※10月1日 少し内容を修正しました。
※4月28日 加筆修正しました。
――2月4日
―――あの日は、どのくらい前だっただろうか。
そう、あれは僕が初めて彼女と二人でデートした日。
ちなみに、彼女といってもまだ付きあってはいなかった日のことだし、デートといっても、そのときの自分はそれを世間で言われているデートだとは認識していなかった。
そう、あのときの僕は鈍感だったのだ。
……もしかしたら今もかもしれないけど。
あのときの思い出は未来永劫忘れないだろう。
そう、たとえ転生した世界で何年、何十年、何百年経とうとも。
あの初初しい思い出は、きっと忘れないし、忘れることなど出来ないだろう。
☆―☆―☆
……久しぶりに、夢を見た。
それも転生する前の世界のときに関する夢。
目の辺りからまるで小川のようにつらつらと汗が流れる。
「―――――気を取り直して、っと」
右手で目から流れていた水をぬぐい、数秒間目を閉じて気持ちを切り替える。
現在の時刻は6時15分。さっさと着替えて居間に行こう。
いただきます、という声が重なり合う。
いつもは四人で食事をするのだが、五人というのは初めてだ。
「ん? あれ、これ微妙に薄味だな。ダシ変えたのか、桜?」
「はい、セイバーさんお味噌汁に慣れていないと思って。あんまりお味噌が濃いのもダメかなって」
士郎が指摘して初めてダシが変わったことに気づいた。流石は士郎、細かい味の変化にも気がつくとは。
将来は『正義の味方』ではなく、『天下無双の料理人』になるのを俺はお勧めしよう。
「そうですね、昨夜の味付けよりも今朝のほうが美味しいと思う。ですが桜、私も和風の食事には慣れていますから、そう気を遣わずに自由に調理してください。その方がお互いのためになる」
「え、そうなんですかっ!? うわ、ちゃんとお箸持ててる。……びっくりしました。セイバーさんって器用なんですね」
「慣れていますから。
……ですが正直に言うと箸は疲れます。ナイフやフォークより優れた道具だとは思うのですが」
「そうだねー。セイバーちゃんはお箸よりナイフとかフォークだよねー。って、それ違う違う。かけるのはソースじゃなくて、醤油」
そう言えば前に藤ねえ、醤油とソースのラベルを取り替えたことがあったっけか。
あのとき被害にあわなくて良かったなー。
とろろにオイスターとかマジで勘弁である。
「……なるほど。忠告、感謝します」
「よしよし。報酬として海苔を一枚いただきましょう。はい、士郎おかわり」
「はい。食い過ぎて二度寝はするなよ」
「あの、先生? 今日の朝練に参加されるのなら、控えておいたほうがいいと思いますけど……」
「だいじょうぶだいじょうぶ。これぐらい入れておかないとお昼までもたないもの。そういう桜ちゃんだって、朝練の後におにぎり食べてるじゃない」
「―――――! 先生、知ってたんですか!?」
「むふり。端っこでコソコソやってるから気になって観察してたのよ。だめよー、いい年頃の女の子が朝二食なんて。悪魔はこっそりと、ある日テロリストのように舞い降りてくるんだから。ふふ、わたしの読みでは桜ちゃんの今の体重は―――――」
「だめっ! ダメです先生、言ったらもうご飯をもうつくりに来ませんからっ!」
「ちぇっ」
「そ、それに、間食は時々だけですっ。いつもそんなコトしているワケじゃありません!」
「あれ、そうなのか? 朝飯、いつも一合多く炊かれてたから、てっきり桜が握り飯でも作っているんだろうなって思っていたんだけど」
「せせせせ先輩も知っていたんですかっ!?」
「あははっ、ダメダメ桜ちゃん。士郎ね、そういう細かいコトには妙に神経質なやつだから。きっと初めておやつを作っていたときから気づいていたわよ?
