(ふむ...じゃが丸くんか...なかなかだな)
リヴェリアは二人に感化されて歩きながらじゃが丸くんを食べていた。本来なら買い食いなど...と思うリヴェリアであるが二人の幸せそうにじゃが丸くんを頬張る姿に陥落した。
「二人ともこれからまた訓練だろう、己を鍛えることはいいことだがあまり無理なことはしないようにな。それとベル、夕食後に私がみっちりと座学をしてやるから覚悟しておけ」
「わかりました!よろしくお願いします」
黄昏の館の前でリヴェリアと別れたベルとアイズはそのまま訓練所へと向かった。別れ際にリヴェリアから手渡されたポーチの中にはポーションがぎっしりと詰まっている。これならば即死しないかぎりは問題なく回復することができるだろう。アイズの実力は疑っていないが万が一ということもある為リヴェリアままに抜かりはない。
訓練所の中には既に数組のパーティがおり、各々が連携の確認やレベルの低い者に技術指導を行っていた。その中には今朝話していたアイズ親衛隊達の姿も見える。アイズとベルが訓練所に入ってきたことを確認した彼女達は声をかけようとしたまま固まった...
「それじゃあベル。まずは朝の続きをしようか、構えて」
アイズは長剣を抜き鞘を構えた。朝と同様にアイズからはすさまじいプレッシャーを感じる。その場で訓練していた者は一瞬で体が固まってしまった。圧倒的強者による威圧はレベルが低い冒険者にとって脅威になる、恐怖によって体が固まってしまい自分の意志ではすぐに動くことができないのだ。現在この場で動くことができたのはレベル3のレフィーヤ、そしてレベル1であるはずのベルである。親衛隊の面々が固まる中新人のベルが剣を構えアイズと対面しているという状況は本来ならありえない。ベルが動けるのは
「まずは防御から」
アイズは剣を構えるベルに瞬時に近寄ると無造作に鞘での攻撃を仕掛けた。ベルの構えには隙がないように見えるがレベル5のアイズから見るとまだまだ脇があまい...
ギンッギンッ
正面からくる鞘を剣先で逸らし、衝撃を受け流す。しかし力の差がある為完璧には受け流せず体制が崩れてしまう。その隙を逃さずアイズが急所を狙って突きを繰り出した。
「くうっっ」
この体制から突きを受け流すのは不可能だと判断し右手で握る白狼に左手を添えて剣の腹で受け止めた。
手加減しているとはいえアイズの突きである、一瞬耐えたものの吹き飛ばされ壁に激突した。
なんとか体を捻り頭を打つのを回避したものの背中を強打し、肺の中の空気が全部出てしまったような感覚に襲われる。
「ごふっげほげほげほ」
近くで見ていたレフィーヤと親衛隊がその様子をみて慌ててベルに駆け寄ろうとする。
「手を出さないで」
アイズの無慈悲な声が訓練所に響く。この程度のケガでは休憩どころかポーションすら飲ませてはもらえない。己の限界を超えてこそ強くなれる、アイズも昔から今のベルのように自分の限界を常に超えようと激しい訓練を積んできた。だからこそこの年齢で第一級鵜冒険者として活躍できているのである。
「ベル、立って!」
ベルはよろけながらではあるが立ち上がり剣を構えた。まだまだ訓練はここからである...
(...うちらはベルを甘く見ていた...どうせアイズさんと普段みたいな甘々な感じで訓練していると思ってた...こいつ本当に死ぬ気で強くなろうとしてるんだ...)
ギンッギイインッ
「うおぉぉぉ!」
防御の訓練が終わり次は攻撃の訓練に入っている。普段の中性的でかわいらしい顔はなく凛々しく男の顔をしている。アイズに向かって突進しフェイントを交えながら剣を振るう。攻撃を受け流されても体勢を崩されることなく、己の全てを出して戦っているように見える。
「副隊長ー!拙者なんかキュンキュンするでござる。男にこんな感じになったの初めてでござるーー!」
美しく長い黒髪を一つにまとめ東方の者が使用することが多い刀という敵を切り裂くことに特化した武器と、甲冑のような物を装備している少女がベルを見て頬を染めている。
彼女の名前は【霧時雨 刹那】ヒューマンの少女である。レベルは1だがステイタスは上位に当たるとされている。ロキがかわいいからという理由で幼少の頃から洗脳した結果このような口調になってしまった残念な子である。しかし、周囲の男神には凛々しくも愛らしい容姿とこの口調で人気になっている...
