1ー1 麻婆、後にデッド
一、商店街でなんか食べる。
これにしよう。商店街に行くだけで死ぬことはないだろうし。さっきの直感は間違いに違いない、きっと。それに今から夜までなにも食べないのは我慢できない。そうと決まったら行こう。すぐに行こう。
☆ ☆ ☆
商店街に着き、いつも真っ先に目に入る店。そう、その店の名は《みちとカメラ店》。証明写真や、ダビングなどを扱うお店で、キャッチコピーは《スピード仕立て》。けれど、言うほど早くないことで有名だ。
冬木市で最も賑やかな場所とだけあって、ここには店が当たりハズレあれど、多数並んでいる。当たりの店は両手の指の数で何とかギリギリ足りるほどに多いが、ハズレの店となると一つだけ。とある神父は例外だが、大多数のまともな人は揃ってハズレの店はあの魔窟魔境だ、と青筋を額に浮かべて言うに違いない。
その店の名は―――――――、
「久しいな、少年。丁度私もここで昼食を摂るところだったのだ。折角だ、共に食わんか?
……む? なに、何処で食べるのかだと? 無論、
決まってない。あの激辛中国料理店泰山で昼食を摂ろうなんて決して思ったりなんか天地がひっくり返っても決してない。
こうして、とある神父こと
「すみません、言峰神父。急用があったことを思い出したので」
「また次の機会に、か? だが、それは虚言だな。急用などないのだろう?」
見抜いている? それとも意地でも劇薬を食べさせないのか? はたまた別の理由で? まあ、どれにしろ対応は同じだが。
家に向かってダッシュアンドエスケープ。走って逃げる。逃げるときはただ真っ直ぐ走るのではなく、ときには裏道に入ったり、またときには角を曲がったりということが大切だ。これ、今度のテストに出るからチェックしておくこと。
とまあ、走って曲がって走って走って曲がってを繰り返した結果をご覧下さい。
「なんだ、もう終わりか? 日頃の修行の成果はそんなものか。ふむ、まあいい。では、行くぞ泰山へ」
肩をガッシリ掴まれ、赤染めの魔窟に連行される俺。そして、いつもと変わらず麻婆な神父。字面がやばいことになっているがこれが真実である。
さらに言うと、『では、行くぞ泰山へ』ではなく『では、逝くぞ泰山で』の間違いではなかろうか。それから、『そうだ、京都に行こう』のような軽いノリであの泰山に行くべきではないと、俺はあくまで客観的に神父に説明を求めます。
「いや、私は相応の覚悟を持って麻婆豆腐を食している。でなければ、それに失礼ではないか?」
だろう?、と同意を求める師匠。完全に捕虜状態の弟子2号はコクコクと頷く選択肢しか在りません。
「生嗣、お前は素直になるべきだ。今度から泰山に行くときは逃走しないことだな。」
それは言外に、『もし逃げたりしたら………わかるな?』という脅しでしかない。
で、某優雅たれさん曰くエセ神父に一歩間違えればバッドエンドという尋問をされている最中に目線を右に合わせるとそこには地獄を創造する、かの悪名高い紅州宴歳館、泰山があるわけで。
「着いたな。やれやれ、お前が逃走しなければとっくにあの至高にして唯一無二の麻婆豆腐を食していたというに。」
などと俺へあからさまな態度を取りながら地獄の門を開き、少し奥にある座席に座る言峰。当然、それに従わざるを得ない自分。すると、
「マーボードーフ二人前と、ごはん大盛りひとつアルネ?」
魔窟の主、謎のちびっこ中国人こと
「――――生嗣、教会の掃除と花への水やりをお前に依頼したい。私は地下でやるべきことがあるからな」
心の中で抗議しているうちに、現実世界の時間は進んでいて。もう店主の影も形もなく、あるのは依頼人からのオーダーであった。
「魔術師同士のルールで等価交換ってのがある。俺は士郎みたいな人間じゃないからな、タダ働きは御免だ」
そう、俺は士郎のような聖人ではない。あいつは他の生徒から部品の修理や弓道場の掃除などの労働を、対価を求めず、嫌がらず、むしろ喜んで引き受ける。そんなあいつの人格を俺はすごいと思うし、尊敬もする。けれど、士郎はいくら無理を重ねても士郎自身のことを振り返らないで無理を重ね続ける。そこが心配な点だ。
「昼食代は私が持つ。それでどうだ?」
掃除や水やりに掛かる時間と県の最低賃金と照らし合わせて考えると、せめて提示されている金額の4倍は必要だ。
「もう四押し。」
「では教会内部の掃除だけでいい。言い忘れていたが、地下までする必要はない」
その条件ならいいだろう。広めの部屋だが、ある寺のとある一室よりは狭いし時間も掛からなそうだ。
