とある転生者の試練   作:雷灯かがり

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第22話 決着

「遅かったじゃねえか。こっちはいい加減待ちくたびれたぜ」

 

地下の広間には、絶対の闘気を纏うランサーが待っていた。空洞には彼のマスターの姿は無く、立ち塞がりしは銀のサーヴァントのみ。

 

「―――――セイバー」

 

眼で敵を倒すよう合図を送る。セイバーは頷くと、一番前に出ていた遠坂を守るような位置で透明な剣を構えた。

 

「いいねぇ、そうこなくっちゃ。

……ああ、そういやうちのマスターから一つ、言伝てを頼まれてたっけな」

 

ランサーのマスターから言伝て……?

今さら宣戦布告とかするつもりなのだろうか?

 

「まあ、なんだ。長ったらしい前口上を抜きにするとよ、お前とサシで戦いたいから一人で大空洞まで来い、だそうだ。

……そら行けよ。俺は手出ししねぇから、さっさと奥まで行くんだな」

 

「だめよ生嗣、敵の口車に乗らないで。一人で行ってしまったらランサーのマスターの思う壺だわ。セイバーがランサーを倒してから奥に進みましょう」

 

遠坂の言っていることは正しい。『手出ししない』という言葉が嘘で、俺があのサーヴァントの隣を歩いているときに攻撃されない可能性はないとは言い切れないし、第一敵のマスターが予想通りの人物だとしたら俺の勝ち目は慎二への信頼なみに薄い。

 

「なんだ行かねぇのか?

……腑抜けが。早く行って止めねぇと、地獄で後悔することになるぞ」

 

けれど、時間がないのも確か。もし敵マスターが俺を待つのを止めて、聖杯で願いを叶えれば、俺は元の現実に戻れなくなる。それだけはいけない、たとえ勝ち目が薄氷のように薄くても、この試練に挑まなければならない。

足を一歩、前に踏み出す。

覚悟は決めたんだ。

たとえこの両手が幾万人の血に塗れ、その報いを受けることになろうと。たとえ勝ち目が無い天敵と戦うことになろうと。たとえこの世の全てを敵に回そうと。俺が『俺』である限り、元の世界に戻るためにどんな苦難や試練にも最後の最後まで抗うのだ、と。

 

「………これは?」

 

肩を叩かれ振り返ると、掌に有名といえばあまりにも有名な短剣を握らされた。たしかアゾット剣という儀式用の短剣だ。

 

「護身用の物だけど何もないよりは役に立つでしょ。“laβt”って叫んで、ありったけの魔力を流し込めば発動するから」

 

……渡された短剣は、ずしりと重い。

それは物質的なものだけじゃなく、むしろこの短剣に込められた遠坂の思い出の深さによるものだった。

 

「遠坂、今までありがとう」

 

もっと――――もっと、出来ることならこの世界で生きたかった。大聖杯を破壊した後、いつでも次の試練に挑戦できるのならば――――、それはどんなに嬉しく、そしてどんなに恐ろしいことか。ある意味、試練を乗り越えた直後にその世界から離脱するというのは救いだ。もしこの世界にずっと居続けられるのなら、俺はそのうち元の世界に戻ることを否定してしまうのかもしれない。

 

「セイバー、ランサーを倒せ」

 

十六年。元の世界にいた時間とほとんど同じだけの時をこの世界で過ごした。ならば、愛着が湧いてくるのは是非もないのだろう。姉さんと士郎や藤ねえ、桜に遠坂、あと師匠等その他諸々など、数多の縁が出来た。再び転生するということは、それらの繋がりを全て断ち切ってしまうということだ。複数の異世界転生とは、とどのつまりそれの繰り返しだ。結んでは切れ、結んでは切れを何度も何度も反復し、そのメビウスの輪から抜け出せるときは『神様』と名乗る存在の裁量次第。俺の場合は三度、試練を突破すれば抜け出せるらしいが、『神様』の気まぐれとやらでそれが覆るというのもなくはない。

 

「姉さん、ごめん」

 