生嗣は細かいコトを全く気にしないやつだから今の今まで気づかなかったぽいけど」
「仰せの通りで」
大体そんなことに俺はどうやって気付けばいいというのか。自分には全くわかりません。
「初めて? それって去年の夏のこと?」
………いくら士郎でもあたるはずがない、はず。
「っっっっ――――――――!!!!」
あ、この反応は当たりだわ。
本当に当てやがったよ、士郎のやつ。
「? 桜、空中に埃でもあるのですか? そんなところで手をふって」
セイバー、それは違う。
と、心のなかでツッコミをいれてみる。
そんなこんなで昼食は終わりを告げ、俺は藤ねえに重要なことをきく。
「あ、藤村先生。今日学校休むわ」
「そう、わかったわー。………って、学校休むってどういうことよ! 余りにも自然な言い方だったから普通に流すところだったじゃない!」
「うん? ああ、じゃあ道場で相談する。話せばわかるから」
「……なるべく手短に話してね。じゃないと朝練に遅れちゃうから」
「ん、わかった」
突然だが、魔眼というものをご存知だろうか。この世界の魔眼には先天的なものと後天的なものがある。前者は大体強力な魔眼であり、魔術では再現できず、超能力と呼ばれている。そしてそれは術者が視るだけで行使できる。逆に言えば、その魔眼を使いたくないときにも使ってしまうため、魔眼殺しなどの道具を使ってその効果を抑えるという。
後者は、生まれてから目を猫目石というものに取り替えたり、自身の目を魔術回路に作り変えたりすることで、『束縛』『魅惑』『暗示』というような効果を相手に及ぼす魔眼があるのだ。
「生嗣、道場に着いたことだし、今日学校を休む理由をわたしに教えてくれないかな?」
おおう、どうやら頭の中で魔眼のことについて考えてる内に道場に着いたらしい。
よし、始めるか。
「藤村先生、俺と目線を合わせてください」
魔眼は対象と目を合わせると効果が上がる。
そして、自分が持っている魔眼の効果は『暗示』。
『暗示』とは文字通り相手に暗示をかける能力で、今使っているソレの場合俺は藤ねえに、『生嗣はしばらく学校を休むが、それはここの所体調を崩しているからであるため、絶対に彼を学校へ行かせてはならない』という暗示をかける。
目に魔力を集めて、藤ねえの目をしっかりと見る。
藤ねえはその暗示した言葉を数回言った後、
「しばらく無理をしないで家で安静に暮らすこと。学校には事情を伝えるから、評価に関しては気にしなくていいわよー」
とのことだった。
暗示が成功したのは嬉しいのだが、罪悪感や自己嫌悪に苛まれる。
その後、藤ねえと桜が朝練に行き、士郎も学校に行ったことでセイバーと二人っきりになった。
因みにアサシンは学校の周りに忍ばせてある。
セイバーと二人っきり、というのは非常にまずい事態だ。だってさっきから俺のことずっと警戒してるし。気のせいだといいのだが、軽い殺気も向けられている気がする。よって、
「セイバー? ずっと俺を見ているようだが、なにか言いたいことでもあるのか?」
と、出来るだけ朗らかな笑顔を無理矢理作って聞いてみる。
ずっと緊迫している雰囲気というのはキツい。
だから沈黙を破ったのだが、セイバーはどう出るか。
「一つ問おう。貴方は私のマスターに危害を加える気はあるのか?」
「士郎に手を出すという気はないぞ。向こうが攻撃してきたら戦うけど。そういうセイバーはどうなんだ? 今俺と戦う気はあるのか?」
あるって答えられたらどうしよう………。
と、内心不安になる。
何故なら今は武器を持っていないからであり、襲われたらひとたまりもないからである。
「いえ、そういうことならいいでしょう。私は出来るだけ魔力を温存しておきたい。ランサーと互角に戦ったと言われている貴方を相手にすれば魔力をかなり消費してしまう。それは私の望むところではない」
「それは買いかぶりだ、セイバー。百歩譲ったとして俺がランサーと互角に戦ったとしよう。だがそれは今は出来ない。何故なら今、俺は得物を持っていないからだ」
「なるほど。では、今貴方を襲っても大して魔力を消費しないというわけだ」
「―――――――」
……もうダメだぁ、お仕舞いだぁーーーー。
今得物を持ってませんとか言わなければよかったのに。そのおかげでガチの死の危険が俺の前に出現している。選択を間違えた、いや余計なコトを言った俺のバカ、バカ、バカ………!
