とある転生者の試練   作:雷灯かがり

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次回予告通りやらなくてすみません!
書いてる途中に、そういえば原作にトゥルーエンドとかグットエンドとかあったなー、と思い出してしまって。ええ、それでつい、やってしまいました。
反省はしてる、でも後悔はしてません。









~True End~ 胸中の志

音がした。

古い、たてつけが悪くて蝶(つがい)も錆びて無闇に重い、土蔵の扉が開く音がした。

暗かった土蔵に光が差し込んでくる。

「――――――」

 

意識が眠りから覚めていく。

 

「まったくシロウったら。こんな所で寝ると風邪引くよ?」

 

近づいてくる足音は誰なのかは、確かめるまでもない。

 

――――――ああ、もうそんな時間なのか。

 

 

目蓋を開け、反射的に身構える。朝晩に来るイタズラ娘は恐ろしいことこの上ない。主にサプライズ的な意味で。――――だが。

 

「イリヤ、珍しいな。今日は寝起きハイジャンプとか寝起き魔眼とかしないのか?」

 

「だって今日は特別な日でしょ。そういう日くらいはやらないであげるわ。

………それに、お兄ちゃんもわかってると思うけど、べつに毎朝やってるわけじゃないんだから」

 

確かにそうなのだが。三日に一回やってくるデンジャーに見構えないだろうか、いや見構えないはずがない。

 

「ん。まあ、それはそれとして、起こしに来てくれてサンキューな」

 

「お礼をいわれることじゃないわ。そんなことよりも、今日の朝ゴハン!」

 

と言うやいなや、はやくはやく、とぐいぐい手を引っ張ってくる。

 

「イリヤ。訊くまでもないと思うんだが、藤ねえはまだ来てないよな?」

 

「タイガはまだ寝てるんじゃないかしら。起こしても全然起きないから、置いてきちゃった」

 

やっぱり。

イリヤだけ来ているということは、つまりそういうことなのだ。

「――――まずい。イリヤ、悪いけど朝食はもう少し待っていてくれないか。俺、ひとっ走りして藤ねえをたたき起こしてくる」

 

「シロウも大変ね。タイガを起こすなんて、漁師がローレライより速く泳ぐことくらい難しいのに」

 

いや、さすがにそれは無いかと。藤ねえを起こすことに比べたらローレライより速く泳ぐ方が簡単…………、いや逆か。

「十分で戻るから、それまでよろしく頼む」

 

幸い、昨夜も遅くまで作業していたんで作業服のままだ。着替えなくても外に飛び出せるのは有り難い。

「あら衛宮くん、もう起きたの」

 

「ああ、いま起きた。ちょっと藤ねえ起こしてくるから、イリヤのこと見てやってくれ」

 

了解、と言って土蔵に向かう遠坂。そんな光景も、今では珍しくない。

イリヤは(うち)に帰りたくないという理由で朝夕に衛宮邸(ここ)へ突撃し、遠坂は家の工事が終わっていないとの理由でここに泊まっている。

どちらも藤ねえは猛反対したが、イリヤは衛宮邸より藤村(わたし)のうちのがいいと仕方なさげに預り、遠坂には舌戦で無残に敗れ、ここに泊まることになったのだった。

土蔵の裏側を通りかかると、塀の向こう側から声が聞こえてきた。

遠坂とイリヤの話し声だ。イリヤの体を定期的の見てくれるのが遠坂で、二人とも生粋の魔術師なので通じあうコトも多いのかもしれない。魔術師であることを隠して生きていく、ということをいまいち実感していないイリヤにとって、遠坂はいい先生になると思う。

…………桜と慎二の死、それと生嗣の行方不明で俺が沈んでいたときに遠坂やイリヤは精神面でも魔術の面でも助けになってくれた。もっとも、生嗣が消失した日は三人――――――、いや藤ねえも含めて四人とも黙ってお通夜のような雰囲気だったが、次の日からは二人ともそのことをおくびにも出さずに、魔術師然とした態度で俺の身体に起こった異常を診てくれたりしたので安心したものだ。