………別れの言葉が『ごめん』か。謝って別れるなんて嫌だ、別れるときは笑って『またな』と言おう、と決めていたのにこれだ。まあ、それも仕方のないことなのだが。アインツベルンの一千年に渡る第三魔法・聖杯の探求にこれから終止符を打つのだ。一応俺は彼らの一族に連なる者なのだし、一族の悲願をこれから破壊してしまうのだから詫びの言葉一つ入れなければアハト翁とかのご先祖様に呪われてしまう。でも、これで最後だから。最後だからこれくらい言うのは許してほしい。

 

「じゃ、また会おう」

 

……もう、二度と会うことはないだろう。

この十六年を決して忘れないように、一歩一歩を噛み締めて歩を進める。ランサーの横を通りすぎて、最奥へと足を運ぶ。

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

衛宮生継は最深部へと向かった。

この場にいる者は五人。セイバー、ランサー、遠坂凜、衛宮士郎、イリヤスフィール。この内、サーヴァントたる二人の英霊は各々の得物を構え対峙する。

 

「――――どうしたランサー。

止まっていては槍兵の名が泣こう。そちらが来ないのなら、私が行くが」

「…………は、わざわざ死にに来るか。それは構わんが、その前に一つだけ訊かせろ。

貴様の宝具―――――それは剣か?」

 

ぎらり、と。

相手の心を射抜く視線を向ける。

 

「―――さあどうかな。

戦斧かも知れぬし、槍剣かも知れぬ。いや、もしや弓という事もあるかも知れんぞ、ランサー?」

 

さらり、と言を受け流し。

凜とした声を洞窟内に響かせる。

 

「く、抜かせ剣使い(セイバー)

 

放った言葉の余韻が消えたことを合図としたかのように。二人は同時に地面を蹴り、そして―――激しい金属音を辺り一面に反響させた。

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

暗闇、暗闇、また暗闇と。

ここは地の底なのだから、それが続いたことは至極当然であり、また、それが続かないということは通常有り得ないことなのだ。

つまり、いま、目の前に広がる景色はきっと不自然、そして非常であるに違いない。果ての無い天蓋と黒い太陽。広大な空間は洞窟などではなく、荒涼とした大地そのものだ。直径にして二キロ、いや優に三キロはあるだろう。

遥か遠方には壁のごとき一枚岩。あの崖を登れば、視界に広がるのは巨大なクレーターらしい。そこに、大聖杯という巨大な魔方陣がある筈だ。

どくん、どくんと胎動するは黒い影。しかし影でありながら、それは荒野を照らす光の役目も果たしている。朧気な記憶だが、確か遠坂の文献には“大聖杯”、いや正確に言うと“始まりの祭壇”というのだったか、それについてはこう書かれていた。

 

 

“最中にいたる中心”

 

“円冠回廊、心臓世界テンノサカズキ”

 

大聖杯などどうでもいい、それは破壊の対象でしかないと自称する俺でさえもそれらが何を示すのか多少なりとも興味が湧くのだ。ましてや大聖杯の構造を知りたい何者かにとっては、重要な情報を通り越して必要な情報であるに相違ない。

「あれは本当に万能の願望機なのか? あんなのに願ったら厄災が襲って来そうなんだが」

 

呪いの塊。端的にアレを喩えるなら、まさにそれだ。大聖杯を満たしている不気味で吐き気を催す魔力といい、あのドス黒い光といい、そして手足を痺れさせる死の予感といい。

……崖を登って、祭壇へ。

煌めく赤黒い大地。黒い太陽を支える巨大な柱。その土台の多重層刻印を柱諸とも破壊すれば、ミッションクリアだ。そのためには、セイバーの約束された勝利の剣(エクスカリバー)が必要だ。俺は、セイバーに礼呪で無理矢理にでもアレを宝具で一掃するよう命令するだけの簡単なお仕事をするための“下準備”をしないと。