アサシンを礼呪で呼び出しても瞬殺される予感がひしひしと感じられる。
やっぱアサシンじゃなくて三大騎士クラスを呼び出した方がよかった。アサシンはこういうときに使えないのである。
……が、三大騎士クラスを呼び出そうとしても、令呪を使った瞬間に斬られそうだな。
「冗談です。そう怯えないでください、生嗣。私はこれから部屋で寝ます」
「そ、そうか。
……そういえばセイバー、少し聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「昼食。よければ俺が作るけど、食べる?」
そう言うと、すかさずセイバーは、
「いただきましょう。ええ、食事を摂るということは私にとってとても重要なことです。それに、生嗣がつくる食事も食べておきたい」
「そうか、それは良かった」
「昼食が出来たら呼んでください。すぐに行きます」
と言って、セイバーは昨日彼女が寝た部屋に戻っていった。
……さて、この前俺は心の中で自分は毒しか作れないと言ったが、あれは言葉の綾というヤツだ。恐らく、きっと、たぶん、食事を毒物にしない方法があるはず。あのときはまだそれを実行する勇気が無かったが、今はそれを実行せざるを得ない状況下にある。なぜなら、これから夜までずっと昼飯抜きというのはとてもキツイからだ。
というわけで、料理という名の実験を始めるべく、食材という名の試薬を買うために商店街へ行く。
☆―☆―☆
食材も買ったし、まず始めにサンドイッチでも作ってみる。まず八枚切にされてある食パンを包丁でそれぞれ真っ二つに切り、その片方にハムとレタスを乗せ、もう片方にマヨネーズを塗って、その二つを合体させる。
「……たぶん、上手くいっただろ」
というわけで、早速試食。
「なんか味に深みが足りない気がするけど、毒物ではないな」
ふむ、サンドイッチは毒物ではないということか。ならば次は目玉焼きを作ってみよう。
~やや長いので、省略~
なんだ、これは。まるで銀■にでてくる、とある女性が作ったダークマターにそっくりではないか。五分以上焼いてたんじゃないかって? いや、ちゃんと焼いた時間は二分ぐらいだったよ? にも関わらずこの結果はどうよ。
……ならば三十秒ぐらいで焼こう。
いくらなんでもそんな短時間で卵がダークマターに変わるとは思えない。あり得ないと言っていい。よし、ならば実験だ。
~三十秒後~
なるほど、『焼く』という行為を俺がするとダークマターになるらしい。ならば、次は蒸してみようではないか。
~二十五分後~
見た目はいい感じである。さて、問題は味なのだがどんな味だろーか?
……パクリ。
…………………?。
………………………!?。
………………………………グハッ。
……何故普通の蒸し鶏なのに、ほろ苦不味い味がするのだろうか? ちゃんと料理本に沿って作ったのに、これはないだろう。なんか鶏に可哀想だ。
結論:『蒸す』ことをすると、見た目は美味しそうだが、肝心の味が不味くなる。
ちなみに、一回で結論を出したのは、前にも経験があったからで、そのときは士郎・桜・藤ねえが被害者となった。
ここで、卵焼きは蒸す料理ではなく、焼く料理だと疑問をもつ人もいるかもしれない。だが、世の中には蒸し卵焼きという料理が実在するのだ!