「刹那...ウチらはアイズ様親衛隊なんだからベルになんかきゅんきゅんするんじゃない!ルナを見てみな!」
帽子を深くかぶりベルとアイズを凝視しているのがハーフエルフの【ルナ・ルウ】である。
薄い緑色の髪をして長いローブと魔導師の杖を携帯している魔術師特化型の団員だ。右目の眼帯は本人いわく己の力を封印しているらしい...レベルは刹那と同様にレベル1の上位に位置しており若手の有望株筆頭である。
「副団長ー!ルナはいつものやつでござる..完全に自分の世界に入ってるでござるよー」
よくみると凝視はしているがぶつぶつとひたすら何か言っている。正直ちょっと怖い...
(アイズさん攻めの私受け...いやむしろ私攻めのアイズさん受けというのも捨てがたい。あの新人のベルも結構かわいい顔してるからベートさん攻めのベル受けとかいいかも、いやフィンさんとベルとの絡みも...ぶつぶつぶつ)
ルナの特性...妄想癖&BL好き
そんなルナを見つめリリーとレフィーヤ、刹那は溜息をついた。このトランス状態の時の集中力はすさまじいものがあり話しかけても無駄だということはわかっている。これさえなければすでにレベル2にはなっているはずであり三人はエルフにもいろんなタイプがいるんだと再認識した。
親衛隊達がそんな話をしている間にも訓練は進みベルが魔法を唱えた。
雷の魔力がベルを覆い身体能力を大幅にアップさせる。今朝ベートに言われたことを頭にいれ自分から仕掛けてみるつもりのようだ。
(まさか魔法まで発現しているなんて...)
親衛隊が唖然とする中ベルは一度アイズから距離をとり魔力を集中させ手の平の上に雷の魔力の球体を浮かべる。アイズに向かって魔力の塊を投げると同時に足に魔力を集中させ一気に間合いを詰めた。アイズは目の前の雷の球体を弾き飛ばそうとして鞘を当てた瞬間に閃光がはしり一瞬視界を奪われた。その一瞬を見逃さず魔力で強化された脚力でアイズの背後へと周り剣を振るった...
(いける...!!)
「ベル...甘いよ」
アイズの感知能力はベルの比ではない。ベルが背後に回った事に気が付いた瞬間左足を軸に回転し回し蹴りを放った。いけると油断したベルの顎にアイズの強烈な蹴りが当たりそのままゆっくりと後方に倒れる、今回は当たり所も悪く完全に気絶してしまったようだ。
ベルとアイズの訓練は基本的に全力で護り、全力で攻め、気絶までがワンセットである。気絶したベルの手当も手慣れたものでポーションをかけた後は傷の状態を確認し、目覚めるまで膝枕をして待つのが流れである。当然のことながら目覚めたベルは毎回顔を赤くし申し訳なさそうに謝っている。
アイズが以前より一段とつやつやしているのも気のせいではないかもしれない...
「...悔しいですが今この光景をみて私は何も言えません、というよりあんな幸せそうな顔をしているアイズさんの邪魔をすることはできません...私たちも訓練に戻りましょうか」
親衛隊長であるレフィーヤもこの空気を壊してアイズに話しかけるようなことはできないようだ。他の面々もベルの気迫ある戦いぶりをみて熱意を感じ取ったようで、今日の夜の料理教室を楽しみにしてこの場は目を瞑ることにした。
もしかしたらベルは明日にでも自分たちを追い抜くかもしれないという不安からこれまで以上に訓練を頑張るようだ。訓練所にいた他の団員達も負けていられないと先ほどより大きな声をだし訓練を行っていた...
それから夕食までの数時間の間先ほどの流れを数十セット繰り返し本日のベルの戦闘訓練は終了した。
「ベル、今日もよく頑張ったね。最後の方の動きすごくよくなってた」
訓練所からの帰り道に今日の反省会を二人ですることに決めていた。ベルは疲労でへとへとではあるが訓練にたしかな手ごたえを感じている。
(ベルの成長速度は私の想像を超えている...普通なら今日の訓練だってあそこまで耐えられない...と思う。どうして...どうしてこんなにはやく強くなっていけるんだろう...)
アイズは自身がレベル1だった頃を思い返していた。レベル2になるまでには1年かかったアイズだがベルは自分より遥かにはやくレベル2になると改めて確信した。
もちろん今回も大浴場へ向かったが当然のことながら別々である、今朝と同様にアイズに誘われたベルは自分が男だと認識されていないんじゃないかと本気で心配になってきた...
夕食も終わりベルはリヴェリアと共に図書室へ、アイズはレフィーヤ達と共に食堂に残った...
読んでくださっている皆さんいつもありがとうございます<m(__)m>
今回は親衛隊の紹介とベルの訓練でした。少々長くなりそうだったので今回は短めにしましたが短めに書くのと長めに書くのとどっちがいいですかねー。悩みます...
次回は座学とアイズの料理挑戦、アイズの手料理実食までいけるかなーなんて思ってます。
次回又はその次くらいに挿絵入れる予定です!