武具を司る神ヘファイストス。彼女は下界に降りてきて初めて神の力を使用せず武器を造った。その双剣は最高の傑作であるとともに最悪な駄作となってしまった。
「できたわ!私の下界での初めての
神ヘファイストスは自分の工房に数日こもっていた。自分のプライドをかけて神の力を使わずに剣を作成していたのだ。彼女は疲労が顔にでているものの満足しているようだった。彼女は燃えるような赤い髪、右目を覆い隠す眼帯。顔はすすで汚れていたが鍛冶の神とは思えないほど美しい容姿をしていた。彼女の手にあるのは白銀に輝く双剣。まるで剣自体が生きているように輝く。自分の初めての眷属である青年に自分の作品を見せた。
まさに至高の一品。究極の一品といえるだろう。ヘファイストスが持っている剣をみて団員が驚愕する。
「ヘファイストス様。この剣は...すさまじい力を感じます。」
彼は初代ヘファイストスファミリア団長である。もともと鍛冶職人であった彼はヘファイストスに惚れともに最高の武具をつくることに情熱を注いでいた。毎日毎日鉄を打ち武具に様々な能力をつけることに成功していた。
ファミリアの主神と眷属ではあるがお互いライバルのように切磋琢磨していた。
「でしょう!この剣の名前は...そうね...
ヘファイストスは嬉々として語る。
聖魔の双剣
【
・この武器は壊れない
【
・この武器は使い手の力を吸い取ることにより能力を増す
【
・この武器は持ち主を選ぶ
「何があっても壊れず使い手の力を吸って能力を向上させる。そしてこの双剣が選んだ人物にしかまともに扱えない...なんてロマンじゃない?」
眷属の青年は溜息をつく。
「またそんな怪しげな効果をつけて...不死である神が使うのなら良いかも知れませんが私たち下界のものがこの威力の武器を扱えるでしょうか?」
造った手前試してみなければいけない。武器は使われて初めて武器になるのだ。誰にも扱うことができなければただの飾りとなってしまうことはよくわかっていた。
「お願いしてもいいかしら?」
神であるヘファイストスがダンジョンに潜ることはできない。故に誰かにこの双剣を試し切りしてもらわなければならなかった。
また深いため息をついて青年は双剣を手に取った。
「わかりましたよ。自分の剣の試し切りもありますし、そろそろドロップアイテムもなくなってきていますし何人か連れてとりあえず17階層の階層主 ゴライアスを倒してきます。それに私のレベルは5。万が一にも問題はありますまい。」
「じゃあお願いね?どの程度の効果がでたかまた教えてちょうだい。それによって調整するから。」
そういうと作ってあった鞘に双剣を収めた。
青年それを受け取り自分で作成した武器をそろえて仲間とともにダンジョンに潜っていった。
誰にもわからなかった。こんなことになるなんて。自分の全力を注ぎこんだ武器がどれほど強大な力をもっているかも。
後悔した後悔した後悔した...自分で全力で武器を造るのを止め試作品も含めて自分の
17階層
「団長ー!もうやめてください。このままでは死んでしまいます。」
試し切りも途中まではなんの問題もなく進んでいた。そして最後に
(おまえではない...)
青年の頭の中に声が響いた。
(なんだこれは...力が...力が吸われる。)
白銀だった双剣はどす黒く染まり青年の手に吸い付くように手放せなくなる。
この双剣は純粋な魂の持ち主にしか扱えなかった。彼はヘファイストスを崇拝していたがその反面嫉妬もしていた。自分では手が届かないであろう領域。負の感情に支配される。
双剣が導くようにゴライアスに向けて叩きつける。自分がどんなに傷つこうが血が流れようが止まることはない。
(俺は一体...何をしているんだ...止まらない...制御ができな...い)
ゴライアスが倒れるまで己の限界を超えて力が吸われた。灰になって崩れ去るゴライアス、青年もまた双剣を握りしめたままその場に倒れた。
「団長!しっかりしてください...団長...」
生気のない顔。このままではまずい。
「すまないみんな。俺を地上までつれていって...くれ」
団員達は頷き双剣をしまおうとしたが手から離れないのでそのままにし担いで地上まで向かった。
バベル医務室
「何があったの!?」
神ヘファイストスが団員に連れられて医務室まで来ていた。
団長である青年は青い顔をして双剣を握りしめたままで寝ている。
「ヘファイストス様。この双剣は...危険です。私が使用してわかった限りのことをお伝え...します。」
「そんなこといいから今は休みなさい。」
(そんなまさか...魂が侵されている!?)