えー! なんだってー!Σ(゜Д゜)
と、思った人はググれ。
そこに全てを置いてきた!(海■王並感
というわけで『揚げる』というの油が跳ねて痛いし、煮るのも面倒臭いので、最後に大本命『炒める』というのをやってみようと思う。
因みにその料理とは、『麻婆豆腐』である。
転生する前の世界では一番の得意料理だったもので、それがある程度の辛さだったら俺が一番好きな料理である。
この料理だけは、絶対に失敗させない!
※なお、『麻婆豆腐』は一部焼いたり茹でたりもする料理だというツッコミは無視します。
一、まず材料を切る。
二、次にタレをつくる。
三、タレに調味料を加え、良く炒めたらスープ(水)を入れる。
四、豆腐を茹でる。
五、材料を全て入れる。
六、とろみをつける。
七、仕上げにはラー油だけ入れ、山椒はセルフサービス。
よし、完成したぞ。
後はお皿によそって食べて味を確めるのみ。
「いただきます」
蓮華を持ち、赤黒いタレと豆腐をすくい、口に運ぶ。
……。
…………!。
…………………(*´∀`)。
美味しくて、つい顔が綻んでしまった。
どうやら、『麻婆豆腐』は毒物ではないようだ。
え? 激辛という意味で毒物だって?
大丈夫大丈夫。山椒が入っていない分、全然辛くないから。これを辛いと言うのは、辛い食べ物を食べ慣れていない人だけだろう。
良かった良かった。こんなに美味しかったらセイバーに食べさせてもオーケーだろう。
とは言え時刻はまだ10時。
昼食の時間まであと二時間以上ある。自分1人で鍛練ってのはなんか乗り気がしないし……。
あ、確かセイバーは、
『昼食が出来たら呼んでください』
とか言ってたな。暇つぶしに呼んでみようか。
「セイバー、昼食出来たぞー」
「ほう。麻婆豆腐というのですか、これは」
来るの速っ!
『すぐに行きます』とか言ってたけど、呼んだ瞬間に来たよ、この腹ペコセイバー。
「……食べる?」
「勧められたからには断われませんね。では遠慮なく」
いただきます、と言って口に麻婆豆腐を入れるセイバー。果たしてお口に合うだろうか?
「どうだ、セイバー?」
「……丁度いい辛さですね。あと、この味はご飯が進みます」
と言って、今食べていたご飯を上品かつ一瞬で食べ終わり、おかわりの要求をするセイバー。つい数時間前にご飯をたくさん食べたばっかりなのに、もう三杯目に突入している。
「そこに置いてある山椒を麻婆豆腐にかけると味に深みとコクが増してさらに美味しくなるぞ」
早速麻婆豆腐に花椒を振りかけるセイバー。どんな反応をみせるか非常に楽しみだ。
「むっ、これは……。花椒を入れると入れないとでこうも味と風味が変わるとは。山椒の香りはとても良いのですが、このピリピリとした辛さには抵抗を感じる。山椒は少なめにした方が良さそうですね」
「わかった。じゃあ次、麻婆豆腐を作るときにはこれ以上辛くしない方がいいな?」
「ええ、その方が私は好ましい。しかし、生嗣がこんなに料理が美味しいとは。これから先の食事が楽しみです」
「いや、期待しない方がいい。俺はたぶん、おそらく、きっと麻婆しか美味しくつくれない」
「そう……なのですか。残念です」
「そう。だから今の俺が作れる食事のレパートリーは、麻婆豆腐に麻婆茄子、麻婆春雨に麻婆ラーメン、麻婆のあんかけ焼きそば、麻婆丼、麻婆スパゲッティ、麻婆プリンなど、麻婆関係だ」
「あの、生嗣? 最後の麻婆プリンというのはなんでしょうか? ……それに今の言葉を聞く限り、麻婆豆腐だけではなく『麻婆』と名のつく料理なら作れるのでは?」
「ん? あー、それはとある神父に対して作ったものだ。あれを美味しく食べれるのはほんの一握りの人間だけだろうな…………。あと、俺にとってはソレらはおいしくない」
おいしくはないが、一応普通に食べられる味ではある。
「何故遠い目をしているのかどうかわかりませんが、おかわりをください」
「え? あれ、まさかご飯、もう残っていないワケじゃないよな?」