アレを完全に破壊するためには大火力を用意するだけではなく、それを十分に発揮出来るような環境が必要だ。

目算であと百メートルほどか。アレの足元までギリギリまで近付いて、大火力をぶっ放せば跡形も無くせる。

「――――、――――、アイツは」

 

やはり、いた。予想通りの人物が、予想通りの場所に、予想通りの風体で立っていた。

 

「言峰、綺礼。何故監督役である筈のお前がそこにいる。それ以前に何故マスターになっているんだ、監督役である筈のお前が」

 

冬木の聖杯戦争において、聖堂教会から派遣された監督役は絶対中立。彼らの役目とは、予備の魔術師の用意や事故の隠蔽にサーヴァントを無くしたマスターの保護など、聖杯戦争を円滑に行うことだと聞かされた覚えがある。

 

「『お前』呼ばわりか、つい最近まで『師匠』と呼び慕っていた弟子は何処へ行ったのだろうな」

 

「ルールを守らない奴はクズ呼ばわりされるらしいぞ。あと、話を逸らすな質問に答えろエセ神父」

 

普通に戦って勝てる相手ではない。万全な自分なら兎も角、魔力が底を突いてしまった自分に勝ち目は僅かしか残されていない。ならば、唯一のアドバンテージをあいつの肉体にまで届かせるための体力を少しでも回復しなければ。

「二つ目の質問への答えなら簡単だな。要は聖杯戦争を円滑に進めるための駒が入り用であったためだ。

さて、最初の質問への答えだが。私が何を欲しているかは知っているな?」

 

「愉悦だろ。いや、娯楽と言った方が正しいのか。で、それが質問の答えにどう関係していると?」

 

まさか大聖杯が娯楽とでも言うのか。……待てよ、人の不幸でメシが美味いを地で行くアイツにとって呪いの塊は絶好の玩具と成りえるのではないか。つまり、言峰綺礼の目的とは――――。

 

「聖杯で皆を不幸にさせるような願いを叶える。それがお前の目的か?」

 

「違う。確かに私は他人の不幸でしか至福を得られない破綻者だが、聖杯に願う望みなど持ち得ていない。私の目的とはただ一つ、この呪いを誕生させることのみだ」

 

「この呪いを誕生させる………?」

 

言ってる意味が解らない。普段使っている言語なのに、まるで知らない言葉で話されているよう。呪いとは、そもそも誕生させられるものなのか。

 

「“この世全ての悪(アンリマユ)”それがこの呪いの名だ。人々に生まれ出されながら、人々に望まれなかったモノ。

――――善悪の所在。私がついぞ出せなかった答えをソレは出してくれるだろう」

 

「答え、だと?」

この世全ての悪(アンリマユ)”とは拝火教に登場する悪神だ。善神のアフラマズダと三千年戦った末に敗北する宿命にあるという神様だったか。

だが、解せない。そんな神様と言峰の答えに関連性などあるのか。

 

「然り。生まれながらに持ち得ぬもの、初めからこの世に望まれなかったもの。それが誕生する意味、価値のないモノが存在する価値を、アレは見せてくれるだろう」

 

つまり、こういうことか。

言峰綺礼は生まれながら他人の不幸でしか至福を得られない破綻者であるため、他者のようにそれ以外の理由では至福を感じられない『持ち得ぬもの』で、故に他者に不幸しか振り撒かない『価値のないモノ』であり。“この世全ての悪(アンリマユ)”も生まれながらにして純粋な悪しか持たず、善を持たない『持ち得ぬもの』で、さらに『初めからこの世に望まれなかったもの』でもあり、故に他者に破壊や殺人などの悪とされるものしか振り撒かない『価値のないモノ』であるため誕生すれば『価値のないモノが存在する価値』、言わば“純粋悪が存在することによる善”を知ることが出来るということだろうか。

だが、それは――――――。

 

「それは違う。この世に意味や価値がないものなんてない。大多数にとっては無価値で無意味なモノでも、少数の誰かにとっては価値や意味が必ずある筈だ。いまのお前たちのように」

 

