とある転生者の試練   作:雷灯かがり

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※3月21日、原作との矛盾点が見つかったのでその部分を改正しました。


第21話 夜明け前

 

 

 

「増援か? だが、その数では話にならん。此方(こちら)にはまだ千を超す本隊がいるのだからな」

 

落ち着け、落ち着け、落ち着け!

千を超す本隊? そんなのはどうでもいい!

それよりも、大聖杯を壊さなければ!

ビタンと、頬を力一杯叩き熱した頭に活を入れる。冷水を顔に浴びる方が効果的に頭を切り替えられるが、ここでそんな贅沢は言ってられない。

目的はハッキリしている。ならば、そこに至るまでの手順を考えるだけだ。

まずは、目の前にいるヤツらを殺す。元々は善良な人々だとしても、すでに彼らは動く死体、リビングデッド。このような姿に成るのはイヤだったろうし、せめて殺してやるのが慈悲というものだろう。

その後に、大空洞まで移動し大聖杯を破壊する。だが、問題はまだアーチャーと金髪男とランサーが残っていることだ。前者の二人はアサシンが何とかしてくれる………はずだ。しかしそれでも、ランサーと不確定なもう1人のマスターがいる。つまり、彼らに先を越されたら最終的な目的は達成出来ない。さらに。

 

「ふっ、この私が美しくてカッコ良すぎるのが悪いのだろうが、残念ながら貴方には興味がない。

我が主と違ってそういう趣味ではない故にな。……お前が美少年の枠に入るかは別として」

 

……殺してやる、アイツ。

 

「マ、マスター!? まだ貴方は戦闘可能な状態ではありません、後ろに下がっていてください!」

 

セイバーの忠告は尤もだ。確かに俺の体力は回復していないし、それどころか魔力は何日か経たないと全快にならない状態だ。本当は、いや絶対にコイツらと戦うべきではないのだろう。

しかし、俺はあの失礼なヤツを自身の手で倒したい。いや、殺さなければならない。アイツは魔術の世界とは全く関係のない一般人の人生を無茶苦茶にした挙げ句、俺を散々に侮辱した。

許せない。

いや違う、許せないんじゃない。

絶対に許さない、必ず殺す。これでいい。

 

「■■■■ーーーー!!!」

 

知性や理性など人間性の象徴を何処かに置き去りにしてしまったような、狂気と獣性を感じさせる絶叫。しかしそれでもやはり、カレのココロの何処かに僅かに残ったヒトの意志が、『どうか、こうなった自分を殺して助けて!』と泣き叫んでいるようにも聞こえた。

けれども、その意志とは裏腹にカレのカラダは俺を殺すためだけに動く。顔面を狙った右ストレート。ゾンビの類いにしては俊敏だが、ランサーの槍に比べれば月とスッポン。泰山製麻婆と俺手製麻婆なみの違いだ。迫る拳を蝶のようにヒラリと避け、そしてすれ違いざまにカレの動きを止めるため左下から逆袈裟斬り。が、無意識に何かイヤな予感を察して俺は刀で、カレを斬るためではなく自身を正体不明な脅威から身を守るために使おうとした。

だが、時すでに遅し。

右ストレートはフェイク。本命は余った左手で俺の首を掴むことにあった。十分な魔力があったのならば今からでも強化した脚でヤツの間合いから一瞬にして外れることが可能だった。しかし、魔力どころか体力すら危うい今は不可能だ。

一時の感情に支配され、大局を見失う。命が懸かっているとき、最もしてはならないコトだ。俺としたことが、最後に詰めを誤ったかっ……!