「もう炊飯器に残っていたのは全て食べました。ですからイキツグ、おかわりを用意してください」
「……セイバー、もう食べるな。今日のご飯はもう終わりだ」
まさか残っていた二合を全部食べたというのか。
恐るべし、腹ペコセイバー。このままではセイバーの食費で衛宮家の家計が破綻する。
「…………わかりました、では道場に移動しましょう。私が生嗣に一撃入れられたら、ご飯を炊いてください」
「いや、それは却下。じゃあ午後5時までに俺がセイバーに一撃を入れられなかったら、ご飯を炊こう」
「む、随分時間が長いですね」
あ、説得する方法思い付いた。
「まさかセイバーオブセイバーともあろうお方が俺ごときにやられるワケないですよねぇ? 俺は普通の魔術師で、セイバーは並み居るセイバーの中でもトップクラスのサーヴァント。そんな最優のサーヴァントが俺に一撃を入れられることなんてありませんよねぇ~?」
今の低レベルな煽りでは釣れないだろう、と思いながらセイバーの反応を見る。
「……なにか乗せられている気がしますが、いいでしょう。その勝負、受けてたちます」
「よし、じゃあ早速道場に移動しよう」
☆―☆―☆
「……さすがセイバー。始めてから六時間も経つのにまだ一撃すら入れられないとは」
「―――ハア、やっと諦めてくれましたか。では私の勝ちということでいいですね?」
「いや、まだだ。まだ諦めることは出来ない」
そう、あともう少し。あともう少しで届く気がするのだ。なので、『諦める』ことなど絶対に出来ない。
「諦めが悪いですね、生嗣は」
「ん? ちょっと待っててくれ、セイバー」
アサシンから報告が来た。
「? はい、わかりました」
『魔術師殿、学校の裏手にライダーがいます。交戦しますか?』
『ああ、くれぐれも死ぬんじゃないぞ』
『了解しました。魔術師殿』
ライダーか、一体どんなヤツだろう。話が通じるヤツだといいんだが。
「っ!」
「セイバー! どうかしたのか!?」
「―――どうやら士郎との契約が切れたようです。もしかしたら士郎は………」
その先の言葉をセイバーは口にしない。
そして、セイバーの体がどんどん透けていっている。このままではセイバーの魔力が無くなって、ここに留まることは出来なくなるだろう。
確実な味方がアサシンだけでは心もとない。
ここは、
「セイバー、俺と再契約しないか?」
「! 生嗣。しかし、それは……」
「なに、サーヴァント二人分くらいの魔力なら大丈夫だ。それに、まだ士郎が死んだと決まったワケじゃないから、ここで一回契約して、学校でなにがあったか確めるべきだし、セイバーは聖杯が欲しいんだろう? まだ目の前にチャンスがあるなら、それを掴みとるべきだと俺は思うのだが」
だがしかし、俺の最終目的は大聖杯を破壊することなので、心の中でセイバーに謝っておく。
「ええ、わかりました。では生嗣」
「――告げる!
汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に!
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うのなら、
我に従え! ならばこの命運、汝が剣に授けよう!」
「セイバーの名に懸け誓いを受ける……! 我が主として認めよう、生嗣っ……!」
「じゃあセイバー、早速学校に向かうぞ。もうアサシンがライダーと交戦してる」
「なるほど。ということは、士郎の下手人はライダーなのですか?」
「いや、多分それはないだろう」
「何故ですか、生嗣?」
「こう、俺の直感的に」
セイバーは、はぁ、とため息をついたあと、
「とにかく急ぎますよ、生嗣。もしまだ士郎が生きているとしたら、なるべく早く学校に着いた方がいい」
「ああ、わかってる」
全身は余すことなく『強化』され、体はどんどん加速される。
☆―☆―☆
家を出てから五分後、学校に着いた。
「あれは……、凛でしょうか?」
セイバーの指差す方向を視ると、確かに遠坂凛がいた。彼女はなにかを睨んでいるらしいが、何を睨んでいるのだろう?