「お前が言ったことは机上の空論に過ぎん。実証しなければ意味がない。無意味そのものだ。

私の答えを知りたいのならば、そこで突っ立っているといい。そうすれば、直に答えは出る」

 

興味はある。けれど、そんなモノが誕生すれば試練を乗り越える以前の問題として、死ぬ。

死ぬことは出来ない。死ぬことは許されない。死ぬことは―――――――――――――。

 

「まさか。俺はお前を倒して、その後アレを木っ端微塵以上に破壊する。だから、そんなことは出来ない」

 

「いいだろう。最後の鍛練、内容は殺し合いだ。いつも通り殺す気で来い、でなければ―――――死ぬぞ?」

 

真っ直ぐ言峰綺礼(師匠)に向かって走る。あの切り札は確実にアイツをも殺せる。ならば、至近距離で開放することだけを考えろ。そのためだけに全ての思考を費やせ。そのためだけに、ただひたすら走れ。そのためには―――――――、まず目前に迫る泥を回避しろ。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

眼にも止まらぬ剣撃が続く。それらはまるで夜空を駆ける星のようだ。透明な流星と、朱い流星。そしてそれらは衝突する度に衝撃波と金属音を創り出し、洞窟内を支配する。

「チィ―――」

朱の流星が起点。全身が青い鎧で覆われた男は朱槍の穂先で地面を蹴り、一旦透明な剣を得物とする少女と距離をとる。

銀の鎧を纏った少女は先の一撃で勝負を決めるつもりだったのか。渾身の力と魔力を乗せた攻撃を避けられたため大きな隙を見せてしまった。当然、それを見逃す男ではない。三角飛びで三尺余りの距離を瞬時に詰め、一際強力な一撃を浴びせんとし。透明なものに阻まれた。

隙を見逃す男ではなかったが。その隙をそのまま放置するような少女ではなかったということだ。透明な剣はあっけなく避けられ地面に刺さったが、それを支点にしてコマのように体を反転させ、一秒も掛からずして舞い戻った男の朱槍を、反転させた勢いで迎撃したのである。

結果にはお互い不満の様子だ。弾いた少女と弾かれた男、両者とも必殺の一撃を放ったにも関わらずどちらも無傷だったからだろう。

男が槍の穂先で地面を殴り、距離を更に取る。その距離はおよそ三十尺、つまり都合百メートルも離れた。少女は己の直感が打ち鳴らす危機感に従って、いつでも宝具を開放できるように剣を覆う風のベールを解いていく。

「その黄金に光り輝く剣―――――、なるほど、おまえの正体は騎士王ってわけか。アーサー王が実は女だったなんて初めて知ったぜ」

ニヤリと笑う。それは相手が強敵と知ったための笑みか、名高い騎士王が女だと知ったからか。地面に四肢を付いたランサーは腰を上げる。

 

「御身の真名は分からぬが、その槍技―――さぞかし高名な英霊であろう。来いランサー、私は貴殿を倒す責務がある………!」

マスターに『ランサーを倒せ』と言われたのだ。ならば、見事倒さずして何が英雄か。サーヴァントとして、マスターの命を全うせねばならない。

 

「――――行くぞ。この一撃、手向けとして受け取るがいい……!」

 

青い豹が走る。

残像さえ遥か、ランサーは突風となってセイバーへ疾駆する。両者の距離は百メートル。

それほどの助走を以て槍を突き出すのではない。五十メートルもの距離を一息で走り抜けた槍兵は、あろうことか、そのまま大きく跳躍した。

宙に舞う体。大きく振りかぶった腕には“放てば必ず心臓を貫く”魔槍。

ぎしり、と空間が軋みをあげる。

 

「―――――刺し穿つ(ゲイ)

 

紡がれる言葉に因果の槍が呼応する。青い槍兵は、弓を引き絞るように上体を反らし。

 

死翔の槍(ボルグ)――――――!!!!!」

 

絶殺の一撃を叩き落とした―――――!