「了解。じゃあその条件で」
俺が了承すると丁度そのタイミングを見計らったように魃さんがテーブルに来て、
「アイ、マーボードーフおまたせアルー!」
ゴトンゴトトンと、地獄にあるとされる血の池もかくやな真紅の麻婆豆腐がテーブルに置かれ、救いの白も手前に置かれる。
「―――――――――ふむ」
かしゃん、と慣れた手つきでレンゲを取る言峰。
全く躊躇いをせずにそれで麻婆を掬う。
「――――――――」
「――――――――」
……視線が合う。
言峰はいつもの重苦しい目で俺を眺めて、
「――――食わんのか?」
「――――………食う」
もうこうなったら食うしかないと、無理やり覚悟を決める。レンゲで麻婆を口に運んでは飯を食べ、運んでは食べという一連の作業を麻婆がなくなるまでし続ける。
俺は師匠のような強者ではない。麻婆豆腐は一番好きな食べ物の一つだが、この店のソレは俺レベルの人間は味わうどころか、食べることさえ不可能だ。よって『食事』ではなく『修行』だと自己暗示し、無心で食すことがこの麻婆豆腐の踏破を可能にする。だが、俺の無言で一心不乱に麻婆を飲む様子を見て思い違いをしたらしく、
「お前には栄養が十分に足りていないようだ、それはいけないな。店主、麻婆豆腐を二つ追加だ」
遠くから店長のアイ!リョーカイアルネ!という幻聴が聞こえる。なぜだ言峰、なぜお代わりを頼みやがッた!という憤怒と絶望が混じった視線をヤツに送る。
「なに、空腹や栄養不足で仕事ができないということになったら困るだろう?
私からの感謝の気持ちだ、素直に受けとれ」
なにが『感謝の気持ち』だ。ぜぇっっっったい嫌がらせに決まってる。そうとしか思えない。
まだ言峰に八極拳の教えを受けていたころも、実践練習という名の一方的なしごきを受けてから休憩という名目でこの麻婆豆腐を食べさせられたものだ。まだ全身が痛みで悲鳴をあげているのに、舌を溶かすと錯覚するほどの辛さを持つ劇薬を飲まされたのは堪ったもんじゃなかった。それに、過去三日間飲まず食わずで修行されたヤツが『空腹や栄養不足』を理由に麻婆を食わせるのはおかしいだろう。
まあそれは兎も角、いま俺は一つ目の麻婆を飲み終え、お代わりマーボーはまだ来ていない。さらに前の場合と違って依頼がある上に聖杯戦争中だ。これなら、お代わりマーボーを回避可能かもしれない。
「申し訳ないですけど、俺も忙しいので用事は出来る限り早く終わらせたいんです。という訳で、今から教会に行って依頼内容を終わらせてきますね」
席を立つ。俺が強引な手段を取るとは思っていなかったのか、師匠は少し意外そうな顔をしたあと、
「………いいだろう。引き止めて悪かったな、お前も聖杯戦争に参加している身だ。……そうだな、掃除よりも水やりのほうが時間を掛けずに済むだろうから、依頼はそれに変更だ」
「! ……ありがとうございます」
有り難い、これで麻婆豆腐の危機から逃れられた。嬉しくて、つい頬も気も緩んでしまう。そして、そんなだから聞き取れなかったのだ、その死を否応なしに予感させる声を。
「……もし彼が死ねば、凛はどのような顔をするのだろうな」
くつくつと、嗤う声を。
☆ ☆ ☆
「……これで、最後か」
水をやり終え、ほっと息をつく。念のためアサシンを教会の敷地前に配置したが、いらない心配だったようだ。
「さて、帰るかね。」
ジョーロを置き、家に帰ろうと足を出口に向けたそのとき、背中に悪寒が走った。
「……っ!」
首すれすれで走る赤の線。身体を無理矢理反転させ、飛び退いたため避けられたが、それによって受けた代償は大きい。
「(……まずいな。足をひねった)」
もし、愛刀を持っていれば。もし、地の利があったのならば。もし、体力・気力・魔力が万全の状態だったならば。もし、全身を既に『強化』していたら。もし、相手が手を抜いていたら。勝てることは無くても、負けることはなかったかもしれない。そして、こんな無様な負けかたをしなかったかもしれない。
「………ったく、俺はアサシンじゃねえんだ。背後から不意討ちなんて嫌な仕事をさせてくれる」
心臓が停止し、意識は薄れていく。せめて俺の心臓を穿ったやつを知るべく残った僅かな意識の欠片を総動員して閉じかけた眼を開き、力を振り絞ってヤツの名を聞く。
「お……、まえ……は、誰、?」
すると青い男は俺の心臓に刺したままだった赤槍を抜き、何故か何度も回転させてから地に突き刺してから、真面目そうな顔で名乗った。
