※4月30日 サブタイトル変更しました。
平和→平穏
「アサシン、キャスターが消滅したというのは本当なのか?」
「はっ、私は確かに見ました。キャスターのマスターと思われる男もキャスターの後を追うように死にましたな」
「そうか……。バーサーカーはどんなやつだった?」
「あれは二メートルを超える巨体で、筋肉の塊のようなサーヴァントでしたな。正直言って、真っ正面からでは勝ち目がありません。よってそのマスターを狙うべきかと」
「だが、そいつを暗殺するにはそのバーサーカーに気付かれないようにしなければならないんだよな………。
じゃあとりあえず一旦そいつらのことはおいといて、他のマスターかサーヴァントを調査してきてくれ。勿論、決してバレないようにな」
「了解した、引き続き調査を続けよう」
そしてアサシンは再び暗闇の中に消える。そう言えば、今の所サーヴァントは何体召喚されたのだろうか。
俺の知る限り、現時点で召喚されたのはランサー、キャスター、アサシン、バーサーカー。まだ確認していないのは、セイバー、アーチャー、ライダーだ。この七体のうちキャスターが消えた。
あっ、まだアサシンに聞いていないことがあった。
「バーサーカーのマスターが誰だか聞き忘れたな。」
ま、近いうちに会うだろうし、誰だかは後のお楽しみとしておこう。あと眠くなってきたし、今日はもう寝てしまおう。
☆―☆―☆
そして特に何も起こらないまま、一月最後の日、1月31日を迎えた。
いつも通り早朝の6時に起きた。いつも通り眠気と葛藤して、いつも通りそれに打ち勝ち、いつも通り居間へ向かう。そしていつも通り今日の朝食のチェックをする。
「今日は鶏ささみと三つ葉のサラダと大根と人参の味噌汁、ほうれん草のおひたしは出来上がっていて、これは鮭か。鮭で何かもう一品つくるつもりだな。あと山芋が残っているが、何に使うつもりだろう?」
俺にとっては朝から豪勢な食事だ。
桜も士郎のどちらが今日、朝食を作ったのだろう?
何となくだが、桜のような気がする。
――……、と噂をすれば足音が聞こえてきた。この足音は………、一人分だな、うん間違いない。勘だが、来てるのは桜だろう。今のは勘だから分からんが、それはそれとして俺の直感はあまり外れたことがない。
特に日常にいるときは。
「先輩、おはようございます」
「おはよう桜、今日も美味しそうな朝食だな」
「今日は腕によりをかけてつくったんですよ。後は二品つくって終わりです」
「片方は鮭を使うんだろうけど、もう一品の方はなんなんだ?」
「それは、私がつくってからのお楽しみです」
です、の後ろに♪が付いてもおかしくないくらい、何故か今日の桜のテンションは高い。
「じゃあそれを楽しみにテーブルの前で、おとなしく座って待っているよ」
「はい、楽しみに待っていてください」
と、まるで何処ぞの小動物の仕草をしながらはりきり、桜は台所で料理をし始めた。ちなみに俺は料理に関しては全くの戦力外なので、手伝うことができない。この前(と言っても数年前だ)、卵焼きをつくったのだがその時の皆の感想が、
『生嗣……ぐッ、オまエなんテ、モのを…………、』バタリ
『せ 、 ん 、 ぱ 、 い 、 こ れ は』グタリ
『生嗣ーーー、なんてものをつくったのよ!これもう毒物よ、毒物!』ガオー
などと、評判は非常に悪かった。その後俺もその卵焼きっぽいモノを食べてみたのだが、なんというか、味覚が破壊される感覚というのだろうか、兎にも角にも酷い味だった。それ以来から一度も食事を作らせてくれず、その結果今、桜のことを手伝うことができない。
よって今できることは、優雅に新聞を見ながら食事を楽しみに待つのみだ。
☆―☆―☆
調理が終わったようだ。俺は料理はできない(正確に言えばやらせて貰えない)けれど、盛り付けなら可能だ。
というわけで、ここぞとばかりに手伝おう。
「桜、盛り付けと配膳手伝うよ」
「ありがとうございます、先輩。先輩は料理はアレですけど盛り付けは上手いですからね」
「おうともよ。あ、これは、真ん中においたほうがいいぞ」
「はい、わかりました」
こうして食事の準備は着々と進み、配膳まで終わったとき、突然背後から声が聞こえた。
「すまん、俺が寝過ごした分、桜と生嗣に無理をさせちまって」
「そんな、全然無理なんかじゃないですよー。それに寝坊なんかじゃありません。先輩は部活をしていないんですから、この時間は十分早起きです」