「自分の体のことくらいわかりますよ...時間がありません。聞いてください。」
(くっっ私のせいで)
ヘファイストスは今朝のやりとりを思い出して後悔していた。
「この剣は...おそらく邪な魂を持つものには使うことができません。私が使った瞬間このように黒く染まりました。この双剣自体が意志を持ち使用者の魂を判断...する。そして邪な魂なら使い手の魂を侵食し限界まで力を吸い取る...ようです。神であるあなたが持っていた時はあんなに美しく輝いていたというのに...。ヘファイストス様。そんなに...かなしい顔をしないでください。私はあなたを崇拝しておりました。あなたと切磋琢磨できることは心から楽しかった。同時にあなたにはおいつけないと絶望もした。あなたの途方もない技術に嫉妬した。そんな私が扱えるようなものではなかったようです...がはっっ」
青年が吐血し、真っ白なシーツが血で赤く染まる。
「あなたは...私たち鍛冶職人にとって憧れです。どうか気を落とさずに...これからも他の団員達を...導いてあげて...ください」
カランッと青年の手から双剣が落ちた。ヘファイストスがそれを拾い上げると双剣はまた白く輝きだした...
(私はもう...武具を造らない...)
年月が過ぎた
真っ白い髪をして紅い瞳の青年がヘファイストスを訪ねてきた。ヘファイストスの執務室に案内された彼は
武具の神と対面する。
ヘファイストスは目の前の青年を見て目を見開く。
(美しい魂...純粋で透き通っている。こんな美しい魂を見たのは初めてだわ...)
「神ヘファイストス。お初にお目にかかります。私はゼウスファミリア団長 ダグラス クラネルと申します。単刀直入にお願いがあります。私に武器を造ってほしい。」
「...私はもう武具を自分では打たないと決めているの。ウチのファミリアの団長を紹介するわ。それでいいかしら?」
ダグラスはその赤い目で真っ直ぐヘファイストスの目を見て答える。
「私はあなたに武器を打っていただきたい。」
そうはっきりと答えた。
トクン...心臓が鼓動する。
(私の神として...いえ、一人の鍛冶師としての勘が告げている。この男に武器を打ってみたい...でも...)
(ヘファイストス様...もういいではありませんか。あなたは十分苦しんだ。自分に素直になってください)
そんな声が聞こえた気がした。
目を伏せて数分間の沈黙の後ヘファイストスは尋ねた。
「一つ質問をいいかしら?あなたはなんの為に私の武器を求めるの?」
「私の愛するものたちを護る為」
ダグラスはなんのためらいもなく答える。
(ゾクッとした...今までにないくらい気持ちが高揚している。もしかしたらあなたになら使えるかもしれない。あの忌まわしき双剣が...)
「あなたに見てもらいたい武器があるのだけれど...いいかしら?」
ヘファイストスは執務室にある本棚の本を一冊手に取った。ガコンッと音が鳴り隠し部屋への入り口が開く。そこはヘファイストスの工房。昔自分の最初の眷属とともに腕を振るった場所だった。
そこに飾られている双剣を手にとった。
「この双剣は私が下界に降りてきて初めて造ったものよ。私の全力をかけた作品...ただし訳ありのね。聞いてくれるかしら?」
ヘファイストスは自分の過去を語りだした。ダグラスは黙ってその話を聞いている。
「わかったかしら?ダグラス クラネル。あなたにこの双剣を扱う覚悟はある?」
双剣をダグラスの前に突出しヘファイストスは問う。
「貸してください」
そういうとダグラスは双剣を受け取り鞘から抜いた。瞬間、ドクンッドクンッドクンッ!
双剣から白く眩い光が放たれる。
(!!剣が認めた...なんて美しい光景...)