「……ふむ、埋葬機関のNo.7とあの方がこの街(冬木市)に向かっているのか。了解した。

―――……おい、こいつらに構っている場合ではなくなった。主の元に帰るぞ」

 

首を掴まれる直前、目の前のやつの動きがピタリと止まり土中に沈んでいく。それは他のグールやカレらの主たる吸血鬼も同じ。

そして数秒後には元からそこにはいなかったかのように、奴らは消え去っていた。

 

「………助かったのか」

 

思わず膝から崩れ落ちてしまう。複雑な心情だが、これで大聖杯への歩みを邪魔する者はいない。真っ直ぐ柳洞寺の洞窟に向かい、大聖杯を破壊すれば試練クリアだ。

 

「………!」

 

だが、それとなく違和感を感じる。原因は予想が着くが、それは余りにも認めたくないことだった。

 

「まずいことになったわね。アーチャーとアサシンがあの金ぴかに致命傷を与えたけど、アイツが死んだかはわからない。それに………」

 

令呪が刻まれていた遠坂の右手を見て解ってしまった。俺のアサシンと遠坂のアーチャーは消え、金ぴかは最悪生存している可能性があるということを。

 

「さっきまでここにいた連中が何のために冬木に来たこととか、アイツらの正体とか問題は山積みよ。

―――で、どうするの生嗣? 今いる中でマスターはあなた一人。決定は任せるわ」

 

ようやく、ようやくだ。元の世界に帰るための3つの試練。その最初の一が、もうすぐ終わる。思えば長かったようで短い十六年だった。

 

「柳洞寺地下にある洞窟、その奥にある大聖杯に俺とセイバーは行く。遠坂たちはどうするんだ?」

 

どこか平行世界の士郎は神妙な顔を、姉さんは落ち着いた様子でその言葉を受け止めたが、遠坂は滅茶苦茶それに驚いたようで。

 

「大聖杯って………!? 何で聖杯じゃなくてそっちに行くの!? 願いを叶えるなら聖杯で十分でしょうに!?」

 

イリヤの記憶を覗いたときに見たソレは巨大な魔術回路だった。あれならば、聖杯という万能の願望器の動力源である魔力を十二分に貯められるであろうと確信を持って言えるほどの上等なものだ。

あれほどのものを破壊するのはもったいないように思えるが、元の世界に戻ることと比べると些末事だ。

……というようなことを正直に言えるはずもない。上手く言えないが、とてつもなく嫌な予感がする。

 

「それなら、わたしが歩きながら説明するわ。イキツグが大聖杯にこだわる理由は知らないけど、大聖杯についてのことなら教えてあげる」

 

「わかったわ。生嗣、あとでちゃんと説明してもらうからね」

 

所々濁してしまえば何とかなるだろうか。どう伝えるかで頭を痛めつつも、試練の達成まであと一歩なのでテンションが上がるのだった。

 

 

 

☆―☆―☆

 

 

 

夜明け前が、一番暗い。

その言葉通り夜明け前の柳洞寺は蹲る巨人の影に覆われているかのようであり、また山門からの風はごうごうと異質な魔力を帯びて降りてきていた。

 

「……地下にある洞窟内とイリヤスフィールは言いましたが、この広い森から洞窟の入口を発見することは困難ですね。何か目印のようなものがあれば良いのですが」

 

セイバーの言うことは尤もだ。こんなだだっ広い森からそれを見つけるのにヒントなしではどれだけの時間が掛かるか。しかし、

 

「いや、それは問題ないよセイバー。姉さんの記憶を見させてもらったから道筋は全て把握している」

 

「それは頼もしい。では先導をお願いします、くれぐれもアインツベルン城のときの二の舞にならないようにしてください」

 

「まかせろ」

 

問題ない。大聖杯までの至るまでの道筋は何度も反復したし、うっかりも慢心も起こることなどない。絶対にアインツベルン城の二の舞になどなるものか。

 

 

階段から離れ、森の中に入っていく。木々をかき分けたり、ほとんど絶壁染みた岩肌を降りたりして、柳洞寺の裏手につく。さて、姉さんの記憶では小川があるはずたが――――――。

 

「……あそこに小川がある。あれを辿れば洞窟の入口があるはずだ」

 

今までほとんど発言してこなかった衛宮士郎が指差したのは岩でできたカマクラのようなものだった。水源まで行ってみると、岩が幾つも折り重なり人間一人がようやく入れるくらいの隙間があった。中に入ったところですぐ岩にぶつかると視覚的に分かるため普通なら入ろうとはしないだろう。