「ランサーのサーヴァント、クーフーリンだ。冥土の土産に持っていけ」
「ハァ、ハァ、まだ、ここで死ぬ……と、決まった訳、じゃない。俺は、僅かな可能性を、信じ………、る」
一か八かの賭け。だが、やらないよりはずっといい。ランサーを倒したとしても、この傷をどう癒やすかが問題となるが、それは後に考えればいい。
「可能性………、ね。大体想像は付くが、決着が着くよりもお前が死ぬほうが速いだろうな」
ランサーはそう言いつつ、周りへの警戒を緩めない。いつどこから俺のサーヴァントが来てもいいように神経を尖らせている。そしてそこに勝機が存在する。確かに、『その時』が来るより先に俺の命が尽きる方が早いかもしれない。槍に付与されている呪いなんだか知らないが、傷口を接合させようとしても生かして嗣ぐことが出来ない。俺の技量不足という点も否めないが。しかし、その試行によって命を繋ぎ留めているのも事実だ。
『魔術師殿、準備が出来ましたぞ。はやくランサーを仕留めてしまいましょう』
アサシンの準備も完了。俺が上手くやれば、ランサーは撃破可能。後々のことは考えず、出せる全力を出してしまおう。
まずはランサーの顔面めがけてポケットから柄を出しておき、いま刀身を出した黒鍵を投擲。それは当然槍によって防がれる。
「
2倍速で動き強化した両腕で俺の身体を突いているランサーの槍を掴む。無論掴めるのは一瞬。相手はサーヴァント、それも英雄クーフーリンに筋力でただの人間がいつまでも拮抗出来るはずもないし、そもそも魔槍を掴むというのは手から迸る激痛から分かるように命に関わる行為だ。だが、その命を賭けてつくった一瞬で運命は確定した。
「
アサシンが悪魔の右腕を解放する。ランサーは幸運が最低かつ、魔力も突出するほど高くないためアサシンの宝具は防げない。さらに、ランサーが右腕の間合いから外れるにはもう遅すぎるほどに二人の距離は近い。
しかしてランサー、クーフーリンがアサシンに何もし返さず死ぬなどという犬死になど有り得ず。
「“―――――
一瞬にして魔槍に莫大な魔力を流し込み、
「“―――――
それ自体が強力な魔力を帯びる言葉と共に、
「ギ―――――!?」
下段に放たれたはずのそれは、アサシンの心臓に突き刺さっていた。
「ちっ、しくじったな。さっさと息の根を止めておくべきだったか」
されど、アサシンの魔腕もまたランサーの心臓を掴み上げていた。片や心臓を破壊され、片や心臓を取り出されて、相討ちという結果になった。そしてランサーが死んだため、
「(……呪いが解けたか。でも大量出血で死にそうだ)」
一人生き残りがいるが、瀕死の状態だ。両手からは絶えず血が流れ、身体中に切り傷が幾つもあり、極めつけに心臓が破壊されている。それらの傷口を塞ぎ心臓の機能を回復させようと口から血を吐きながら呪文を唱える。
「(困ったな、いや困ったぞ本当に)」
自らのサーヴァントだったアサシンは素晴らしい働きをしたが、彼はもういないため家まで運んでもらえない。そして、ランサーのマスターが言峰だと思い至った生嗣はこの教会から一刻も早く脱するべきだと考えていた。が、下手に動くと折角運良く1割方修復した傷が開いてしまう。
「(……どうすればいい)」
家に帰るまでの道でマスターやサーヴァントと出くわしでもしたら最悪だ。またこの広場にずっと居てもマズイ。その上このペースで傷を治し続けることは至難であり、もし大失敗すれば死ぬ。もう詰みと言っても過言ではない。
「(……やるしか、ないのか)」
リスクは高いがその方法でしか生き残る道はない。生きなければ、大聖杯の破壊など出来はしまい。
「(……帰ろう、衛宮邸に)」
胸をかばいながら教会から脱出し帰路につく。坂を下り、橋を渡り、坂道の交差点に着いた。ここまで来れば帰るべき場所はすぐそこだ。すぐそこ、なのに。
坂の上には絶望がいた。
「久しぶりだね、イキツグ。あの夜以来かな」
幼い声が夜に響く。
歌うようなそれは、紛れもなくあの夜以来会っていない姉さんのもの。
「……ふーん、もう負けちゃったんだ。楽しみにしてたのに」
心底残念そうに少女が言う。
今まで何度も俺を窮地から救ってくれた本能が警鐘を鳴らす。ここから逃げろと、あの少女から、そして後ろの巨体から逃げろと逃走を促す。
「……まあ、いっか。手間が省けるし。
殺さない程度にやっちゃえ、バーサーカー」
巨体――――バーサーカーと呼ばれた者が、飛ぶ。坂上からここまで何十メートルという距離を一息で落下してくる―――――!