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ―――――」

 

…………また元の位置に戻ってしまうか。気味が悪い泥を避けるように進むと逆に後退させられる。ずっとその繰返しだ。お陰で折角貯めた体力も使い果たしてしまいそうだ。

 

「はぁ――――あ、はぁ―あ―――」

 

泥の一撃程度なら余裕を持って回避可能だ。けれど、幾重にも重なった泥が、波の水しぶきのように襲いかかるのは反則だろう。いや、これは試合ではないからそんなのは無いが。

「く――――はぁ、あ」

 

酸素を吸い込む。じゃないと、酸欠で倒れそうだ。五メートルがこんなに遠いとは。そして、こうして休んでいることを諦めと受け取ったのか。暫く俺の動きを観察していた言峰が言う。

 

「ん? なんだ、それで終わりか。諦めたのならそうと言え」

 

そんな声が耳に届いた瞬間。

止まることなど許さない、と無数の泥が鎌首をもたげて降り下ろされた。

 

「っ―――――!」

 

後方へ跳ぶ。何の魔術加護もない跳躍だから大した距離は跳べないが、動かないよりはずっとマシだ。

走る。何処か泥が存在しない突破口はないかと。

しかし、現実は非情である。突破口など残されていない。地面は足の踏み場もないほど泥に浸食されている。

 

「くっ―――、この!」

 

次から次へと。泥は際限なく増え、もう泥を踏まずして先には進めなくなっている。黒鍵の投擲―――――はだめだ。黒鍵の撃ち合いなら向こうに分がある。もういっそのこと泥を踏んで踏破するか。………いや、それは自殺行為以外の何物でもない。だが、他に方法はな――――――、いや、ある。思い出せ、ランサーとの戦闘を。あれならもしくは。

 

「言峰―――――――!」

 

本番一発勝負。成功したら生還、失敗したら死。十メートルほど後方に歩く。刀を抜き、残り全ての力を腕に預ける。

泥の追撃は止まっている。あいつは俺が足掻く姿を見て楽しんでいるようだ。そう慢心してくれないと、賭けの前に死ぬので有り難いことである。

 

「いけ―――――っ!」

 

まずは助走。

 

「はぁっ―――――――!」

 

次に刀を地面に突き刺し、その勢いを利用して。

 

「おぉ―――ぉお――――っ!」

 

空を翔ぶ。この間、僅か三秒にも満たない。切り札(アゾット剣)を右手に持ち、構える。

 

「死ねぇ―――――ぇ――――lαβt!!!」

心臓に向かって突き刺す。泥で脚が滑るが問題はなかった。その程度で結果が左右される距離ではないのだから。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

迫る魔弾。セイバーは槍ごとランサーを消滅させるため、剣を振り上げその真名を謳う。

「―――――――――約束された(エクス)

 

だが、少し遅かった。一瞬でも早ければ槍を灰塵と化させ、ランサーを倒せたかもしれない。ほんの一瞬。その一瞬で、勝負は決まる。

天空より飛来した破滅の一刺が銀の騎士へ直撃する直前、()はそっと瞼を閉じ。

 

「――――I am the born of my sword(体は剣で出来ている)

 

故に、その一瞬を創造すれば勝利は必至。彼の身体はこの世界線の衛宮士郎、しかし彼の精神は此処とは別の平行世界のエミヤシロウと噛み合わない。されど、両者とも“起源”は同じ。

身体は未だ途上なれど精神を以て限界を踏破し、この状況において最適なモノを剣の丘より検索し、そして此所に幻想を結び()と成す――――!

