視界が開ける。
「アレが――――」
この、ふざけた戦いの元凶か。
荒野を照らす、黒い太陽。十年前の地獄が鮮明に脳裏によみがえる。
そして、こことは違う歴史を歩んだ平行世界、即ち俺が最初に死んだあの世界では。この数日後に、あの地獄が冬木市全域で再現されていた。一人を除いて例外は居らず、冬木市の住民は皆死んだ。
あのときは、誰がそうしたかは知っていたけれど、何が直接の原因になっていたかは知らなかった。
神を名乗った何者かは言った。瀕死になった平行世界の衛宮士郎に転生し、その世界の衛宮生嗣を己で殺せば生き返らせてやると。なるほど、確かにそれは本当だった。確かに生き返ったのだ、だがそれは求めたものとは全く違うモノ。
そこに人は誰もいなかった。人の文明は消滅していた。人の骸らしきモノだけは残っていた。いまだ存命していた奴は一人の死徒。いや、正確にはまだ死徒に成りきっていない半人半死徒か。それと生き返った自分自身。あとは、やけに生命力を感じさせるナニカ。
何回、何十回と死んで同じ数だけ生き返った。いつだったか、神らしきモノは言った。衛宮士郎が二回目も死んだ世界は廃棄され、最終的には衛宮士郎が死んだままの世界と衛宮士郎が一度も死なずに生き残った世界の二つに絞られるだろうと。
つまり、それは。
衛宮士郎は生き返っても、すぐに死ぬという運命では無いのだろうか。
「―――――――――」
高い崖を登り、さらに奥へ。
無理な投影魔術を使いすぎたか、ギシギシと体内の剣が蠢く。体は剣で出来ている。それはとうの昔に身体で知った。
人が倒れている。泥に手足は侵食され、ピクリとも動かないがまだ辛うじて生の気配を感じる。
「
最もよく知っている双剣を投影し、構える。剣が服を内側から突き破るが問題ない、まだ戦える。だってまだ、剣と化した箇所は体の内側、それに頭は剣になっていないのだ、こんな所で止まることなんかできないし、第一■との約束も果たせてないからここで止まることなんか許されないし、はやく元の世界に帰らないといけない、でも確か■は―――――――。
「俺の声、聴こえるか?」
強引に思考を握り潰す。じゃないと、何かが壊れてしまう予感がした。
「ああ、まだ耳は何とか機能している。だがその代わりに、四肢の感覚が消えたな。ははっ、脳に死ねって言葉がずっと響いているし最悪の気分さ。
こうして誰かと話さないと狂ってしまいそうだよ」
だが、狂ってしまいそうと言いながらも、その声には随分と余裕があるように思える。少なくとも、昨日俺と対峙したときや一、二時間前に此所に向かったときとは違い、危機感がといったものが感じられない。
俺という明確な危機が迫っているにも関わらず、何故こんなにも余裕綽々という様子なのか。そう訊くとふざけた答えが返ってきた。
「常に余裕を持って優雅たれ。この家訓に感銘を受けたからだよ――――――、いやジョークだ。だからお願いします刃物向けないで、本当の理由話すから!」
そう仰向けで言ってから、コホンと咳払いして本当の理由とやらを話し始めた。
「んー、まず俺とお前の決着はもうアインツベルン城でもう着いてるし。士郎を恐れる必要はないかなと」
確かに生嗣と俺の戦いは生嗣が勝利した。だが、それとこれとは話が別だ。あの戦いに勝ったら負けた側に攻撃されないという決まりは無いし、いまは互いに満身創痍に違いないが、あのときと違い俺は動けアイツは動けない。圧倒的にアイツは不利のはずだが。
「えっ、じゃああの戦いに勝った意味は? ガントっていう俺にとって超燃費悪い魔術まで使ったのに。
勝った人が負けた人に対して絶対服従とか、そんなルール無かったっけ?」
「ない。だから余裕を持って優雅に殺されろ」
「ウェイト・ア・ミニッツ。少し話をしようじゃないか、ほら、生き返ったら何を成したいとかさ?」
…………生き返ったら何を成したい、か。
「やっぱり目的というか、未練があるからこそ生き返りたいんだろう? じゃなかったら、生き返ろうとは普通思わない」
…………目的や、未練。
