※1月2日 一部表現と行間を変更しました。
※4月25日 加筆修正を行いました。
セイバーと名乗った少女と槍の男との戦いが始まった。先ほどまでの戦いとは違い、男は少女に圧倒されていた。前の戦いは、終始生嗣が槍使いに圧倒されていたが、それは彼が人間である以上仕方のないことだ。人間である以上あのナニカには勝てない。それに、生嗣はよく戦ったと思う。俺だったらあの槍の男とは戦いにすらならなかっただろう。戦闘とは、すなわち互いを仕留める能力者どうしの争いである。たとえどのような戦力差でも、生嗣のように相手を打倒しうる術があるのなら、それは戦闘と呼べるだろう。
そういった意味でも二人の争いは戦闘だった。視認することさえ難しい男の槍は、さらに勢いを増して少女に襲いかかる。
それを、手にした何かで確実に弾き逸らし、間髪いれずに間合いに踏み込む少女。
「チィ―!」
憎々しげに舌打ちをし、男は十数メートルも飛び退き、槍使いは槍を僅かに下げた。
それは戦闘を止める意思表示のように見える。
「?」
少女は、そんな男の態度に戸惑っている。
だが、俺はあの構えを知っている。
数時間前、夜の校庭で行われた戦い。その最後を飾るはずだった、必殺の一撃を。
「なあセイバー、お互い初見だしよ、ここらで分けって気はないか?」
「……………………」
「悪い話じゃないだろう? そら、あそこで惚けているお前のマスターは使い物にならんし、俺のマスターとて姿を晒さねえ大腑抜けときた。それに、この場にはもう1人マスターが残っている。そいつの破けた手袋から見えるあの模様は間違いなく令呪だ。今はまだ静観しているが、手を抜いたとは言え、この俺とほぼ互角に戦ったやつだ。いつヤツが俺たちか、そこで惚けているお前のマスターに襲ってくるかわからん。それにヤツのサーヴァントはまだ姿をあらわしていない。こうしている間にも虎視眈々と俺たちを狙っているに違いない。
ここは互いのために勝負を持ち越したほうが好ましいのだが」
「………そうだな、確かにこのまま戦っていたのでは最悪、漁夫の利になりかねん。ここは提案に乗るとしよう」
「……感謝する。それでは」
あの男はどこまで身が軽いのか、塀を飛び越えて去っていった。
すると、それを追いかけるかのように。
セイバーと槍の男の戦いを遠巻きに観察していたアイツは、塀に向かって疾走する。
「じゃあまたな、士郎」
そう言うと、生嗣は槍使いと同じように塀を飛び越えて去っていった。
「まて、そこのマスター!」
それを、セイバーが追い掛ける。俺は、彼女を追い掛けて止めるべきだろうか?
一、追い掛ける。
二、追い掛けない。
☆―☆―☆
一、追い掛ける。
やっぱり、どんなに強くて身を守っていようとも、女の子が戦わなくちゃいけないというのは、なにかが間違っていると思う。それに、追いかけずにここにいたら、なにかが失われる気もする。
門から出て、セイバーを探す。
「あそこか!」
セイバーは今、まさに黒い男に斬りかかろうとしている所だった。後ろには生嗣がいたが、魔力を使いすぎたのか、うつ伏せになって倒れていた。あの黒い男は間違いなく死ぬ。
そして、その後死ぬのは、生嗣だろう。
そんなことは、絶対にさせない。
「止めろ!セイバーーーーー!!!!!!」
「っ!?」
軽い痛みが走った。
左手の甲に刻まれた印の一つが消えていく。
それを代償とするかのように、本来止められない筈の一撃を、セイバーは止めていた。
「っ―――――」
一瞬、銀の甲冑が石化したかのように停止した。
その隙に黒い男は生嗣を拾い上げ、セイバーと距離をとった。
「あいつは…………、誰だ?」
誰にせよ、助かったのなら良かった。
「正気ですか、マスター。今なら確実にアサシンとそのマスターを倒せた。だというのに、令呪を使ってまでその機会を逃すとは………!」
「――――――――」
「マスター、指示を撤回してください。貴方がそのような態度では、倒せる相手も倒せなくなる」
そう言うやいなや、再び手にした何かを構える。
「止めろ、セイバー。あいつは、俺の義兄弟だ」
「…………………」
セイバーはどうするべきか迷っているようだ。
そこに、
「あら、お久しぶりね、衛宮くんたち」
「遠坂、凛―――」
「ふうん、へぇ、そういうこと。兄弟二人ともマスターになったんだ」
なんと言えばいいのか。