 

「“熾天覆う七つの円環(ローアイアス)”――――――!!!」

 

本来は七枚に重なり、あらゆる投擲を防ぎきる鉄壁以上の盾となるが。如何せん身体がまだ未熟であったのが災いしたか、花弁は四枚に留まる。しかし、その一枚一枚が古の城壁に匹敵する。それ故、不完全といえアイアスは役割を十分に果たした。

勝利の剣(カリバー)―――――――!!!」

 

―――溢れる光。

曰く、其は星の光を集めた最強の聖剣。

曰く、其は“湖の乙女”から授かった神造兵器。

曰く、其は人々の願いを結晶化した最後の幻想(ラスト・ファンタズム)

この世全ての闇を祓うように。光の大断線は魔槍を呑み、ランサーを呑み、暗黒の洞窟を目映い光の洪水で満たした――――――――。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

青い火花が、黒い神父服に咲き散った。

胸に刺さった短剣と、そこから四方に散った火花。肉片は跳ばず、出血らしき物もない。

それでも――ここに、この戦いは終わっていた。

 

「――――――――」

神父(師匠)は俺になど興味がない様子で。ただ不思議そうに、自身の胸に刺さっている短剣を見下ろすのみだ。

 

「――――――――」

 

泥が己を足から浸食していた。“この世全ての悪(アンリマユ)”は伊達ではないと言うべきか、さっきから死ね死ねと脳に直接響いて煩い。

 

「――――なぜ、おまえがこの剣を持っている」

 

だがそんな呪いより鮮明に聞こえる声で、言峰綺礼は呟いた。

 

「それは遠坂から一時的に預かったものだ」

 

「――――――――」

 

思案は、どれだけの時を掛けたのだろう。師は深く息をつき、ようやく――――対峙してから一歩も動かなかった体を、ぐらりと揺らした。

 

「そうか。以前、気紛れでどこぞの娘にくれてやった事があった。あれはたしか十年前か。

―――なるほど。私も、衰える筈だ」

 

倒れる。

言峰綺礼という一人の神父の体が、力無く倒れていく。

 

「――――――――」

 

それを、最後まで見届けた。

他人事のように自らの死を悟り。今まで使役していたモノ、自らが望んだモノの中へ消えていった。

それが戦いの最後。この長いようで短かった第五次聖杯戦争の終焉だった。

 

「………やっと、か」

緊張が抜けて、地面に力無く座る。その途端に、今までの比じゃない死ね死ねの呪いが俺を襲う。

――――やばい。何がやばいって、折角言峰も倒して、セイバーもランサーを倒したっぽいのに、また呪いに犯されたため、さらに身体の感覚が失われていく加速度が上がったことだ。

幸い、視覚と聴覚はまだ無事だが、時間が経てばそれらの感覚も失われるだろう。さらに経てば死ぬ可能性だって出てくる。

 

「(冗談じゃない、こんなうっかりで死んでたまるかよ…………!)」

 

セイバー、早く来てくれ。早く来ないとマスターが死ぬぞ。だから早く来い。一刻でも早く。おまえが万が一にも逆らったときのために礼呪を残して置きたいから、早く来てくれセイバー!………と内心気が狂いそうになりながら衛宮生継は懇願します。

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

極光の輝きが薄れていく。洞窟内を煌々と染め上げていた黄金は、セイバーが持つ剣の周囲だけを仄かに彩っていた。

「………参った。おまえの宝具が発射される前に殺ろうと思ったんだが…………、そこの坊主に邪魔されちまったよ。最初の時とは見違えるようだな」

 

そう飄々と言うランサーは出血していて、ちょっとした小さめのお風呂に、その血液を入れたら丁度いい感じの量になるのでは、と思うくらいの大量の血液で彼自身の身体と地表を染めていた。

「――――――――」

衛宮士郎は何も返答せずに、洞窟の最奥へ走る。しかし彼なりに何か思う所があったのか、ランサーやセイバー、凛たちを一回振り返ってから、再び最奥へと急いで走って向かった。

その後ランサーは消滅し、セイバーは凛の指摘で、彼女のマスターたちが居る場所へ慌てて走った。

 

 

 

 







遅くなって、すみません!
種火周回でもダクソでも何でもしますから許してください!

………と、冗談はさておき。タイトルは《決着》、その名の通り大聖杯の結末はラスボスが倒されたので《決着》しましたが。まだだ、まだ終わらんよって感じで二回戦の予感。そしてfate/staynight編も暫定三つある試練の一つに過ぎず………。
―――ええ、完結はいずれさせるので応援(感想等)よろしくお願いしますっ!
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