だが、士郎はまだ不服そうだ。
「部活は関係ないよ。それを言ったら朝練がある桜がうちに来てくれるのだってものすごく早起きじゃないか」
「ぁ……いえ、私は好きでしていることですから、部活のことは気にしないでください」
「ん、それは何度も聞いた。
……まあ、だから俺も部活に関係なく、早起きしたいんだ。桜が来てくれるなら、その時間には起きていないと失礼だろ」
「ふふ、先輩、そういうところこだわりますよね。美綴先輩、衛宮は粗雑なクセに律儀すぎてうるさいって、よく言っています」
……蚊帳の外だ。この二人は二人だけの空間を創っている。それは、まるで結界のようで俺は入り込めそうにない。
「…む、
「はい。先輩が卒業する前に、なんとしても射でうならせてやるって、毎日頑張ってます」
「……はぁ、今じゃ
………訂正。まるで俺の存在感は空気のようだ。
「美綴先輩、すっごく負けず嫌いですから。きっと心の中で先輩をライバルみたいに思ってますよ」
「藤ねえ……はそろそろか。ま、この時間に来ないのが悪いんだし。桜、先に食べていよう」
「そうですね。はい、どうぞ先輩」
空気ではなく、無だったらしい。
「ほら、生嗣先輩も。なんか落ち込んでいるようですけど大丈夫ですか?」
「………大丈夫、復活した。それより、分からなかったもう一品ってとろろ汁だったんだな」
「はい、今日初めてつくってみました。味見はしましたから問題ないと思いますよ」
「桜のつくった料理が不味いわけないだろ、じゃあ」
「「「いただきます」」」
カチャカチャと箸の音だけが聞こえる。基本的に桜はおしゃべりではないし、士郎も話す方ではない。俺は食事を味わうために食事中は必要最低限の言葉しか話さない。よってこの三人だけだと食事は静かに行われる。だが今この場には一体いつ来たのか、いつもは喧しい藤ねえがいる。
しかしその四人目は、何故かずっと新聞を食事中に見ている。自分的に食事中に新聞を読むというのはダメな行為だ。見ているだけでイラッとする。一体全体どういうつもりなのか?
「藤村先生、ご飯時に新聞は見ない方がいいと思いますよ?」
桜、よくいった! 心の内で、万雷のような拍手喝采を彼女に送る。
だが。
「……………」
無視………、だと。そこまで堕ちたか藤村大河。
よろしい、ならばこれは食事ではなく、礼儀作法の時間だ。一から十まで俺が知っている限りの教えをその脳に叩き込もうとしたそのとき。
「ごぶっ……うわまず! これソースだぞソース!しかもオイスター!」
「くく、あははははは!」
ばさり、と勢いよく新聞紙を投げ捨てる藤ねえ。
「どうだ、朝のうちにソースとお醤油のラベルを取り替えて置く大作戦なのだー!」
もはや呆れて声すら出ない。
「朝っぱらから何考えてんだ、アンタは! 今年で25のクセに藤ねえはいつまでたっても藤ねえだな!」
「ふふーんだ、昨日の恨み思い知ったかっ。みんなと一緒になってお姉ちゃんをいじめるやつには、当然の天罰
ってとこかしら」
「天罰ってのは人為的なモンじゃないだろ!なんか大人しいと思ったら、昨日からこんなこと考えてたのか、この暇人っ!」
「そうだよー。おかげでこれから急いでテストの採点しなくちゃいけないんだから。うん、そーゆーわけで急がないとやばいのだ」
そして凄い勢いで朝食を平らげる藤ねえ。
「はい、ごちそうさま。今日もおいしかったよ、桜ちゃん」
「ぁ……、はい、おそまつさまでした、藤村先生」
「それじゃあ先にいくわね。三人とも、遅刻したら怒るわよー」
「……あの、先輩?」
「すまない。せっかくの朝食だっていうのに、藤ねえのやつ、ろくに味わいもしないで」
「いえ、そういうのではなくて…、あの、昨日藤村先生に何かしたんですか?食べ物に細工をするなんて藤村先生にしてはやり過ぎでしたから。」
「………、確かに。昨日士郎は藤村先生になにをやらかしたんだ?」
「ん………、いや、それがさ。昨日つい、アダ名で呼んじまった。」
「それじゃあ仕方ありませんね。先輩、藤村先生に謝らなかったんでしょう?」
「面目ない。いつものコトなんで忘れてた。」
「だめですよ。藤村先生、先輩にアダ名で呼ばれるのだけは嫌がるんですから。また泣かせちゃったんでしょう」
「泣かした上に脱兎の如く走り去られた。おかげで昨日の英語は自習だった」