遠坂の後ろにいる夜の校庭でみた赤い男が人間ではないのは俺にだってわかる。
アレはセイバーと同じ、この世ならざるものだ。
なら、それを連れている遠坂は、その……………。
「もしかしてお前もマスターっていうヤツなのか?」
「そうよ…………って、あなた、もしかしたら何も知らないの?」
首を縦にふる。
「遠坂、俺に教えたように士郎にも聖杯戦争のことを教えてやってくれ。説明するのは俺より、おまえの方が得意だろう」
生嗣が、何やら物騒なコトを言ったような。
聖杯戦争。マスターとかセイバーとか、聞き慣れないコトバはソレに関わっているのだろうか。
「なんで私がこいつに教えなきゃいけないのよ? あんたが教えなさいよ」
「断る」
「なっ………。あんたはこいつの兄弟なんでしょ、責任感とかないの? 無知のままじゃ聖杯戦争では生き残れないわよ」
「だから、説明ド下手の俺よりも説明上手な遠坂に士郎は教えてもらったほうがいいんだよ」
「確かに…………。それもそうよね、あなたの説明ってなんか全く要領を得ないし分かりづらいもんね」
あははー、と笑う遠坂。
生嗣も笑顔である。もっとも、どちらの笑みもどこかアクマめいたモノを感じさせるイヤな笑みだが。
「わかったわ。士郎、私が今からあんたのわからないことについて説明してあげる。あ、生嗣もくるように」
「遠坂、なんで呼び捨てなんだよ」
初体面の人に、呼び捨てはどうかと思う。
「いい、ここに衛宮くんは二人いる。苗字で呼んだらどっちがどっちだか分からなくなるでしょう?」
「……む。それもそうだ」
「わかったらさっさといくわよ。あと、アーチャー。あなたは霊体になっていて。そうじゃないとセイバーは剣を納められないわ」
「ふう、また難儀なことを。まあ命令とならば従うだけだが……一つ忠告しておくと、君は余分なことをしているぞ」
赤い男は、それこそ幻のように消え去った。
「アサシン、お前もだ」
「承知しました、魔術師殿」
黒い男も消え去った。
「遠坂、生嗣、今の……!」
「いいから話は中でしましょ」
言って、人の家にズカズカ入り込んでいく遠坂。
「え……待て、遠坂。なに考えているんだ、おまえ」
思わず呼び止める。
と、振り向いた遠坂の顔はさっきの笑顔とは別物だった。
「バカね、いろいろ考えてるわよ。だから、話をしようって言ってるんじゃない。
士郎くん、突然の事態に驚くのもいいけど、素直に認めないと命取りって時もあるのよ。
ちなみに、今がその時だってわかって?」
「っ――――う」
「わかればよろしい。それじゃ行こっか、衛宮くんたちのお家にね。貴女もそれでいいでしょう、セイバー?
見逃してもらったお礼に、貴女のマスターにいろいろ教えてあげるんだから」
「……いいでしょう。何のつもりかは知りませんが、貴方がマスターの助けになる限りは控えます」
遠坂は衛宮邸の門をくぐっていく。
「……なんかすげえ怒ってるぞ、あいつ……」
その理由はわからない。
いやもう、全くもってわからないのだが。
「それにしたって、あいつ」
なんか学校での遠坂のイメージと百八十度違う気がするんだけど……。
☆―☆―☆
ふー。いや、今回はマジで危なかったぜい。
中庭からランサーが逃げたあと、セイバーに襲われるかもしれないと思って、急いで外に出たのはいいのだが、まさか出た瞬間に魔力が尽きるとは思わなかった。
……なんか昔からそうなんだよなー。
なにか一つの目標・目的は達成出来ても、どこからか致命的なミスが出てきて、相殺される、もしくは今回のように相殺どころかマイナスになるっていう。まあ、実際マイナスになっても、なんとか最後は±0にもっていけるのだが(例えば今日は士郎が令呪を使ってセイバーを止めてくれた)。
次回からは、魔力量について気をつけないと。
反省をすると、今日の場合は、セイバーには会話で決着を着けていたほうがよかった、ということだな。
………因みにいくら反省をしても、今までそれが活かされたことがない、ということには目を瞑ろう。
さて、何故俺がこんなことを考えているのか、それを不思議に思う人がいるかも知れない。まあ、実際問題たぶん俺の心を覗きみるのは、あの神様っぽいヤツしかいないはずだが。その
「ちょっと、聞いてるの? 生嗣くん。さっきから私の目じゃなくて机ばっかり見てるけど。
とにかく私が貴方に言いたいことはね」
