しているマスターとサーヴァントは死徒の処理に協力してもらいます。

明日の午前5時に教会に集まるようマスターの方々には言っておいてください」

 

「……では、最後の質問だ。貴女はいつ頃此方に来れそうかな?」

 

「多分明日の午前4時頃でしょう。それまでにと言わず、今すぐ住民の避難を始めさせてください」

 

何の合図もなしに電話が切れた。

恐らく向こうは忙しいのだろう、と結論して彼はこれからどうするかを暫く考えていた。

 

「そんなに難しく考えることでも無いだろ。その女の言う通りにすればいいと俺は思うんだが」

 

確かにランサーの言うことにも一理ある。しかし、あの代行者の言ったことをそのまま再現するのはつまらない。

よって彼は一捻りすることにした。

 

「ランサー、礼呪を持って命じる。泰山の激辛四川麻婆豆腐十五皿を完食するがいい。ただし、平時とは違い時間制限はなしだ」

 

「うげ、俺はもう嫌だぜあの地獄を味わうのは。………ま、時間制限がないだけマシか」

 

部屋を出ていこうとするランサー。ちなみに彼は全身青タイツから何時の間に着替えたのか、アロハシャツに身を包んでいる。

 

「ああ、それと言い忘れていたな――――」

 

出ていこうとしたアロハ男の足がピタリと止まる。飛びっ切り嫌な予感が彼の背筋を冷たく流れる。

「ランサー、お前がこの部屋に戻ってきたことを確認したときに、住民へ避難を呼び掛けるつもりだ。

この意味がわかるな、ランサー」

 

「てめっ………! 地獄に落ちろマスター!」

 

そう捨て台詞を吐くやいなや最速の英霊は泰山に、さながら大気を引き裂く烈風の如き速さで駆けた。

そしてランサーが教会を出た直後、ドアを開けてその部屋に来たサーヴァントが一人。

 

「………言峰。いや、我は何も言うまい」

いつも彼が放っている絶対的な威厳と余裕に満ちた王気(オーラ)は、この時ばかりは哀れな青い槍兵から赤黒の地獄(麻婆豆腐)辛さ(狂いそうな痛み)を思い出したために萎んでいた。

そんな様子の珍しい英雄王を横目で見てから、言峰綺礼は再び鳴り始めた電話に少しイヤそうな反応をした。

 

「ふん、これは正しく因果応報だな。そうは思わんか、言峰?」

 

黄金のサーヴァントはその顔を見て調子を取り戻したのか、普段の傲岸不遜な態度でニヤツキながら言峰綺礼に愉快そうな口振りで言った。

監督役でありマスターでもある神父は彼本来の仕事をするべく、受話器を手にした。

 

「こちら言峰教会。用件をお話し、」

 

「あ、漸く出たわねエセ神父。学校で大変なことが起きたから、よろしく」

 

「了解した。だが、『大変な』だけでは情報が足りないな。具体的に起こったことを教えてくれないか」

 

「一部を除く先生と生徒が全員昏睡状態。あと、聖杯戦争に参加していたマスターが三人死んだわ。

これでいいでしょ?」

 

なに………? 三人、だと!?

 

「で、では最後の質問だ。死んだマスターは誰かね?」

 

「……現場に来れば解るわ。じゃ、後宜しく」

 

「待て凛、脱落したマスターとは一体誰なのか教え………切られたか」

 

何か嫌われるようなことをしたか、と思い過去を振り返る。心当たりは多数あるが、その中に特大級の爆弾を見つけると、無意識に眼を細めて愉しげに笑ってしまう。

凛には困ったものだ、と肩を震わせながら天井が無ければ視認出来るはずの空を仰ぐ。

 

「着々とサーヴァントが間引かれているようだな、言峰。我が動くのはまだ先だと考えていたが、そろそろ頃合いかも知れん。お前はどうするつもりだ?」

 

「まず、私は学校で起きたことの事後処理をせねばならん。……しかし、英雄王よ。三人のマスターが学校で死んだというのは奇妙ではないか?

私の気のせいかも知れんが、おまえもそれに悩まされているように見える」

 

「フン、先程から悩ましい顔をしていたが、そんな事で悩んでいたのか。」

 

「いや、だがしかし……。凛の言葉が真実だとすると、残りのマスターは凛と私だけになる。虚偽であれば納得出来るが、あの言葉に嘘偽りはなかった」

 

「その謎は小娘の言う通りに学校に行けば自然と解ける。我の頭を悩ませているのはな、あの小僧だ」

 

「……あの小僧?」

「衛宮切嗣の息子だ、贋作ではない方のな。我と我の持つ財を持ってしてもアレの正体は掴めなかった」

 

 

そう、言い残して英雄王は部屋を去った。

神父も事後処理をするため部屋を去った。

静まり返った空間。

チクチクと、時計は休まず働き続ける。

 

無人の教会。

 

タカタカと、ピアノは音を奏で続ける。

 

冬木市新町。

 

クゥクゥと、カレラのおなかは常に空腹。

冬木市全域。

 

ムシャムシャと、カレラは休まず補食する。

 

まだ、誰も気付かない破滅の行進(パレード)

 

とある空。

 

ギシギシと、男は冬木市に舵を切った。

 

 

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