二、衛宮士郎は真実を話さない。
「………
―――――!?
何なんだ、その双剣は。士郎が使えた魔術は『強化』だけだったはず………。
いや、たまに『投影』という魔術も鍛えていた気がするが、通常の投影魔術のように複製できたのは外見だけで、中身はないポンコツだった。
だが、いま士郎が『投影』してみせた双剣は見た目も中身も本物の宝具そのものに見える。
「―――――
「…………っ!」
来る、左右から同時に。弧を描く二つの刃が、俺の首を獲ったときに初めて交差するように飛翔して迫ってくる。
この間合いでは、後ろに跳んでも間に合わない。ならば、正面から打ち砕くのみ。黒鍵を瞬時に取り出して魔力補強し投擲、六本の黒鍵と空中で打ち合った双剣の軌道を反らし、いま無駄と判断した部分を除いて『強化』。一足で無手になった
「――――
「なに―――――!」
強烈な一撃。既に殴る態勢に入っていた右手を止めることは出来ず、右拳の正面部分を横一文字に斬られた。止まっていたら今度は踏み込まれて上斜め右から首を斬られそうだったので、無理矢理右腕を捻り、右肘に剣を当てるようにした。
「グッ―――ッアああああ―――――!!!!!」
右腕に炎が走る。痛みが痛すぎて、何もかもどうでもよくおかしくなりそうだ。
死ぬなと、
「――――
「ッッ―――――!」
その攻防では俺を殺すに至らないと考えたのか、新たな手を打ってきやがった。アイツは二メートル近く後ろに跳び、もう一度双剣を同時に投げた。それだけならば初めと同じだが、それだけでは無い。後方に落ちた最初の双剣が、何らかの作用で此方の首めがけて緩やかな弧を描く。四方向からの同時攻撃。なるほど、これならば誰だろうとヒラリと軽くかわすことは出来ないだろう。
だが、何かしらの代償があればかわせる。
「
固有結界の体内時間を時間操作に応用し、自分の体内の時間経過速度のみを操作する魔術。ライダー戦でも使ったが、簡単に言えば“何倍かの速さで身体を動かす”魔術である。その効果だけなら便利魔術認定して使いまくるのだが、“世界からの修正力”という訳が分からない力が働くせいで、身体に相当な負荷があるため無闇矢鱈と使えない残念系魔術となっている。
しかし、その
「――――――………っ!」
壁を蹴る。もし此所が何もない平地だったなら確実に死んでいた。しかし、此所は壁があり窓がある学校の廊下なのだ。ならば、そういった環境を存分に生かして、相手を倒す。
「―――――
――――――、思考が空白に染まる。三度目の投影は完全に想定の範囲外だ。
右腕が外れ、首が飛ぶ映像が視える。絶対の死、なんて笑ってしまいそうな言葉が脳裏に浮かんだとき。
「マスター―――――――!」
「イキツグ―――――――!」
誰かの声が聞こえた。いや、あれはセイバーと遠坂の声だ。どうして二人が俺の名を呼ぶのかは判らない。でも、答えなければ。
「死ねない――――――!」
そう、答えるためには死ねない。こんな所で死んでやることなんて出来ない。元の世界に帰らないといけない。帰るためには死ねない。こんな所で死んでやることなんて出来ない。
「ハァッ―――――――――ッ!」
右腕は捨てよう。俺の命と俺の右腕、比べるべくもない。生きてあの世界に帰るんだ。そのために、それは一番無くしてはならないものだ。
「
負荷は度外視しよう。俺の命と後に掛かる負荷、そんなのは比べるまでもない。右腕が切り離されたことによって体幹のバランスが崩れた。ならば、それによって失われた時間を取り戻す方法が必須だ。
「――――――――」
思いっきり殴った。ただ殴るだけでは威力が足りないと直感的に感じたので、礼呪の魔力を左拳に載せて。
それで気絶してくれたようだ。これを耐えてしまったら万策尽きて間違いなく死んでいたから、本当に良かった。
「マスター――――!」
再度俺の命を狙う四剣を切り伏せてから、セイバーが深刻そうな表情で、痛みに耐えかねて仰向けになった俺の横に座る。