圧倒的な死の予感。数瞬後の己が死ぬ姿が視えてしまうほどに、それは強烈。
「ハァァァァッーーーーー!」
気合を入れろ。抗え。最後の最後までっ!
姉さんを捕らえて、バーサーカーの動きを封じる。それしか、生き残る道は、ない。
……遠い。たった何十メートルという距離がとてつもなく、地平線の彼方と錯覚していまうほど遠い。走っているはずの自分が見ている景色は、まるでスローモーションの映像のよう。けれど眼前に見える、あの黒い異形だけは、なぜかとても、速かった―――――。
DEAD END
???道場はヘンテコヒントコーナーです。本編の内容と関わることもあるので、ネタバレされたくない人は此処から先を見ないことをオススメします。
☆ ☆ ☆
??「まったく、こんな序盤で死ぬとは情けない。死ぬのなら目的達成まであと一歩という所で死ねばいいのに」(´・ω・`)
????「いえ、彼も頑張ったと思いますよ? でもまあ、この先が思いやられますがね」(--;)
??「本当じゃよまったく。折角、他異世界の難易度調整もできたところなのに」(´Д`)
????「……私がほとんどやりましたよね、それ」( -。-) =3
??「『とある』はな。もう片方の世界は余が半分したぞ?」(ゝ`ω・)
????「えっ」( -_・)?
??「んん? ま、それはそれとして彼がデッドした理由を説明しよう」(´・ω・`)
??「ぶっちゃけて言うと最初の選択自体は間違いではない。だが、その後のどこかに問題があったのだ。なにが問題だったかわかるか、弟子一号」(*´∀`)
弟子一号「麻婆神父とのあれこれで彼の好感度を下げてしまったのがミスですね。彼にとって生嗣は『影でサポートすべき願望者』から格下げされて、『自らの愉悦のために殺すべき人』になりました」( ̄∇ ̄)
??「その通りだ。まあ、『殺すべき人』というのは行き過ぎだがな。あと他に何かあるかね?」(´▽`*)
弟子一号「ランサーの奇襲に気付かなかったことですかね?」(´・ω・`)?
??「ランサーが死んだ!」( ☆∀☆)
弟子一号「この人でなし!」Σ(゜Д゜)
??「よし、アドバイスは終わったな弟子一号」(*´ω`*)
弟子一号「いえ、アドバイスは終わりましたがfate/staynight編の難易度の微調整についてお話しが」(´・ω・`)
??「なんじゃと?」(; ̄Д ̄)?
弟子一号「神様、秘密裏に直感A+を渡しましたね?」(-_-#)
神様「……………」( ̄З ̄)?
弟子一号「もしそうだったのならば、大幅に難易度を上げなければなりません」(# ゜Д゜)
神様「いや、その必要はない。その直感が機能するようになってから上げたからな」( ・ε・)
弟子一号「それで納得がいきました。では、この資料を見てください」!( ̄- ̄)ゞ
神様「……少し、難易度が基準より超えてるの」(;´д`)
弟子一号「試練を少し緩くするべきでは?」(´・ω・`)
神様「このくらいな―――」(;´へ`)
弟子一号「だめです」(・д・)ノ
神様「……仕方ない、では一つクリア条件を追加だ。大五次聖杯戦争中に大聖杯またはアンリマユを破壊、もしくは消せばfate/staynight編クリア。これで良いじゃろ」(;゜∀゜)
弟子一号「基準値スレスレですね。ですが、これなら良いでしょう。ではまた次の会議で」( ̄∇ ̄*)ゞ
神様「うむ。………新たな条件のことを張本人に伝えていないことは伏せておくか」(´・ω・`)
ランサーは死ぬ。慈悲はない。