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「うう、酷いよぅイリヤちゃん。何があっても起こしてって臨時ボーナスまであげたのに」

 

よよよ、と泣き崩れながら、朝食をかっこむ藤ねえ。因みにかっこんでいるのはご飯ではなくトーストである。

 

「当然よ。タイガを待ってたらわたしまで遅れるし、給料分は義理を果たしたわ。あれ以上の働きを要求するなら、臨時じゃなくて基本給をアップさせることね」

しっかしイリヤも料理の上達が早いな。つい一ヶ月ぐらい前のトーストを石炭にしたヒトとは思えない。

 

「……むむ。わたしだけじゃなくお爺さまからも貰ってるクセに、どうしてこうこの子は守銭奴なのかしら。

若い頃からお金にうるさいとまわりの子に嫌われちゃうぞー」

 

今日の献立はトースト、ベーコンエッグ、シーザーサラダである。料理自体は簡単な部類に入るが、あのトーストから一ヶ月余りでココまで進化するとは。将来は和食の衛宮、中華の遠坂、洋食のイリヤと呼ばれる日が来るかも知れぬ。

「嫌われて結構よ。好きな人以外なら何を思われても関係ないもの。それよりタイガ、貸したお金ちゃんと返してよね。給料日、5日前だったんでしょ」

 

桜がいれば和食と洋食部門は激しい争いになったかもしれない。生嗣はまあ…………、麻婆部門、とか?

 

「―――え。な、なんでそんなコト知ってるのよあなた!」

 

「ライガに聞いたわ。お望みなら明細まで話してあげてよ」

 

にやり、と不敵な笑みを浮かべるイリヤ。

遠坂とイリヤの相性もあまり良いとは言えないが、藤ねえとイリヤの相性は最悪だ。加えて、イリヤは藤ねえ相手だととんでもなく意地悪になる。今の笑い方なんて、隣に座っているどこかの誰かさんにそっくりだし。

 

「………衛宮くん、何が良からぬコト考えたでしょ?」

 

「いや、全然、まったく」

 

そっぽを向いて追及を逃れる。しばらくして、隣りに座っている人が食事を再開してから、俺もようやく食事に専念できた。

その間に前二人の会話は進展していたらしく。

 

「あわわわ……! どうしてくれるのよ士郎、この子とんだ悪魔っ子じゃない! このままじゃ藤村組が乗っ取られるわ!」

 

「―――――――」

 

いや、そんなことより。

追及を逃れている間に小耳に挟んだんだが、その歳でまだ爺さんから小遣い貰ってたのか、アンタは………。

 

 

 

「行ってらっしゃいシロウ、リン。今日は早いんでしょ? ならここで待ってるから、すぐに帰ってきてね」

 

玄関前。

俺と遠坂と藤ねえは学校へ行き、イリヤはここでお留守番だ。

 

「ん、努力する。留守番よろしくな、イリヤ」

 

「……ふん。いっそのコトここの子になっちゃえ、ばか」

「はいはい。タイガも気を引き締めなさいよね。外でシロウに迷惑かけちゃダメなんだから」

 

俺の背中に隠れつつ、拗ねる藤ねえだったが。イリヤは柳に風のごとく、さらりと受け流す。もはや力関係は藤ねえでは押し返せない位置にあるらしい。

 

「じゃあ先に行ってるけど、のんびり歩いて遅刻しちゃダメよ士郎。それに遠坂さんも」

 

ぶろろろぎゃいーん、と排気音を撒き散らし、藤ねえは弾丸のように消えていった。

藤ねえが免許をとったのが一ヶ月前。以来、遅刻は革命的に減ったものの、ロケットタイガー、もといロケットダイバーというあだ名が追加されたことを本人だけは知らなかったりする。

 

「ふう」

 