そう、さっきから遠坂に説教をされてあるのである。少しだけ、こうなった経緯を思い返す。
▽ ▽ ▽
まず、家の前での話し合いが終わった後、居間に至る廊下を歩いた。ちなみに歩いた順番は遠坂→俺→士郎→セイバーである。その後居間で俺が、洗い終わったコップを間違えて落として割ってしまった所から詳しく思い出そうと思う。
「本当にゴメン、士郎。また間違えてコップを割っちまった」
「はぁ、ちゃんと元に戻せよ?」
「もちろん。だが今すぐはできない」
「できないって、なんでさ」
「だって今、このコップを直せるだけの魔力がないし」
「…………そうか、そうだったな」
「じゃあ、私が」
というと、少し割れたコップをまじまじと観察して、
「――――Minuten vor Schweiβen」
ふつり、と指先を切って、コップに血を澪した。
割れたガラスのコップはたちまち元の姿に戻っていく。
「遠坂、今のは」
「ちょっとしたデモンストレーションよ。私は今は貴方たちと敵対するつもりはないっていう。まあ、この程度で信じてもらえるかわからないけど」
「いや。凄いぞ、遠坂。同じようなことは生嗣が出来るけど、俺はそんなことできないし感謝してる」
「? 出来ないって、そんなことないでしょ? このぐらいは初歩の初歩だもの。たった数十秒前に割れたガラスの修復なんて、どの学派でも入門試験みたいなものでしょ?」
「そうなのか。俺は親父から『強化』の魔術とかしか教わらなかったからな。
そういう基本とか初歩は知らないんだ」
「――――はあ?」
まあ、そりゃあ驚くよなー。俺も遠坂の弟子になって最初の頃に俺の魔術のできなさに驚かれたもんなー。
「……ちょっと待って。じゃあなに、衛宮くんは自分の工房の管理も出来ない半人前っていうこと?」
「……? いや、工房なんて持ってないぞ、俺たち」
「まさかとは思うけど、確認しとく。もしかして貴方、
五大元素の扱いとか、パスの作りかたもしらない?」
「俺は知らないけど、生嗣は知っているかもしれない」
「彼はいちおう私の魔術の弟子だから、そういう基本はしっかり教えたわ。初めこそ散々だったけど、今はもう魔術師としては一人前じゃないかしら」
「そうだよな。生嗣、お前あの槍の男とほぼ互角に戦っていたからな」
………まずい、
「いや、あれはたまたまの偶然で………。そうだ!ランサーはきっと手を抜いたに違いない、そうに決まってる!」
このままだと、
「いや、もし仮にそうだとしても、あんな人外の動きは俺にはできない。一体どうやったらあんな動きが出来るんだ?」
遠坂にしばかれる…………!
「生嗣くん? どうゆうことなのか、説明してもらうわよ。それを聞いた上で、貴方をどうするか決めてあげる」
▽ ▽ ▽
そして、今夜に起きたことを全て白状し、今ここに至る。
………なにやら、すぅ~~と空気を大きく吸う遠坂。
「なんで!ランサーと!一対一の勝負をしたのかっていうことよ!!」
なんつー声だ、鼓膜が破れる! ああ、こういう時は良かった点をあげるべしってどこぞの誰かが言ってたっけ。
「いいじゃん、誰も死ななかったんだし」
終わり良ければ全て良し、なのである。
「そんな戦いをしたからには、ちゃんと勝算があったんでしょうね?」
「いや、一定時間戦える自信はあったけど、セイバーが途中で出て来てくれなかったら、かなりヤバかった」
「……まあ、いいわ。今回は許してあげる。その代わり、またこんな無茶をしたら容赦しないからね」
「つ、次からは気をつけるよ!」
なんとか死の危険を回避出来て良かった。
「それじゃあ話を始めるけど。
士郎くん、自分がどんな立場にあるのかわかってないでしょ」
ここからの会話は、一度見たり聞いたりした話なので、聞き流す。
まあ、眠い、ということもあるのだが。
というか、もう眠くて仕方ない。
っ、だんだんいしきが……………
☆―☆―☆
――2月3日
目が覚めた。
なるほど、どうやらここは居間らしい。つまり、
「疲れて寝ちゃったのか」
外はもうすっかり明るくなっている。
「げ、もうすぐ正午だ」
いくら疲れていたとはいえ、まさか十時間以上睡眠を貪るとは。
「さて、これからどうしよう」
まずは、顔でも洗ってくるか。
理不尽なbadendとdeadendをこれからどんどん出す予定です。
二、追い掛けない。
このルートは、ifルート集の2ー1で見れます。