「……行くぞ」
セイバーは首肯して着いてくる。
遠坂たちがいる学校の裏に向かって足音をわざと大きく鳴らして走り、その状況をみた。
「ふん、まさかここにサーヴァントが四人も集まるとはな。それにマスターも四人、いや三人か」
赤い弓兵はこの特異な状況に驚き、
「―――」
紫の騎乗兵は黙して語らず、
「………これは、」
青い剣士は状況を頭の中で整理し、
「……」
黒い暗殺者は虎視眈々と隙を窺っている。
一人一人存在するだけで威圧感がある歴戦の英雄たち。そしてそれが四人揃ってお互い敵対関係だったらどんな空気になるのか、考えるまでもない。
だが、此処にいるのはサーヴァントだけにあらず。そう、三人のマスター。
その内の一人がそんな極度に緊迫した空気をぶち壊す。
「おい、ライダー! さっさとこんな所からずらかるぞ!」
彼らが消えたことによってこの場の主導権はまだこの場に残っている、サーヴァントを二体保有する、彼に握られた。
「遠坂、経緯を説明してもらおうか」
「いいわ。でもその代わりわたしたちを決して攻撃しないで。勿論、わたしたちも貴方たちを攻撃しないわ」
「ああ、取り敢えず了解した。士郎はどこにいる?」
返事次第によっては殺す、という意志を凝縮した視線で彼女を威嚇する。
「……こっちよ」
誰もいない校舎、その二階に行く途中の階段で士郎は倒れていた。外見的に損傷はなさそうだが……。
「遠坂、士郎をどうした?」
「……聖杯戦争に関する記憶を全て消したわ。もう二度とそれを思い出すことは無いでしょうね」
「………そうか。つまり、二度と士郎はもう聖杯戦争に関われないんだな?」
「……ええ、そうよ。本当、彼にとっては残酷なことをしてしまったわ」
ならば、いい。
「そうか。遠坂、一つ提案がある」
「……なに?」
「バーサーカーを倒すまで、同盟を結ばないか?」
「え?」
遠坂の顔がポカンと、驚き呆れている顔になった。
結構いい案だと思ったのだがダメだろうか?
「わたしとしては願ったり叶ったりなんだけど……。その、こんなことしたのに本当にいいの?」
「ああ、正直セイバーとアサシンでバーサーカーを倒せるかわからない。だけどアーチャーが加わったら倒せる可能性が大幅に上がると思うんだ。確かに士郎の記憶を消したのには憤りがあるけれど、少し感謝してる」
「……なんで貴方はわたしに感謝してるの?」
「士郎を聖杯戦争から遠ざけてくれたから。少し身勝手な理由かも知れないけど、これで士郎が死ぬ可能性は大分減った。後は士郎には言わないけど護衛としてアサシンを付ければ余程のことがない限り死なないだろう」
「そう、同盟の話は受けるわ。もし貴方たちを倒したとしても、バーサーカーをアーチャーだけで倒せる気はしないし」
「じゃあ決定だな。今日は此れにて解散ってことで」
「ええ、また明日学校で具体的な対策を考えましょう」
じゃ、と手を振って別れる。
「アサシン、士郎を家まで持って先に家に帰ってくれないか?」
「承知しました、魔術師殿」
さてと、契約したからには今のセイバーの状況を視なくてはなるまい。
ソレを視るために、セイバーの額に人差し指を置く。
「セイバー、そのままでいて」
……よし、見えてきた。
クラス:セイバー
マスター:衛宮生嗣
性別:女性
身長・体重:154㎝・42㎏
属性:秩序・善
筋力:A 幸運:A+
耐久:C 魔力:A
敏捷:B 宝具:A++
クラス別能力
対魔力:A
Aランク以下の魔術をすべてキャンセル。
事実上、現代の魔術師では傷をつけられない。