大きく背を伸ばして、深呼吸をする。

「さて、それじゃ」

 

学校に行こう。

今日は四月七日。学校では入学式があって、季節は寒い冬を越えて春になっている。あれから二ヶ月。日常が非日常になり、非日常がまた異なる非日常を生み、そしてそれは日常になっていく。

生嗣や桜、それにセイバーがいなくなってから随分と変わった日常だが、時が経てばそれが当たり前になるだろう。

冬が終わって、春になった。

少しは成長した気になったものの、そんな事で見違える自分に成れた訳ではない。

だから、変わったものなどそうないのだ。衛宮士郎は相変わらず、不器用に切嗣の後を目指して走っている。

 

「なんだか妙に晴れやかな顔ね。なにか良いことでもあったの?」

 

「いや、何でもない。

それより遠坂、これから固有結界が暴走することってあるのか?」

 

「一応処置はしたから、無茶な投影をしなければ問題ないわ。可能性をゼロにしたいのなら、固有結界を制御できるくらいの魔術師にならないと」

 

固有結界の制御か。それができれば、体の表面にまだ残っている剣を完全に除去できるだろう。

やることは山積みなのだ。

 

「そう、でもまずは学校に行かないとね。衛宮くん、今週はもうずっと予定入っていたりする?」

 

「えっ―――と、確か今週はほとんどバイトだったはずだ」

 

「………衛宮くんの時間だから文句はないけど、そんなんで体壊さない?」

 

「いや、今日くらいは休みをもらったよ。

弓道部で新入部員の歓迎会をやるっていうから、イリヤを連れて遊びに行こうかなと」

 

イリヤが家で一人退屈しているよりは、俺たちと学校に行った方が暇つぶしにもなるし良いだろう。

「うわ。なんか、さりげに凄い度胸してるわよね、貴方って。平気な顔してイリヤを学校に連れていくあたり大物だわ」

 

大物ってなんでさ。イリヤを学校に連れていくってだけで、なぜそこまで驚かれるのだろーか?

 

「? なんかまずいか? イリヤだって暇つぶしになるって喜ぶと思うんだが」

 

「まずいわよ。まずいけど、そういう事なら私もお邪魔しよかな。イリヤがいるなら退屈しないし、何より危なっかしくて放っておけない」

 

そう言ってくれるのは有り難い。

イリヤを一番良く分かってやれるのは俺でもなく、もちろん藤ねえでもなく遠坂なのだ。もしイリヤが何かやらかそうとしても、遠坂が必ず止めてくれるだろう。

 

「――――――――」

 

こうして、事はそれぞれの形に収まりつつあった。聖杯戦争によって起きた被害は、教会によって派遣された新しい神父によって元の形に戻りつつあるし、俺たちの日常もこうして問題なく帰ってきた。

 

 

失ったもの、戻らないものは確かにある。

それでも、傷痕は少しずつ塞がり、後悔が薄れていくのは喜ぶべき事だろう。

 

 

 

「―――――――もう、大丈夫なの?」

 

と。

眼下に広がる町を見下ろして、どこか深刻な声で、遠坂は呟いた。

それは、もういない三人の者たちの話か。紫色の髪をした少女と、金の髪をした碧眼の少女と、黒い髪をした濃い赤目の少年。

 

「そうだな、目が覚めて現実に直面したときのショックといったら酷いものだった。

でも、もう大丈夫だ。傷痕はまだ塞がっていないけど、俺はちゃんと目的に向かって進んでる」

 

目を瞑れば、今でもあの月下の夜を思い出せる。切嗣が抱いていた志。それを胸に、俺はこれからも前に進んでいく。俺は正義の味方になる。彼のように、誰かを助けて、誰も死なせないようにする正義の味方に。

 

「………遠坂、ここでいつまでも立ち止まっていたら始業式に遅れるぞ?」

 

「ごめん、一つだけ聞かせて。貴方の目的ってなに?」

「俺は―――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 




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