「セイバー、そこの右腕を持ってきてくれないか………?」
まだだ、まだ右腕は諦められない。嗣ないで生かす接合魔術、似たような魔術はあるだろうが、だとしても細部は異なるオレだけの魔術。
「―――――
成功すれば対象物を完璧に接合させ、逆に失敗したら対象物を木っ端微塵に破壊してしまうハイリスク・ハイリターンの権化とも云える魔術。
ひょっとしたら今回の場合は、失敗したら全身が塵になる可能性もあるのだ。慎重に、慎重に魔力を通さないといけない。
―――接合させる部分をしっかり視て、眼を瞑り、頭の中にその設計図みたいなものを思い浮かべる。接合を成功させるには、ちゃんと何がどうなっているかを理解しなければならない。いざという時―――人体そのものを接合するとき―――のために、人体の構造についてを何年もかけて学んだ。
実際そんな機会は今まで無かったため、人体の接合についての知識は皆無だが、右腕を無くすのは痛手すぎるし、慣れに時間が相当必要とされる筈なため高速戦闘はおろか歩くことすら至難、そんなコトでは聖杯戦争は多分勝てない。
よって、怖くてもやるしか道はないのだ。
「……………っ!」
時間をかけて修復されていく。が、修復されればされるほど忘れていた痛みが発現される。焼けるような痛みと失敗したら死ぬという恐怖。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない―――――!
「ア―――――――」
痛み。
それは生の証、痛みがある内は問題などない。
恐怖。
それは不安だからだ。己の腕に自信がないからだ。であれば、自信を持て。己を信じれば自ずと恐怖は消える。
そう、誰かが言っていた。向こうの世界の誰かが俺に説いていた。それが正しいかは判らない。けれど、それらの言葉を思い出したときには、もう恐れなんてマイナスな感情はなく、やれるという自信だけが残されていた。
「
よっしゃあぁぁぁ――――――!
沖田さ………じゃなくて、衛宮さん大勝利!
これ以上ないってくらいの結果だ! やっぱ流石オレだな、フハハハハハハッーーーーーー! と高笑いしそうになるのは是非もな―――――。
☆ ☆ ☆
起きたら言ってみたい言葉ベストフォー。
「知らない天井だ」
知ってるけど。いつも見てる天井ですけど。特に食事が終わって仰向けになったときに。
「あ、目が覚めた? 体の痛みとかは大丈夫そう?」
「大丈夫だ、問題ない。今日の夕食は?」
しいて言えば筋肉痛くらいか。右腕の痛みも無くなっているし、快調快調といった感じだ。
「いま士郎が作ってる。ちゃんこ鍋らしいわよ」
へー、ちゃんこかー。冬の寒い日に食べると美味しいんだよなー。でも殺されそうになったから心配だなー。毒とか入ってないといいんだがなぁー。
「入ってないから安心しろ。皆が食べる食事に毒なんて入れるわけないだろ」
「ああ――安心した」
それもそうだ。いくら士郎でも俺一人を殺すために遠坂やセイバーを苦しませようとは思わないだろう。殺るならもっと直接的な方法をとる筈だ。
「
「職員会議か何かで忙しいんだろう。本人に大事はないってさ」
それは良かった。まあ、藤ねえが病院で寝込むなんて有り得ないとは思っていたけど。
ああ、そういえば。この体力と魔力で今日あそこに行くことは出来ないだろうから、代わりに行って貰おうか。
「(アサシン。郊外にある、アインツベルン城に潜伏して、何かあったら念話で伝えてくれないか?)」
「(了解しましたぞ、魔術師殿)」
これでいい。聖杯戦争は中盤戦に入ったし、サーヴァントの一つや二つは脱落する頃だ。まあもっとも、バーサーカーが真っ先に死ぬとは思えないが。
と、そんなこんなで夕飯は終わり、疲れた身体を休めるため寝床に就く。アサシンが有用な情報を持ってこれれば……………、と思いながら深い眠りに入っていった。
あ、すみません。4ー1は手こずってるので先に此方を投稿させて頂きました。