(お前を我が主と認めよう。)
ダグラスの頭に声が響く。
(これが神ヘファイストスが造った双剣か。手にしっくりくる。力が溢れてくるようだ)
「私の
「いいのですか?もう武具は打たないのでは?」
「あなたを気に入ったの。理由はそれだけよ。3日後また来なさい」
(あの後悔の日々。私の武器が私の
死んでいった団員に思いをはせる。
3日後
「できたわ。持っていきなさい。あなたの手に合わせてあるから使い心地は私が保証するわ。ただし、この剣の能力をよく理解して使いなさい。使い方を間違えればあなたの身を滅ぼすわ。」
ダグラスは双剣を受け取った。
「ありがとうございます。そういえばお代は...」
「私の奢りよ。お金なんていらない。その双剣を使ってくれるだけで私は満足よ」
ヘファイストスの気持ちが伝わったのかそれ以上ダグラスが何か言うことはなかった。
それから数年。ダグラスはもう一本長剣をオーダーメイドで作り
現在
(あのダグラスが負けたなんて信じられなかった。あの時私の造った双剣もなくなったと思ったけど...それがどうして黄昏の館に?)
黄昏の館までやってきたヘファイストスと椿。警備をしている団員に声をかけロキと対面する。
「なんやファイたんウチにくるなんて珍しいこともあるんやな。それに椿までおるやん。相変わらずええ胸しとるなー」
ぐへへと下品な笑みを浮かべて手をわきわきさせる。
「久しぶりじゃの、ロキ。儂の胸に興味があるようだがこんな邪魔な脂肪の塊いらんぞ?むしろ小さな者がうらやましい。」
カカッと笑う椿。
椿は豊満な胸にさらしを巻きハカマ姿なので少し動く度に胸が大きく揺れる。ロキはそんな椿の胸と自分の胸を見比べて涙目になる。
(うっうらやましくなんてないわ...)
自分から話題を振っておいてズーンと落ち込むロキ。哀れだ...
「そんなことよりロキ。あなたに聞きたい事があるんだけれどいいかしら?」
「んーなんや?」
真剣な様子のヘファイストスにロキも目を細める。
「あなたのところに双剣を扱う者はいるかしら?正確にいうと今日のお昼すぎに双剣を使った者がいるかという質問ね。」
(今日の昼過ぎ...ベルのことかいな。ちょうどいい今ベルはおらんけどどうせ聞くつもりやったしいいか)
「おるでー今日ウチのファミリアに入団したベルって子がファイたんのロゴが入った双剣使ってたわ。それがどうかしたん?」
ヘファイストスは目を見開く。
(やはりあの双剣が使われてしまった...)
「ロキその子は無事なの!?あの双剣はただの武器じゃないの。今すぐその子に合わせて!」
ロキの肩を掴みがくがく揺する。
「いだだだだ。ちょおいまちいや。ファイたん。理由聞かせてんか?」
ヘファイストスは双剣の秘密を包み隠さず話した。
「わかったでしょロキ。その子は今どこにいるの?手遅れになる前になんとかしないと。」
「まあまあまちいや。ファイたん。ベルなら多分問題ないで。英雄ダグラス クラネルがその双剣に認められたとき白く輝いたんやろ?ベルが双剣使った時も白く輝いてたんや。多分その
ロキは含んだ言い方をする。
(うそ...ダグラス以外にあの双剣を使える者が現れるなんて...)
「ロキ。そのベルとやらに儂もあってみたいのじゃが?」
胸の前で腕を組み大きな胸を重そうに強調しながら椿が尋ねる。
手をわきわきさせるロキだがハッとなり
「すまんなぁ椿。ベルはまだ医務室なんよ。ああ、今はアイズたんがみとるから問題ないで。起きて落ち着いたら絶対合わせるから今日のところは諦めてくれん?ウチもちょっと考えることがあってな」
カカッ愉快そうに椿が笑う
「ロキファミリアの幹部の剣姫がわざわざ新人についておるのか。はてさてベルとはどんな人物なのか。会うのが楽しみじゃ」
「わかったわロキ。その子が無事ならあなたの方が落ち着いてからでいいわ。でも必ず連絡してね。突然お邪魔してごめんなさいね」
そういうとヘファイストスは椿を連れて帰って行った。
(ベル...ウチは
いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。
祝お気に入り200にん突破!&一回ランキング11位になった!
ありがとうございますありがとうございます<m(__)m>
今回はベル君の双剣の秘密についてです。自分の中では双剣はこんな感じのイメージです!
次回は 1緊急幹部会議 2魔法
です(ー_ー)!!