「もう。それじゃ今朝のは先輩が悪いです。」
桜、それは甘い、甘過ぎるぞ。
あのバカ虎には一回………では足りないと思うが、グサリと説教という名のナイフを刺すべきだ。
「まぁ食べ物を粗末にした藤ねえも悪いとは思うけどね。後でちゃんとアダ名で呼んだことを謝るんだぞ。」
けれども当の本人が雲隠れしてしまったので、説教は又の機会にしておこう。
☆―☆―☆
朝食を終え、昨日あらかじめ準備しておいた学校のカバンを持ってドアを開ける。
「それじゃ、先に学校にいってくる」
「今日は行くの早いな、何かあるのか?」
「気分だよ、気分」
そして急いで学校へ向かう。
朝の七時、通学路には誰もいない。ここだったら誰にも聞かれる心配はないだろう。
「アサシン、明日の明朝まで遠坂邸を見張っていて。何か起こったら衛宮邸に帰ってきていい。」
「はっ、承知しましたが、なぜ今から遠坂邸を見張るのでしょうか」
「勘だ、なんとなく今日遠坂邸でサーヴァントが召喚される気がした」
「そうおっしゃるのなら、魔術師殿の命令に従いましょう」
と言ってハサンは霊体化して、遠坂邸に向かった。
☆―☆―☆
学校が終わり、真っ直ぐに家に帰る。寄り道はしない。もし寄り道して、夜になってサーヴァントに襲われたら最悪だ。夜に行動するときはすべてのマスターが揃い、かつ負けない確証があるとき。死んだらだめなのだ。
……ん、あれは遠坂か? 何か難しそうな顔で考え事をしているようだ。話しかけてみるか? ……いや、止めておこう。話しかけてとばっちりを食らうより、家に帰って鍛練した方がいい。そうに決まってる。
そして家に帰ってから、日課の鍛練を終え、夕食を食べる。今日の夕食は鶏のクリーム煮込みらしい。
「桜、料理どんどん巧くなってるな。洋食ではもう士郎より作るのが上手いな、これは」
「ありがとうございます。でも、士郎先輩のほうがお上手ですよ」
「ううん、もうお肉料理に関しては桜ちゃんのほうが断然おいしいわ。もっと自信を持ちなさい」
「そうだぞ、桜。もっと自信を持った方がいい」
「はい、そうおっしゃるのなら、もっと自信を持ってみます」
むん、と桜は胸を張る。
「お、士郎が帰ってきたっぽいぞ」
「お帰りなさい、先輩。お先におじゃましていますね」
「ただいま。遅くなってこめんな。もうちょっと早く帰ってこれればよかったんだけど」
「いいです、ちゃんと間に合いましたから。ちょっと待っていてくださいね、すぐに用意しますから」
「うん、頼む。あと手を洗ってくるから人のおかずを食べないように藤ねえを見張っていてくれ」
「はい、きちんと見張っています」
☆―☆―☆
そして夕食も終わり、俺は土蔵へ鍛練にいく。
今回するのは、まだ使いこなせていない、自分の起源から引き出す魔術だ。その魔術とは、嗣いで生かす。つまり、例えば、2つに割れた鍋があったとしよう。それらの切り口に魔力を通し、それによって一番最適な形に嗣なぐことができるのだ。だが、失敗すると、最適な形に直すどころか、木っ端微塵に砕けてしまうため、大切なものにそれを使うのには少し躊躇がある。たぶん、応用すれば治癒魔術の真似事が出来るが、やはり人体に使うことはしないだろう。他に打つ手がないのなら。
「今日はこのチラシを使うか」
このチラシは街で配っていたものを
「
この作業には相当な集中力を必要とする。感覚的には、強化の三倍くらいだ。………体が熱っぽい。まるで、冬なのにサウナの中にいるときのようだ。
……あと、もう少し。ラストスパートだ、おもいっきり集中力を高める。
「
……ふう、うまくいった。真っ二つに破ったチラシはすっかり元通りになっている。
「うまくいったし、今日はこれで止めにして、もう寝るか」
そういえば、アサシンの方はどうなっているだろう?
首尾よくいっているといいのだが。
☆―☆―☆
「(明朝まで見張ってくれと魔術師殿はおっしゃいましたが、なにも起きませんな。まだ真夜中なのでこれからあるかもしれませんが)」
と、思った瞬間、それは空から落ちてきた。
「(あの物体は並外れた魔力を持っていましたな。それに確かあの物体は人の形でしたぞ。恐らくアレはサーヴァントで間違いないですな。魔術師殿はとてもいい勘の持ち主のようですぞ。さて、早速このことを報告しますかな)」
次回から戦闘シーンも入ります。