「――当たり。この岩、簡単にすり抜けられるわ」

遠坂は振り返らずに深い闇へと突入していく。この後は一本道なので何の問題もないが、もし道が複数あったとして大聖杯へと続く道とは違う間違えた道をずんずん突き進んだとしたら、その先にある可能性が高いトラップで死ぬかもしれないというのに。

……まあ、そんな『うっかり』をそんな場面で発動することはないはずたが。

 

「先に行ってください。後ろは私が守ります」

 

洞窟を探検する一向の先頭は遠坂。その次が衛宮士郎。そしてその次が姉さんで、俺は姉さんを後ろから守り、セイバーは俺たち一向を後ろから守るというのが自分たちのポジショニングだ。

 

「……暗いな」

水に濡れた地面を手探りに進んでいく。地面は急激な角度で下へ下へと傾いているためうっかり滑ってしまうと危険だ。

光明などない暗い闇に心が圧迫される。背中を付けて下っていなければ、すぐさま底抜けの闇に転がり落ちてしまいそうだ。

 

「………」

 

暗闇の中、坂の傾斜に寝そべって、ゆっくりと降下していく。先はどれほど深く、地下に続いているかはわからない。自分の息遣いのみが耳に響く。

 

「生嗣。今の内に訊いておく」

 

……と、先行する遠坂が唐突に話し掛けてきた。

 

「いいよ、なんだ?」

 

「大聖杯を破壊する理由―――、あれは嘘じゃないのよね?」

それはなんというか、下に降りるだけの作業に飽き飽きして、暇つぶしに口にしただけのように聞こえた。

 

「……ああ、嘘じゃないさ。どうしてそう思ったんだい?」

 

「何か引っ掛かったのよね。あなたが『正義の味方』みたいなことをするなんて」

 

失礼な。確かに『正義の味方』のような生き方なんてできないし、余程のことが無ければ目指そうとも思わないが、たまの気まぐれで『正義の味方』っぽいことはするのにな。

 

「気まぐれだよ、気まぐれ。それでいいだろう?」

 

「そう、じゃあそういうことにしておくわ」

 

会話はそれで終わり、闇は静寂に戻る。

俺たちは互いの顔も見れず、淡々と奈落へと下りていく。

黄泉へと続いていくような長い路。それは螺旋状に穿たれた通路であり、感覚で百メートルくらいは進んだと判断したときに。

暗い洞穴は一転して自分たちを迎い入れた。

一人一人しか進めなかった道は、通路になって更に奥へと続いている。

光苔の1種か洞窟内はぼんやりとした緑色に照らされているため明かりは必要ない。

通路には生命力が満ち足りている。それは吐きそうになるほど生々しい。活気に満ち、生を謳歌しようとする誕生の空気。それは夥しいまでの“生気”であり、視覚化できるほど垂れ流される魔力(マナ)である。本来は輝かしいものであるはずの生命の温かさが、ここでは眼を背けたくなるほどの汚物であった。

 

 

……かける言葉なんてない。

死地において、声をかけるなど気を緩めるようなことをすればそれが即ち死に繋がる。

 

「行くわよ。ここから先は、自分の命を優先して」

 

通路の奥、黒い瘴気を放つ源へと足を進めていく。

 

 

 

――――生暖かい風が頬を撫でる。

通路を抜けた先は、大きく開けた空洞だった。横幅は学校のグラウンドほど。天井は闇が霞んで見えないが、十メートルほどの高さのはずだ。

生命の気配はなく、昔どこかでみた荒れ果てた荒野に酷似している忘れ去られた広間。

そこに、

 

「遅かったじゃねぇか。こっちはいい加減待ちくたびれたぜ」

 

青い槍兵が闘気と犬歯を剥き出しにしながら、愉しげに笑っていた。




一日遅れですが、新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします(テンプレ

さて、おそらく次回でfate/staynight本編は実質的に終了です。

……え、伏線回収仕切れてない?

HAHAHA、問題ありません全て計算通りです。
何のためにifルートを用意したのか、この言葉だけで誰でも察せるはず!(きっと

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