騎乗:B
騎乗の才能。
大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
保有スキル
直感:A
戦闘中の「自分にとって最適な行動」を瞬時に悟る能力。ランクAにもなると、ほぼ未来予知の領域に達する。視覚・聴覚への妨害もある程度無視できる。
魔力放出:A
魔力を自分の肉体や武器に帯びさせることで強化する。ランクAではただの棒切れでも絶大な威力を有する武器になる。
カリスマ:B
軍を率いる才能。
ランクBは一国を治めるのに充分な程度。
全体的にアサシンよりも上だ。もしやこのサーヴァント、本当に最優なサーヴァントかもしれない。
「セイバー、帰るぞ」
「――はい」
うち方面に向かっているアサシンが持つ、士郎を見つめながら、彼女は無念そうに返事をした。
☆―☆―☆
俺、遠坂、桜、セイバー、あと藤ねえで夕食を囲んだ。士郎は遠坂が余程痛い目に遭わせたのか、起きる気配がないので部屋に寝かせた。
いまは、藤ねえを抜いた四人で会議中である。当初の予定では、桜と藤ねえには暗示で帰ってもらい作戦会議をするつもりだった。
だが、桜の抗魔力が思いのほか高かったためそれは失敗。部分部分を煙に巻いたりもしたが、遠坂が下宿することや、桜はしばらく来ないでほしいといった趣旨の内容を説明した。結果として、居間はギスギスの高プレッシャー領域と化した。
「桜、頼む。一週間だけでいいから」
額を畳に擦り付けて、土下座で懇願する。
こんな事になるのなら、正々堂々と説明すれば良かった。思いつきで行動してしまった、過去の自分を殴りたい。
「や、やめてください先輩。そこまで先輩が謝るコトなんてありません。ですから、顔を上げてください」
許された、か?
いや、まだ油断はできない。万が一のため、不得手なマシンガントークと遠坂ヘルプを準備しなければ。
「たしかに遠坂先輩が下宿することには驚きました。藤村先生の許可も取ってませんし、士郎先輩にも言ってない……、……………」
沈黙。
どうにかして大丈夫ですと言おうとしてる気持ちが垣間見えるが、組み立てる論理が見つからない様子。
「え、えーっと、そうです!
先輩はこの家の主……だと思いますしっ、べつにいいんじゃないでしょうかっ!?」
訊かれても困る。
ワタワタしてる桜は目の保養になるのだが、さっきから遠坂が真顔で俺たちを見てて恐ろしいので、そこは言い切ってほしかった。
「つまり、許してくれるってコトで?」
いいんでしょうか?
桜がダメと言うのなら、仕方なく遠坂の家に泊まらないといけなくなる。桜が魔術に関わっていたとしても、聖杯戦争に巻き込みたくないからだ。
「はい、もちろんです」
無理して笑っているような、桜。
でも、たとえ彼女の本意ではなくても、承諾はもらった。ならば、それに応えよう。
「すまないな。少しの間だけだ」
玄関で、遠くの影を見送る。
外は雨だった。傘を持たせようとしたが、もう当分来ませんからと言って断られた。
雨に打たれ、風に逆らって本来の家に帰っていく桜。
今日は、この時期に珍しく雷が降っている。雨に打たれても雷には打たれないでくれと思いつつ玄関を閉める。
その後、遠坂やセイバーと他愛のない話をしてから寝床に就いた。もうすぐ一日が終わろうとしている。
一番の難敵、バーサーカーをどうやって倒すか、そのことで頭が痛い。
さて、明日はどうしたものか――――――。
??「足りぬなぁ……まだまだ足りぬ。たかだかこの程度の難易度では我が愉悦は満たされぬ」