「自分の考えだけどね。目的とか未練がなくても生き返りたい人がいるかもしれないし。まあ、すぐに答えを出せなくてもいい。しばらく考えているがいいさ」
そんなものが果たしてあったか。生き返っても、いるのはアイツと得体の知れないモノだけ。■や藤ね■、それに遠坂に■二などの住人は全員死んだ。
俺の求めたものは、時間を巻き戻さない限り決して届かない。つまり、生き返っただけでは足りないのだ。
「ぐおっ……………っ」
そう結論に達すると同時に、身体が横に弾き飛ばされた。十メートル以上飛ばされてから、やった者は誰かと探すと。
「ナイス、セイバー。助かった」
「まったく、兄弟似た者同士ですね。自分の命をもっと大切に扱ってください」
どうやらセイバーの風王結界でやられたらしい。風で覆い隠していた黄金の剣が再び露になっている。
「セイバー、頼みがある」
「何でしょうかマスター」
「お前の聖剣で大聖杯を破壊してくれないか?」
「いいでしょう。見た限りでは、アレは私が求めている聖杯ではない。世のため人のため、このようなモノは消えるべきだ」
「…………納得してくれるならさっさと礼呪で呼び出すべきだったか。いや、まあいい。何かしらの意味があったと信じよう」
そう言うと、彼は左手を掲げて。
「第二の礼呪を以て命じる。セイバー、聖杯を破壊しろ」
セイバーに聖杯の破壊を命令した。セイバーは両手で剣を振り抜き、その光輝く剣を頭上で構える。
「第三の礼呪を以て重ねて命じる。セイバー、大聖杯を、木っ端微塵に破壊しつくせ」
礼呪の特定のことへの重ねがけ。その強力な援護を以て増幅された極光の奔流が大聖杯へ向かう。
「
☆ ☆ ☆
視界が回復する。
それと時同じくして自分の身体が青い光に包まれ、この世界から消滅しつつあるということがわかった。
セイバーはオレとは違って自身の身体が光に変わっているが、この時空から消えることは変わらない。
「いき、つぐ?」
「士郎か、どした?」
そう言えば士郎に別れの挨拶してなかったな。平行世界の彼とはいえ、殺してしまった相手だ。そんな相手に何と言えばいいのかさっぱりわからん。
「おまえ…………消えるのか?」
「――――――――」
面食らった。
傷つくようなこと言われるかと思ったのに、まさかそんなことを聞かれるとは。いや………まさか、まてよ。ひょっとして、今の士郎は…………。
「…………そうだな、今まで世話になった。士郎にはホントに感謝している」
食事美味しかったし。鍛練に疲れたり飽きたり嫌になったときに、士郎のひたむきに鍛練している姿を見て、おまえには負けてられないって思って頑張れた。その努力が無ければ、今頃土に埋まっていたかもしれない。
「って、なんでさ! 突然視界が暗くなって、ようやく目が覚めたと思えば、セイバーと生嗣が消えかかってるし、体は所々剣になってるし。それに一体ここはどこさ?」
「大空洞。柳洞寺の地下にある洞窟の最奥。因みにこの聖杯戦争の元凶があった場所でもある」
「なんで、さ……………。」
あ、倒れた。まあそりゃそうなるか、普通。起きたらこの状況とか俺でもショックで倒れる。
伝えたかったことは言えたから良しとしよう。さて、もうそろそろ意識が暗転してもいいはずなのだが。
「ん…………? これは」
《本当にこの世界に残らなくても良いのですか? 残りたいなら“はい”を、残りたいなら“はい”を、残りたいなら“はい”を押してください》
・はい
《なお、“転生神の部屋:客間”に戻ることを希望されるのならよく考えた上で“いいえ”を押してください。制限時間以内に押さなければ…………わかりますね?》
・いいえ
思考時間:残り二秒
制限時間:残り三秒
なんだ、これ?
ああ、これ早く空間に現出している“いいえ”を押さなきゃマズイやつだ。瞬時に制限時間:残り一秒となった表示の上にある“いいえ”のボタンに狙いを定め、ランサーの刺突もかくやというスピードで人指し指を突き出した。
次回予告(仮)
かくして彼は第1の試練であるfate/staynight編をクリアした。
だが、彼はまだ第0の試練といえる難題をまだ解決していない。剪定事象。加速する、ある世界の終焉。
次回、『転生前夜』